ティール組織とは、上下関係の概念がなく、メンバー一人ひとりがフラットな立場にいる組織のことです。ティール組織にいたるまでには4つの段階があり、少しずつステップアップしていかなければなりません。会社やチームによっては、ティール組織よりも前の組織形態のほうが適していることもあるでしょう。
本記事ではティール組織の概要、取り入れるメリットや注意点、企業の成功事例を紹介します。
- ティール組織とはどんな組織で、従来的な組織とどう違うのか
- ティール組織を実現するまでの5ステップ
- ティール組織を取り入れるメリットと注意点
ティール組織とは?
ティール組織とは、リーダーのマイクロマネジメントなしでも、目的に向かって自走する組織のことです。2014年にフレデリック・ラルー氏が著書『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』の中で紹介しました。
ティール組織はフラットな組織
ティール組織は従来的な組織と比べて、「フラットな組織」といえます。ティール組織では、メンバー一人ひとりが組織の目的を理解し、指示がなくても、目的に向かって自ら考え行動します。ティール組織には上司や部下といった概念がなく、それぞれが信頼に基づいて行動するのが特徴です。
上下関係の概念がないこと、組織を関わる人全員のものととらえることなど、従来的な組織と比べてメンバー同士がフラットな立場にあります。
従来的なヒエラルキー型の組織との比較
従来的なヒエラルキー型の組織と比べて、ティール組織には「メンバーの自主性が育まれる」「管理コストが低い」といったメリットがあります。
ティール組織ではリーダーからの指示がなく、一人ひとりのメンバーが自ら考え行動しなければなりません。これによりメンバーの主体性が育まれ、マネジメントなしでも自走する組織ができあがっていきます。
一人ひとりの能力値が高くなるため生産性も高まり、マネジメントが不要なため管理コストもあまりかかりません。
ティール組織にいたるまでの5段階
ティール組織にいたるまでに、組織は5つの成長段階を経ることになります。それぞれどんな組織なのか、どうすれば次のステップへと移行できるのかを解説します。
レッド組織(衝動型)
レッド組織は最も原始的な組織で、「オオカミ型」「衝動型」とも呼ばれます。リーダー個人が組織全体を、支配的にマネジメントするのが特徴です。
リーダーからの明確な指示があることでメンバーは安心できますが、力や恐怖に支配されている状態でもあります。短期的な目線で動くことには適していますが、リーダー個人への依存が強く、人事異動も踏まえた継続的な組織運営には向きません。
アンバー組織(順応型)
リーダー個人への依存から抜け出し、指示命令系統がハッキリした組織は、アンバー組織へと進化します。アンバー組織には役割分担があり、人員が増えても統率可能です。「軍隊型」「順応型」とも呼ばれます。
ただ、アンバー組織も環境の変化がないことを前提としており、変化のスピードが早い現代社会で継続的に組織を運営するのには適していません。
オレンジ組織(達成型)
「環境の変化がない」という前提から抜け出し、流動性を持つようになった組織は、オレンジ組織へと進化します。オレンジ組織はアンバー組織と同じく役割分担のもとで運営されますが、成果を出した個人は昇格可能です。「機械型」「達成型」とも呼ばれます。
成果(数字)によりマネジメントされるのが特徴で、メンバー間の競争によって組織は成長していきます。ただ、徹底した数値管理はメンバーに競争を強いることとなり、目標達成に焦点をあてすぎることは主体性を奪いかねません。
グリーン組織(多元型)
「徹底した管理」から抜け出した組織ではメンバーが主体性を持つようになり、組織はグリーン組織へと進化します。グリーン組織では上司と部下のようなヒエラルキーは残りますが、一人ひとりが「自分らしさ」を表現し、個性を発揮することも可能です。「家族型」「多元型」とも呼ばれます。
メンバーの個性にも焦点を当てること、多様性が認められることなどが特徴で、グリーン組織ではボトムアップ型の意思決定も行われます。
ただ、決定権はあくまでもマネジメント側にあり、完全にフラットな組織というわけでもありません。
ティール組織(進化型)
「ヒエラルキー」から抜け出し、メンバー一人ひとりが全体目的の達成のために自走するようになると、組織はティール組織へと進化します。ティール組織は社長やリーダー、株主などの限られた人物のものではなく、関わる人すべてのものです。「生命体型」「進化型」とも呼ばれます。
