物事の背景を違う枠組みで捉え直す「リフレーミング」。元々はコミュニケーション心理学の概念のひとつでしたが、現在はビジネスパーソンが成長する手法のひとつとしてビジネスシーンでも活用されています。
今回はそんなリフレーミングについて解説。3つの種類と実践するときのポイントもあわせてご紹介します。成長がなんとなく止まってしまっている、他責になることが増えたと感じる方は、自身の成長機会を作り出すためにぜひリフレーミングを実践してみてください。
- リフレーミングとポジティブシンキングは似て非なる考え方<
- リフレーミングを実践することで、自己肯定感が高まる
- リフレーミングには簡単なものから難しいものまで5つの手法がある
リフレーミングとは
「リフレーミング」とはコミュニケーション心理学の概念のひとつで、物事を違う枠組みで捉え直す考え方のことを指します。
枠組み「Frame」を捉え直す「Re-Frame」することから、リフレーミングという言葉が使われています。
リフレーミングは、緊張・不安・心配などネガティブな感情をポジティブに捉え直すのに有効な手法です。例えば、コップの半分まで水が入っている状態を「半分しか入っていない」と思うのか、「半分も入っている」と思うのかでは幸福度が変わります。
リフレーミングは物事のポジティブな側面に焦点を当てて、認知を変えていく心理療法なのです。
リフレーミングとポジティブシンキングの違い
リフレーミングは物事を再解釈してポジティブに捉え直すという考え方。一方、ポジティブシンキングはネガティブな物事を前向きに考え直す思考法です。そのため、両者は似て非なるものです。
リフレーミングでは、相手の立場に立って物事を考えたり、客観的な視点をもって物事を捉えたりします。物の見方の癖を変えられるようにする思考トレーニングといっても過言ではありません。
例えば、辛いだけだと思っていた出来事も、よくよく思い返してみれば自身が成長するきっかけとなったという考え方は、リフレーミングによるものです。
一方、ポジティブシンキングには、例えネガティブな側面があったとしてもそのことを正面から捉えずに、無理矢理ポジティブに考えるといった意味合いが強くあります。
物事を捉え直すリフレーミングと、物事から目を背けるようにしてポジティブに考えるポジティブシンキングでは、大きな違いがあるのです。
リフレーミングの種類
リフレーミングには、状況・行動・内面と3つの種類があります。シーンにあわせて使い分けることで、より効果的なリフレーミングを行えるのがポイントです。リフレーミングを実践する際の基本知識となるので、この機会に知っておきましょう。
1:状況・事象に関するリフレーミング
状況・事象に関するリフレーミングでは、自分が置かれている状況や出来事の枠組みを捉え直します。
例えば、半期が終わった人事評価のタイミングで人事異動があった場合に、状況・事象に関するリフレーミングは有効です。
成果をあげているのになぜ異動しなければならないのかという考えを変え、新たなスキルを獲得して成長する機会と捉え直すことで、仕事に対するモチベーションを維持できます。
2:行動に関するリフレーミング
行動に関するリフレーミングでは、自身の行動や相手の行動を捉え直します。
人にはついしてしまう行動の癖があります。特定の行動が悪い結果に繋がった場合、多くの人は失敗したという結果にのみに焦点を当ててしまいます。
行動に関するリフレーミングは、失敗したことではなく行動の捉え方を変えるのがポイントです。行動を客観的に見て失敗に繋がった原因を考えたり、行動を変えれば成功するかもしれないと捉え直してみたりすることで、行動の癖を改める機会を得られます。
3:内面・性格に関するリフレーミング
内面・性格に関するリフレーミングでは、人の性質や性格の見方を変えます。
例えば、人と喋ることが好きな性格の従業員は、静かなオフィスでは迷惑に思われることがあります。
初対面の方がいるシーンや、新しく社員が入社したシーンではどうでしょうか。話の内容に関係なくさまざまな話題を持ち出すことで場の空気を和ませ、相手をリラックスさせる可能性があります。
短所と長所は表裏一体といいますが、内面・性格に関するリフレーミングでは、相手の悪い面ではなく良い面に気付けるようになります。
リフレーミングを活用する効果・メリット
リフレーミングは、日々トレーニングを続けることで身につけられます。ネガティブな考え方をポジティブに変換できるほか、物事の良い面により目を向けられるようになります。そのことにより、さまざまな効果を期待可能。リフレーミングを活用する効果・メリットをご紹介します。
モチベーションが高まる
リフレーミングを活用することで、モチベーションが高まる効果を期待できます。
リフレーミングは、ネガティブに捉えていた出来事を違う側面から見て、ポジティブに捉え直す考え方です。どんな内容であれマイナス面に焦点を当ててしまうと、多少やる気が削がれます。
