コロナによりその単語が一気に知られることとなった「エッセンシャルワーカー」。人々が生活を送ったり、企業が活動を行ったりする際に欠かせない職業についている方々のことを指します。
そんなエッセンシャルワーカーの意味や注目されている背景を解説。職業例についてもご紹介しています。この機会にエッセンシャルワーカーに対して理解を深めたい方は、ぜひ一読してみてください。
- エッセンシャルワーカーに該当する職業例をご紹介
- エッセンシャルワーカーが抱える課題とは
- エッセンシャルワーカーに対して国や企業が実施している支援
エッセンシャルワーカーとは?
エッセンシャルワーカーとは、生活を維持するために必要な職業に従事している人のことを指します。社会機能維持者と呼ばれることもあります。
エッセンシャルワーカーに明確な基準はなく、一般的には医療・看護や介護・福祉、運送・物流に加え、スーパーやコンビニなどの販売員もエッセンシャルワーカーに含まれると考えられています。
エッセンシャルワーカーの定義は地方自治体ごとに分かれているのも特徴です。例えば、愛媛県では対象事業者を医療体制の維持・支援が必要な方々の保護の継続・国⺠の安定的な⽣活の確保・.社会の安定の維持・その他と5つに分けています。
エッセンシャルワーカーの職業例
エッセンシャルワーカーには、明確な基準がありません。地方自治体によって該当する事業者が異なっています。しかし、一般的にエッセンシャルワーカーに該当する職業もいくつか存在しています。知っておきたいエッセンシャルワーカーの職業の例をご紹介します。
医療・看護
医療・看護は、エッセンシャルワーカーを代表する職業です。病院や薬局で働いている方だけでなく、医薬品や医療機器の製造・販売・輸入を行っている事業者も対象とされています。患者の治療に必要な物資やサービスに関わる方すべてを医療・看護とし、エッセンシャルワーカーと呼ぶことが多いのが特徴です。
介護・福祉
介護・福祉に関連する職業も、エッセンシャルワーカーの代表のひとつです。高齢者や障害者などの居住を支援する生活支援関係事業者や、介護老人福祉施設や障がい者支援施設などで働く方も対象。介護・福祉を行ううえで必要な物資・サービスに携わる事業者もエッセンシャルワーカーです。
一次産業
一次産業に関連する職業もエッセンシャルワーカーに分類されます。一次産業に当てはまるのは、農業・林業・漁業などの産業。自然界に働きかけ、作物の栽培や採取を行います。食生活を維持していくのに欠かせないエッセンシャルワーカーです。
運送・物流
運送・物流に関する職業もエッセンシャルワーカーの1種。例えば、鉄道・バス・タクシー・トラックの運転手や、航空・空港管理、郵便物を配達したり倉庫を行き来し物を運んだりする職業が該当します。これらの職業は、企業が活動を維持するために必要不可欠。社会の安定を維持するエッセンシャルワーカーとして認識されています。
教員
教育に関わる教員という職業もエッセンシャルワーカーといわれています。教育は社会機能のひとつ。社会がどんな状況であれ、子供には教育を受ける義務があります。教員は小学校〜大学までが含まれているほか、保育士もエッセンシャルワーカーの対象です。
販売員
販売員もエッセンシャルワーカーの対象となる職業のひとつ。百貨店・スーパー・コンビニ・ドラッグストア・ホームセンターなど、小売店で働く販売員が該当します。また、商品の宅配や食品のデリバリーサービスを行う販売員もエッセンシャルワーカーです。
インフラ事業者
インフラ事業者もエッセンシャルワーカーに分類されます。インフラ事業者は、電力・ガス・石油・石油化学・LPガス・上下水道・通信・データセンターなど。国民が必要最低限の生活を安定的に送るために不可欠なサービスを提供している事業者を指します。
行政サービス
行政サービスは、企業の安定的な活動を維持するために不可欠なエッセンシャルワーカーのひとつ。警察・消防のほか、その他行政サービスが該当します。
その他
その他にも、さまざまな職業がエッセンシャルワーカーに含まれています。例えば、高炉や半導体工場など、設備の特性上、停止が困難な事業に従事している方もエッセンシャルワーカーです。
銀行や信用金庫などの金融機関もエッセンシャルワーカーのひとつ。国民が生活や経済を維持するために不可欠な事業がすべて該当します。
エッセンシャルワーカー以外の職業例
エッセンシャルワーカーとそれ以外の職業を見極めるポイントは、在宅ワークが可能かどうかです。
