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政府が1兆円を投入するリスキリングとは? その趣旨と浸透させるコツ

U-NOTE編集部

2022/10/26(最終更新日:2022/11/01)


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年功序列の崩壊や働き方の変化が見られる昨今、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶ「リスキング」が必要とされています。

リスキングの定義やリスキリングを浸透させていくために必要なことについて、オンライン研修プラットフォーム事業を展開する株式会社manebiの執行役員CCOである小野寺元氏にご寄稿いただきました。

政府がリスキリングの支援に1兆円を投入

リスキリングとは、技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために、業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶことです。

経済産業省はリスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。

2022年10月に岸田内閣は、リスキリングの支援に5年間で1兆円を投入する考えを示しています。その目的は構造的な賃上げの実現に向け、デジタルなどの成長分野への労働移動を促すためであるとしています。

年功序列型の働き方の終焉や国内で人口減少をたどる中、成長産業へ人材を投下していく必要があることなどが背景としてあります。

今のリスキリングの趣旨

昨今のリスキリングの趣旨は、DXの人材育成において用いられる傾向にあります。DX推進においては、企業のバリューチェーン(価値連鎖)の様々なプロセスへ変革を行っていきます。

そこで、新たな価値を創出するためには、各プロセスにおけるアナログ業務をデジタルへ置き換える必要があります。新たな価値を創出するには、全社の情報共有やデータ連携が不可欠だからです。リアルタイムに事業の進捗データや顧客情報などを引き出し、すぐにアウトプットし見える化できる体制を整えることが必要です。

アナログ業務をデジタルへ置き換えるには、新たなITツールやアプリケーションなどを活用することは少なくありません。特定の人員がデジタル化を行うのではなく、社員全員がデジタルを扱えるようになることが求められています。

該当するスキルを持った人材を新たに採用、配置するだけだとコストが高く対応しきれないため、今いる人員へのDXリスキリングが必要不可欠なのです。

リスキリングをはじめるには

それではDXに対応するため、企業は社員にとりあえずプログラミングやデータサイエンスなどの勉強させることがいいのでしょうか?

答えはYesでもNoでもありませんが、何でもいいからとりあえずプログミングなどの勉強をさせる(する)ことはおすすめできません。

まず、会社であれば、事業、業務に必要なスキルの棚卸しをし、現在の社員のスキルセットを把握した上で、今後の会社の経営に必要なスキル分野を特定しましょう。個人であれば、今の自分のスキルを棚卸しし、3〜5年後を見据え今後のキャリアに必要なスキルを特定しましょう。

必要なスキルの棚卸しや今後必要なスキルの特定が重要なのは、動機づけが弱いと長続きしないからです。学ぶ意味やゴールを会社も個人も持たないと、学び直しは持続しません。

リスキリングの先駆者と言われているアメリカのコングロマリット企業AT&T社では、2013年当時、2020年までにどのようなスキルセットが必要なのかを特定し、そのスキルニーズに現状のスキルセットから移行するための青写真「ワークフォース2020」を作成しリスキリングに取り組んでいます。

リスキリングはどの部署が予算を持つ?

リスキリングを社内で行おうとした際に、その予算はどの部署が持つのでしょうか?昨今のリスキリングとは前述のとおり、DX時代における学び直しという趣旨が強いため、多くの企業ではDXプロジェクトやDX部署を発足し、そこに予算をもたせる企業が多い傾向があります。

ただし、DXプロジェクトだけで社内のリスキリングが円滑に進むわけではありません。なぜならITリテラシーの格差が存在しているからです。実は社員がExcelなどの基礎ツールをきちんと利用できていない、という声は多くの企業で耳にします。

普段使用しているアプリケーションを正しく利用できていない人員が多い状態で、社内のDXや業務効率化を進めていくのは困難です。社内での反発も起きやすくなります。基礎的なITスキルの習得を学び直し、リスキリングの土台をつくることが会社全体のDXには必要です。

