サーバントリーダーシップとは、リーダーとしての権限でメンバーを従属させるのではなく、信頼関係に基づきチームを動かそうという考え方です。
本記事ではサーバントリーダーシップの概要や、従来的な「支配型リーダーシップ」との違い、現代社会において求められている背景について解説します。サーバントリーダーに求められる10の資質や、導入企業の事例も紹介します。
- サーバントリーダーシップとは、奉仕の精神と信頼関係に基づくリーダーシップ
- サーバントリーダーに求められる10の資質
- サーバントリーダーシップのメリットと課題
サーバントリーダーシップとは
サーバントリーダーシップとは、メンバーを支配したり従属させたりするのではなく、「奉仕」によって導く新しいリーダーシップです。サーバントリーダーはメンバーの強みを見つけ、それを肯定して伸ばしていくための支援をすることで、メンバーとの信頼関係を築きます。
メンバーが強みを伸ばして活躍してくれれば、チームは目的達成に近づきます。まずはリーダーからメンバーに支援を提供し、支援を受けたメンバーはその能力やチームへの貢献で返す。互いに利益を与え合う、プラスの関係性を築くのが、サーバントリーダーシップの特徴です。
支配型リーダーシップとの違い
サーバントリーダーシップとの対比として、従来的なリーダーシップを「支配型リーダーシップ」と呼びます。支配型リーダーシップではメンバーに指示や命令を出し、自分に従わせることでチームの目的達成を目指します。
サーバントリーダーは「メンバーにはそれぞれ強みがあり、適切な支援さえあれば自ら成長し活躍してくれる」と考えるのに対し、支配型リーダーの考え方は「メンバーは能力が足りないため、リーダーが適切に動かさなければならない」というものです。
どちらが良い・悪いというわけではなく、業種や環境によって適したリーダーシップのタイプは変わってきます。ただ、自ら考え主体的に動くことが求められる現代社会では、サーバントリーダーに強みがあるかもしれません。
サーバントリーダーシップの発祥
サーバントリーダーシップは1970年に、ロバート・グリーンリーフ氏が提唱しました。サーバントリーダーシップはアメリカでの研究を経て日本にも入り、現代社会に則したリーダーシップとして注目されています。
現代社会において、サーバントリーダーが求められる理由
現代社会においてリーダーシップの在り方が見直され、支配型からサーバントへとシフトしていることには、次の理由が挙げられます。
現代社会において、サーバントリーダーが求められる理由
- ビジネススピードの高まり
- 社会や市場の多様化
- ビジネスの複雑化と、タスクの巨大化
それぞれの理由の詳細について紹介していきます。
ビジネススピードの高まり
テクノロジーの発達とグローバル化の影響により、ビジネスのスピードは加速し続けています。リーダーに依存し、指示を待ったり仰いだりしていては間に合いません。
スピードが重要な現代のビジネスにおいては、メンバー一人ひとりが自走することが求められます。メンバーの主体性を育むことにもつながるサーバントリーダーシップは、時代に合ったスタイルといえます。
社会や市場の多様化
社会や市場の多様化が進んだことも、サーバントリーダーシップが求められる一員です。サーバントリーダーはメンバー一人ひとりの特性を把握し、強みを伸ばすための支援をします。メンバーの持ち味を最大化することは、チームの多様性を高めることにもつながるでしょう。
様々な視点から社会や市場を見られるようになることで、アイデアは出やすくなり、顧客のニーズも見つけやすくなります。
ビジネスの複雑化と、タスクの巨大化
ビジネススピードの高まりと社会や市場の多様化により、ビジネスは複雑に、タスクは巨大になり続けています。チームには多種多様なスキルをもつ人材が求められるようになり、一人ひとりがこなさなければならないタスク量も増えました。
自分の持ち味を活かし、自ら考え行動できる人材が、現代社会で活躍できる人材です。このような人材を育てるのに、サーバントリーダーは最適です。
サーバントリーダーシップにおけるリーダー像
サーバントリーダーシップにおいて、リーダーに最も強く求められるのは「奉仕の精神」です。現代風に言い換えるなら、「Give精神」でもいいでしょう。サーバントリーダーは見返りを求めるのではなく、より良いチームや社会をつくるために貢献するのであり、「Give&Take」ではなく「Give&Give」の心づもりでいることが大切です。
この圧倒的な奉仕と貢献が、メンバーからの信頼を集めます。まずはリーダーがメンバーの可能性を信じて奉仕し、その姿勢に感銘を受けたメンバーがリーダーを信頼するのです。
サーバントリーダーに求められる10の資質
NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会により、サーバントリーダーには10の属性があると定義されています。
サーバントリーダーに求められる10の資質
- 傾聴
- 共感
- 癒し
- 気づき
- 納得
- 概念化
- 先見力、予見力
- 執事役
- 人々の成長に関わる
- コミュニティづくり
参照:スピアーズによるサーバントリーダーの属性 │ NPO法人 日本サーバント・リーダーシップ協会
1.傾聴
傾聴は、相手の立場になって、強く共感しながら話を聞く力です。話の途中で相手と意見が違っていても、とにかく相手の考えを理解することに集中します。適切なタイミングで相槌を打つこと、自分の解釈が間違っていないか時折確認することが大切です。
2.共感
傾聴をするためにも、相手に適切な支援を提供するためにも、共感する力は欠かせません。相手の置かれた状況や様子から気持ちを想像し、何を求めているのか理解するように努めましょう。
3.癒し
どんな人でも失敗することはありますし、心が挫けてなかなか立ち上がれないこともあるでしょう。相手の気持ちを想像し、何を求めているのかを考え、それに合った癒しを与える力が求められます。優しい言葉をかけてほしい人もいれば、しばらく放っておくことが癒しになることもあるでしょう。
4.気づき
サーバントリーダーシップでは、特に自分に対する気づきが重要とされています。自分の信条に気づき、それに沿った行動を取ることで、リーダーとしての倫理観や価値観を築きます。プレッシャーや忙しさで潰れてしまわないように、心身の変化に気づく力も大切です。
5.説得
支配型リーダーと異なり、サーバントリーダーは命令することではなく、説得することでメンバーを動かさなければなりません。メンバーを説得し、命令や指示をしなくても取るべき行動を自発的に取る状態が理想です。
6.概念化
メンバーの主体性を育むためにも、リーダーとしてメンバーを引っ張っていくためにも、サーバントリーダーには大きな夢や目標を持つ力が求められます。業務上の目標を超え、自分とメンバーの自己実現につながる目標・ビジョンを持つことが大切です。
7.先見力、予見力
方向性のズレやリスクに気づいたり、明確なビジョンを示したりするためには、高い先見力と予見力が必要です。過去の教訓と今の状況を踏まえ、将来的にどんなことが起こりそうなのか、未来を見通す力が求められます。
8.執事役
執事役とは、大切な物事を任せても大丈夫と思ってもらえるような、信頼できる人柄のことです。より良いチームや社会のために、制度や権限を預けても大丈夫だと思ってもらえなければなりません。
9.人々の成長に関わる
サーバントリーダーはメンバーの強みを見つけ、それを伸ばすための支援をします。メンバーを単なる働き手として見るのではなく、価値ある個人としてみること、相手を信じることが大切です。何より、一人ひとりの成長に深くコミットする意識が求められます。
10.コミュニティづくり
同じチームの中で仕事をするメンバーたちの間に、コミュニティをつくり出す能力が求められます。メンバーがやりがいや目標を持ち、成長できる環境を整えることが、サーバントリーダーに求められるコミュニティづくりです。
【メリット】サーバントリーダーシップで、組織はよりイノベーティブに
強いサーバントリーダーシップによりメンバーが動き続けると、組織はよりイノベーティブに変化していきます。
サーバントリーダーシップには次のようなメリットがあり、これにより「メンバー個人→チーム→組織全体」へと、よい変化が波及していくからです。
サーバントリーダーシップのメリット
- メンバーの主体性が高まる
- 社内の風通しが良くなる
- 一人ひとりの人材の価値が高くなる
それぞれのメリットの詳細について紹介します。
メンバーの主体性が高まる
サーバントリーダーシップは、メンバーの主体性を高めます。サーバントリーダーはメンバー一人ひとりの持ち味を大切にし、それを活かす方向に支援を提供します。支配型リーダーと異なり指示は最小限に留め、メンバーが自ら考え自発的に行動できるように促すのです。
サーバントリーダーが率いるチームでは、メンバー一人ひとりが自走するようになるでしょう。自らの力でさまざまな困難に立ち向かっていく経験が、メンバーの主体性を高めます。
社内の風通しが良くなる
サーバントリーダーシップが組織に浸透すると、社内の風通しが少しずつ良くなっていくでしょう。サーバントリーダーが関わるメンバーが増えるほど、社内には高い主体性を持ち、積極的に発言と行動をする従業員が増えていくからです。
経営層にもサーバントリーダーシップが浸透すると、彼らは従業員の意見により耳を傾けるようになるでしょう。
