ビジネスパーソンなら知っておきたい重要なビジネス用語である「アカウンタビリティ」。コーポレートガバナンスと共に使われる機会が多く、「説明責任」を意味する単語ですが、その重要性はきちんと理解できているでしょうか。
アカウンタビリティが示す説明責任の意味をわかりやすく解説します。あわせて、企業が実現する3つのポイントも紹介しているので、この機会に理解しておきましょう。
- アカウンタビリティが示す「説明責任」の範囲とは
- アカウンタビリティとレスポンシビリティ・インフォームドコンセント・コーポレートガバナンスの意味の違い
- アカウンタビリティを果たさないことによる考えうるリスク
アカウンタビリティとは?説明責任との意味であっているの?
アカウンタビリティとは、経営者が投資家や株主、顧客などの利害関係者(ステークホルダー )に対して、自社の経営状況や財務状況などについて説明する責任のことです。
「会計」の意味を持つ「Accounting」と「責任」の意味を持つ「Responsibility」を掛け合わせた言葉で、「説明責任」と呼ばれることもあります。
しかし、アカウンタビリティは言葉の意味通りの「説明すること」だけでなく、その後のアクションや対策のことも指しています。企業側はそのことを理解しておく必要があるでしょう。
業界別のアカウンタビリティの意味をわかりやすく説明
アカウンタビリティは、さまざまな業界で使われている言葉です。同じ説明責任の意味で使われてはいるものの、その内容は異なります。会計・人事・看護・医療業界におけるアカウンタビリティの内容をわかりやすく説明します。
会計
会計業界におけるアカウンタビリティとは、「会計説明責任」のことです。会計説明責任とは、経営者が株主や投資家などに対して資金の使い道を説明する会計上の説明責任のことを指します。
現在でも会計業界では会計説明責任を指す際に使われていますが、少しずつ認識が変わってきています。会計業界においてもアカウンタビリティは、経営者が負う説明責任の機会全般として使われるようになってきています。
人事
人事業界におけるアカウンタビリティとは、人事評価や人事異動などを行う際にその背景や要点を説明する責任のことを指します。
従業員は基本的に人事に関する決定事項に従うものの、なぜそのように決まったのか説明がないと会社への信頼が薄れ、仕事へのモチベーションも下がりかねません。
その際にきちんとアカウンタビリティを行えば、従業員の不安が解消されその後もパフォーマンスを発揮することができます。
看護・医療
看護・医療業界におけるアカウンタビリティとは、治療や処置の内容を患者やその家族に説明する責任のことを指します。
近年、日本の看護・医療業界ではアカウンタビリティ確保の重要性が高まっています。医療過誤や医療事故の発生が多くなっている要因のひとつとして、日本におけるアカウンタビリティがもっと議論される必要があるのではないかといわれているのです。
アカウンタビリティとレスポンシビリティの違い
アカウンタビリティとレスポンシビリティは、どちらもビジネス用語として定着している言葉ですが、それぞれ意味が異なります。
アカウンタビリティが「Accounting」と「Responsibility」を掛け合わせた「説明責任」の意味を持つ言葉であることに対して、レスポンシビリティは単なる「責任」の意味を持つ言葉です。
つまり、アカウンタビリティには「利害関係者に説明する責任」が含まれていますが、レスポンシビリティには「責任を負う」という意味しか含まれていません。そのため使用シーンも若干異なるので注意しましょう。
アカウンタビリティとインフォームドコンセントの違い
アカウンタビリティと共に浸透してきた言葉に「インフォームドコンセント」という単語があります。
アカウンタビリティがビジネス用語として使われているのに対して、インフォームドコンセントは看護・医療の現場で使われている用語なので、使用シーンが全く異なります。
インフォームドコンセントとは、患者に対して治療の内容や方針について説明し、患者からの同意を得ることを意味します。看護・医療の現場でもアカウンタビリティという言葉を使いますが、その場合は治療や検査の内容などを説明するというところまでの責任にとどまるので注意しましょう。
アカウンタビリティとコーポレートガバナンスの違い
アカウンタビリティと並んで使われる単語として「コーポレートガバナンス」があります。
コーポレートガバナンスとは、企業が自社の利益を最優先し、投資家や株主など出資者に対して不利益となる経営を行わないよう管理・監督する仕組みのことを指します。
この仕組みが整っていないと企業の不祥事が起こりやすくなり、事態の発覚と共に世間からアカウンタビリティが求められるのです。近年、企業の不祥事が起こるたびに、アカウンタビリティとコーポレートガバナンスの重要性が指摘されています。
アカウンタビリティが重視される理由・背景
アカウンタビリティが重視されている理由や背景には、アカウンタビリティの質の向上と対象の拡大が関係しています。
アカウンタビリティという言葉が普及したきっかけは、1994年に『人間を幸福にしない日本のシステム』という本が出版されたことだといわれています。
本書のなかで著者は日本の社会システムを「アカウンタビリティの欠如」という切り口から分析をしており、出版と同時期に企業の社会的責任が厳しく問われるようになりました。
古典的な解釈でいえば、アカウンタビリティは経済学の世界において委託された資金の運用・管理の状況および結果を出資者に正確に伝える義務とされています。しかし、30年ほどの間にデフレ経済・サブプライムローン危機・リーマンショックなどの経済変動が起き、企業の影響が個人にも及ぶようになってきました。
それに伴い企業の不祥事発覚が続出したことも、アカウンタビリティが重視されるようになった理由のひとつです。ステークホルダーの不利益が生じる機会が多くなったため従来のアカウンタビリティの解釈が拡大されていき、財務だけでない企業の情報開示をすべてのステークホルダーが得られるようになったのです。
企業がアカウンタビリティを果たさないことによるリスク
アカウンタビリティは企業の継続と成長のために必要な事柄です。なかには、財務状況だけ開示していれば問題ないという考えもありますが、投資家から出資を得るには財務・経営・ガバナンス・環境など、多様な情報を提供する必要があります。その点を含め、アカウンタビリティを果たさないことによる3つのリスクを説明します。
リスク1.法令違反になる
企業がアカウンタビリティを果たさないことによる1つ目のリスクは、法令違反になることです。
すべての企業には「会社法」が適用されています。会社法とは、会社の設立・運営・仕組みなどについて定めた法律のことです。会社法のなかで株式会社は監査報告書を作成し、その結果を株主総会に報告しなければならないと決められています。
つまり、アカウンタビリティを果たさないと会社法に違反してしまうことになるのです。
リスク2.ステークホルダーからの信頼を失う
企業がアカウンタビリティを果たさないことによる2つ目のリスクは、ステークホルダーからの信頼を失うことです。
法令以外に企業が意識しなければならないものとして、「コーポレートガバナンス・コード」があります。適切な情報開示と透明性の確保を原則とした、透明・公正・迅速・果断な意思決定を行うための仕組みです。
企業は会社法に基づいて財務状況を説明する責務がありますが、それ以外の経営戦略・経営課題・リスク・ガバナンス・環境問題などに関わる非財務状況については、開示・提供している企業はそう多くありません。
コーポレートガバナンス・コードは、そうしたステークホルダーに対して、法令に基づく以外の情報も必要に応じて開示・提供する必要があるとしています。透明性が低いほどステークホルダーからの信頼を失ってしまうので、積極的なアカウンタビリティを行う誠実な姿勢は大切です。
参考:株式会社東京証券取引所 「コーポレートガバナンス・コード 」
参考:会社法
リスク3.資金調達が難しくなる
企業がアカウンタビリティを果たさないことによる3つ目のリスクは、資金調達が難しくなることです。
投資家は企業が開示している財務状況やそれ以外の情報を元に、投資の可否を判断します。企業側が提供している情報量が乏しく、また納得や信頼のできる内容でなければ投資家からの出資を得ることは難しくなるでしょう。
企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のためには、アカウンタビリティを果たすことが大切です。
アカウンタビリティを実現するための3つのポイント
一口にアカウンタビリティを果たすといっても、意味が抽象的すぎるため何から取りかかれば良いのかわからない方もいるのではないでしょうか。アカウンタビリティを実現するための3つのポイントを解説します。
ポイント1.従業員にアカウンタビリティの重要性を共有する
アカウンタビリティを実現するための1つ目のポイントは、従業員にアカウンタビリティの重要性を共有することです。
企業がアカウンタビリティを実現するためには、全従業員の理解と協力が必須。なかには、アカウンタビリティは必要に応じて果たせば良いと考えている従業員もいるでしょう。もちろんそれは間違いではないものの、問題が生じる前にアカウンタビリティを行うことで予期せぬ事態を避けやすくなるのも事実です。
従業員にアカウンタビリティの重要性を共有するには、全社を対象とした講習会や説明の機会を設けるのがおすすめ。その際は、過去実際に起きた社会的なニュースと共に、アカウンタビリティが発展してきた背景を知ってもらうことで、重要性への理解が深まるでしょう。
ポイント2.アカウンタビリティを評価指標に加える
アカウンタビリティを実現するための2つ目のポイントは、アカウンタビリティを評価指標に加えることです。
企業内でアカウンタビリティの実施を根付かせるには、人事評価の指標にアカウンタビリティの意識度や成果の項目を設けるのがおすすめです。
人事評価に加える際は、部署やプロジェクトごとにアカウンタビリティの内容を決めましょう。なぜなら、業務によって果たされるべきアカウンタビリティには、やや違いがあるからです。
例えば、営業部署であれば顧客が契約の判断をするための情報は開示すべきです。自社にとって不益でも、顧客にとって有益である情報を提供していないと、アカウンタビリティは果たしていないといえるでしょう。
ポイント3.アカウンタビリティを果たす実施形態を整える
アカウンタビリティを実現するための3つ目のポイントは、アカウンタビリティを果たす実施形態を整えることです。
企業活動において透明かつ公正な意思決定が行われていることをステークホルダーに示すには、その過程を透明化しておくことが大切。万が一、不祥事が起きてしまった場合にどの点に問題が合ったのかがわかりやすくなります。
不祥事が発生するのを防ぎ、ステークホルダーからの信頼を得るためには、アカウンタビリティを実施できる社内体制や内部統制の見直しから始めましょう。
アカウンタビリティを実現するためのプランを検討しよう
- アカウンタビリティとは、財務だけでない企業の経営状態の説明を果たす責任のこと
- アカウンタビリティの意味の拡大と共に重要性が高まった
- 企業がアカウンタビリティを果たさないと、経営の継続や成長にリスクがある
アカウンタビリティを実現するためには、具体的なプランを考える必要があります。単に「説明責任を果たす」としてしまうと、あまりにも抽象的すぎるからです。
企業としてアカウンタビリティを実施するためには、まず従業員に重要性を理解してもらい、社内の実施体制を整えましょう。そうした環境を整備したあと、具体的な計画を立てることでアカウンタビリティを実現しやすくなります。
本記事を参考に、アカウンタビリティを実現するためのプランを検討してみてはいかがでしょうか。
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