外資系企業だけでなく、一部の日系企業でも少しずつ取り入れられている「ヘッドハンティング」。労働人口の減少や人材流出が少なくなってきたことを背景に、多くの企業が優秀な人材の確保を積極的に行っています。
今回はそんな「ヘッドハンティング」についてご紹介。ヘッドハンティングの情報源や内容が怪しいと感じるときの注意点も解説しています。すでに声がかかっている方は、面談をする際のポイントも参考にしてみてください。
- ヘッドハンティングとは、経営層や上位管理職に就いている人材を採用する手法のこと
- 効率的なヘッドハンティングを行うには、ヘッドハンティング専門会社の利用がおすすめ
- ヘッドハンティングを受けたときには、依頼企業の情報やヘッドハンターが信用できるかをまず確認
ヘッドハンティングとは
ヘッドハンティングとは、企業に勤めている優秀な人材を自社に引き入れる人事採用のことです。従来は外資系企業を中心に行われていましたが、雇用の流動化や転職活動の認知などの時代の流れにより、日系企業でもヘッドハンティングによる人材採用が一般的になってきています。
ヘッドハンティングが一般化しているのは、求人を公開して応募を待つよりも確実に優秀な人材を確保できるからです。対象となる人材は求職者ではないため採用における競合他社がおらず、また提示する移籍条件も高待遇なため、採用成功率が高いといわれています。
ヘッドハンティングと引き抜きの違い
ヘッドハンティングと引き抜きは明確な違いはありませんが、しいて言うならば、対象者の役職の有無に違いがあります。ヘッドハンティングは別名「エグゼクティブサーチ」と呼ばれているように、対象となるのは企業の経営者・役員・幹部などの上位役職に就いている人材のことが多いといえます。
一方、引き抜きは役職を問いません。他の企業で働いている技術者や特殊技能を持つ人材にアプローチをし、自社への転職を勧誘します。
アプローチに関しても違いがあり、ヘッドハンティングは基本的にヘッドハンティングサービスを利用して行います。一方、引き抜きは外部サービスを使用せず、自社の社員が知り合いに声をかけるなどして、自社への転職を勧誘します。
ヘッドハンティングが増えている理由
主に外資系企業で導入されていたヘッドハンティングですが、現在は日系企業の一部でもヘッドハンティングを活用した人材採用が活発になってきています。それにはどのような背景があるのでしょうか。ヘッドハンティングが増えている理由を解説します。
労働人口・人材が不足している
ヘッドハンティングが増えている主な理由としてあげられるのが、労働人口・人材の不足です。
総務省が公開している「2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について」の資料によれば、2050年に日本の人口は約1億人にまで減少し、それに伴い生産年齢人口比率の減少も加速すると予測されています。
つまり、現在までにも人口は減り続けてきましたが、今後もその減少は止まらず、現役として活躍できる世代の人口が不足すると見込まれているのです。
ただでさえ、優秀な人材は稀有な存在です。引く手数多の彼らを自社に採用するには、好条件を提示し、自社で働くメリットを感じてもらえるような採用活動を行わなくてはなりません。ヘッドハンティングはその有効な手段として、多くの企業で取り入れられているのです。
参考:2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について
外資系企業のみならず日本企業も優秀な人材活用に乗り出している
ヘッドハンティングは主に外資系企業で取り入れられていた人材採用の手法でしたが、現在では日本企業も優秀な人材活用に乗り出しています。
グローバル化やM&Aの加速、後継者問題などを抱えている日本では、部長以上の役職に就くエグゼクティブクラスの人材が求められています。そうした層は人材流出が少ないため、通常の人材採用で獲得することは困難です。
また、リクルーティングサービスに高い費用を投じても、自社で求めているような人材を採用できないケースが増えてきたこともヘッドハンティングが注目されている理由のひとつです。優秀な若手を早い段階で確保するため、日本企業でも人材紹介会社やヘッドハンティングサービスの活用が増えてきているのです。
ヘッドハンティングの方法
企業側がヘッドハンティングを行う際は、求めている人物像に合わせた採用活動を行う必要があります。ヘッドハンティング専門会社は、エグゼクティブサーチ・フルサーチ・業界特化・登録の4種類が存在します。それぞれアプローチできる人材の幅が異なるため、利用する際には注意が必要です。
採用する企業が直接ヘッドハンティングをしている場合
採用する企業が直接ヘッドハンティングするのも、ヘッドハンティングの手法のひとつです。この場合、ヘッドハンティング会社への依頼が不要なので、採用コストを削減して行うことが可能です。
