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ジョブ型雇用とは?従来的な雇用の違いとメリット・デメリット、事例を紹介

U-NOTE編集部

2022/11/09(最終更新日:2022/11/09)


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ジョブ型雇用とは、職務や責任の範囲を明確にしたうえで、それに合った人材を雇用する方法です。欧米では一般的な採用方法ですが、日本では比較的新しく、雇用に関する課題を解決するものとして注目されています。

本記事ではジョブ型雇用とは何か、日本的なメンバーシップ型雇用との違いやメリット・デメリットを紹介します。これらを踏まえた、日本企業ならではのジョブ型雇用の取り入れ方も解説します。

本記事の内容をざっくり説明
  • ジョブ型雇用の概要と、メンバーシップ型雇用との違い
  • ジョブ型雇用のメリット・デメリットと、日本企業に合った活用方法
  • ジョブ型雇用の導入事例と、組織改革を成功させるためのエッセンス

 

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、職務内容やポジションなどを「ジョブディスクリプション(職務記述書)」で明確にしたうえで、それに合った人材を雇用する方法です。従来的な「メンバーシップ型雇用」を日本的な雇用方法であるとすると、ジョブ型雇用は欧米的な雇用方法といえます。

 

ジョブディスクリプション(職務記述書)とは

ジョブディスクリプション(職務記述書)とは、どんな人材を雇用し、どんな業務をしてもらうのかを記述した書類です。雇用契約を結ぶ前に、求職者へと提示される書類で、ここに書かれていることと実際の業務内容・待遇などが違っていてはいけません。

ジョブディスクリプションに記載すべきこと

  • 業務の内容、範囲
  • 責任の範囲
  • 業務の目的
  • ポジション、役職
  • スキルや資格、経験年数などの条件

業務内容や、ポジションなどだけではなく「責任の範囲」も明確になっていることが特徴だといえるでしょう。

 

ジョブ型雇用が注目される背景

ジョブ型雇用が注目される背景には、次のような事情や社会の動きがあります。

  • 「メンバーシップ型雇用を見直すべき」とする、経団連の資料公表
  • 同一労働同一賃金のガイドライン公表
  • 慢性的な人手不足
  • 働き方や雇用の変化

日本では少子高齢化にともなう人手不足が続いており、2065年には、労働人口は全盛期の半数ほどになると予測されています

参考: 厚生労働省「我が国の人口について

これを解決するための一手として注目されているのが「働き方改革」です。たとえば在宅勤務や時短勤務を積極的に認めることで、これまでの制度では介護や育児などで退職せざるを得なかった人が、自分に合ったやり方で働き続けられるようになりました。

働き方改革は長時間労働の是正や、副業解禁の流れももたらしました。

参考:厚生労働省「「働き方改革」の実現に向けて

これらに加え終身雇用制度が崩壊したことや、ライフワークバランスを重視する人が増えたこと、フリーランスのような外部パートナーを活用する企業が増えたことも重要です。働くことに対する人々の姿勢も、雇用に対する企業の姿勢も大きく変わっています。

「会社はあなたとあなたの家族の面倒を一生みるので、あなたは会社のために一所懸命働いてください」という考え方は、もはや過去のものです。会社は即戦力となる人材を求め、労働者は自分のキャリアプランやライフプランを実現するために、その時々で自分に合った会社で働きたいと考えるようになったのです。

ジョブ型雇用は人材の流動性が高い現代において、雇用する側とされる側の両方にとってメリットがある雇用方法といえます。

関連記事:同一労働同一賃金とは?労使それぞれのメリット・デメリット、対応の手順を解説

 

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い

欧米的・現代的なジョブ型雇用に対し、日本的・従来的な雇用方法が「メンバーシップ型雇用」です。メンバーシップ型雇用とは何か、ジョブ型雇用と何が違うのかを確認しておきましょう。

 

メンバーシップ型雇用とは

メンバーシップ型雇用とは、現状のスキルではなく、人材の将来性を考え、育成することを前提にした雇用方法です。

ジョブ型雇用が職務内容を軸にした雇用方法だとすると、メンバーシップ型雇用は人を軸にした雇用方法でしょう。新卒一括採用や年功序列、終身雇用などが、メンバーシップ型雇用の考え方といえます。

メンバーシップ型雇用では従業員の職務内容を限定せず、部署や担当させる仕事をローテーションさせることで「ジェネラリスト(万能型)」を育てていきます。

 

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の比較表

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用には、それぞれ強みと弱みがあります。両者の違いを表で確認してみましょう。