ティール組織には指示命令系統がなく、メンバーはそれぞれへの信頼に基づき行動します。一人ひとりが自分で考え、工夫しながら行動するティール組織は、自走する組織です。組織が1つの生命体のように動き、自ら進化していきます。
ティール組織に求められる資質
ティール組織では、一人ひとりのメンバーや組織全体に、次のような資質・風土が求められます。
ティール組織に求められる資質
- メンバーの高い主体性(セルフマネジメント)
- 組織のビジョンに対する理解(エボリューショナリーパーパス)
- 多様性と心理的安全性(ホールネス)
それぞれの資質の詳細について紹介します。
メンバーの高い主体性(セルフマネジメント)
ティール組織では、メンバー一人ひとりに高い主体性が求められます。上司と部下のような上下関係が存在せず、誰かの指示を待つことなく、自分で考え行動しなければならないからです。
ティール組織では一人ひとりに裁量権がありますが、何でも勝手に決めていいというわけではありません。取られる行動は組織の目的達成に結びつくものでなければなりませんし、ティール組織にはメンバー同士の信頼関係に基づき行動するという前提があります。
ヒエラルキーこそ存在しませんが、メンバー同士がアドバイスし合い協力することで、組織はより強化されていくでしょう。
組織のビジョンに対する理解(エボリューショナリーパーパス)
ティール組織では、メンバー一人ひとりが組織の目的・ビジョンを達成するために自走します。そのため、全員が組織のビジョンを理解していなければなりません。
ティール組織のビジョンや目的は固定されたものではなく、少しずつ変化していきます。組織として何をすべきか、どうすれば組織全体もメンバー個人も成長していけるのか、これらを一人ひとりが意識することで組織のビジョンもハッキリしていくでしょう。
多様性と心理的安全性(ホールネス)
ティール組織ではメンバー全員に裁量権があり、自ら考え自走します。ただ、「こんなことをやったり言ったりして、周りから責められないだろうか」という不安があっては、メンバーは自走できません。全員が安心して発言・行動できるような心理的安全性が求められます。
メンバーが自由に考え、動けるようになると、一人ひとりの個性が強く発揮されるでしょう。これにより組織の多様性が高まり、新しいアイデアが生まれやすくなり、変化に対する適応力も強くなっていきます。
ティール組織が失敗する原因は?注意点・デメリット
ティール組織への注目が集まるにつれ、「ティール組織は万能な組織形態」という誤解も広まりました。
ティール組織はたしかに優れた組織形態ですが、それ以外の組織がダメなわけではありません。ほかの組織にもいいところはあり、目的や業種によってはティール組織よりも有効なこともあります。
ティール組織には次のような注意点・デメリットがあります。これらを踏まえ、チームにとって最適な組織形態を考えてみましょう。
ティール組織の注意点・デメリット
- 明確なモデルはない
- リスク管理が難しい
- 状況把握が難しい
次に、それぞれの詳細を紹介します。
1.明確なモデルはない
前提として、ティール組織に明確なモデルはありません。先述したティール組織の在り方もあくまで一例であり、企業である限り、役職や上下関係をゼロにするのは不可能でしょう。
ティール組織はメンバーそれぞれが主体的に考え、関わり合いながら目的に向かって自走していく組織形態です。自走していく過程で組織としてのモデルも、目指すべき目的も、少しずつ変わっていきます。
主体性や多様性を大切にし、メンバー一人ひとりが安心して発言や行動ができる環境をつくることができれば、後は自然と「チームにとって最適なモデル」ができあがっていくでしょう。
2.リスク管理が難しい
ヒエラルキーがないのはティール組織のメリットですが、これにより、「リスク管理が難しい」というデメリットも生まれます。メンバー一人ひとりを信頼し、意思決定を任せるティール組織には、稟議や承認がありません。個人の判断が、組織に大きなリスクをもたらすこともあるでしょう。
3.状況把握が難しい
ティール組織におけるマネジメントは、メンバー一人ひとりを信頼し、それぞれの自己管理に任せる「セルフマネジメント」です。チーム全体を管理するマネージャーがいないため、ヒエラルキー型の組織と比べて状況把握が難しいです。ここでも、会社はメンバーを信頼するしかありません。
リスク管理や状況把握が難しいことから、ティール組織が有効となるケースは限られます。活用できる業種は限られ、チームの規模が大きくなるほど機能しづらくなっていくでしょう。
自社にはどんな組織形態が合っているのか考えること、ティール組織を導入するとしても、ある程度はグリーン組織やオレンジ組織の要素を残しておくことも重要です。
ティール組織の事例