エッセンシャルワーカーに該当する職業は仕事の特性上、在宅勤務やリモートワークができません。対面の仕事が主で、毎日職場に足を運ぶほか、大勢の関係者と現場でやりとりを行います。そのため、エッセンシャルワーカー以外の職業かどうかは、在宅での仕事の可否で判断できます。
エッセンシャルワーカーが話題になった背景
エッセンシャルワーカーが話題になった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大が関係しています。新型コロナウイルスの影響により外出自粛が余儀なくされたなかでも、エッセンシャルワーカーの方々は、国民の生活を支えるために仕事をし続けています。
自身も感染するかもしれないという危険と隣り合わせの状況で活躍する姿が注目されたことで、エッセンシャルワーカーという言葉が一気に広まりました。
エッセンシャルワーカーが抱える課題
エッセンシャルワーカーの労働環境には、さまざまな課題が付き纏っています。コロナによりその言葉が広まると共に、今までスルーされていた問題も浮き彫りに。エッセンシャルワーカーが抱える課題と、現状どのような動きがあるのかをご紹介します。
低賃金
エッセンシャルワーカーが抱える1つ目の課題は、低賃金であることです。
エッセンシャルワーカーと呼ばれる方々のなかには非正規雇用も多く、最低賃金で働いている方も少なくありません。令和3年には地域別最低賃金額が引き上げられたものの、若者が自立し、健康的に暮らしていくには、月給で23万円前後、時給で1500円以上が必要といわれています。
もっとも高い東京でも、最低賃金は令和3年10月1日時点で1041円。いまだに800円台の地方も少なくなく、地域間格差は縮まっていません。
低賃金であることはコロナ以前から問題視されていましたが、コロナの影響でエッセンシャルワーカーの早急な賃上げ対応が求められるように。医療・看護や福祉、保育士など、一部の職業では賃上げ措置が行われていますが、すべての職業において大幅な賃上げ・底上げは実施されていないのが現状です。
参考:全労連「コロナ禍だからこそ 最低賃金」
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「エッセンシャルワーカーの賃上げを全体の労働者に波及させる取り組みを/国民春闘共闘の春闘方針」
労働環境や待遇
エッセンシャルワーカーが抱える2つ目の課題は、労働環境や待遇です。
エッセンシャルワーカーの多くは長時間労働を強いられていたり、長期間勤めていても給与が一定だったりと、厳しい労働環境で働いています。このような実態は、コロナ禍によりエッセンシャルワーカーが注目されることで、浮き彫りになりました。
これを受け、国民春闘共闘委員会は「2022年国民春闘方針」を確認。賃上げを求めるだけでなく、性別・雇用・年齢・地域・企業規模による差別をなくした均等待遇を求めたり、非正規労働者への一時金の支給を求めたりと取り組みを強化するとしています。
しかし、待遇改善はいまだ受け入れられてはおらず、労働環境や待遇は現状維持となっています。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「エッセンシャルワーカーの賃上げを全体の労働者に波及させる取り組みを/国民春闘共闘の春闘方針」
参考:日経ビジネス「エッセンシャルワーカーの待遇、労働環境を過去記事から考察する」
人材不足による負担
エッセンシャルワーカーが抱える3つ目の課題は、人材不足による負担です。
低賃金であることに加え、劣悪な労働環境や待遇により、エッセンシャルワーカーは全体的な人手不足に陥っています。
例えば、エッセンシャルワーカーの職業のひとつである教員は近年、大幅に人材が不足していることがわかっています。令和4年1月31日に文部科学省が公開した「「教師不足」に関する実態調査」によれば、小・中学校の教師不足は令和3年始業日時点で合計2086人。これには、非正規の職員が増えていることも関係しています。
教育現場に止まらず、ほかの職業についているエッセンシャルワーカーも同様。人材不足が解消されなければ、すでに働いている方のタスクが増えたり、勤務時間が長時間に及んだりしてしまいます。待遇や賃金の早急な対応が求められます。
参考:文部科学省「「教師不足」に関する実態調査」」
参考:日本財団ジャーナル「全ては子どもたちの未来のため。教師の過重労働、教師不足と向き合う現役教師たち」
従業員のメンタルヘルス
エッセンシャルワーカーが抱える4つ目の課題は、従業員のメンタルヘルスです。
エッセンシャルワーカーは長時間労働や人材不足による負担の増加など、メンタルに不調を抱えやすい状況で働いています。また、コロナの感染症対策や社会機能を維持するために、コロナに感染する危険性と常に隣り合わせなのも特徴です。
そのため、心の悩みに加えて、職場や仕事に関する悩みを抱える方も増加。各地方自治体では、エッセンシャルワーカーを対象に「こころの相談窓口」も設けています。
エッセンシャルワーカーは社会機能や企業の活動の維持に欠かせない存在です。彼らの心身の健康状態の維持は、私たちの生活に直結する問題です。
参考:埼玉県「新型コロナウイルス感染症とこころのケア」
エッセンシャルワーカーへに行われている支援の事例
コロナ下でも最前線で活躍し続けたエッセンシャルワーカーに対し、国や企業はさまざまな支援を実施しています。数あるなかから、5つの事例をご紹介します。
医療従事者の宿泊施設確保や保育所で預かる子どもへの配慮を促進
厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は、コロナウイルスの感染拡大による医療人材の減少を受け、複数の支援メニューを用意。医療従事者に対して宿泊施設を確保したり、医療従事者の子どもを保育所で預かる際に配慮を促したりと、複数の取り組みを実施しています。
参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染の拡大に対応する医療人材の確保の考え方及び関係する支援メニューについて」
医療従事者に慰労金を給付
厚生労働省は、医療従事者や病院で働く職員に対して最大20万円の慰労金の給付も実施。その他病院・診療所の職員に対しても、最大5万円の慰労金を給付しています。
慰労金を受け取るには申請が必要かつ、条件によって慰労金の額に変動があるものの、コロナウイルス感染拡大の最中、感染を食い止めるため奔走してくれた医療従事者に対し、感謝の気持ちを示す支援となりました。
参考:厚生労働省「「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金交付事業」のご案内」
国内外のおよそ45万人の従業員に一時金を支給
イオン株式会社は、経営するスーパーやコンビニエンスストアなどで働く従業員に対し、1〜2万円の一時金を支給。コロナ禍においても来店客数が変わらないなか、通常の業務に加えて感染拡大を予防するための業務負担が増えていることに配慮し、一時金の支給を決めたといいます。
給付対象は、国内外の約45万人。支給総額は約60億円に上りました。
全国47都道府県を対象にSOMPOケアの介護職員に特別手当を支給
SOMPOホールディングス株式会社は、SOMPOケアの介護職員に対して特別手当を支給。1日3,000円(パートは時給に375円/時加算)とし、医療現場の最前線で働く従業員への感謝の気持ちを表す制度としてニュースになりました。
当初は7都道府県限定で実施していましたが、緊急事態宣言の発令と同時に47都道府県に展開しました。
参考:SOMPOホールディングス株式会社「新型コロナウイルス影響下におけるSOMPOの取組み」
ANAは雇用形態にかかわらず全社員一律で特別金を支給
全日本空輸(ANA)は、全社員に一律10万円の特別金を支給しています。コロナによって観光業の動きが止まり、会社として大きな影響を受けた全日本空輸。コロナ下でもお客様の衛生や安全をケアするため働いた従業員の努力に報いる制度として、ニュースに取り上げられました。
生活を維持するのに欠かせない職業、エッセンシャルワーカー
- エッセンシャルワーカーとは生活を維持するために必要な職業に従事している人
- エッセンシャルワーカーはコロナの影響で注目が集まった
- 一部のエッセンシャルワーカーに対して賃金改善の動きが見られる
- コロナ下で活躍するエッセンシャルワーカーに一時金を支給している企業は多い
エッセンシャルワーカーは、コロナにより一気に注目が集まった、生活を維持するために必要な職業に従事している方々のことを指します。生活を送るうえで欠かせない存在ですが、彼らの活躍がニュースで取り上げられると共に、改善しない待遇や労働環境に関する問題が浮き彫りになりつつあります。
現在では国に対して改善を促す活動も多く行われ、実際に医療従事者や介護・福祉業界では賃金への対応があるなど、少しずつ改善に向かっています。
私たちの生活を支えてくれている職業の方に敬意を払い、課題を認識することが重要だといえるでしょう。
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