モチベーションを高めるには、状況・事象に関するリフレーミングを行うのがおすすめ。リフレーミングにより物事をプラスの事象に転換することで、仕事に対するモチベーションを維持したり、あげたりする効果が期待できます。
苦手意識が軽減される
苦手意識が軽減されることも、リフレーミングを行うことによるメリットのひとつです。
ビジネスのシーンでは、必ずしも自身が得意な仕事のみを任されるとは限りません。今まで取り組んだことのない業務や、苦手としていた業務を担当する必要があることも少なくないでしょう。
通常であれば、不得意な業務を任されると苦手意識が強くなってしまいます。そんなときでもリフレーミングを実施することで、成長の機会として捉えられるようになります。苦手意識を少なくしたい場合にリフレーミングは効果的な考え方だといえるでしょう。
自信が持てるようになる・自己肯定感が高まる
リフレーミングの実践は、自信が持てるようになったり、自己肯定感が高まったりすることにも繋がります。
リフレーミングは、挑戦の一歩を踏み出す際に効果的です。物事を違う側面からプラスに捉えられるようになれば、業務に対するモチベーションが高まり、苦手な業務にも取り組む意欲がわきます。
ポジティブな気持ちで挑むことは、ひとつひとつの仕事の成功に直結します。結果的に新しい挑戦がうまくいけば自信がつき、自己肯定感も高まるでしょう。
課題解決や人間関係構築に役立つ
リフレーミングは、課題解決や人間関係の構築にも役立ちます。
物事や人のネガティブな側面を見る癖が付いていると、課題解決が難しくなったり、良好な人間関係を構築しにくくなったりしてしまいます。
リフレーミングは、そうした固まってしまった物の見方を変える良い機会として活かせます。今まで見えていなかった物事や人の良い面が見えれば、自ずと自分の行動や思考の幅も変化します。
仕事や人間関係での課題を解決に導いたり、以前よりも良い関係を構築したりする効果を期待できるでしょう。
リフレーミングの手法
リフレーミングの意味やメリットが理解できたら、実際に実践してみましょう。リフレーミングには、複数の実践方法があります。ここでは、リフレーミングの6つの手法を解説します。状況や相手にあわせて使い分けることを意識してみてください。
1:言葉
リフレーミングの1つ目の手法は、「言葉」です。今すぐにでも実践できる簡単な方法なので、まずは日常的に使う言葉から変えていきましょう。
例えば、「のんき」を「おおらか」と言い換えたり、「マイペース」を「慎重」と言い換えたりすることができます。マイナスイメージの強い言葉を使うと、相手や状況に対してそのイメージが自然に定着してしまいます。
この言葉はプラスに変換できているのかということを慎重にチェックし、発言に気を付けることから始めましょう。
2:As IF
リフレーミングの2つ目の手法は、「As IF」です。「As IF」とは、状況や相手の行動を「もし◯◯だとしたら」という問いを持つリフレーミングの手法のことです。
「As IF」は、相手の立場に立って物事や状況を多角的に見たいときに効果的。「もし先輩なら」「もしマネージャーだったら」と考えることで、新たな発想や適切な対策を行うことができます。
ただし、「As IF」を利用する際はマイナス面にフォーカスしないよう注意が必要。「もし失敗したら」「もし良い返事をもらえなかったら」と考えてしまっては、リフレーミングの効果を発揮できません。ポジティブに捉えるためのフレームワークだということを忘れないようにしましょう。
3:時間軸
リフレーミングの3つ目の手法は、「時間軸」です。気持ちを整理したり、何から手を付ければ良いのかを判断したいときに使える手法です。
例えば、ミスが発生したときは自分やミスを起こした相手を責めてしまいがちです。しかし、リフレーミングにより「今」に焦点を当てることができれば、トラブルが起きたことの報告が早かったために被害を最小限に食い止められたと考えられるようになります。その後の対応も前向きに検討できるでしょう。
時間軸を「未来」に置いたときには、将来のために今何をすれば良いのかがクリアになります。将来的に活躍するための修行期間だとリフレーミングすることができれば、現在の自身が置かれた状況も前向きに受け止めることが可能です。
4:解体
リフレーミングの4つ目の手法は、「解体」です。何かに行き詰まった際、頭のなかを整理するのに便利なリフレーミング方法で、物事の細部を分解して詳細に捉えることを指します。
例えば、自分の業務がなかなかうまくいかない原因を考えるには、「何かうまくいかない」と捉えるのではなく「なぜ」「どのような状況で」「どんなスキルが足りないから」うまくいかないのか、細部まで解体しなくては現状は変わりません。
実際に物事を解体して考えてみると、問題だと思っていたことが単なる思い込みだったことにも気付けます。
5:Want