表の通り、どちらの雇用方法にも強みがあります。「ジョブ型orメンバーシップ型」の二極で考えるのではなく、自社の課題を解決するためにジョブ型雇用の考え方を取り入れるのがおすすめです。

たとえば開発やデザインなどの専門性が高く一時的に必要になる業務はジョブ型、それ以外はメンバーシップ型を続けるようなやり方です。

 

ジョブ型雇用のメリット

ジョブ型雇用は即戦力となる人材、専門性の高い人材を、あまり無駄な費用をかけずに確保できることがメリットです。

ジョブ型雇用を取り入れる具体的なメリットを3つ紹介します。

 

即戦力となる人材を採用できる

ジョブ型雇用を取り入れる1つ目のメリットは、「即戦力となる人材を採用できる」ことです。ジョブ型雇用では職務内容や求めるスキルなどを明確にし、それに合った人材を採用します。

新人や未経験者を育てることを前提としておらず、採用するのは現場ですぐに活躍できる人材です。採用が、チームの生産性に直結します。

 

専門性の高い人材を採用できる

ジョブ型雇用を取り入れる2つ目のメリットは、「専門性の高い人材を採用できる」ことです。開発やデザインなど、専門性の高い人材を求める企業は増えました。

しかし、このような人材が現在必要だからといって、常に必要だとは限りません。このようなスペシャリストには、スキルを高めるための時間も必要で、さまざまな経験を積まなければなりません。専門的な仕事が常に自社にあるとも限らないでしょう。

スペシャリストをメンバーシップ型で自社に雇用し、常に確保しておくことは、一部の企業を除いて難しいのではないでしょうか。そのとき必要な高度な専門人材は、必要なときだけ雇用するのが適しており、それにはジョブ型雇用が合っています。

 

業務の品質や効率が高まる

ジョブ型雇用を取り入れる3つ目のメリットは、「業務の品質や効率が高まる」ことです。

ジョブディスクリプションにより職務や責任の範囲が明確になるため、従業員一人ひとりが、自分のすべきことに集中できるようになるでしょう。これにより、不要な業務が浮き彫りになることもあります。

ジョブディスクリプションにマネジメントや教育などの内容を含めておけば、メンバーシップ型で雇用しているジェネラリストとしての従業員のスキルを、効率よく高めることもできます。

 

ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用は真新しいものではなく、欧米では古くから活用されてきた雇用方法です。日本のメンバーシップ型雇用に足りない部分があるように、ジョブ型雇用にもデメリットがあります。ジョブ型雇用の主なデメリットを3つ紹介します。

  • 従業員エンゲージメントが低くなりやすい
  • 柔軟な配置転換、組織づくりには向かない
  • ジェネラリスト(万能型)を育てにくい

それぞれの詳細を確認していきましょう。

 

従業員エンゲージメントが低くなりやすい

ジョブ型雇用の1つ目のデメリットは、「従業員エンゲージメントが低くなりやすい」ことです。

人ではなく、仕事を軸とするジョブ型雇用には、「自社のビジョンや価値観に合った人材を採用し、活躍できるように育てていく」という考え方がありません。従業員はその会社でのキャリアアップを前提とせず、その時々で会社や仕事を変えながらスキルを高め、キャリアを形成していきます。

人材の成長意欲は高いため成果は期待できますが、従業員エンゲージメントは低くなりやすいでしょう。より良い条件の仕事を見つけた、キャリアプランの次のステップに進むためなどの理由で、いつ離職されるかわからない部分があります。

 

柔軟な配置転換、組織づくりには向かない

ジョブ型雇用の2つ目のデメリットは、「柔軟な配置転換、組織づくりには向かない」ことです。ジョブ型雇用では、ジョブディスクリプションにない仕事をさせることはできません。

そのため、勤務地や配属先を変えることもできず、これらを変えたいとなれば再度雇用契約を結びなおさなければなりません。組織づくりの方向性が変わるたびに、新たな人材を雇用しなければならないこともあるでしょう。

依頼したいことが明確になっている場合には適していますが、「臨機応変に依頼内容を検討したい」というケースには向いていないので注意が必要です。依頼する要件や、内容を明確にしてから採用を行うようにしてください。

 

ジェネラリスト(万能型)を育てにくい

ジョブ型雇用の3つ目のデメリットは、「ジェネラリスト(万能型)を育てにくい」ことです。ジョブ型雇用では従業員一人ひとりの職務や責任の範囲が明確であり、範囲を超える業務をさせることも、配置転換もできません。

専門家・スペシャリストとしての活躍を期待する場合には向いていますが、ジョブローテーションがないため、部署をまたいで活躍できる包括的な人材や、自社の業務全体の流れを理解した「スーパーマン」を育てるのは難しいでしょう。

