トヨタが提唱した生産方式のひとつである「ジャストインタイム」。効率的な生産を実現したジャストインタイムとはどのようなシステムなのでしょうか。
本記事では、ジャストインタイムの詳細や、導入するメリットやデメリット、導入に向いている企業などをご紹介します。
- トヨタが開発した「ジャストインタイム」とは
- ジャストインタイムを導入する3つのメリット
- ジャストインタイムの問題点・デメリット
トヨタが開発した「ジャストインタイム」とは?
トヨタ自動車のシステムは「自働化」「ジャストインタイム」の考えによって支えられています。
以下では、ジャストインタイムの意味や、ジャストインタイム生産方式で使用される「カンバン方式」の意味について詳しくご紹介します。
ジャストインタイムとは
ジャストインタイム(Just In Time、JIT)とは、必要なものを、必要なときに、必要な分だけ生産する仕組みのことです。
別名、JIT、トヨタ生産方式、TPS、リーン生産方式などと呼ばれています。
ジャストインタイム方式では、在庫を徹底的に減らすことによって、コスト削減や効率化が可能になります。
在庫を限りなく減らす方法といえば「完全受注生産」が思いつく人も多いでしょう。しかし、ジャストインタイムと完全受注生産は大きく異なります。
完全受注生産では、受注をしたときにのみ生産するもので、売り残りのリスクや保管のコストを下げられます。
しかし、自動車を完全受注生産方式にしてしまうと、生産を開始してから消費者の手元に届くまでの時間が長くなりすぎてしまいます。
ジャストインタイムでは、「前工程」「後工程」に分けられ、「後工程が必要な分だけ前工程から引き取る」「後工程に渡した分だけ前工程が補充する」といったように、「後工程引取方式」が取られています。
完全受注生産と、ジャストインタイムは似て非なるものであることを押さえておきましょう。
かんばん方式とは
かんばん方式とは、ジャストインタイム方式の中の要素のことをいいます。
かんばん方式は「板切れ」つまり「かんばん」を使用する方式です。かんばんには、「何を」「いつ」「どれだけ生産するか」などの情報が書かれており、視覚的に在庫を管理する役割があります。
生産指示をするかんばん「仕掛けかんばん」や、運搬指示をする「引取りかんばん」などのかんばんがあります。これらのかんばんを使用して、必要なものを、必要なときに、必要な分だけ生産する方式が取られているのです。
ジャストインタイムの3原則
ジャストインタイムを取り入れるためには、以下の3原則を成立させなければいけません。
後工程引取り
「後工程引取り」とは、すでにご紹介したように、「必要なものを、必要なときに、必要な文だけ」前工程から引き取り、前工程は後工程に渡した分だけ作ることをいいます。
後工程引取りを採用することで、過剰な在庫を防ぐことが可能です。
後工程が遅れてしまうと、求められている生産の遅れを取り戻すための労働が必要になります。また、後工程が求められている生産量よりも多くなってしまうと、生産をストップしないといけません。
後工程引取り生産を行うためには、生産数の振れを最小限に抑える必要があります。
工程の流れ化
また、ジャストインタイムを成立させるためには「工程の流れ化」が必要不可欠です。
「工程の流れ化」とは、工程の中や間で、ものを停滞させず「細く早い流れ」を作ることをいいます。「細く早い流れ」とはどのようなものか以下で詳しくご紹介します。
「A」という部品を大量に作り、「B」を組み立てる現場に「A」を持っていき、「B」と「C」を組み立てる現場に持っていくという流れは、ものの移動があり効率が悪いです。
そこで、「細く早い流れ」の「セル・ライン1個流し生産フロー」を活用します。
セル・ライン1個流し生産フローとは、工程順に設備を配置し、「A」の部品を一個作ったら、「B」を作る場所に流し「B」が一個できたら「C」に流し「C」を一個生産するというフローです。
「細く早い流れ」で、少ない数を早く作り、素早く消費者の手に渡るようになります。
タクトの調節
「タクトタイム(ピッチタイム)」の調節もジャストインタイムに不可欠です。
タクトタイムとは、「求められているひとつのものを生産するのにかかる時間」で、「稼働時間を必要生産数」で割ったものを言います。
また、「実際にひとつのものを生産するのにかかる時間」は「サイクルタイム」と呼ばれます。
タクトタイムがサイクルタイムより短ければ、目標よりも多く作ってしまい在庫ができるでしょう。タクトタイムがサイクルタイムより長ければ、必要生産量よりも少なくなり欠品になってしまいます。
つまり、タクトタイムを調節しサイクルタイムに合わせる工夫が必要になります。
ジャストインタイムを導入する3つのメリット
なぜトヨタは「ジャストインタイム」を導入したのでしょうか。以下では、ジャストインタイムを導入する3つのメリットをご紹介します。
1.在庫量の最小化・コスト削減に繋がる
ジャストインタイムを導入する1つ目のメリットは、在庫量の最小化・コスト削減に繋がることです。
「在庫があること」には、「品切れを回避できる」「需要が増えた際に在庫でまかなえる」「顧客が商品を見て選べる」などのメリットがあります。
しかし、過剰在庫になってしまうと、廉価で販売しなければいけなくなり、それでも商品が売れなければ「廃棄」しなければいけません。
また、品質の劣化で商品価値が下がり、損失が生まれてしまう可能性もあります。