そこで、ITスキルの基礎や普遍的なビジネススキルの教育については、従来の社内教育部署が予算を持つ傾向が多いと思われます。
 
先行き不透明な現代においては、不連続に事業の変革を求められます。特定の業種だけでなく、未経験の分野の業務を任されたとしても、業務を遂行し能力を発揮できるスキルも必要なのです。

現場でのキャッチアップ力、コミュニケーション力、社内営業力、プロジェクトマネジメント力、業務遂行力などが該当します。

リスキリングを浸透させていくためには

リスキリングを浸透させていくために必要なことは環境づくりです。それは環境が人材を育てるからに他なりません。

企業が積極的にリスキリングを行いたい場合、必要なスキルの情報透明性、人材配置の流動性、学習に対する人事評価や報酬制度を連動させ、新たなスキルを学びやすい風土・環境をつくっていくことが大切です。

またリスキリングが進まない理由には様々な要素がありますが、日本ではアメリカと比較すると、経営陣がDXに積極的に参画していないというデータもあります。

社員にはDX推進を命じているにもかかわらず戦略策定に関わらない、経営者自身が社内コミュニケーションツールといったデジタルツールを使いこなせていない、利用していないなどの声は多くの企業から聞きます。

当社では学び直しをしやすい環境をつくるために50代役員のリスキリングを実施しました。内容はAI、データサイエンス、プログラミング(Python,MySQL)の基礎知識を約10時間学習してもらうというものでした。

エンジニア畑出身ではないスキルセットの役員でしたが、学習した結果、エンジニア側に対しての視座が高くなったり、曖昧だったワードが明確になったりとプラスの学習結果が得られています。詳しくはこちら。

プログラマーを目指す人だけにプログラング知識が必要なわけではありません。ビジネスサイドのスタッフがプログラミング知識を習得することで、社内のDX化や業務効率化は間違いなく進んでいくでしょう。

また、社内全体でリスキリングを進めるには、旗振り役が必要なため、経営者や上層部の人員がリスキリングを率先して行っていくことは、他の社員に対しても意識づけを促せるのではないでしょうか?

これからのリスキリング

アメリカでは日本よりもリスキリングが先行して実施されています。これは日本では働き方改革や業務効率化のためのDXに注力して取り組んでいるのに対し、アメリカでは新事業やサービス開発強化、市場分析強化に注力した取り組みであることなども起因しています。

とはいえ、2025年の崖を迎えている日本ではDX推進が急務であり、政府も5年で1兆円を投資すると表明していますので、リスキリングはより加速していくでしょう。

リスキリングを浸透・加速させるためには、社内の動機づけと学習環境の整備が求められます。環境が整備され動機づけが高まってくれば、学習者同士が互いに協力しながら学び合う「ピアラーニング」へつながりやすくなると思います。

当社役員のリスキリングプログラムの中でも社内に質問できる相手がいることで、プログラムをリタイアせずに済んだという感想もありました。学習を継続していくためにはこのピアラーニングが重要になってくるのではと考えています。

e-Learningといった学習ツールやオンラインツールなど、移動を必要とせず手軽にピアラーニングをしやすい環境は整っています。

ピアラーニングはアクティブラーニング(能動的学習)につながります。リスキリングの本質である自律的な学びやキャリア形成につなげていくためにもピアラーニングへつながる環境の整備が、これからのリスキリングに必要だと思います。

著者プロフィール

小野寺元
株式会社manebi
執行役員CCO(Chief Content Officer)

中小企業への資金調達コンサル、創業者支援を通して地域経済の活性化に貢献した後、大手自動車メーカーにてHRTech支援業務に従事し、社内広報デジタル化の推進に貢献。都内ベンチャー企業にてデジタル広告販売事業のスタートアップ支援を行った後、manebiへ入社。デジタルコンテンツ推進支援の経験を活かし、eラーニング・コンテンツ事業などの業務推進を行っている。

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