福祉や看護、ビジネスなどで注目されている言葉である「エンパワーメント」。どのような意味なのか詳細を知らない人も多いのではないでしょうか。
本記事では、エンパワーメントの意味や、歴史、注目されている理由などを紹介。エンパパーメントを導入するステップや注意点なども解説しているので、ぜひ参考にしてください。
- エンパワーメント(エンパワメント)とは?
- エンパワーメントを導入するステップ
- エンパワーメントを推進する際の注意点
エンパワーメント(エンパワメント)とは?
エンパワーメントとは、「権限を与えること」という英単語です。しかし、福祉や看護、ビジネスにおけるエンパワーメントの意味は、単純な英訳とは異なります。
以下では、それぞれの業界のエンパワーメントの意味についてご紹介します。
福祉におけるエンパワーメントの意味
福祉における「エンパワーメント」とは、年配の方や障がい者などの社会的に不利な立場にいる人の、長所や強さなどのプラスな面に着目して様々な方向で援助することをいいます。
ネガティブな面ではなくポジティブな面に注目することで、社会的に不利な立場にいる人が自信の優れている点を改めて感じられるようになります。その結果、レッテルから開放され、主体的に行動できるようになります。
関連記事:「ノーマライゼーションの意味とは?事例や理念、考え方などを紹介」
看護におけるエンパワーメントの意味
看護における「エンパワーメント」には、「構造的エンパワーメント」と「心理的エンパワーメント」に分けて論じられることが多いです。
「構造的エンパワーメント」とは、以下で紹介するビジネスにおけるエンパワーメントの意味と類似しています。具体的には、上司が部下に権限を移譲することで、部下の能力を開花させるという意味を持ちます。
一方、「心理的エンパワーメント」は、自己肯定感を高めることによって自身の持っている潜在的な力を引き出すこと。看護で注目されているのは「心理的エンパワーメント」であり、患者さんに「やればできる」と思わせることが大事だと言われています。
参考:日本看護化学会誌「臨地実習における看護学生のエンパワーメント:測定尺度の開発に向けた構成概念の検討」
ビジネスでのエンパワーメントの意味
ビジネスシーンでの「エンパワーメント」には、「権限委譲」「能力開花」などの意味を持っています。
上司や管理職のみが決定権を持っていると、現場での対応が遅れてしまいクレームやミスに繋がってしまいます。エンパワーメントを図ることで、業務や意思決定をスムーズに行えるようになり、自主性や個人の能力の開花の促進が期待できます。
エンパワーメントの歴史
エンパワーメントの歴史は17世紀までさかのぼります。エンパワーメントという概念は、日本には1990年代から伝わりましたが、アメリカでは1950年代から活発に使用されるようになりました。
例えば、アメリカにおける1950年代の公民権運動や1970年代のフェミニズム運動で「エンパワーメント」の概念が使用されています。
1976年には、バーバラ・ソロモンが『黒人のエンパワーメント』という書籍で、エンパワーメントという言葉をソーシャルワークと関連して使用したことで、注目されました。
『黒人のエンパワーメント』では、悪いレッテルを貼られている集団に属していることでいわれのない差別を受けている人に対して、ソーシャルワーカーや専門家がレッテルを張り替えて、パワーの欠如を緩和するという意味でエンパワーメントという言葉が使用されています。
つまり、ソーシャルワーカーは自分のしたいように手を貸すのではなく、相手の持つパワーや能力を尊重し、引き出すことが大切であるということです。
参考:静岡県立大学短期大学部「「エンパワーメント」概念の活用状況-文献検討を通して- 」
参考:エンパワメントの概念およびエンパワメント・ファシリテーションの検討
エンパワーメントが注目されている理由
古くから「エンパワーメント」という言葉は注目され使用されていますが、現代ではエンパワーメントがさらに注目されるようになりました。
なぜ、エンパワーメントが注目されているのでしょうか。以下では、エンパワーメントが注目されている理由をご紹介します。
迅速な経営戦略の導入を可能にする
エンパワーメントを図ることは、迅速な経営戦略の導入を可能にします。
大企業の場合、経営軍が経営戦略を考え実行させようとした場合、現場には必ず不備や混乱が訪れます。予想されてない事態が起こった際に、経営軍に情報を戻して現場にもう一度情報を戻すのには時間がかかりすぎてしまいます。