リフレーミングの5つ目の手法は、「Want」です。「Want」はその意味通り、自身に「どうしたいと思っているのか」を問いかけるリフレーミングの方法です。
「Want」は、不安や緊張などの感情により、物事を前に進められなくなった場合に有効。どうしたいのかを自分に問いかけることで、その「Want」を叶えるためにどんなアクションが必要なのかが明確になるからです。
マイナスの感情に支配されていた状態を脱却し、理想とする未来を目指すためにポジティブな行動を起こすための手法です。
6:メタファー
リフレーミングの6つ目の手法は、「メタファー」です。「メタファー」には、暗喩・隠喩という意味があります。その言葉の意味通り、直接的ではなく間接的な表現で相手に伝える方法です。
「メタファー」によるリフレーミングでは、著名人の格言・名言を用いるのがおすすめです。ただし、相手がメタファーにより伝えたいことを理解できなくては意味がありません。そのため、メタファーはリフレーミングの手法のなかでは、やや難易度が高め。
うまく伝わっていない実感がある場合には、つまりこういうことを伝えたかったんだと補足をいれましょう。
リフレーミングを実践するときの5つのポイント
リフレーミングを正しく活用する際は、いくつかのポイントを押さえておきましょう。ここでは、リフレーミングを実践するときの5つのポイントをご紹介します。
リフレーミングを実践するときの5つのポイント
- ポイント1.相手への理解と共感を持つ
- ポイント2.簡単な言葉からリフレーミングを始める
- ポイント3.得られるもの・得られたものを検討する
- ポイント4.他の可能性を検討する
- ポイント5.意識して継続的にトレーニングを行う
これからリフレーミングを身につけたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
ポイント1.相手への理解と共感を持つ
リフレーミングを実践するときは、相手の理解と共感を待つことが大切なポイントです。
特定の相手を対象としたリフレーミングでは、相手に伝えたい気持ちと、自分の発言が相手に与える影響を考慮することを意識してみてください。
そのためには、相手の立場に立って物事を考えてみるのが重要。ただポジティブなことを言えば良いというわけではありません。相手を対象としたリフレーミングは、相手を理解しようという姿勢のうえで成り立ちます。
ポイント2.簡単な言葉からリフレーミングを始める
簡単な言葉からリフレーミングを始めるのも、リフレーミングを実践するときの意識したいポイントです。
リフレーミングは物事を新たな視点から捉える技術です。一度実践すればすぐに身につくものではありません。まずは、日常的に使っていたマイナス言葉をプラス言葉に置き換えるところから始めましょう。
いきなり高度なリフレーミングを実践するとうまくいかず、苦手意識を持ってしまったり効果がないと判断してしまったりもします。まずは、技術の基本を身につけ、徐々にリフレーミングのスキルを上達させていくと考えて取り組みましょう。
ポイント3.得られるもの・得られたものを検討する
リフレーミングを実践する際には、得られるもの・得られたものを検討することも大切なポイントです。
例えば、職場内での良好な人間関係の構築があげられます。同僚との関係があまりうまくいっていなかったけれど、リフレーミングを取り入れることで協力し合える関係になれた。
または、納得していない人事異動によりモチベーションが下がっていたけれど、リフレーミングを実践したことで異動先での経験を今後のキャリアに活かしていこうと考えて行動できたなど、得られるものはさまざまです。
自分にとってどんなメリットがあるのかを先に想定したり、実践後に振り返ってみたりすることで、リフレーミングを習慣化することができます。
ポイント4.他の可能性を検討する
リフレーミングを実践する際は、他の可能性も検討してみましょう。
リフレーミングにより得た物の見方は、それが必ずしも正解とは限りません。その考え方に基づき行動を起こしてみて、想定していた結果が得られなかったのであれば、他の可能性にも目を向けましょう。
ひとつの物事に対するリフレーミングは一度きりという決まりはありません。何度もやり直し、捉え直しながら最適なリフレーミングを探っていきましょう。
ポイント5.意識して継続的にトレーニングを行う
リフレーミングを完全に身につけるには、継続的なトレーニングを意識して行うことが大切です。
人には必ず考え方の癖があります。それが一朝一夕では修正できないのと同じように、新しい考え方の癖は、すぐに身につくものではありません。意識して長期的に取り組むことで、徐々に定着していくものです。
常に意識するのは大変なので、日常的な会話からリフレーミングを取り入れていきましょう。それが自然にできるようになったら、業務中にも実践します。少しずつステップアップしながら、継続的に行うことを意識してみてください。