ティール組織には明確なモデルがなく、どんな企業でも役立つ組織形態というわけでもありません。ただ、組織力の強化や従業員の意識改革のために、ティール組織を取り入れたいと考える企業も多いでしょう。
そんな企業にとっては、ティール組織をすでに取り入れている他社の事例が参考になります。ティール組織の成功事例を3社紹介するので、自社だったらどう取り入れるか、イメージしながら読み進めてみてください。
サイボウズ株式会社
グループウェア大手のサイボウズ株式会社は、社長主導でティール組織を導入した企業です。社長の青野慶久氏はティール組織に関心を持つ一人であり、サイボウズに「100人100通りの働き方」をはじめとする、多様な施策を取り入れました。
一例として、サイボウズには「働き方宣言制度」があります。これは仕事をする時間や場所、つまり働き方を、従業員自らが宣言する制度です。サイボウズは多様な働き方に力を入れている企業で、以前から「選択型人事制度(9分類の働き方から好きなものを選べる)」を取っていました。
しかし、「自分にとってベストな働き方」は十人十色であり、9分類から選べるだけでは十分とはいえません。そこでサイボウズは、自分の働き方を自分で考え、チームに宣言したうえで実行する施策を取ったのです。
サイボウズはまだ、「100人100通りの働き方」を模索している最中です。「働き方宣言制度」のような、従業員一人ひとりが主体となって考え行動していく中で、サイボウズの目指すベストな働き方(≒ティール組織としての在り方)も見えていくことでしょう。
参照:自由すぎる……! サイボウズが最近はじめた新しい「働き方制度」について聞いてみた
株式会社オズビジョン
広告領域の企業・株式会社オズビジョンは、フレディリック・ラリー氏がティール組織を提唱した書籍『Reinventing Organizations(邦題:ティール組織)』の中で、唯一の日本企業として紹介されています。
書籍の中では、オズビジョンの「Tanks Day」と「Good or New」という取り組みが紹介されましたが、これらの取り組みは行われなくなりました。取り組みが形骸化したこと、ほかの取り組みが盛んになり必要性を感じなくなっていったことが理由だといいます。
何より、オズビジョンにとって、2つの取り組みは無数にある実験の一部に過ぎません。
彼らのビジョンの根幹は、「全人格的な関係性を企業文化に組み込むことで、契約関係よりも強い”絆”による関係を生み出すこと」にあります。オズビジョンはさまざまな取り組みと経験を通し、このビジョンを実現するために何をすべきなのか、施策を常にブラッシュアップしているのです。
Netflix
エンタメ領域の世界的企業・Netflixのカルチャーの根底には、ティール組織の考え方があります。Netflixが最重視するのは「有能な社員が極めてクリエイティブかつ生産的に働ける環境」であり、これをつくるために5つの指標を掲げています。
社員自身の意思決定を積極的に促す
情報は、広く、オープンかつ丁寧に共有する
率直かつ直接的なコミュニケーションをとる
優れた人材でチームを構成し続ける
ルールをつくらない
引用元:Netflixのカルチャー: さらなる高みを求めて
この5つの指標は、ティール組織の本質をそのまま抽出したようなものです。具体的な取り組みとして、Netflixには休暇の制限がないことが挙げられます。
「休暇は1年に何週間まで」というルールのないNetflixでは、平日の午後に休みを取ることもあれば、休暇中の変な時間にメールを送ることもあります。いい意味でオンとオフの境目を曖昧にすることで、メンバー一人ひとりが自由に、主体的に働いているのです。
ティール組織のフェーズを把握し、自社を客観的に見つめ直そう
- ティール組織はメンバー主体で自走する組織のこと
- ティール組織を取り入れることは、従業員の意識改革やチームの生産性向上に有効
- ティール組織は万能ではなく、ほかの組織形態の要素と組み合わせることも重要
ティール組織ではメンバー一人ひとりが高い主体性と裁量権を持ち、指示を仰いだり待ったりすることなく、チームが自走していきます。うまく取り入れることで従業員の意識は改革され、会社はより強力な組織になっていくでしょう。
ただ、ティール組織は万能ではありません。業種によってはグリーン組織やオレンジ組織が適していることもあります。まずは自社やチームを客観的に見つめ直し、課題を見つけることからはじめてみましょう。課題が浮き彫りになれば、目指すべき組織も出るも見えてくるはずです。
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