現場で対応できるものは現場の判断に任せることで、スピーディーに問題解決ができるでしょう。
主体的に動く人材育成ができる
エンパワーメント経営を導入することで、部下が自分自身で考える経験ができ、自然と主体性が身につきます。
権限を与えることで、人材育成につながることは、大きなメリットだといえるでしょう。
エンパワーメントを高める5つのメリット
エンパワーメントを高めることには以下の5つのメリットがあります。
エンパワーメントを高める5つのメリット
- メリット1.顧客満足度の向上につながる
- メリット2.モチベーションが上がる
- メリット3.現場の判断スピードが上昇する
- メリット4.従業員の主体性が磨かれる
- メリット5.マネジメント力が身につく
それぞれの詳細を確認し、エンパワーメントを導入を検討する際の参考にしてみてはいかがでしょうか。
メリット1.顧客満足度の向上につながる
エンパワーメントを高める1つ目のメリットは、顧客満足度の向上につながることです。
例えば、問い合わせを受けた際に、担当者が権限を持ち回答することで、スピーディーな問題解決が可能になります。上司へのエスカレーションを待つことなく、一人ひとりの権限で課題解決できることは、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。
メリット2.モチベーションが上がる
エンパワーメントを高める2つ目のメリットは、モチベーションが上がることです。
指示を出されたことだけを実行する毎日を送るのは退屈なもの。
エンパワーメントを高めると、「どうすればいいのか」を自分自身で考えられ、成功したときは達成感を味わえます。仕事が楽しくなり、やりがいをもって働くきっかけにもなるでしょう。
メリット3.現場の判断スピードが上昇する
エンパワーメントを高める3つ目のメリットは、現場の判断スピードが上昇することです。
何か問題が起こったときに、上司に報告や相談することは大切です。しかし、スピード重視の現場では、その場で判断することが望まれることも多いでしょう。
権限委譲をしておけば、上司の判断を求めてタイムロスすることもなく、現場で解決できるようになる可能性が高いです。
メリット4.従業員の主体性が磨かれる
エンパワーメントを高める4つ目のメリットは、従業員の主体性が磨かれることです。
指示を待っている状況は、生産性が高いとは言えません。また指示通りにしか行動できていない場合は、個人としてもチームとしても、期待以上の結果を出すことは難しいでしょう。
エンパワーメントを浸透させることで、主体的に行動できるようになります。主体的に業務に取り組むことで、新たな発見が生まれることも期待できます。
メリット5.マネジメント力が身につく
エンパワーメントを高める5つ目のメリットは、マネジメント力が身につくことです。
権限委譲し主体性が磨かれると、複数人で仕事をする場合、リーダーになって仕事を行うこともあるでしょう。簡単な仕事でマネジメント力をつけておくことで、将来昇進したときにも役に立ちます。
関連記事:【ドラッカーのコミュニケーション4原則】ビジネスでコミュニケーションを活性する方法
エンパワーメントを導入するステップ
企業でエンパワーメントを導入してみたいと思っている人もいるのではないでしょうか。
エンパワーメントを導入する際は、ステップに分けて徐々に浸透させる必要があります。以下では、エンパワーメントを導入するステップをご紹介します。
STEP1.エンパワーメント推進を伝え、合意を得る
エンパワーメントを導入する1つ目のステップは、エンパワーメント推進を伝え、合意を得ることです。
エンパワーメントを推進することを伝えず、いきなり部下に権限委譲を行うと混乱させてしまう可能性が高いです。また、部下が乗り気でない場合、権限委譲しても形骸化してうまく働かない可能性があります。
エンパワーメントがどのような制度なのか、お互いにどんなメリットがあるのかなどを伝え、部下にやってみたいと思わせるプレゼンを行いましょう。
エンパワーメント推進の旨を伝えた後は、なるだけ早く具体的な案の提示をしたり勉強会を開いたりする必要があります。従業員のモチベーションが高いときに勉強会などを行えるように、ステップ1のエンパワーメント推進を伝えるときに合わせて日程を伝えられるといいですね。