一人ひとりの人材の価値が高くなる
サーバントリーダーシップが当たり前になった組織では、支配型リーダーシップが当たり前だった頃と比べ、一人ひとりの人材の価値が高くなっていきます。
サーバントリーダーの下で育った人材は、組織やチームの置かれた状況を見て、自分がすべきことを考えます。高い主体性をもって困難を乗り越えてきた経験から、さまざまなノウハウを手に入れているはずです。
多くの人材が自分の持ち味を理解し、強みを伸ばす方向に努力しているため、組織の多様性は高まり変化にも強くなっているでしょう。
【デメリット】サーバントリーダーシップの課題
サーバントリーダーシップは現代社会に合ったリーダーシップで、メリットも多いです。しかし、次のような課題もあり、万能とはいえません。
サーバントリーダーシップの課題
- 方針を決めるのが難しい
- 方向性の調整にリソースが割かれる
- 知見や思考力の浅いメンバーには向かない
これらの課題を把握したうえで、サーバントリーダーシップが適しているのかを検討するようにしてください。
方針を決めるのが難しい
メンバーの持ち味を大切にし、それぞれの強みを活かそうとするサーバントリーダーシップでは、チームの方針を決めるのが難しいです。メンバーが増えるほどチームの多様性は高まり、バランスも取りづらくなるでしょう。
サーバントリーダーシップは少人数のチームのほうが適しているといえます。
方向性の調整にリソースが割かれる
具体的な指示や命令をあまり出さず、メンバーの主体性に多くをゆだねるサーバントリーダーシップでは、方向性の調整にリソースが割かれます。ハッキリとした方針を打ち出し、リーダーの指示によりメンバーが動く支配型リーダーシップのほうが、方向性のズレも生じづらいでしょう。
知見や思考力の浅いメンバーには向かない
メンバーに自ら考え行動することを求めるサーバントリーダーシップは、知見や思考力の浅いメンバーには向きません。ある程度の能力があるメンバーなら「自由にやれる」「成長できそうだ」と感じるでしょうが、能力不足の人材は「どうしていいかわからない」と困惑してしまうでしょう。
サーバントリーダーシップでチームを組むときは、メンバーを慎重に選ばなくてはなりません。
サーバントリーダーシップの導入企業事例
メディアや広告、エンタメ関連の事業を広く展開する株式会社サイバーエージェントは、社長自らサーバントリーダーシップの重要性を語っています。サイバーエージェント社長の藤田晋氏は、インターネットの出現が、リーダーシップ像を一変させたといいます。
藤田氏は「インターネット上に掲示板ができた頃から、社長が変なことを言うとすぐに叩かれるし、頭が悪いのもバレてしまうようになった」と語り、普通の人たちが「なんだ、社長というのは自分たちと変わらないじゃないか」と気づいてしまったと指摘します。
本当は特に優れた能力があるわけでもないのに、社長(リーダー)だからといって偉そうに振舞っていると、すぐに馬脚があらわれてしまうでしょう。
そう考えた藤田氏は社長然とした振る舞いをするのではなく、自分の考えやサーバーエージェントの目指すものをインターネットを使って公開し、ビジョンを示すことに力を入れました。サーバントリーダーシップの考えに基づき、社員一人ひとりにセルフリーダーシップを求めて採用活動を行うようになったといいます。
もちろん、藤田氏の発言には謙遜も多分に含まれているでしょう。しかしこの謙虚な姿勢も、サーバントリーダーシップの特徴といえるかもしれません。
参照:藤田晋が語る「インターネット時代に必要とされるリーダーシップ」 │ Cyber Agent Way
「御恩と奉公」を美徳とする日本にこそ、サーバントリーダーシップは合っている
- サーバントリーダーシップは、奉仕の精神に基づく新しいリーダーシップ
- サーバントリーダーシップでは、メンバーを適切に支援するための10の資質が求められる
- メンバーの持ち味や強みを活かし、主体性を育むサーバントリーダーシップは、現代社会にマッチしている
サーバントリーダーシップでは、奉仕の精神に基づきメンバーを支援することで、リーダーとメンバー間の信頼関係を築きます。マネジメントは互いの信頼関係のもとに行われ、このようなチームでは主体性が高く自走できる人材が育ちます。
もともと、日本には「御恩と奉公」という文化がありました。役割分担のための上下関係はあっても、互いに相手を思いやり貢献するというサーバントリーダーシップは、日本に合った考え方なのかもしれません。
本記事を参考に、サーバントリーダーシップのあり方について検討してみてはいかがでしょうか。
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