人材市場では若手に有利な状況が続いている中、ミドル・シニアはどのように価値を発揮すればよいのでしょうか。
株式会社ブルーブレイズの代表取締役・都築辰弥氏に「ミドル・シニアの本質的な価値」「真の強みを自覚するために実践すべきこと」についてご寄稿いただきました。
ブルーブレイズ代表の都築です。40~50代のキャリア自律を支援する実践型ビジネススクール「ライフシフトラボ」を運営しています。
早期退職などの話題が注目される現在、「リスキリング」や「越境学習」など、勤続年数が長いミドル・シニア世代がどのように価値を発揮すればいいのかに注目が集まり、日々さまざまなニュースで報道されるようになりました。
ミドル・シニアの転職数が増えているという記事もありますが、蓋を開けると有効求人倍率が低い職種に限定されている傾向があります。
依然として、人材市場では若手に有利な状況が続いています。今後、長く働いてくれること、人件費が安く済むという理由からです。ミドル・シニアが社会の中で価値をいかに発揮するのかは、引き続き多くの議論を呼んでいるテーマになっています。
この記事では、今まで多くのミドル・シニアが自律したキャリアを歩めるようにサポートしてきた「ライフシフトラボ」を運営する中でわかった「ミドル・シニアの本質的な価値」について紹介します。
一般的には「マネジメント経験」などが、ミドル・シニアの魅力と捉えられがちですが、本質はもっと異なります。ミドル・シニアが選ばれるための本当の価値とは何なのでしょうか。
1.ミドル・シニアは選ばれづらい?価値を発揮できなきない理由
「ミドル・シニアだからこその価値」とは何だと思いますか?
大前提としてミドル・シニアだからこその価値はないというのが私の考えです。これは、ミドル・シニアに価値がないという意味ではありません。
自分自身が年齢を重ねていて経験があるからこそ価値があるという考えを持ってしまうことで、本質的なミドル・シニアの価値の理解から遠ざかってしまうと考えています。
20年働いたとしても活躍できる人は活躍でき、活躍できない人は活躍できません。経験豊富であることがそのまま価値に直結するわけではないと自覚をすることが重要です。
一般的に、ミドル・シニア世代では、豊富な経験が価値だと捉えられ、「マネジメント経験」「調整力」など抽象的なスキルを売りにしがちです。
しかし、こうしたスキルを磨くためにかけた時間が価値ではありません。経験年数で判断するのではなく、今までの経験の中で何を得て、何を強みにしたのか考えることが重要です。
例えば、マーケティングに25年間携わってきた50歳のAさんがいるとします。Aさんの価値は50歳であることでも、25年間のビジネス経験を積んでいることでもありません。25年間のマーケティング経験の中で培った、広告運用や市場調査などのそれぞれのスキルに価値があります。
シニアの価値を「歳を重ねていること」と勘違いしてしまい、本質的な自身の価値を問う機会を設けていない人が多くなっています。自身の本質を問いながら、自身の価値を自覚し、長い経験の中で何が強みなのかを考えなくてはいけません。
重要なことは自分が経験を客観的に棚卸しし、社会に何を求められるのかを検証し、しっかり外で生かしていくことです。
現在は、年功序列制度が崩れつつあり、ジョブ型雇用が普及しています。オフィスで座っているだけで仕事がもらえる時代ではなくなりました。自身の価値を認識し、企業の期待に応え、時代に合わせて柔軟に学び、価値を向上させる工夫が必要になっています。
「ミドル・シニアだから」という世代で区切った認識は捨て、自分の本質的な価値を考え、世代に関係なく、社会に求められ、価値を発揮できる強みは何かを問う姿勢が重要です。
長いマネジメント経験は確かに価値を発揮しやすい側面もあるかもしれません。しかし、その経験が生かせるポジションは枠の数が限定的です。
豊富な経験やマネジメント経験を生かそうと思っても、組織はピラミッド構造になっているので、マネジメント能力を直接生かせるポジションに必ずしもつけるわけではありません。
2.真の強みを自覚するためにできることは社外での活動
自分のスキルを棚卸しし、真の強みを自覚するためには何ができるでしょうか。
残念ながら自分の強みは自分で考えてもわからないこともあります。今働いている企業の中だけでは自身の強みを理解することは難しいかもしれません。自分一人で定義するのではなく、積極的に価値を検証する機会を作り出していくことが重要です。
自分の価値を検証するためにおすすめのアクションが複業や越境学習の機会をつくることです。今働いている会社以外の環境で、どんな価値提供ができるのかを考え、実践できるからです。
複業や社外越境の機会をつくる上で重要なのは、1つの経験だけではなく、さまざまな環境にチャレンジすることです。
多くの環境でアウトプットする機会を設ける中で、相対的に自分が得意なこと、やっていて苦ではないこと、続けることが難しいことなどが見えてくるでしょう。ダイヤの原石を見つけるように、自分だけが持っている価値が見えてきます。
では、複業や社外越境の機会はどのように探せばいいでしょうか。
1つ目のステップは、自分が培ったスキルを別の環境で提供してみることです。
例えば、営業に携わっている経験がある方ならば、他の会社で営業の複業やお手伝いをはじめてみるといいでしょう。これだけでも大きな発見があります。自分のやり方では意外とスムーズに行かないこと、逆に自身の培った経験がその会社でさらに価値を発揮できる場合もあります。
営業力が自分の強みだと思っていたけれど、会社の認知度が高いだけだったなんてこともあるでしょう。
2つ目のステップは、別のポジションで複業や社外越境に挑戦してみることです。全く別のポジションにしなくても構いません。営業の経験で培った傾聴力や関係性構築力を活用し、誰かの悩みを聞くコンサルティングの仕事をするなど、自身の強みを抽象化し、別のポジションに当てはめてみる考え方が重要です。
今までと全く違う分野での経験を開拓することで、職種に囚われない自分の本質的な強みがわかるようになります。多くの場所で価値を提供しながら自身の価値を検証することをおすすめします。
複業や社外越境をする中で、最初はどうしても「お金儲けがしたい」と考えてしまう方も多いかもしれません。
しかし、最初はお金儲けではなく、人助けの気持ちが重要です。何か困りごとがある人を見つけ、その人や会社にどのような価値が提供できるのかを考えると、自身の価値や経験が増し、ゆくゆくは収入にも繋がります。
私はよく「ドミノ倒し」に例えていますが、お金儲けを考えずに、まずは誰かの困りごとを解決する中で、事例が増えると、だんだんと次のお客さんへとつながっていくプラスのスパイラルが発生します。このスパイラルの中で、自身の強みが明確化され、いつの間にかビジネスとして成り立っていきます。
「お金儲け」は、誰かの困りごとを解決し、喜んでもらえた対価です。まずは、金銭に囚われず、自身が外部に価値を提供していくスタンスをとることが重要です。
3.ミドル・シニアの経験をスキル化する重要性
社会では、デジタル化が進み、デジタル関連のスキルの重要性が高まっています。そんな中、過去の経験が色褪せてしまい、自身の強みが生かせなくなったと自信をなくしてしまうミドル・シニアの方も多いでしょう。
デジタル技術が浸透し、さまざまなベンチャー企業が生まれ、産業構造が急速に変革を続ける中、ミドル・シニアも、この流れを捉えていくことが望まれています。
そこで多くの企業では、ミドル・シニア世代に向けたデジタルスキルの研修を実施するなど、リスキリングの注目が増し、会社を挙げて人への投資が行われています。
もちろん時代にあわせて自身を変革し、価値を上げていく心がけは重要です。一方で、デジタルスキルだけに特化すれば、前述のような椅子取りゲームで負けやすい状態が続いてしまうと捉えることもできます。
一番重要なのは、過去の経験の中で培った強みを今の時代にあわせてアレンジし、スキル化すること。これにより、活躍する機会が見つけやすくなります。
どうしても新しいスキルを身につけることを優先的に考えてしまうがゆえに、自分が培ってきた長年の経験を無意味に感じ、ゼロからのスタートにどうしても腰が重くなってしまう方もいます。
しかし、シニアの方が培った貴重な経験を分解してみると、現在でも価値を発揮できるスキルが必ず見つかります。
鉄から刀を作っていた時代から進化し、同じ鉄から鉄砲玉ができるように、同じ材料でも今の時代にあったデザインをしていく心がけが重要です。そのために、複業や越境体験を通して自分の腕試しをすることで何がスキル化できるかが分かってきます。
長い経験の中で培ったダイヤの原石をたくさん持っているミドル・シニアの方々はぜひ、デジタル技術の発展に惑わされすぎず、自身のユニークな強みを探し出してみてください。
都築辰弥
株式会社ブルーブレイズ 代表取締役
1993年生まれ。開成高校、東京大学工学部システム創成学科卒。学生時代は、国際学生NPOアイセックで活動した後、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニーに入社し、スマートフォンXperiaの商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」などをプロデュース。その後、2019年8月に株式会社ブルーブレイズを創業。45歳からの実践型キャリア複業スクール「ライフシフトラボ」および法人向けキャリア自律促進サービスを展開。「ライフシフトラボ」:https://lifeshiftlab.jp/
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