会社全体のことを把握してジェネラリストとして活躍してもらいたい場合には、メンバーシップ型の雇用のほうが向いているといえます。

欧米的なジョブ型雇用をそのまま取り入れると、これらのミスマッチが起こりやすくなります。人材や雇用に関する自社の課題を明確にし、それを解決するために、ジョブ型雇用の考え方を一部取り入れるのがおすすめです。

 

ジョブ型雇用を採用している企業事例

ジョブ型雇用をただ取り入れるだけでは、雇用や人材育成に関する課題は解決できないでしょう。自社の課題や強みをハッキリさせ、それを踏まえて雇用制度を整えていくことで、より強い組織をつくれます。

ジョブ型雇用のエッセンスを取り入れ、より自社に合った雇用制度をつくり上げた「日立」と「富士通」の事例を紹介します。

 

日立

技術やテクノロジーの面で日本社会の発展を常に率いてきた株式会社 日立製作所(以下、日立)は、2010年頃からジョブ型雇用に取り組んでいました。グローバル化が進む世界で戦うには、従来的なやり方ではいけないという危機感があったのでしょう。

だからといって、日立は欧米型のジョブ型雇用をそのまま取り入れたわけではありません。日本の発展を100年以上支えてきた日立には、日本人に合った人材育成のノウハウがあります。このままではいけない部分にジョブ型雇用の考え方を取り入れ、ハイブリットな日立流をつくることこそ、このような老舗企業に必要なことです。

たとえば日立のジョブ型雇用では、人材育成を重視し、一人ひとりのキャリアプランや経験に焦点をあてています。

初任給は学歴別に一律で決めるのではなく、これまでの経験や職務内容を踏まえて個別に設定されます。技術系職種では希望する事業分野への配属を確約するマッチングの仕組みを整えたり、実務と研修でキャリアプランを実現させるために必要なことを学んだり、長期的な雇用と育成を軸としているのが特徴です。

「日立を利用してこんなことがしたい」という人材を集め、従業員と会社がともに成長していく。これが日立のジョブ型雇用の軸といえます。

参考: 日立「ジョブ型人財マネジメント」 

 

富士通

富士通株式会社(以下、富士通)では、ジョブ型雇用ではなく「ジョブ型人材マネジメント」という新たな人事制度を取り入れています。これは国内の一般社員に向け導入され、2020年には幹部社員を含めるすべての職層に拡大されました。

富士通のジョブ型人材マネジメントでは、1on1ミーティングやスキルアップのための教育などを拡充させ、従業員一人ひとりの成長を支援しています。従業員個人を深く知り、それぞれに合った支援をすることで、組織としての多様性を高めていくことが目的です。

たとえば富士通のジョブディスクリプションは、企業としてのビジョンや戦略に基づいて職務をデザインし、作成されています。グループ全体で統一された報酬水準と、グループ内の求人に従業員が自ら応募できる制度により、従業員のチャレンジを促進しているのも特徴です。

ジョブ型雇用と、オーダーメイドなキャリアアップ支援を組み合わせることで、多様な能力をもつ人材を育成しています。

参考: 富士通「富士通と従業員の成長に向けた「ジョブ型人材マネジメント」の加速

 

ジョブ型雇用では資格に注目しがちだが、経歴や人柄も重要

本記事のまとめ
  • ジョブ型雇用は欧米で古くから活用されてきた方法で、メリットもデメリットもある
  • 自社の強みや課題をハッキリさせたうえで、ジョブ型雇用のエッセンスを取り入れることが重要
  • 他社の事例を参考に、自社に合った「ジョブ型雇用の取り入れ方」を考えてみよう

ジョブ型雇用が日本で注目され始めたのは最近のことです。だからこそ、ジョブ型雇用を「雇用に関するさまざまな課題を解決する真新しい手法」と捉える人も多いでしょう。

従来のメンバーシップ型雇用にもいいところはありますし、日本の企業体制やジェネラリストの育成にも合っています。メンバーシップ型からジョブ型に完全に切り替えるのではなく、自社の課題を解決するためにジョブ型雇用の考え方を一部取り入れるのが、日本企業に合ったやり方だといえるでしょう。

職務内容やスキルを軸にしたジョブ型雇用では、実績や経歴、資格の有無などがわかりやすい指標かもしれません。

しかし、経歴や人柄も重要です。目の前の人材が「今できること」と「将来できそうなこと」の両方に焦点をあて、自社で活躍できる人財に育てることを前提に、雇用や採用を見直してみてはいかがでしょうか。


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