ただし、ヘッドハンティングを専門としたヘッドハンターではない人事部門の従業員が実施することになるため、人材の情報をうまく収集できなかったり、必要以上に時間がかかってしまったりする場合があります。
低コストで時間をかけてじっくりヘッドハンティングを行いたい場合に適した手法です。
ヘッドハンティング専門の人材会社に依頼している場合
ヘッドハンティングを効率的に行いたい場合は、ヘッドハンティング専門の人材会社に依頼しましょう。専門会社は、エグゼクティブサーチ型・フルサーチ型・業界特化型・登録型の4タイプに分けられます。それぞれの違いを把握して、求めている人物像にあった会社を活用しましょう。
エグゼクティブサーチ型
「エグゼクティブサーチ型」は、経営や上級管理職など重要なポジションにマッチする人材を発掘するのに適した採用手法です。複数の人材紹介会社が存在するものの、採用コストはやや高め。流出が少ない人材をリサーチするため、採用までに時間がかかるのも留意点です。
フルサーチ型
「フルサーチ型」は、技術者やミドル層以上の人材を発掘するのに適した採用手法です。企業側がターゲットとしている層をリサーチし、ヘッドハンティングを行います。
業種や職種を指定しないため、多様なスキルやキャリアの人材にアプローチできます。採用コストはエグゼクティブサーチ型に比べると低い傾向にあります。
業界特化型
「業界特化型」は、名前の通り業界や職種を絞って人材を確保したい場合に適している採用手法です。IT・医療・介護・広告業界など、専門的な能力や知識、経験を持つ人材を採用したい場合は、業界特化型を活用しましょう。
ヘッドハンターもその業界に関する高い知見を有している場合が多いため、比較的スムーズに要望や人材のリサーチが進みやすいのが特徴です。
登録型
「登録型」は、ごく一般的な採用手法です。転職希望者がキャリア・スキル・条件などを登録し、その内容にマッチした求人を企業が掲載した際に人材の推薦が行われます。
推薦者の数が多くはなるものの、必ずしも求めている人材に出会えるわけではありません。特に、経営層や上位管理職に就いているような人材は「登録型」には多くないため、不向きといえます。
ヘッドハンティングはどこから情報を得ているの?
ヘッドハンティングの情報源は、主にヘッドハンティング対象者が所属する企業が公開している情報です。公式ホームページはもちろんのこと、プレスリリースや人事異動、組織図やIR情報など、ヘッドハンターはさまざまな情報を収集しています。
昨今では、個人でビジネス用SNSアカウントを持っているビジネスパーソンも少なくありません。そうした個人発信の情報もヘッドハンティングの資料の一部となります。
ヘッドハンティングで転職をするメリット
ヘッドハンティングを受けるような人材は、市場には流出しないような優秀な層に限られています。彼らは現状に満足しているため、転職活動を行っていません。もしヘッドハンティングを受けたとしてどのようなメリットがあるのでしょうか。その際のメリットを解説します。
現在よりも重要なポストで入社できる可能性が高い
ヘッドハンティングで転職をする1つ目のメリットは、現在よりも重要なポストで入社できる可能性が高いことです。
ヘッドハンティングは他社で活躍している、役職に就いた優秀な人材を獲得する採用手法です。対象となる人材はすでに社内の重要な役割を担っているため、転職市場にはほとんど流出しません。
つまり、彼らに対してアプローチを行い転職を検討してもらうには、現在よりも上のポストに就くことを約束するのが最低条件となります。通常の転職活動では、部長よりも上のクラスの役職を提示されることは少ないので、ヘッドハンティングでの転職ならではのメリットといえます。
現在よりも高待遇になる可能性が高い
ヘッドハンティングで転職をする2つ目のメリットは、現在よりも高待遇になる可能性が高いことです。
役職の提示と同様、ヘッドハンティングによる条件提示では現在よりも高待遇になることが約束されているケースが多くあります。ヘッドハンティングの対象者は経営層で働いていることがほとんどで、すでに高い収入を得ているからです。
そのため、彼らに転職を検討してもらうには現在よりも高待遇で受け入れる体制が整っていることを示さなくてはなりません。ヘッドハンターから依頼があった場合は、現在の状況と照らし合わせて待遇面でのメリットがあるかどうかを確認しましょう。
ヘッドハンティングされやすい人の5つの特徴
ヘッドハンティングは役職に就いている方や経営層が対象ですが、なかでもどんな人材が声をかけられているのでしょうか。ヘッドハンティングされやすい人の5つの特徴をご紹介します。
市場価値の高い専門スキルを保有している
ヘッドハンティングされやすい人の1つ目の特徴は、市場価値の高い専門スキルを保有していることです。
