「ノーマライゼーション」という概念は、企業や教育、医療・看護など様々な場所で注目されています。
本記事では、ノーマライゼーションの概念の意味や、理念、考え方などを解説。事例を交えイメージしやすくノーマライゼーションの基礎知識について説明するので、ぜひ参考にしてください。
- ノーマライゼーションとは?意味や似た用語との違い
- 日本におけるノーマライゼーションの理念・考え方
- ノーマライゼーションの事例
ノーマライゼーションとは?意味や似た用語との違い
ノーマライゼーション(normalization)とは、福祉用語のひとつです。概念として理解しにくい単語であるため「どういう意味なの?」と疑問を抱く人も多いでしょう。
以下では、ノーマライゼーションの意味や似た用語との違いについてご紹介します。
ノーマライゼーションの意味
ノーマライゼーション(normalization)は「標準化」「正常化」という意味を持っています。
社会福祉の用語として使われる際は、「障がい者や高齢者などの社会的弱者を特別視せず、健常者と同様の生活をおくれるように支援する必要がある」という考え方のことをいいます。
例えば、体力が少ない人を健常者と比べて「体力が低い」と特別視し運動をするように指示するのではなく、社会そのものが支援することで、体力が少ない人も健常者と同じように生活できるようにするという発想です。
ノーマライゼーション8つの原理
ノーマライゼーションの育て親とも呼ばれる「ベンクト・ニィリエ」は、ノーマライゼーション8つの原理として次を掲げています。
- 1日のノーマルなリズム
- 1週間のノーマルなリズム
- 1年間のノーマルなリズム
- ライフサイクルにおけるノーマルな発達的経験
- ノーマルな個人の尊厳と自己決定権
- その文化におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
- その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利
- その地域におけるノーマルな環境形態と水準
- ノーマライゼーション8つの原理をひとつずつ確認することで、自立支援の方向性をチェックできます。
ノーマライゼーションとバリアフリーの違い
ノーマライゼーションと似た言葉に、「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」などが思い浮かんだ人もいるのではないでしょうか。
ノーマライゼーションとは「標準化」「正常化」を意味する概念であり、バリアフリーとはノーマライゼーションの考え方を具現化したものです。
バリアフリーとは、バリアつまり障壁をなくすことをいいます。バリアには「物理的なバリア」「制度的なバリア」「文化・情報面でのバリア」「意識上のバリア」などがあります。
例えば、エレベーターの高い位置にあるボタンは「物理的なバリア」です。低い位置にボタンを作ることで、障がい者が健常者と同様に生活することが可能になっています。
参考:政府広報オンライン「知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」」
ノーマライゼーションとユニバーサルデザインの違い
ユニバーサルデザインもバリアフリーと同様に、ノーマライゼーションの概念を具体化したものです。
ユニバーサルデザインは、「すべての人にとって優しい・使いやすいデザイン」という意味です。
例えば、車椅子の人はもちろん、小さな子供、高齢者、足をけがしている人にとって、階段は使いやすいとはいえません。階段をスロープに変えると、健常者や障がいのある人もみな使いやすいデザインになります。
また、ユニバーサルデザインには、以下に示す7つの原則があると言われています。
- あらゆる人が公平に使える
- 柔軟に使用できる
- 使い方が簡単に理解できる
- 知りたい情報がすぐに把握できる
- 少しのミスが大きなトラブルにつながらない
- 身体的に少ない負担で使用できる
- 大きさや空間がきちんと用意されている
ノーマライゼーションとインクルージョンの違い
ノーマライゼーションと似た概念に「インクルージョン」があります。
インクルージョンとは、「包括・包含」という意味を持ちます。インクルージョンは、障がいや性別などの違いにとらわれず、包むことで多様性を受け止めようという考えです。
ノーマライゼーションは社会的弱者に注目している概念のため、インクルージョンよりも限定的な概念であるといえるでしょう。
日本におけるノーマライゼーションの理念・考え方
「ユニバーサルデザイン」「バリアフリー」のようにノーマライゼーションの考え方は具現化されています。