STEP2.情報を全体に公開する
エンパワーメントを導入する2つ目のステップは、情報を全体に公開することです。
権限を移乗するためには、「経営者の視線・考え方」を学ぶ必要があります。
具体的な経営案や人事などの情報を公開する必要があると考えた場合は、どの情報をどこまで伝えるかを考えなければいけません。
経営案が他社に漏れてしまわないように、エンパワーメントを導入するのは「入社◯年目から」「正社員のみ」などと条件付けるのも一案です。
STEP3.部下に決定権をもたせる
エンパワーメントを導入する3つ目のステップは、部下に決定権をもたせることです。
実際に部下に決定権をもたせる際に事前に考えておくべきことは「どこまでの決定権をあたえるか」です。決定権が広すぎると、決定権があると思っている者同士で衝突が起こり、逆に判断スピードが落ちることも。
決定権をもたせる場合は、その権利の範囲を明確にすることを覚えておきましょう。
STEP4.失敗を分析し、改善点を見つける
エンパワーメントを導入する4つ目のステップは、失敗を分析し、改善点を見つけることです。
エンパワーメントを導入することは、今まで上司の判断を仰いでいたものを自ら考え行動しなければいけないということです。
つまり、業務内での失敗やインシデントなどが起こる可能性があります。
失敗したらすぐに、上司が巻き上げていては部下は成長しません。失敗を分析することを促し、自ら改善点を見つけられるような時間的・心理的な余裕を与えてあげましょう。
エンパワーメントを推進する際の3つの注意点
エンパワーメントを高めることには様々なメリットがありますが、考えておくべき注意点もあります。
以下では、エンパワーメントを推進する際の3つの注意点をご紹介します。
注意点1.自己決定が苦手な社員もいる
エンパワーメントを推進する際の1つ目の注意点は、自己決定が苦手な社員もいることです。
エンパワーメントの目的は、
- 主体性を持ってもらうことで業務効率を上げること
- お客様満足度ならびに従業員満足度を向上させること
などがあります。
「権限委譲」をすることで、自ら判断するのが苦手な部下や、判断するには知識が足りない人などには逆効果になってしまう可能性があります。
エンパワーメントは手段であって目的ではありません。生産性が下がってしまうような特性を持つ部下がいる場合は、無理に権限委譲をする必要はないケースもあります。
エンパワーメントを推進することでいい結果をもたらすのかを、部下の特性に合わせて考えてみることをおすすめします。
注意点2.組織の方向性が不安定になってしまう可能性がある
エンパワーメントを推進する際の2つ目の注意点は、組織の方向性が不安定になってしまう可能性があることです。
権限委譲することで、部下自身の考え方が業務に色濃く影響を与えてしまいます。自分勝手に業務を進めてしまうと、接客や指示などにばらつきが出てしまう可能性があります。
例えば「サンプルをほしいと言ってくれた人に配る人」と「サンプルは購入する意思がある人にしか配らない人」というばらつきがある企業の場合、顧客の不満やクレームを引き起こすことも。会社の意向や重要な指針は、事前に情報共有しておきましょう。
注意点3.権限委譲をすることで、リスクや失敗が増える
エンパワーメントを推進する際の3つ目の注意点は、権限委譲をすることで、リスクや失敗が増えることです。
すでにご紹介したとおり、上司が最終確認していたものの決定権を渡すことは、「部下の判断で進める」ということになります。事前に防いでいたリスクやミスが起こってしまう可能性が高まります。
失敗が増えてしまうと、部下も萎縮してしまい結局生産性が落ちてしまうことも。
失敗を減らすためにも、上司の適度なフォローが大切になるといえるでしょう。
エンパワーメントの推進を成功させる3つのポイント
エンパワーメントの推進を成功させるためにはいくつかのポイントを事前に考えておく必要があります。
エンパワーメントの推進を成功させる3つのポイント
- ポイント1.権限の範囲を明確にする
- ポイント2.相談できる体制を整える
- ポイント3.失敗を許容する
以下では、エンパワーメントの推進を成功させるポイントの詳細をご紹介します。形骸化しないエンパワーメント経営を行う参考にしてみてはいかがでしょうか。
ポイント1.権限の範囲を明確にする
ミスや問題を起こさないために、権限委譲をする範囲を明確にしておくことは重要です。
