HOMEビジネス 2022年は「リモート薬剤師」元年、潜在薬剤師活用なるか

2022年は「リモート薬剤師」元年、潜在薬剤師活用なるか

U-NOTE編集部

2022/10/07(最終更新日:2022/10/07)


このエントリーをはてなブックマークに追加

辻裕介氏/提供:PharmaX株式会社

2022年に行われた「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(薬機法)」に関する改正。今後は、薬剤師の在宅勤務が可能となります。

医師の私とエンジニアの上野の2名で2018年12月に創業した"次世代型オンライン薬局"を運営するスタートアップPharmaX株式会社は、自ら運営する薬局にテクノロジーを積極的に活用することで、患者/生活者主体の医療体験を創っています。

今回は代表取締役の辻裕介氏に、これまで薬局業界で試行錯誤してきた中で見えてきた「薬剤師の新しい働き方」についてご寄稿いただきました。

調剤薬局で求められている”対人業務へのシフト”

調剤薬局市場は、1974年の診療報酬改定で処方箋料が引き上げられ、医薬分業の推進が図られた結果として急速に発展してきました。

本来調剤薬局は、医薬品交付後も、服薬状況や副作用対応・残薬の有無などをフォローし、処方医と情報を共有して常に最善の対応を行うことが求められていますが、実態としては「処方通り調剤をして患者に医薬品を交付する=対物業務」に大半の時間が割かれているのが現状です。

こういった課題に対して厚生労働省は、2015年に「患者のための薬局ビジョン」「健康サポート薬局制度」を策定して、かかりつけ薬局の推進を打ち出しているものの、まだ患者に付加価値を届けるまでには至っていません。

規制緩和に伴い薬局DXの機運が高まる

そんな中、2020年の薬機法改正やコロナ禍での時限措置の恒久化・規制改革推進会議の働きかけもあり、直近1~2年で薬局関連の規制緩和が一気に進行しました。

オンライン診療・服薬指導は一部例外を除き全面解禁されたほか、2022年4月よりリフィル処方箋(医師の定めた一定の期間内であれば同じ処方箋を繰り返し利用できる)、2023年1月より電子処方箋が解禁されるなど、薬局が「オンライン上で」かかりつけ化を推進するための前提条件が整いつつある状況です。

2022年は「リモート薬剤師」元年

そんな中で薬局業界に激震が走ったのが、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(薬機法)」に関する次の改正です。

これまで、施行規則第15条の13第2項の規定に基づき、薬剤師がオンライン服薬指導を行う場合は、薬局開設者は当該薬剤師に対して、服薬指導を行う設備がある薬局内の場所において行わせることとされていたが、当該薬局内において調剤に従事する薬剤師と相互に連絡をとることができる場所において行わせることも可能とする。

つまり薬剤師の在宅勤務が可能になるということです。

全国には薬剤師免許を持ちつつ、妊娠や出産、育児、介護などの事情により勤務できない、いわゆる「潜在薬剤師」が9万人もいると言われています。

しかしながら、当社のアンケートによると、その中でもリモートワークであれば働きたいという人が6割以上も存在し、薬剤師側からの強いニーズがあるとわかります。

このような法改正を踏まえて、薬剤師の働き方や患者の医療体験はどのように変わっていくでしょうか。

まず先進的な薬局は、調剤などの対物業務をどんどん外部委託していくことで在庫リスクを軽減していくと考えられます。

また、薬剤師がリモートでも勤務できる体制を早急に構築することで、求人倍率の高い薬剤師の確保が可能となり、患者はこうした優秀な薬剤師にオンラインでいつでもどこでも相談できるようになっていくでしょう。

場所の制限なく飲み合わせの確認や副作用対応、服薬忘れサポートなどを支援することで、「かかりつけ」としての安心感を提供することができます。

こういった取り組みを行う薬局には患者も薬剤師も集まるため、これまで以上に良い意味での競争が加速され、薬局の付加価値向上につながっていくはずです。

行政が「患者のための薬局ビジョン」で掲げた方向性を実現するためには、上記のような流れを阻害しないことはもちろん、より加速させるために調剤報酬改定で対人業務に加算を設けたり、必要な規制緩和を実施したりすることが有効であると考えます。

さいごに

医療業界というのは、患者の命に関わるからこそ、適切な規制が求められます。

一方で、高齢社会先進国かつ皆保険制度を有する日本だからこそ、世界の医療を牽引する必要もあると思っています。

テクノロジーの未来を見据えて、特区制度等を活用しながらエビデンスを構築し、さまざまな関係者ともコミュニケーションをとりつつも患者主体な医療体験を創っていくことが、今の時代に求められていることではないでしょうか。

私たちも自社薬局で患者の皆さまと真摯に向き合う中で得られた知見を、引き続き提言していきたいと思います。

辻裕介氏/提供:PharmaX株式会社

著者プロフィール
辻裕介
PharmaX株式会社
代表取締役
 

順天堂大学医学部卒業。ヘルスケアスタートアップでインターンとして事業開発を経験。その後MD-PhDプログラムに採択され、順天堂医院にて臨床と研究に従事。2018年12月にMINX株式会社を創業。2022年8月にPharmaX株式会社へ社名変更し、薬局DXを推進していくことで患者さんに最も満足していただけるオンライン薬局モデル確立に向けて邁進する。

【関連記事】


hatenaはてブ


この記事の関連キーワード