ランサーズでの「営業」カテゴリーの発注がコロナ前の173%増となっているように、フリーランス市場がコロナ後、さらに多様化しています。ランサーズ株式会社の曽根 秀晶氏に、コロナ後のフリーランス市場の変化について寄稿していただきました。
10年後の未来がタイムマシーンでやってきた
コロナ禍で人々の働き方は大きく変わりました。2000年代のインターネットの普及、2010年代のスマホの普及、そして2020年代のリモートワークの普及。
この状況は、働き方の10年後の未来が、「タイムマシーンに乗ってやってきた」といっても過言ではないと思います。
ただ、この変化はコロナによってのみ引き起こされたわけではありません。変化の火種はすでに育ちつつあった中で、それがコロナ・ショックにより大きく社会の変革につながった、と言うべきでしょう。
そもそもこの10年間を振り返ると、「働き方改革」は日本にとって重要なアジェンダでした。海外と比較して圧倒的に低い労働生産性を向上することは、「ニッポン株式会社」の最重要課題の一つであったと言えます。
政府主導の政策は企業のルールや働き方のコードに大きく影響を及ぼしていき、例えばモデル就業規則の改訂によって、大企業において副業や兼業が解禁されていくようになりました。
一方で、個人の視点から見ても、「VUCA」「人生100年時代」「ワークライフバランス」「リスキリング」といったキーワードに象徴されるように、働き方にまつわる考え方や価値観の変化が加速してきているように感じます。
社会の変化は激しくなり、人生はより長くなる中で、キャリアとライフの関係は変わり、市場における人材の流動性も高まるばかりです。
そんな中で生じたコロナ・ショック。多くの人が半強制的に経験することになったリモートワーク。そうした状況で、社会に「フリーランス的」な価値観が広がりつつある、というのが私の考えです。
本記事では、この「フリーランス的」な価値観の広がりを、日本の労働にまつわる制度や仕組みの変化、企業と副業人材との関係性の移り変わり、フリーランスの直近のトレンド、という観点からみていきたいと思います。
コロナ禍で起こった働き方の「ボーダレス化」
まずは、労働にまつわる制度や仕組みから見ていきましょう。
2019年、令和のはじめ。時代の変化を象徴するかのように、長らく続いた日本の雇用システムの根幹であった「終身雇用」について、財界トップの次のようなコメントが続きました。
『雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないとなかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた』(トヨタ自動車社長 豊田氏)
『終身雇用は制度疲労を起こしている。終身雇用を前提にすることが限界になっている』(経団連前会長・日立製作所前会長 中西氏)
現在は、ジョブ型を本格的に導入する大企業が増えてきています。ジョブ型とは、つまるところ「社」に就くのではなく「職」に就くということを前提にした仕組みであり、「フリーランス的」な考え方の第一歩であると言えます。
そうした潮流がもともとあった中で、コロナ禍を契機に、以下の3つの境界が日本社会において溶けつつあると感じています。
一つ目は、空間の境界です(オフィス内⇔オフィス外)。在宅勤務を中心としたリモートワークの広がりにより、出社することの意味やオフィスの存在意義は変わりつつあります。
二つ目は、時間の境界です(業務時間内⇔業務時間外)。フレックスタイムを導入する企業も増え、働く個人にとってのキャリアとライフの境界線は以前より曖昧になってきています。
三つ目は、契約の境界です(企業内⇔企業外)。リモートワークが普及していったことで、セキュリティを担保しながら社外のプロフェッショナルともよりフラットに働ける環境が整いつつあります。
こうした働き方の「ボーダレス化」は、今後ますます進んでいくことが予想されます。農耕革命による「定住」概念の普及ではありませんが、人々の働き方の価値観やOS(オペレーティングシステム)は今、大きく変わりつつあると言えます。
副業「解禁」から副業「活用」へ―副業2.0
次に、働き方のボーダレス化をある意味で象徴する存在として「副業」に関するここ数年の動きを振り返ってみましょう。
先に述べたように、働き方改革の流れの中で2018年は「副業元年」と言われ、銀行のような伝統的な産業も含めて大手の副業解禁が続き、副業・兼業を推奨する形のモデル就業規則改訂も実施されました。