「どこまで部下が判断するべきなのか」「上司に相談するラインはどこに引くべきか」などは綿密に明記しておきましょう。いつでも確認できるように、マニュアル化しておくことがおすすめです。
ポイント2.相談できる体制を整える
エンパワーメントが進むにつれて「わからないこと」「不安なこと」などが部下の心の中には湧いてくるでしょう。
上司が忙しいから相談できない環境の場合、不安を解消できず、ミスを招いたり心を病んでしまったりすることも。エンパワーメント導入時こそ、1on1を増やしたり、相談できる体制を整えたりすることをおすすめします。
ポイント3.失敗を許容する
権限を持つということは、その分責任も上がるということです。最初は失敗してしまうことも多いでしょうが、失敗に対して厳しい意見を言うと「前の働き方のほうがよかった」と萎縮させてしまうことも。
失敗を通して成長できるよう、最初は失敗を許容することが重要です。
エンパワーメントの事例
エンパワーメントはどのような企業で実際に導入されているのでしょうか。以下では、エンパワーメントの事例を3つご紹介します。
株式会社星野リゾート
株式会社星野リゾートは、エンパワーメントを導入していることで有名な企業のひとつ。
星野リゾートが「トップダウン方式」を取るのを諦め、エンパワーメントを導入する教科書になったのが『社員の力で最高のチームをつくる―――〈新版〉1分間エンパワーメント』という本。
この本をヒントに、社員の定着を図り一人ひとりの力を引き出し業績向上に繋げ、会社を軌道に乗せたといわれているため、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。
参考:日立ソリューションズ「~星野リゾート流 意識改革~ 星野佳路の「組織活性化」講座」
リッツ・カールトン
ザ・リッツ・カールトンホテルカンパニーL.L.C.では、企業理念に「エンパワーメント」を重視していることが記載されています。公式サイトでは、以下のようにエンパワーメントに関するサービスバリューズが紹介されてます。
「私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。」
引用:リッツ・カールトン「企業理念」
また、リッツ・カールトンの権限委譲には以下の3つのルールがあります。
上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
1日2000ドル(約20万円)までの決裁権。引用:高野 登「リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間」
権限のつけ方も参考になるのではないでしょうか。
スターバックスコーヒージャパン
スターバックスコーヒージャパンも、「女性のエンパワーメント」を促進を図っています。
スターバックスは、以下のような目標を掲げています。
私たちの目標:2025年までに、生産地コミュニティにおける女性25万人をエンパワーを目指す。2020年3月時点で、生産地での助成金を通して12万5,000人以上の女性に手を差し伸べました。
引用:STARBUCKS「ともにコーヒーのサステナブルな未来をつくる」
スターバックスは、女性のエンパワーメントを促進することで、家族や所属するコミュニティの繁栄を図っています。
エンパワーメント導入で、顧客満足度・従業員満足度を向上させよう
- ビジネスシーンの「エンパワーメント」は「権限委譲」「能力開花」という意味
- 顧客満足度や従業員満足度の向上が期待できる
- 失敗を容認し、主体的に働ける会社作りをする必要がある
本記事では、「福祉」「看護」「ビジネス」におけるエンパワーメントの意味や、導入するメリット、注意点などをご紹介しました。
エンパワーメントを導入することで、従業員が主体的に働けるようになり、生産性もお客様満足度も向上する可能性があります。一方で、権限委譲することで失敗するリスクも上昇します。
エンパワーメントを導入する際は、本記事を参考に自分の会社で働く従業員の性格にあっているか、スムーズに権限委譲できるのかなどを事前に検討しましょう。そして、権限の範囲を明確にし、相談できる体制を整えてから導入をするようにしてみてはいかがでしょうか。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう