「いつかは起業してみたい」「大きなことを成し遂げたい」と、自分の活躍を夢見る若手ビジネスパーソンは多いでしょう。その夢を実現するために欠かせないことは、一体何なのでしょうか。
FUTURENAUT株式会社の代表取締役を務める櫻井蓮さん(24)は、持続可能社会の実現のために、「昆虫食」というミライの食を提案しています。
大学発ベンチャーとして会社を立ち上げてから、約3年。これまでコオロギパウダーを使った「ゴーフレット」や、カジュアルなたんぱく補給のための「携帯たんぱくチップス」などの開発・販売に加え、コオロギパウダーを使ったレシピコンテストなどイベントの開催にも力を入れてきました。
足取りを止めることなく挑戦を続けている櫻井さんに、詳しく話を聞きました。
食用コオロギを使ったフードサービスを開発「FUTURENAUT株式会社」
櫻井さんは今年3月、高崎経済大学大学院 地域政策研究科を修了。大学で昆虫食の心理研究を選んだことがきっかけとなり、研究室の指導教官をしていた教授と一緒に会社を立ち上げることになりました。
2019年7月、食用コオロギを使ったフードサービスを開発する大学発ベンチャーであるFUTURENAUT株式会社を創業。これまでコオロギパウダーを使った製品の開発・販売だけでなく、イベントなどの開催を通じて昆虫食の普及にも力を入れてきました。
U-NOTEでは2021年6月、当時の櫻井さんにインタビューしており、今回は当時からさらに一歩を踏み出した姿を改めて取材。この1年間で起きた出来事について、詳しく話を聞きました。
前回インタビュー記事はこちら▼
レシピグランプリなど「昆虫食を広める活動」にも注力
-----前回の取材では大手企業とのコラボによる「コオロギのフィナンシェ」など、コオロギパウダーを使った製品の開発に焦点をあててお話を伺っていましたが、現在応募を募っている「コオロギレシピグランプリ」は今年で3回目の開催なのですね。
櫻井さん:はい。第一回と第二回のコオロギレシピグランプリでは、計700以上のレシピ応募があり、好評でした。もちろん最初からうまく集客できていたわけではありませんが、「昆虫食に興味を持っている人」の周りの人々を取り込むためのSNS施策などが功を奏した印象はあります。
オフラインのイベントは、コオロギレシピグランプリ以外にも、百貨店での展示やショッピングモールでの昆虫食イベントなど、特に今年の夏は開催地域を広げて実施しています。
コオロギレシピグランプリのプレスリリース▼
-----コロナ禍でなかなか実現できなかったオフラインのイベント開催が最近やっと実施できるようになってきた…という感じでしょうか。
櫻井さん:そうですね。イベントには創業当時から力を入れたいと思っていたんです。製品の開発・販売と同じくらい「昆虫食を広める活動」も大切だと捉えているので。
モールでの昆虫食イベントでは、試食とあわせて子ども向けに昆虫食の講座を開いています。「子ども向け」と謳ってはいますが、実際には親世代の方々や学生の方々も興味を持って聴いてくださっていることも多いですね。
コオロギの自社養殖など、新しいことに次々と挑戦
-----起業してからこれまで、失敗してしまったことや一番大変だったことは?
櫻井さん:色々失敗はしてきましたが、「この失敗があったから学べた」と思っていることが多いですね。
ただ、"大変なこと"で言うと、昨年秋ごろにコオロギ養殖研究の規模を拡大し始めたことでしょうか。
食品メーカーの方ともお話してきた中で、これまで使用していた輸入品コオロギでは、こちらのリクエスト通りの規格が確約できないこともあり、自社規格をつくったり、粒度や味を自分たちでコントロールしたりした方が良いのでは…と感じ始めていました。
-----それで、養殖規模の拡大を始めたのですね。
櫻井さん:ちょうど昨年9月に、大学ベンチャーとして高崎経済大学から認定を受け、そのタイミングで大学の部屋を一室借りられることになったんです。そのため、市内の養殖企業と連携し、「ここで養殖をやってみよう」とチャレンジしてみました。
しかし、安定した生産が実現に向かう一方、餌や養殖方法を変えるとコオロギがうまく育たなかったり、獲れる量が不安定だったりと、今現在も試行錯誤しながら進めているところです。
-----次々と新しい取り組みをされているんですね。
櫻井さん:"新しい取り組み"と言えば、昨年11月には、東京都のアクセラレーションプログラムに採択され、4カ月の伴走支援を受けました。そのアウトプットとして、初めて「昆虫食」を前面に出さない製品「携帯たんぱくチップス」の応援購入プロジェクトをMakuakeにて行いました。
-----「昆虫食」を前面に出さない、と言うと?