過剰在庫のデメリットは「商品が無駄になること」だけではありません。商品を管理するための「管理コスト」や、商品を運搬するための「運搬コスト」など付加価値がないものにお金をかけなければいけません。
過剰在庫をなくせば、このような無駄なコストをなくし、廃棄する商品もなくなります。
2.効率的な製造を実現する
ジャストインタイムを導入する2つ目のメリットは、効率的な製造を実現することです。
「後工程引取り」「工程の流れ化」「タクトの調節」を行うことで、無駄な工程がなくなり効率的に製造することが可能です。
無駄な作業を極限まで減らすことで、コスト削減にも繋がります。
3.リードタイムを短縮できる
ジャストインタイムを導入する3つ目のメリットは、リードタイムを短縮できることです。
リードタイムとは、商品が生産されてから納品されるまでの時間です。リードタイムが長ければ、販売機会損失を招く可能性があります。
車の場合、納品するまでに3年かかると言われれば、違う車を買うことを検討してしまうのも当たり前です。この「3年」というリードタイムを短くできれば、顧客の満足度も上がり購入意欲も上がるでしょう。
ジャストインタイムを導入すれば、業務の効率化が実現し顧客の満足度や販売機会も上昇するでしょう。
ジャストインタイムの問題点・デメリット
「すべての生産業がジャストインタイムを導入すればいいのではないか」と考える人もいるのではないでしょうか。
残念ながら、ジャストインタイムにはデメリットや問題点があります。ジャストインタイムを導入するデメリットを知り、どのような企業にジャストインタイムが適しているのか考えてみましょう。
1.導入コストがかかる
ジャストインタイムの1つ目の問題点は、導入コストがかかることです。
ジャストインタイムを導入するためには「かんばん方式」の構築や、ジャストインタイムの3原則などを取り入れなければいけません。
これらの方式を導入するには多大なコストがかかるため、トヨタのような大企業ではなければ導入は簡単だとはいえません。
2.品質管理コストがかかる
ジャストインタイムの2つ目の問題点は、品質管理コストがかかることです。
「必要な分を、必要なときに、必要なだけ」生産することで、生産したものの中から不良品が多く発生してしまうと生産をストップせざるをえません。
生産を止めないためにも、品質をキープして製品を作る「品質管理コスト」が必要になるでしょう。
3.操業停止になる可能性がある
ジャストインタイムの3つ目の問題点は、操業停止になる可能性があることです。
ジャストインタイムは在庫を持たないため、災害や火災などで製造の流れが止まってしまうと、操業できなくなってしまいます。
実際に、阪神大震災や東日本大震災などで生産が一時ストップしてしまいました。
工場の驚くべき復旧の速さや、代替生産により長期的な操業停止にはなりませんでしたが、ジャストインタイムのリスクが顕になりました。
4.環境への負荷が増える
ジャストインタイムの4つ目の問題点は、環境への負荷が増えることです。
ジャストインタイムを「物流」に応用した「ジャストインタイム物流」は、「必要なものを必要なだけ」運ぶ方法です。
つまり、トラック一台分に積むものが減少し配送頻度が高くなります。配送頻度が高くなると、CO2排出量も増えるため、環境汚染が懸念されます。
5.下請け企業への負担が増加する
ジャストインタイムの5つ目の問題点は、下請け企業への負担が増加することです。
下請け企業は「必要なときに、必要なだけ」を準備しなければならず、納期に遅れてしまうとペナルティが発生してしまいます。
親企業からの要求に遅れることなく生産しなければならないプレッシャーを下請け企業は感じやすくなるでしょう。
ジャストインタイムの導入に向いている企業
すでにご紹介したとおり、導入コストや品質管理コストが掛かってしまうため、経済リソースがある大企業が導入に向いています。
実際に、ジャストインタイムの導入を行っている企業は「トヨタ」や「 セブンイレブン・ジャパン」などの大企業です。
また、ジャストインタイムの3原則が成立する企業形態でなければ、ジャストインタイムの導入は難しいでしょう。
ジャストインタイムの導入には向いていない企業
ジャストインタイムの導入に向いていない企業は「受注設計生産型」「装置産業」です。
受注設計生産型の場合、注文ごとに仕様が異なりルーチンワークで仕事を行えないため、ジャストインタイムには向いていません。
また、化学・医薬・食品・鋼鉄などのプロセス産業(装置産業)は、見込み生産をするため、ジャストインタイムの導入はできないでしょう。
ジャストインタイムのメリット・デメリットを押さえよう
- ジャストインタイムとは「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ生産する仕組み」のこと
- ジャストインタイムの3原則とは「後工程引取り」「工程の流れ化」「タクトの調節」である
- 在庫量の最小化・コストの削減などのメリットがある
本記事では、ジャストインタイムの意味やジャストインタイムの3原則などをご紹介しました。
ジャストインタイムとは「必要なものを、必要なときに、必要な分だけ生産する仕組み」のこと。受注生産とは異なり「後工程引取り」が行われていることに注意しておきましょう。
本記事を参考にメリットやデメリットを押さえて、どのような企業にジャストインタイムが向いているか考えてみるのも、理解を深められるのではないでしょうか。
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