本記事はWebマーケティングサービスを提供するナイル株式会社の清水 拓也氏にご寄稿いただいたものです。
アクセス解析ツールの「GA4(Googleアナリティクス4プロパティ)」は、昨今ウェブ業界を激震させています。
なぜ、GA4がメディアを騒がせているのかといえば、Googleが今年3月に「現在のGoogleアナリティクス(UA)は、2023年7月1日にサポート終了(計測停止)する」とアナウンスしたからです。(有料版は2023年10月にサポート終了)
このアナウンスをきっかけに、いま多くの企業がGA4の導入に対し、早急な対応を迫られています。しかし、「リソースが足りずまだ導入できていない」「導入したが正しくデータ計測できていない」といった、多くの問題も生じているのです。
ではなぜ、問題がおきるのか?それは、従来のGoogleアナリティクスとGA4では、分析機能や計測方式そのものが大きく変わってしまったことが大きな要因となっています。
そこで今回は、Webマーケティングサービスを提供するナイル株式会社の清水拓也氏に「GA4を今すぐ導入しないと何が起きるのか」について寄稿していただきました。また最後は、GA4導入支援をしているナイルの視点で、今後の動向について解説していただきます。
GA4を今すぐ設定しないと何が「ヤバい」のか
従来のGoogleアナリティクス(UA)のサポート終了まで、1年を切りました。しかし未だ「リソース不足」「面倒くさくて後回し」といった理由から未導入の企業があったり、導入後もデータがうまく計測できなかったりと、さまざまな問題が発生しています。
まずは、未導入の方へ今すぐ設定しないと何が問題なのか、理由を説明します。大きく分けると以下の4つです。
- これまでのデータをGA4へ移行できない
- GA4は導入しただけでは使えない
- データの定義が変わったので、KPIの見直しが必要
- 学ぶ時間(リソース)が必要
これまでのデータをGA4へ移行できない
もしかすると、「今のGoogleアナリティクスのデータを、そのままGA4へ移行するだけでしょ?」と思っている方もいるかもしれません。しかし、GA4の導入障壁が高いといわれる大きな原因は、単純に新しくなったツールにこれまでのデータを移行するだけではない点にあります。
これまでのGoogleアナリティクスで蓄積してきたデータは、GA4へ移行することができません。それは、先にお伝えしたとおり、データの定義が異なるためです。
データの定義が異なれば数値が異なり、同じデータとして比較することはできません。そのため、サポート終了してから導入した場合、上司に「去年と比べてどう数字が変化したの?」と聞かれても、昨対比を出すことができないのです。だからこそ、まだ導入していない方は、データ取得をすぐにでも始めるべきだと言えます。
GA4は導入しただけでは使えない
さらに、GA4の問題となるのが、「GA4は導入しただけでは使えない」からです。従来のGoogleアナリティクスでは、計測タグをサイトに設置するだけで自動でデータ収集できました。
一方でGA4は、後述のように必要なデータを取捨選択しないとデータが蓄積されず、分析に必要なデータが利用できません。
導入後も、分析に必要なデータを取得するための設定が必要です。また設定しても「正しくデータが収集できているかどうか」一定期間、観測した方が良いでしょう。
データの定義が変わったので、KPIの見直しが必要
GA4は、従来のGoogleアナリティクスとは指標が異なります。データの定義自体が大きく変わりました。「ページビュー」単位での計測から、「イベント」単位での計測へ変更されているのです。
従来のGoogleアナリティクスでは、ユーザーがサイトに訪問し離脱するまでを「セッション」、閲覧ページの合計数を「ページビュー」として定義しています。また「イベント」は、それ以外のクリックやスクロールといった特別な行動を計測するものでした。
一方で、GA4はページビューもクリックも「イベント」として計測されます。ページビュー単位ではなくなったことで、これまでサイト担当者が見慣れてきた「直帰率」「離脱率」は、同様な定義のものがなくなり、イベント単位で「エンゲージメント率」といった値を見ることになります。