櫻井さん:これまではパッケージにコオロギのイラストを入れるなど「昆虫食であること」を一つの売りとしていましたが、この時には、パッと見ただけでは昆虫食ということがわからないようなパッケージに敢えてしてみたんです。
スポーツをしている人や栄養に気を遣っている人をターゲットとし、「たんぱく質をカジュアルに補給できる製品」として打ち出しました。自分としても大きなチャレンジでしたね。
結果的には支援額を達成できたので、「たんぱく質が欲しくて、それがコオロギ由来だとわかっていたとしても買ってくれる人が一定数いるんだ」という新しい発見はありました。
-----「今後は昆虫食を前面に出さないで行こう!」といった方向性に切り替える可能性もあるのでしょうか。
櫻井さん:単純にそういったことにはならないと思います。
「単に昆虫を食べたい」ではなく、「タンパク質がとりたくて、できればコオロギ由来がいい」という人には「携帯たんぱくチップス」のような打ち出し方がいいのかもしれません。ただ、昆虫のおいしさや、昆虫にしか出せない良さを楽しみたい人にとっては、「携帯たんぱくチップス」はきっと物足りないと思うんです。
顧客の種類として、この2つの軸が存在するとわかっただけでも、Makuakeでの挑戦はとても有意義でしたね。
応援してくれる人の期待に応えるため、ただひたすら続けていく
------次々と色んな挑戦を行っている印象ですが、どのような想いで活動されているのでしょうか。
櫻井さん:自分ひとりで事業を行っているわけではないので、「失敗しても、やるしかない!」という気持ちがベースにありますね。
Makuakeで支援してくださった人やイベントで関わってくださったお客さん以外にも、学長含め大学関係者や、「協力できることはある?」と声をかけてくれる地元の事業者、群馬県の職員の方々など、会社を応援してくださる人たちが本当にたくさんいらっしゃるんです。
そういった人たちの気持ちに応えたくて、良い意味で「逃げられない状態」にあることが、一番原動力になっているのかもしれません。
-----なるほど、応援してくれる人々の存在が大きいんですね。起業当時の自分に何かアドバイスできるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?
櫻井さん:そうですね…当時の自分からは想像できなかったことが、良いことも悪いことも含めて、これまでたくさんありました。"悪いこと"と言っても、それが起こったことによって改善できた部分が大きかったので、当時に戻ってそれを未然に防ごうといったことは考えられないですね。
一つ言えることは「ただひたすら続けていくこと」はやっていた方がいい、ということでしょうか。
周りにサポートしてくれる人がいて、その人たちと一緒にやっていきたいと心から思えるなら、途中で放り投げずに続けていくべきだと思います。その時点ですでに「自分だけの事業」だけではなくなっているわけですから。
実際、私は常に「次はこれをやりたい」と頭の中で考えています。新しいことに挑戦しつつ、既存の事業にもしっかりリソースを割いて、大きな企業などの力も借りてバランスよく走っていく。小回りが利き、機動性が高い若手だからこその強みと言えるのかもしれません。
-----前回取材では「コオロギパウダーの高付加価値化や、コオロギパウダーのたんぱく質を分解した新しい食の展開、コオロギたんぱくを使った3Dプリンター食といった未来を思い描いています」と未来の展望について語ってくれていました。何か進展はありましたか?
櫻井さん:3Dフードプリンターメーカーの会社と話が進んでいますので、"コオロギたんぱくを使った3Dプリンター食"は現実味が帯びてきました。
今後も、パウダーではなく加工方法を変えてみるなど、新しいアプローチに挑戦し続けていきたいです。
-----ありがとうございます。応援しています。
次々と新しいチャレンジに向かって前進し続ける櫻井さん。その背景には、応援してくれる顧客や関係者の姿が垣間見えます。
実現したい何かがあるのなら、「ひたすら続けていくこと」を実践するために、自分を応援してくれる人を大切にしたり、うまく周囲を巻き込んだり、自分以外の人たちとの関わりを持ち続けることが欠かせないのかもしれませんね。
出典元:FUTURENAUT株式会社
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