現在はITの分野において、IoTやAIの開発に注目が集まっています。経済産業省が公開している「2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について」の資料からもわかるように、第4次産業革命がグローバルに展開することが見込まれています。
このような時代にあわせた価値のある専門スキルを保有している方は、今後の業界を左右する人材としてヘッドハンティングされる可能性が高い傾向にあります。
参考:経済産業省「2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について」P9
業界内で知名度が高い
ヘッドハンティングされやすい人の2つ目の特徴は、業界内で知名度が高いことです。
ヘッドハンターは、ヘッドハンティングできる人材の情報を常に収集しています。社内だけでなく社外での活動も活発で、業界内で高い知名度を有している方は、ヘッドハンターからも注目が集まりやすいでしょう。
逆にいえば、ヘッドハンティングの対象になるには、社外に向けた講演会やコンテストなどに積極的に参加し、実績を積むことが大切といえます。
情報発信をしている
ヘッドハンティングされやすい人の3つ目の特徴は、情報発信をしていることです。
ヘッドハンティングを行うヘッドハンターは、さまざまな情報源から優秀な人材の情報を収集しています。企業に属しながら個人の情報発信を行うことが一般化した現在では、SNSやブログなどによる本人発信の情報も、ヘッドハンターは必ずチェックしています。
外部からはわからない社内での実績や専門的な知識に基づいた情報の発信などを行っている方は、ヘッドハンティングされやすい傾向にあります。
高い実績・ポートフォリオがある
ヘッドハンティングされやすい人の4つ目の特徴は、高い実績・ポートフォリオがあることです。
ヘッドハンティングの基本は、優秀な人材の獲得です。外部から見て判断しやすい高い実績やポートフォリオは、優秀さを裏付ける証明として活用できます。
業務の実績をあげている方は、自社の採用サイトで取り上げられていることも多いので、それをきっかけに情報収集が行われ、ヘッドハンティングの声をかけられる可能性があります。
現在の企業でエグゼクティブである
ヘッドハンティングされやすい人の5つ目の特徴は、現在の企業でエクゼクティブであることです。
現在在籍している企業で上級管理職に就いている方は、ヘッドハンティングされやすい傾向にあります。会社ホームページで名前や実績が明かされていることが多いため、ヘッドハンターも情報を収集しやすいのです。
エグゼクティブであるということは、優れた能力や高い実力を備えている証明でもあるため、ヘッドハンティングの対象となります。
ヘッドハンティングされてからの流れ
ヘッドハンティングは通常、4〜6カ月ほどかけて行われるのが一般的です。ヘッドハンティングを受ける側のステップは、大きく5つに分けられます。初めてヘッドハンティングを受けた際は、誰もが戸惑ってしまうものです。ヘッドハンティングされてからの全体の流れを説明します。
STEP1.ヘッドハンターから連絡を受ける
まずは、ヘッドハンターからヘッドハンティングに関する連絡を受けます。
ヘッドハンティングを受ける側が転職を希望しているケースは少ないので、興味があればその旨を返信し、どんな条件であれ転職の意思がなければその時点で断りの連絡を入れましょう。
STEP2.ヘッドハンターと面談をして情報共有を受ける
ヘッドハンティングの内容に興味がある場合は、次にヘッドハンターとの面談を行い、情報共有を受けます。
最初の連絡時にどこの企業からのどんな依頼であるのか、概要は明かされているはずですが、詳細は面談時に開示されることがほとんどです。オンライン・オフラインと形態はさまざまですが、直接話せる機会を利用して、条件や待遇面など不明点をすべて明らかにしておきましょう。
STEP3.ヘッドハンティング先の企業についてリサーチをする
ヘッドハンターとの面談が終わったら、ヘッドハンティング先の企業についてリサーチを行いましょう。
事業情報や今後の事業展開、消費者からのイメージなどはリサーチしてみないとわかりません。ヘッドハンティング先の企業が公開している情報には、くまなく目を通しましょう。日常的に情報を追い、企業としての動きを把握するのもおすすめです。
また、キャリア面のリサーチも行いましょう。従業員の年齢分布や勤続年数、キャリアパスなどの情報も入手し、ビジネスパーソンとして自身の理想と合致するかの確認も大切です。
STEP4.ヘッドハンティング先の企業と面談をする
ヘッドハンティング先の企業についてリサーチを終えたら、ヘッドハンティング先の企業と面談を行います。
入社後に取り組む業務の内容や事業に関する説明を受けると共に、求められている成果や働き方などの確認を行います。
自身のキャリアに対する考え方と、企業側の考え方にミスマッチがないかも重要なチェックポイント。ほかにも、社風や従業員の雰囲気など、気になる点はすべてクリアにしておきましょう。面談は一度だけでなく、通常複数回行います。
STEP5.待遇や報酬などの条件をすり合わせる
面談を重ねて転職の意思が強くなってきたら、待遇や報酬などの条件面をすり合わせます。
入社後のポジションや求められている働き方と照らし合わせて、その条件が自身の納得のいく内容になっているかを確認。要望がある場合は、そのことも伝えましょう。ここでしっかりと条件をすり合わせることが大切です。
怪しい?ヘッドハンティングを受けたときから面談をするまでの5つの注意点
ヘッドハンティングの連絡は突然やってきます。大手のヘッドハンティング会社からの連絡であれば安心して話を聞いても問題ありませんが、なかには悪質なヘッドハンターも存在するので注意が必要です。
次に、初めてヘッドハンティングを受けた際に参考にしてほしい、面談をするまでの5つの注意点を説明します。
ヘッドハンターが人として信頼できるのかを確認する
ヘッドハンティングを受けたときは、まずヘッドハンターが人として信頼できるのかを確認しましょう。
ヘッドハンターは、ヘッドハンティング対象者の実績やポートフォリオを見て連絡をしています。情報を極端に知らなかったり、逆にどこにも公開していないようなパーソナルな情報を知りすぎていたりする場合は、悪質なヘッドハンターである可能性が高いので注意が必要です。
ヘッドハンティング会社の情報を確認する
ヘッドハンティング会社の情報を確認することも大切です。連絡があった際は必ず、ヘッドハンティングを行っている会社の情報を提示してもらいましょう。
「機密情報なので明かせない」「詳細は話が進んでから」など、情報の開示がなかったり抽象的であったりする場合は、ヘッドハンティングを装った悪質な詐欺である可能性があります。
紹介先の企業情報を確認する
ヘッドハンティングの連絡を受けたら、紹介先の企業情報を確認しましょう。
ヘッドハンティングは主にヘッドハンティングサービスを利用して行われます。連絡時に明確な企業名を明記していないこともありますが、紹介先の企業情報を頑なに開示しない場合は怪しいといえるでしょう。
入社後の雇用形態・役職・報酬などの条件を確認する
ヘッドハンティングの連絡があった場合、入社後の雇用形態・役職・報酬などの条件は最初に必ず確認しましょう。
ヘッドハンティングにおいて企業側は選ばれる立場にあります。ヘッドハンティング対象者は選ぶ側の立場になるので、転職時の条件は細部までしっかりと確認して、疑問点や不明点はすべてクリアにしてから話を進めましょう。
その際、条件を聞いてすぐに転職を決める必要はありません。現在の業務内容や待遇とよく比較して、自身がより成長できる、仕事を楽しめる環境かどうかを判断して返事を出しましょう。
ヘッドハンティングされからといって入社が確実なわけではない
ヘッドハンティングの連絡があった場合、ヘッドハンティングされたからといって入社が確実なわけではないことも留意しておきましょう。
もちろん企業側は対象者に転職してほしい意思が強いからこそ、ヘッドハンターにヘッドハンティングの依頼を出しています。しかし、ヘッドハンティングを受けたからといって、入社が確定しているわけではありません。
企業側から説明を受けたり、働き方のすり合わせを行ったりする段階で、お互いにズレを感じる可能性もあります。企業風土があっているか、入社後の業務内容の認識に違いはないかなど、さまざまなすり合わせを行った後に入社が確定すると覚えておきましょう。
ヘッドハンティングの断り方
ヘッドハンティングを断る際は、ヘッドハンティング先の企業に失礼にならないよう丁寧に断りましょう。メールや電話ではなく、対面で概要を聞いた際に断るのが基本的なマナーです。
なるべく早い段階で、嘘をつかずに断ることも大切です。「今の会社でまだやりたいことがある」「今の仕事が好き」「家庭の事情で今は転職できない」など、本当の理由を添えることで、相手に誠実な印象を与えられます。
最後にヘッドハンティングしてくれたことへの感謝も忘れずに伝えてください。特に、知り合いからのヘッドハンティングであれば断り方ひとつで今後の関係にも影響が出てきてしまいます。対面かつ丁寧に断れば、今後も良い関係性を継続できます。
ヘッドハンティングを受けたら冷静に情報を確認しよう
- 労働人口の減少により、日系企業もヘッドハンティングによる採用活動を行っている
- 高い実績があり、その情報が社外に向けて公開されている人材はヘッドハンティングされやすい
- ヘッドハンティングを受けた際は、信用できるまで転職の判断はしないように注意しよう
ヘッドハンティングでは、現在所属する企業での待遇よりも好条件を提示されるのが一般的です。
金額面で気持ちが揺れることもありますが、すぐに判断は下さずに記事内でご紹介した5つの注意点を参考に、冷静に情報を確認することから始めましょう。
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