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誹謗中傷はなぜ「増えて」いる? どう防ぐ? SNSコンサルが語る

U-NOTE編集部

2022/10/26(最終更新日:2022/10/26)


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SNSをはじめ、インターネット上での誹謗中傷が問題となっている近年。誹謗中傷が注目されるようになった背景や、誹謗中傷に対する対策について、アディッシュ株式会社の田中裕一朗氏にご寄稿いただきました。

そもそも誹謗中傷とは何か

近年はSNSの普及により、誹謗中傷と思われる投稿を目にすることが珍しくなくなってきました。ただ、一概に誹謗中傷といっても「何をもって誹謗中傷と判断するのか、わからない」と感じる人もいるのではないでしょうか。

当社では、誹謗中傷を“人格・存在の否定”、一方誹謗中傷としばし混同されがちな「非難・批判」は“言動を否定すること”として定義しています。

例えば「死ね」という言葉は、その人自身に対して否定的に述べる言葉なので「誹謗中傷」に該当します。「非難・批判」は、誰かの発言内容や行いに対して「それは違う」と否定することであって、そのやり取りが白熱しすぎる場面はあるものの、あくまでも議論の範囲内であるため誹謗中傷とはみなしていません。

誹謗中傷が注目されるようになった背景

1995年からインターネットが一般に普及し、誰もが容易に自分の意見を発信することのできる時代が到来しました。新時代のコミュニケーションにおいては匿名性の高さによって相手の心情を無視した誹謗中傷も多数発生しています。

昨今、特に誹謗中傷が注目されるようになった理由は「個人の変化」「社会の変化」の2つに分けられると思います。

個人の行動・意識の変化

誹謗中傷が注目されるようになったのは、誹謗中傷に対して「正攻法で対峙」をする人が増えてきているからでしょう。

誹謗中傷を受けた被害者が、加害者の個人情報をプロバイダーに開示してもらうためには、裁判所からの開示命令や犯罪が立件されることが要件です。

しかし、要件をクリアしてもプロバイダー側が開示しないケースがあることから個人情報の取得が困難となり、泣き寝入りをする人が少なくありませんでした。

ただ、現在は大変だった開示請求が以前よりも簡略化されたことで、芸能人やYouTuberなどの個人が申し立て、誹謗中傷をした人の個人情報の開示請求をするといった「個人が実際に“行動”を起こすケース」が増えてきています。

また、被害者である芸能人やYouTuberが、裁判を起こすこと、開示請求をすることについて、SNSで「宣言」する様子を見かけることも増えてきました。これは、社会のルールが変わっていく中で「もはや誹謗中傷は逃げられる行為ではないこと」「投稿内容には責任を持ってほしい」という世の中に対する訴えでもあります。

社会状況の変化

近年、Twitterをはじめ情報を不特定多数の人に拡散するサービスが増えたことで、どこかで話題になったことがさまざまなプラットフォームで取り上げられる「カスケード(連鎖的に物事が生じる様子)構造」が構築されました。

カスケード構造により、大勢の人がたくさんの情報を短時間で目にすることができるインフラ環境が整ったことで、一層問題が大きくなりやすくなってきています。

また、以前はマスコミが情報を取り上げて話題になるという流れが大半だったものの、昨今はインターネット上で「バズっていること」をマスコミが取り上げるという流れが多くなっていることも、この構造によるものでしょう。

そのほか、ここ数年のコロナ禍で行動が制限されたことも、誹謗中傷が注目される背景として大きく影響していると思います。

誹謗中傷といったネガティブな側面に限らず、インターネットの歴史上の変遷を振り返ってみても、ここまでネット上の投稿が注目され、盛り上がったことはなかったという肌感があります。

自宅で過ごす時間や1人の時間が増えたことで誹謗中傷をはじめ、Twitter上で折りが合わない人同士の議論が白熱したり、社会問題に対して意見がぶつかった相手のフェイクニュースを流したりすることが、以前よりも増えています。

インターネットがよい形で盛り上がればいいのですが、そうではない方向に動いているので、総量として「誹謗中傷が増えた」という印象が生まれているのではないでしょうか。

誹謗中傷を防ぐ対策はあるのか?

それでは、誹謗中傷の被害者・加害者にならないための対策はあるのでしょうか。政府、コミュニティ運営企業、個人それぞれの対策方法を解説します。

政府の対策

インターネット社会でのコミュニケーションを起点としたトラブルが起きるたびに、政府が解決に向けて法改正を進めたり、罰則を設けたりしています。2020年5月にリアリティー番組の出演者が、誹謗中傷が原因により死去したことで、政府の動きも加速しました。

たとえば、2020年8月に総務省は「プラットフォームサービスに関する研究会 インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」を公表をしました。

これは、2020年7月に「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方について」意見を募集し、事業者や団体、個人などから寄せられた208件の意見と研究会での議論の結果を踏まえた提言です。

また、2022年10月には、被害を受けた人が発信者を特定する手続きを簡素化する法の改正が行われました。これまで発信者を特定する手続きは、SNS事業者と通信事業者などからの開示といった2回の裁判手続きを経ることが一般的でしたが、これを簡素化し、一つの手続きで行うことが可能となりました。

このような法改正は、煩雑な手続きが理由で損害賠償請求を諦めていた被害者の救済につながりますし、「それぞれが自分の発言に責任を持つ」という社会変化の現れでもあります。

コミュニティ運営企業の対策

コミュニティ運営企業にも誹謗中傷対策への積極的関与が求められています。プラットフォーマーとして場の提供をしているからこそ、誹謗中傷への対策に責任を持ち、その場所を安心安全にする取り組みは必要です。

対策として、「利用規約やガイドラインを整備・公表して、モニタリングする仕組みをつくること」や、「ユーザーから通報が受けられるシステムを構築し、通報などに対応できる社内体制の確立」があります。

また、誹謗中傷への対応と表現の自由へのバランスを考慮した対応としては、「ユーザーが投稿する際に投稿内容の再考を促す機能を装備する」ことも有効です。

コミュニティを運営する大手プラットフォーム事業者などは、コメントポリシーを制定したり、誹謗中傷などの相談を受け付ける相談窓口を、期間限定で無償に開設したりしています。

個人の対策

ニュースに取り上げられる誹謗中傷は、芸能人が告訴して加害者が逮捕されたり書類送検されるような誹謗中傷が多いため、中には「自分には関係ない」と思っている人もいるでしょう。

SNSで発信すれば、誹謗中傷の被害者になるリスクがあります。逆に、意図せず加害者になる可能性もあるため「いつか自分の身に起こることかもしれない」といった“自分事”として捉え、インターネットと向き合う意識が大切です。

自分がSNSに投稿するときは、その内容は第三者がみて不快な思いをしないかどうか、一瞬、立ち止まってから投稿をしてほしいと思います。

また、SNSを含め、インターネットは多種多様な意見の集まる場所であり、誹謗中傷や批判的な意見はその一部に過ぎないという意識を持つことも大事です。

批判的な人の声は大きく聞こえますし、目立つので大勢の人が自分に向けて誹謗中傷をしているように見えてしまいます。しかし、実際は大勢の中の「一部」の反応であって、それがすべてではありません。

多種多様な意見を適切に受け止めることが大事なことであり、自分の声に賛同や応援してくれる人もいることを心に留めてほしいと思います。

一方で、誹謗中傷のニュースを見たり聞いたりするたびに、心を痛めている人もいるでしょう。

そんな人は、自分が不愉快だと思った情報をブロックするという方法を試してみましょう。自主的に問題を見ない、問題から逃げていると捉えられてしまうことがありますが、自分の心を守るために「心地がよくない情報を遮断すること」は時には必要だと思います。

想定される未来

近年は、インターネットとリアルな世界の境界線がなくなりつつあります。メタバースがまさにその例でしょう。

「インターネット上の自分は、リアルな自分と同じ」という感覚の人が増えており、特に10代は匿名でインターネットを使わない傾向があります。

インターネット上で匿名性がなくなった場合、「誹謗中傷には現実世界と同じ対策を施せばいい」ということになります。

現実社会で人を殴ってはいけないことが常識であるように、インターネットの世界でも「人を傷つけることをしてはいけない」という意識を持つことが必要です。

この先の未来も、誹謗中傷はなくなることはないと思われますが、社会の変化に伴い、企業や個人で対策を講じることは大事です。また、仕組みを変えて、ある選択肢を選びやすくする「アーキテクチャ的アプローチ」も有効でしょう。

※米法学者ローレンス・レッシグ著書「CODE VERSION 2.0」(翔泳社)をもとに作成

米法学者ローレンス・レッシグ氏著書「CODE VERSION 2.0」によると、インターネット上のコミュニティのあり方を考えるときには「法」「規範」「市場」「アーキテクチャ」という4つのパワーがあるといいます。

これを参考にして、4つのパワーをデジタル空間におけるアーキテクチャの例として落とし込みました。

このように「法」「規範」「市場」「アーキテクチャ」の観点から訴えかけていくことも、一つの誹謗中傷対策ではないでしょうか。

著者プロフィール

田中裕一朗
アディッシュ株式会社
カスタマーリレーション事業本部
ポリシーアーキテクト

早稲田大学卒業後、モバイルサービス企業を経て、2012年に株式会社ガイアックスに入社。SNS運用のコンサルティング、『ソーシャルメディアラボ』編集長を経て、2016年に当時グループ会社であったアディッシュ株式会社に転籍。クライアント企業が運用するSNSアカウントやソーシャルリスニング、コミュニティサイトなどのポリシーアーキテクトに従事。Twitterウォッチャー。

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