リフレーミングを活用できるシーンと例
リフレーミングは、日常やさまざまなビジネスシーンで活用することができます。慣れるまでは素早くリフレーミングできないと思いますが、ポイントは自分を責めずに物の見方をプラスの方向へ変えることです。
参考となるリフレーミングを活用できるシーンと例を箇条書きでご紹介します。
批判や否定をされたとき
批判や否定をされたときには、どうしてもネガティブになってしまうものです。そうした際にもリフレーミングによる捉え直しが有効です。状況をポジティブに受け止め、前向きな気持ちで次の行動に繋げていきましょう。
・自分が成長するためのひとつの試練なのかもしれない。
・指摘をバネに大きくステップアップしよう。
・狭くなっていた視野を広げる大きな機会だ。
・今の段階で自分の至らなさに気付くことができて良かった。
・やり方や取り組み方の効率性を指摘されただけで、自分自身の否定ではない。
失敗することが怖いとき
失敗することが怖いときは、「時間軸」「As IF」「解体」のリフレーミング手法を用いるのがおすすめです。
・失敗したとしても将来的にこの経験が活きる場面があるはず。
・新人のうちの失敗は良い経験になる。
・同期の◯◯だったら、失敗もチャンスに変えて自信を成長させるだろう。
・失敗することの何を具体的に恐れているんだろう。
・失敗しないために足りていないスキルはなんだろう。
自信がなくなっているとき
自信がなくなっているときは、より意識してリフレーミングに取り組みましょう。ふとした瞬間にマイナスの思考に囚われてしまうので、「解体」「Want」の手法を活用して自分に問いかけ、不安や自信をなくしている要素を取り除くための行動に繋げてみてください。
・自分はどんなビジネスパーソンを目指しているのか。そのためにまず取り組めることとは?
・この仕事を通して、本来自分がやりたいことってなんだろう。
・自信がなくなってしまった原因となる出来事は、どうすれば起こらなかっただろうか。
・次のプロジェクトを成功させるには、どんな要素が揃っていれば良いだろうか。
・自信をつけるために自分に不足しているものはなんだろう。
人間関係で悩んでいるとき
人間関係で悩んでいるときは、相手との関係性を捉え直すリフレーミングを実践してみてください。自分が発する言葉や言外のコミュニケーションも意識することで、人間関係の悩みが解決に向かう可能性があります。
・見逃しがちな細かな点まで指摘してくれているおかげで、大きなトラブルに繋がらずに済んでいる。
・相手にも何か事情があったのかもしれない。
・世の中にはこういう態度でしか人と接することができない人もいる。
・相手との関係性をより良い方向に転換する良い機会だ。
・相手との関係性を通して、人間力を試されているのかもしれない。
不採用・不合格になったとき
転職活動や資格試験などで不採用・不合格になったときも、自分をただ責めるのではなくリフレーミングを活用して、次に繋がる一歩をまた踏み出せるようになりましょう。
・もっと自分に適した企業と出会うための結果だったんだ。
・会社が求める人材と、自分が提供できるスキルがうまくマッチングしなかっただけ。
・自分が目指すキャリアについて、今一度考えるための時間が作れた。
・より自分を理解するための時間を得られた。
・今よりもっと知識を深めるための勉強の時間を得られた。
リフレーミングを学べるおすすめの本
これからリフレーミングを学ぶ方には、成美堂出版の『プロが教えるはじめてのNLP超入門』がおすすめです。
本書は、ビジネスで使えるNLP(神経言語プログラミング)の第一人者が執筆した書籍。そのため、リフレーミングをビジネスシーンで活用する方法がわかりやすく解説されています。入門書としてピッタリです。
リフレーミングを体系的に学べるだけでなく、実践にまで落とし込んで紹介しているのがポイント。コミュニケーションがうまくなり、なりたい自分になるためにはどうしたら良いのか。理想とする自分を目指すためリフレーミングを取り入れたい方は、ぜひ目を通してみてください。
意識してリフレーミングに取り組もう
- リフレーミングとは、状況や事象を多角的に捉えること
- リフレーミングを習慣化することで、常にプラスの行動を意識する人間を目指せる
- リフレーミングの実践は簡単な「言葉」の変換から
ビジネスパーソンとして、あるいは人として成長し続けたいという方は、ぜひリフレーミングを実践してみてください。
ポイントは、常日頃から意識して取り組み、習慣化させること。まずは、簡単な言葉のリフレーミングから始めましょう。慣れてきたら他の手法にもチャレンジしてみてください。
リフレーミングを身につけて、さまざまな状況を成長の機会として捉えてプラスな行動に繋げられるビジネスパーソンを目指してみてはいかがでしょうか。
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