他にも例えば、「セッション」の定義も以下の図のように大きく変わります。
セッションが継続してカウントされやすくなるため、GA4では「セッション値」が少なくなります。
(公式サイトのGA4セッション定義はこちら)
このように、データの定義が変わったため、自ずと「どのデータを取得するのか」といった、自社で追うべきデータやKPIの見直しが必要になるのです。
学ぶ時間(リソース)が必要
これら3つの理由からわかるとおり、GA4は従来のGoogleアナリティクスとは「別モノのツールである」といえます。そのため、正しくデータ収集し解析していくには、従来のGoogleアナリティクスを使いこなしていたサイト担当者であっても、学び直す時間が必要なのです。
これまで同様にGA4をアクセス解析のメインツールとして利用するのであれば、できるだけ早く導入しデータ収集をする必要があるといえます。
従来のGAとGA4の違い
ここまでで、GA4に対してすぐに準備を進めないといけないことは理解いただけたと思います。この章では、具体的にどのように違いがあるのか解説します。
データの収集方法
従来のGoogleアナリティクスでは、計測タグをサイトに埋め込めば、自動でデータの収集・保持が可能でした。しかしGA4は、必要なデータをGA4で確認し設定しなければデータの格納がされません。
逆にいえば、GA4は「手動で必要なデータのみ取得し、不要なデータは取得しなくてよくなった」のです。
ではなぜ、必要なデータのみを取得するようになったのでしょうか。公式のアナウンスではありませんが、恐らく「データを保持する(サーバー)負荷」を軽減させるためではないかと考えられます。
無償で利用できる従来のGoogleアナリティクスは、自動的に幅広いデータを保持してくれました。しかし、GA4ではユーザーにデータを取捨選択させることで、Google側のデータ保持する負荷を軽減させる意図があるのではないかと考えています。
データの保持期間が最大14ヶ月
次に、大きな違いとなるのはデータの保持期間です。これまでは、無料で使えるにも関わらず、Googleアナリティクスは無期限でデータを取得できていました。
しかし、GA4内で利用するレポート(データ探索)のデータ保持期間は、最大で14ヶ月です。デフォルトの初期設定では「2ヶ月」となっているため、注意が必要でしょう。
UI
左がGoogleアナリティクス、右がGA4のメニュー画面です。ご覧の通り、UIが大きく変わり、GA4では「レポート機能」「探索機能」をメインに使っていくことになります。
従来のGoogleアナリティクスを使い慣れた人にとっては、使いづらいと感じるかもしれません。しかし、集計と分析の機能が分かれたことで、設定次第でより深くデータを追うことができるようになっています。
ウェブとアプリを横断して計測可能
従来のGoogleアナリティクスとGA4の大きな違いでありメリットとなるのが、ウェブ用・アプリ用といった複数のトラッキングIDを発行することが可能な点です。
例えば、複数のデバイスを利用するユーザーを、同一ユーザーとして判定したり、ウェブとアプリを統合して分析したりすることができるようになりました。
同一ユーザーとして識別する機能は、従来のGoogleアナリティクスでもありました。GA4では、OSやデバイス種別といったより詳細な識別を可能にし、精度も向上しています。従来のGoogleアナリティクスでは、特殊な設定をアプリに加えるなどしないと「ウェブ」と「アプリ」は別々に集計する仕様でした。これによりウェブとアプリを行き来する行動の計測が困難でした。GA4では、一つの格納先でデータ管理が可能な仕様にアップグレードしています。
このような機能によって、ユーザー行動をより多角的に把握できるようになるでしょう。
ここまで大きく4つの違いを挙げましたが、他にも「AIを活用した分析・予測機能」「BigQueryが無料版でも利用可能」といった違いやメリットもあります。
初めにやるべき最低限の設定は?
