HOMEビジネス スタートアップ企業のオフィスは、コロナ前後でどう変化した?賃料推移と人気エリアの現状を紐解く

スタートアップ企業のオフィスは、コロナ前後でどう変化した?賃料推移と人気エリアの現状を紐解く

U-NOTE編集部

2022/10/11(最終更新日:2022/10/12)


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阿久根聡氏/提供:47ホールディングス株式会社

近年は、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響により働き方改革が進み、私たちの働き方や働く場所は大きく変化しました。

コロナ前までは、大半のビジネスパーソンにとってはオフィスに出社することが当たり前でしたが、今ではリモートワークが珍しいものではなくなりました。

こうした社会情勢の変化のなかで、「働く場所」に関する世間の興味関心が一気に高まったことが、一番の変化だったと思います。

今回は、これまでワークプレイスのプロフェッショナルとして、オフィス仲介業、オフィス内装業、オフィス家具EC業などを展開してきた47ホールディングス株式会社の阿久根聡氏に、「働く場所」についてご寄稿いただきました。

コロナ前、スタートアップにとってオフィス拡張は「成長の証」だった

コロナ前、スタートアップにとってオフィスの拡張移転は「成長の証」でした。人員を増やし、資金調達をして、オフィスを大きくしていくという“企業の成長”を示す指標として、オフィスの拡張移転は最も分かりやすい例だったのかもしれません。

しかし、当時は空室率が極端に低く、賃料が高騰していました。2019年末時点の東京23区の空室率は、なんと1%未満。需要(借手)が多く、供給(空室)が少ないほど貸手市場になり、賃料は上がる一方でした。

空室が少なく賃料が高いということから、「空きが出てもすぐに埋まってしまう」「移転したくてもなかなか移転できない」という企業が多い状況でした。

2020年以降、働き方が激変。「オフィス不要論」が囁かれる事態に

こうした状況が一変したきっかけが、2020年から始まったコロナの流行でした。1回目の緊急事態宣言が発令された頃から、スタートアップのオフィス解約や縮小移転が相次ぎ、「オフィス不要論」がまことしやかに囁かれるようになったのです。

スタートアップのオフィス解約が相次いだ理由の1つは、働き方の変化です。リモートワークの導入により、従来のオフィス面積が不要だと判断した企業を中心に、オフィスを縮小する動きが加速しました。中には、全従業員をフルリモートに移行し、完全にオフィスを解約した企業もあります。

もう1つの理由は、企業の業績悪化による固定費削減の流れです。観光業やエンタメ業など、外出自粛の影響により打撃を受けた業界は、先行きが見えない中で固定費の削減を迫られました。固定費の中で特に大きな割合を占めているのが、オフィス賃料です。前述した働き方の変化に伴い、リモートワークを導入しても業務を続けられる企業は、オフィスを縮小・解約していきました。

こうした流れを受けて、オフィスの空室率は一気に上昇。2019年末は1%未満でしたが、1年後の2020年末には倍の2%弱、2年後の2021年末には3.5%強にまで上がりました。現在は、空室が増えたことによってビルオーナーが賃料の引き下げを検討し始め、賃料相場が緩やかに下がってきている状況です。

ただ、ビルオーナーにとって家賃は重要な収入源であることから、すぐに賃料の引き下げに踏み切ることが難しいといいます。あくまでも、空室率の変化に追従する形で緩やかに低下しているのが現状です。

現在は「ハイブリッドワーク」が主流。オフィス回帰の流れも強まっている

現在は空室率が高まっているものの、「オフィス不要論」が優勢というわけではありません。実際、当社に寄せられたワークプレイス関連の相談のうち、オフィス縮小に関する問い合わせは20%未満。相談のほとんどは、レイアウトの変更や内装リニューアル、もしくはオフィスの拡張移転に関する内容です。

昨今のスタートアップでは、100%出社あるいは100%リモートというスタイルではなく、出社とリモートを組み合わせる「ハイブリッドワーク」といった働き方が主流です。つまり、オフィスをまったく必要としなくなったのではなく、むしろ「集まる場」としてオフィスを再構築しているケースが多いのです。

さらに、一度オフィスを解約した企業が再度オフィスを構える動きも生まれています。その背景には、コミュニケーション課題の露出、従業員の帰属意識の低下、新入社員の育成難化などがありますが、この話については、また別の機会に詳しく解説いたします。

スタートアップに人気なオフィスエリアの現在

先ほど2019~2021年までの東京23区の空室率について触れましたが、現在スタートアップから人気があるエリアの空室率はどうなっているのでしょうか。いくつか例を挙げてご紹介したいと思います。

まずは、渋谷。スタートアップに最も人気があると言っても過言ではありません。コロナ前は、まさに「空きが出ても一瞬で埋まる」オフィス激戦区でした。コロナ後は少し空室が増えましたが、その分もともと渋谷に移転したかった企業が転入してきているので、空室率はさほど上がっていません。今でも変わらず、人気は高いままです。

次に、六本木。こちらはスタートアップにとって、渋谷の次に選択肢として挙がりやすいエリアです。六本木と言えば、六本木ヒルズやミッドタウンなどの印象が強いかもしれませんが、同エリアは中小規模のオフィスビルが豊富で、いわゆる「出世ビル」と呼ばれるようなメガベンチャーの発祥ビルが数多く存在します。コロナ後は、もともと六本木にいたスタートアップが、空室が増えた渋谷に移転するケースが増えている印象です。

五反田も人気エリアの1つです。コロナ前、「五反田バレー」で注目を集めていた同エリアでは、オフィスの空室がかなり少なくなっていましたが、コロナ後はオフィス解約・縮小が増えたことで空室が増加。現在は「スタートアップの聖地」だったTOCビルの建て替えを控えていることから、入居企業が他エリアへ流出していく可能性があります。もともと渋谷・六本木に比べて賃料が安いことが人気の理由だったため、そこまで五反田にこだわらないスタートアップも多かったようです。

また、茅場町や大手町などのエリアも、新たなスタートアップ集積地として注目を集めつつあります。もちろん、同じスタートアップとはいえ業種によって、好むエリアは分かれるものです。渋谷・六本木・五反田は情報発信系・エンタテインメント系・ゲーム系のスタートアップから、茅場町・大手町はバイオテクノロジー系・金融フィンテック系・ビッグデータ運用系のスタートアップから人気があるようです。

スタートアップが集まるエリアは、オフィス市場の動きが早く、その時々の社会情勢に応じて変化し続けています。当社は今後も引き続き、オフィス市場の動向を追っていきたいと思います。

阿久根聡氏/提供:47ホールディングス株式会社

著者プロフィール

阿久根聡
47ホールディングス株式会社 代表取締役

九州大学卒業後、新卒で富士銀行(現 みずほ銀行)に入行。2004年に創業間もないエス・エム・エスに入社、翌年に取締役に就任。2013年に副社長として47へジョインし、2015年より同社代表取締役を務める。2019年からは47グループ4社の代表取締役を兼務している。
会社URL:https://47co.jp/

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