では、日本ではどのようにノーマライゼーションの理念を受け止めているのでしょうか。
厚生労働省や、障害者雇用促進法からみるノーマライゼーションの理念や考え方をご紹介します。
厚生労働省のノーマライゼーションの理念・考え方
厚生労働省では、ノーマライゼーションを促進するために、「ノーマライゼーション7か年戦略」通称「障害者プラン」を掲げています。
障害者プランは、以下の7つの視点を持ち、施策の推進を行っています。
- 地域で共に生活するために
- 社会的自立を促進するために
- バリアフリー化を促進するために
- 生活の質(QOL)の向上を目指して
- 安全な暮らしを確保するために
- 心のバリアを取り除くために
- 我が国にふさわしい国際協力・国際交流を
引用:「内閣府」障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~(概要)
厚生労働省は、上記でご紹介した「障害者プラン」に沿って「サービス提供体制」を整えています。
具体的な例を挙げると、ノーマライゼーションの理念が広がる前には、障がい者本人ではなく行政がホームヘルパーや福祉施設などのサービスを選択し、障がい者のサポートに努めていました。現在では、ノーマライゼーションの理念の下で、障がい者自身が行政のサービスを選び活用するようになりました。
参考:内閣府「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~(概要)」
参考:「障害保健福祉部」
障害者雇用促進法のノーマライゼーションの理念・考え方
障害者雇用促進法でも、ノーマライゼーションの理念が浸透しています。
例えば、法の基本理念として以下のように記載されています。
「障害者である労働者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を確保される」
このように、ノーマライゼーションの理念の下で、障がいを持っていても、一般市民と同様に参加する機会を与えることが法律で明記されています。
社会福祉法人ノーマライゼーション協会のノーマライゼーションの理念・考え方
社会福祉法人ノーマライゼーション協会は、「すべての人の人権を基軸としたノーマライゼーション社会の実現」を理念として活動を行っています。
障がい者や障がいを持たない人が「共に生きる」ために、「障害者支援施設」や「障がい者センター」など様々な事業を立ち上げられています。
ノーマライゼーションの歴史
「ノーマライゼーション」の考え方はどのような経緯を経て、日本や海外に浸透しているのでしょうか。
ノーマライゼーションを世界で初めて提唱した人はデンマーク人の「ニルス・エリク・バンク-ミケルセン」です。1959年に彼が推進した「知的障害者福祉法」で、初めて「ノーマライゼーション」という言葉を使った法律が誕生しました。
この「ノーマライゼーション」という考え方は徐々に浸透し、1971年の「国連知的障害者権利宣言」1975年の「国連障害者権利宣言」などを通して世界各国に広がっていきました。
ノーマライゼーションの事例
「ノーマライゼーション」の理念の下で行われている活動は、身近なところにも多くあります。
以下では、日常生活や、医療看護、教育におけるノーマライゼーションの事例をご紹介します。
日常生活の身近なノーマライゼーションの事例
日常生活の身近なノーマライゼーションの事例は、すでにご紹介した「ユニバーサルデザイン」「バリアフリー」などがあります。
「ユニバーサルデザイン」や「バリアフリー」は、気づいていないだけで様々な場所で活用されています。
例えば、「自動ドア」は、障がい者だけではなく、ドアを開けられない小さな子供や手がふさがっている人などみんなに優しいデザインです。
また、トイレのセンサー式蛇口は、捻る動作ができない障がい者や、高齢者、小さな子供などが使いやすいデザインになっています。
普段何気なく使っているものが「誰に優しくデザインされたものか」を考えてみると、ノーマライゼーションの考えがいかに広まってきているのかがわかります。
医療・看護におけるノーマライゼーションの事例
医療や看護の場面でも、ノーマライゼーションの概念は広がっています。
例えば「第102回看護師国家試験 午後31問」では「ノーマライゼーションに基づくのはどれか。」という問題が実際に出題されました。
国家試験に出題されるほど、社会保障や社会的弱者への理解は大切だと国が考えているのがわかります。
教育におけるノーマライゼーションの事例
教育においてもノーマライゼーションが浸透しており、障がい者だけではなく、日本語を話せない人、貧困者など様々な言語・文化・民族が誰でも学べる環境づくりが行われています。
具体的には、「保育所訪問支援」などで教育における支援が行われています。