GoogleアナリティクスとGA4の違いがわかったところで、最低限やっておくべき設定を解説します。まずは、Googleアナリティクスのアップグレード版とはいえ、GA4のプロパティを新しく作成する必要があります。
プロパティを作成しタグを設定する
Googleアナリティクスの「管理」→「GA設定アシスタント」から、GA4プロパティを作成します。その後、GA4の「管理」→「データストリート」から、「タグ」をコピーしサイトに設置しましょう。
サイトの貼り付け作業を間違ってしまうと、サイト表示に不具合が発生する可能性があります。必ずバックアップをとってから作業するようにしてください。
また、GTM(Googleタグマネージャー)を利用していれば、より簡単に設置が可能です。コンテナ内にある「タグ」→「新規」から、「タグの設定」→「GA4設定」を選択します。IDを求められますので、先ほどの「G-」から始まるIDを入力し、配信トリガーに「All Pages」を追加すれば完了です。
ダッシュボードの作成
Googleアナリティクス4プロパティを作り、タグを埋め込んだだけでは、データは全て蓄積されません。詳細を分析するための、ダッシュボードを作成しておきましょう。
GA4「設定」→「カスタム定義」の「カスタムディメンションを作成」→「イベントパラメータ」からデータを選択します。データが飛んで来ていると、プルダウンで選択可能になります。「ディメンション名」を入力し保存しましょう。
最大50件まで保存可能なため、必要に応じてデータを選択しましょう。
データが蓄積されはじめると、「イベント」一覧が表示されていきます。これらのデータ取得設定をするかしないかで、確認できるデータに差がでますのではじめにやっておくべきでしょう。
ナイルの予測「GA4を取り巻く動向はどうなる?」
ここまで読んでいただいた方は、「なぜここまで仕様を変えて、GA4にアップデートしたの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。今後の動向を予測するには、まずその理由を解説しなければなりません。
そもそも、なぜGA4にアップデートしたのか
Googleが、GA4にアップデートしたのは、世界的なプライバシー保護強化をする動きが原因となっています。例えば、GA4がデータ保持期間を設けたのも、必要最低限のデータ取得する仕組みになったのも、GDPR(EU一般データ保護規制)などの国際的なデータ規制に準拠するためです。
実際にイタリアでは、従来のGoogleアナリティクスを、GDPR違反のため利用禁止にしています。今後も世界各国で、個人情報保護の規制強化は続いていくと予測できるでしょう。
これらの状況から、世界ではGoogleアナリティクスに変わるWeb解析ツールへ移行する動きもみられ、多くのツールベンダーが登場しています。
今後の予測
日本では、ツール移行する動きは少数派で、Googleが主力です。弊社では大多数の企業はGoogleアナリティクスからGA4へ移行すると予測しています。
現在のGA4導入率についてナイルが2022年7月に調査したところ *導入率は57.8%でした。約半数の企業がGA4未導入であり、今後1年は多くの企業がGA4移行に必死になるでしょう。(出典元:GA4導入状況に関するアンケート調査【2022年7月実施】)
また、すでに「データ計測が正しくできていなかった」といった、導入後の問題も起きています。GA4の場合、データが収集・蓄積できていなければ、分析自体ができません。そのため、まだ設定していないという方は、なるべく早くGA4でデータ収集を始めることを推奨します。
また設定後も、正しくデータ収集できているかしっかり確認することが重要です。もし、「うまくデータ計測ができていないかも…」「14ヶ月以降のデータをどうやって保存したらいいかわからない…」といった疑問や不安がある方は、一度、専門知識のある人に相談してみるといいでしょう。
一方で、従来のGoogleアナリティクスならではの機能も存在します。サポート終了までの間は、GoogleアナリティクスとGA4、2つのデータ解析ツールを併用しながら、問題が起きても分析に支障がでない体制を作っておきましょう。
ナイル株式会社
デジタルマーケティング事業部 サイト改善ユニット マネージャー
清水 拓也
WEBマーケティング企業を経て、2018年よりナイルに入社。WEB制作・ディレクション業務の経験を活かして、クライアントニーズにフォーカスしたWEB分析を行う。A/Bテスト利用した分析提案を軸に課題点の早期発見と高速PDCA提案に取り組む。
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