カンバン方式はトヨタ自動車で生まれた生産管理の手法のこと。「カンバン」と呼ばれる1枚のシートで、生産数の指示を出します。シンプルな手法であるため取り入れやすく、コストもあまりかからないことから、支持されている手法です。
本記事ではカンバン方式とは何か、生まれた背景やあわせて覚えておきたい2つの考え方を解説します。カンバン方式のメリット・デメリットや向いている企業の特徴も紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
- カンバン方式の概要と発祥
- トヨタの生産方式の2つの軸
- カンバン方式のメリット・デメリットと向いている企業
カンバン方式とは?
カンバン方式とは、仕入先・納入先や品番などの情報を1枚のシート(カンバン)ですべてわかるようにし、生産を管理する方式です。スーパーマーケットの商品管理方式をベースに、トヨタ自動車が生み出した生産方式で、現在ではさまざまな企業が取り入れています。
なお、カンバン方式は「自働化」「ジャストインタイム」というトヨタの一連の生産方式の一工程です。これらの方式については後ほど詳しく説明します。
トヨタがカンバン方式を生み出した背景
カンバン方式の発想は、トヨタ自動車の実質的な創業者、豊田喜一郎氏が生み出しました。彼は「無駄や過剰がなく、部分品の移動・循環で各工程の生産を待たせることがない、ジャストインタイムに整えられた生産が大切だ」と語っていたといいます。
このジャストインタイムは、合理的で無駄のない生産をするための考え方で、そのために役立つのがカンバン方式での生産管理なのです。
参考:TOYOTA「トヨタ生産方式」
トヨタの生産方式の2つの軸
トヨタの生産方式では、カンバン方式と同じく重要な「自動化」と「ジャストインタイム」の2つの軸があります。それぞれどのような意味なのか、生産の中でどう役立つのかを解説します。
自働化
「自働化」はトヨタ自動車の創業者、豊田佐吉氏の発明により生まれた言葉です。彼の発明した織物機械は自動で動くだけでなく、異常が起きたことを検知し、自動的に機械を止めることもできました。
この「ただ動くのではなく、止める判断も機械でできること」から、自動ではなく自「働」という文字が使われるようになったといわれています。
機械が自ら異常を検知し止まることで、生産効率は一気に高まります。異常があっても止まらない状態では、機械の数だけ、それを管理する従業員が必要です。しかし、機械が自働で止まるなら、従業員一人で複数の機械を管理・稼動させられます。
ジャストインタイム
トヨタの生産方式で欠かせない考え方が「ジャストインタイム」です。これは「必要なものを、必要なときに、必要なだけ作る」ということで、そのために必要なのが、カンバン方式での生産管理です。
生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、良いものだけを効率良く造る。
引用:TOYOTA「トヨタ生産方式」
ジャストインタイムを取り入れることで必要なものだけを生産できるように、つまり時間や材料を無駄にせず、低コストでの生産が可能になります
2種類のカンバン方式
カンバン方式では生産の流れに沿って、後工程で「引き取りかんばん」を、前工程で「仕掛けかんばん」の2種類を使って生産されています。それぞれの詳細を確認しておきましょう。
引き取りかんばん
「引き取りかんばん」は納入管理に使われるかんばんで、どの製品を引き取るのかを指示するためのものです。後工程から前工程に、部品を引き取るために使います。
仕掛けかんばん
「仕掛けかんばん」は生産管理に使われるかんばんで、どの製品を生産するのかを指示するためのものです。
後工程で部品を受け取ったら、その分の部品が減ることになります。仕掛けかんばんでは後工程に渡した部品を補充するために、いくつ部品を補充生産すればいいのかが書かれています。
カンバン方式のメリット
カンバン方式には「生産効率がアップする」「情報共有がスムーズになる」といったメリットがあり、生産すべきものが決まっている工場に向いています。
生産効率がアップする
カンバン方式では何をどのくらい作るのかを、従業員全員が、一目でわかります。前工程から後工程に部品を届けるのが早くなり、後工程で使った分だけ部品を補充するため、時間とコスト(在庫)の無駄が出ません。
そのため、生産効率が高くなることが最大のメリットだといえるでしょう。
情報共有がスムーズになる
1枚のカンバンで生産に必要なあらゆる情報を共有するカンバン方式では、従業員同士での情報共有がスムーズになります。伝達漏れは起こりづらく、従業員を集めて情報共有の時間を取る必要も、共有した情報をもとに補充数を考える必要もありません。
カンバン方式のデメリット
カンバン方式には「リアルタイムなタスク管理には向かない」「万能な手法ではない」といったデメリットがあります。状況によっては、ほかの手法を検討した方がいいでしょう。
リアルタイムなタスク管理には向かない
カンバン方式では「どの部品をどのくらい使ったのか」という過去の実績をベースに、部品補充の指示を出すことになります。「使ったから作る」という手法であるため、未来の計画や状況を見越した指示を出すことはできません。
作った部品がいつ使われるのかわからない、状況が刻一刻と変わるといった、リアルタイムなタスク管理には向かないでしょう。
万能な手法ではない
カンバン方式は工場の生産効率アップには適していますが、万能な手法ではありません。先述したようにリアルタイムなタスク管理には向かず、計画の変動や平準化されていない状況には弱いです。
大企業や大量に生産する場合には向いている手法だと言えますが、小さな企業や生産量が少ない場合には在庫が過剰する可能性もあるため、注意が必要です。
カンバン方式が向いている企業
カンバン方式は工場の生産効率アップには適していますが、万能な手法ではありません。先述したようにリアルタイムなタスク管理には向かず、計画の変動や平準化されていない状況には弱いです。
指示の精度が低く、在庫の大きな過剰や不足が出てしまっている状況では活用できないでしょう。
自社の規模や、扱っている製品の種類などによって、カンバン方式の導入があっているのかどうか判断することが求められます。
カンバン方式を導入する前に、自社の課題やプロジェクトの内容を見直そう
- カンバン方式は工場の生産効率アップに有効
- シンプルな管理手法であるため、どんな企業でも導入しやすい
- 在庫過剰によるデメリットが大きい企業には適していない
トヨタ自動車で生まれたカンバン方式は生産効率アップや人件費の削減に優れ、自動車業界以外にもさまざまな企業で取り入れられています。カンバンの管理や設計にはある程度の手間がかかるものの、それ以上のリターンが期待できるでしょう。
ただし、生産の変動が大きい企業や保管できる期間の短い食品を扱っている企業など、在庫過剰によるデメリットが大きい企業には適していません。生産効率や在庫の過剰・不足、指示の精度など、自社の課題がどこにあるのかを見直したうえで、導入の判断を下しましょう。
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