しかし、振り返ってみると、「個人が副業をすることを許容する」という供給側の変化があった一方で、「副業する個人と仕事をする」需要側が追い付いていなかったため、副業市場はそこまで広がりませんでした。
ランサーズ社が実施する「フリーランス実態調査2021-2022」の結果をみても、副業・兼業を含む広義のフリーランス人口は、2018年まで上昇基調だったところが、2019-2020年にかけて減少しています。
フリーランス実態調査のフリーランス人口の推移/出典元:ランサーズ株式会社
これは、「副業解禁」のムーブメントの中で副業を始めてみた人たちが、需要の不足や副業先とのミスマッチにより、短期間で離脱してしまったことが原因だったと私は考えています。
そうした中で、2020年頃から起こり始めたのが、需要側における副業「活用」の動きです。
例えばライオンや三菱地所などの大企業が、副業人材を積極的に活用する動きを同時期に見せ始めました。背景としてあるのは「副業の目的の変化」そして「副業人材の質の変化」だと考えています。
「副業元年」と謳われた2018年当時は、副業人材の需要・案件も少ない中で、社会において「副業=お小遣い稼ぎ」というイメージが強かったように思います。いわば副業1.0の時代です。
そこから副業の案件の質も徐々に変わっていく中で、副業にチャレンジするプロフェッショナル人材も増え、「副業=自己成長の機会」と捉える気運が出始めました。いわば副業2.0の時代です。
副業はそれまでアフィリエイターやクリエイターなど一部の職種に限られていましたが、より一般的なビジネスパーソンを含めて、本当の意味で副業が広がっていくのはこれからになるでしょう。
フリーランスとは?未来の「働き方の見本市」
では、労働市場において人材の流動性が高まり、企業における副業の解禁や活用も広がってきた中で、フリーランスの働き方はどう変わってきたのでしょうか?
ランサーズでは、Lancer of the Year(以下「LOY」と略す)という大規模なフリーランスのアワード・表彰イベントを2015年に開始し、毎年開催してきました。
Lancer of the Year2022の様子
企業という緩衝材なしに、常に市場に直接向き合っているフリーランス。そのモデルケースとなる受賞者が集まる同イベントは、いわば「未来の働き方の見本市」のような場にもなっています。
ランサーズで直近行った調査結果から読み取れるマクロな動向とあわせて、LOYの表彰者たちのミクロな個別事例をみていると、いくつかのトレンドが浮かび上がってきます。
出典元:ランサーズ株式会社
まず、ビジネス領域のフリーランスは、ますます増えていくでしょう。例えば今年のLOYでもセールス職のフリーランスが表彰されましたが、ジョブ型が進み人材の流動性が高まる中で、このトレンドは今後も続くと考えられます。
また、新たな職種がどんどん生まれていくでしょう。10年前にYouTube動画編集の職はほぼ存在しなかったわけですが、例えばメタバースビジネスが広がっていけば、3Dモデリングを生業とするフリーランスは増加していくでしょう。
そして、事業性を帯びたフリーランスの動きにも注目したいと思います。企業と個人の関係がフラットになる中で、仕事を受注しつつ発注側にもまわるなど、「プロシューマー」的(プロフェッショナルとコンシュマーを組み合わせた)存在は今後多くなっていくでしょう。
冒頭に述べた「フリーランス的」な考え方は、変化の速い不確実な現代をより長く生きる個人にとっても、企業が個人との関係性を築いていくうえでも、より重要となっていく価値観だと考えています。
あらためて、働くとは、自分らしさと社会との接点だと思います。それを常に意識しチャレンジしている「フリーランス的」な存在の広がりと変化に、ぜひ今後も注目していきたいと考えています。
ランサーズ株式会社 取締役 執行役員COO
曽根 秀晶
2007年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーで、コンサルタントとして主に小売・ハイテク業界の大手クライアントの経営課題を解決するプロジェクトに従事。2010年より楽天株式会社において、「楽天市場」の営業・事業戦略を担当後、海外デジタルコンテンツ事業のM&A・PMIを推進、グループ全体の経営戦略・経営企画をリード。2015年2月、当社に参画し、2015年11月より取締役に就任。著書に「強い組織をつくる オンライン時代の戦略的リモート・マネジメント」がある。
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