保育所等訪問支援は、以下のように「児童福祉法」で明記されています。
「この法律で、保育所等訪問支援とは、保育所その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるものに通う障害児につき、当該施設を訪問し、当該施設における障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援その他の便宜を供与することをいう。」
引用:厚生労働省「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書」
具体的には、障がい児が集団生活に馴染めるように指導したり、スタッフに支援方法を指導したりなどを行います。
参考:厚生労働省「保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書」
企業がノーマライゼーションを取り入れる場合の3つのポイント
ノーマライゼーションの考え方が徐々に広まっていく中、自社でノーマライゼーションの理念を取り入れようとしている企業もあるのではないでしょうか。
以下では、企業がノーマライゼーションを取り入れる場合の3つのポイントをご紹介します。
ポイント1.ノーマライゼーションの意味や目的を社内に共有する
企業がノーマライゼーションを取り入れる場合の1つ目のポイントは、ノーマライゼーションの意味や目的を社内に共有することです。
ノーマライゼーションの概念は、始めは理解するのが難しく具体的にどういうことなのかわからないと感じた人も多いのではないでしょうか。
ノーマライゼーションを取り入れるにあたって、「ノーマライゼーションとは一体何なのか」「ノーマライゼーションを取り入れる目的はなにか」などを共有しなければ、表面的な活動になってしまいます。
ノーマライゼーションの考え方を浸透させることによって、「標準化」「正常化」が自然と行える企業を目指しましょう。
ポイント2.すべての人にとって働きやすい環境を整える
企業がノーマライゼーションを取り入れる場合の2つ目のポイントは、すべての人にとって働きやすい環境を整えることです。
ノーマライゼーションの考え方は「社会的弱者を特別扱いする」というものではありません。障がいを持つ人が自ら努力し、その能力を発揮する機会を与えることを意識しましょう。
ノーマライゼーションの理念を具現化した「ユニバーサルデザイン」「バリアフリー」などを取り入れることも近道です。
さらに、社会的弱者だとされている人だけに注目するのではなく、従業員はそれぞれ事情を抱えて働いています。どのような人にとっても働きやすい環境を整えることを意識してください。
ポイント3.助成金の活用を検討する
企業がノーマライゼーションを取り入れる場合の3つ目のポイントは、助成金の活用を検討することです。
障害者を雇用するためには、障害者が働きやすいように、施設や設備、職場環境を改善する必要があり、企業にとって経済的な負担必要です。
金銭的な負担で諦めることなく、障がい者の雇用を増やすために「障害者雇用納付金制度」を活用しましょう。
「障害者雇用納付金制度」に基づく助成金として「障害者作業施設設置等助成金」「障害者福祉施設設置等助成金 」「障害者介助等助成金」などがあります。
ノーマライゼーションの課題
バリアフリーやユニバーサルデザイン、障害者雇用促進法などで、ノーマライゼーションの理念は徐々に広がってきました。
しかし、ノーマライゼーションというと高齢者や障がい者などの社会的弱者とする人にのみ注目されてしまうのが現実です。
ノーマライゼーションの理念や概念、日本や海外におけるノーマライゼーションの取り組みをより多くの人に理解してもらう必要があるでしょう。
ノーマライゼーションの意味を正確に理解しよう
- ノーマライゼーションとは「標準化」「正常化」という意味
- 日常生活・医療看護・教育などの現場でも取り入れられている
- 企業がノーマライゼーションを取り入れる際には助成金も活用できる
本記事では、ノーマライゼーションの考え方や、基礎知識について紹介しました。
高齢者や障がい者、そして様々な事情を持つ人々が共存して生活している現在では、すべての人にとって生きやすい環境を整えることが求められます。
ノーマライゼーションを具体化したバリアフリーやユニバーサルデザインなどが進んでいる中、これからますますノーマライゼーションについての考え方自体が標準化されるといえるでしょう。
本記事を参考に、自社でできるノーマライゼーションについて検討してみてはいかがでしょうか。
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