航空機の安全なフライトを支える「航空整備士」。離陸前の点検や定期的な点検など、機体に異常がないかを細部までチェックする、責任の大きな職業です。
航空整備士として活躍するには、「航空整備士」の国家資格が必要。本記事では試験の難易度や受験要件に併せ、向いている人の特徴や年収の目安なども解説します。
航空整備士とは?
航空整備士は、名前の通り航空機の整備を行う職業のことです。機体やエンジンなどの強度に問題はないか、正しく機能するかを点検し、航空機が安全にフライトできるよう修理を行います。
運行が終わった後の機体の点検や整備も航空整備士の仕事。消耗している部品を交換したり、コックピット内の計器をチェックしたりして、次のフライトに備えます。
航空整備士の業務は航空法に定められているため、航空整備士として活躍するには「航空整備士」の国家資格が必要です。
ほかの専門職にもいえることですが、50〜60代が今後現役を引退した後には、若手の人材不足が予想されています。航空整備士は、今後需要が高まるといわれている職業のひとつです。
航空整備士の仕事内容
航空整備士の仕事は、主に点検と整備です。しかし、ライン整備・ドック整備・ショップ整備と航空整備士の種類によって、どんな業務を行うのかはやや違いがあります。各部門の仕事内容をご紹介します。
1.ライン整備
航空整備士の1つ目の仕事内容は、ライン整備です。
ライン整備とは、航空機が旅立つ前の最終点検のこと。航空機整備の最後の砦ともいわれています。機体の外側や内側に異常がないかを細かくチェック。パイロットやCAからも運行状況や客室内の状況を聞き、トラブルがあれば修復作業を行います。
40〜60分という限られた時間内で迅速かつ的確に、ほかの整備士と連携を取りながら作業に当たらなければならないためプレッシャーは大きいものの、航空機が無事にフライトを終えられた際には大きなやりがいを感じられます。
2.ドック整備
航空整備士の2つ目の仕事内容は、ドック整備です。
ドック整備とは、格納庫に入れた航空機の点検や修理、部品の交換を行う作業のこと。ライン整備は短時間で機体やシステム全体を点検しますが、ドック整備では1〜2ヵ月ほどかけて大掛かりな整備を行います。
休みなくフライトし続けるとトラブルが起きることを避けられないため、すべての機体は一定の時間が経過したらドック整備を行うのが基本です。
3.ショップ整備
航空整備士の3つ目の仕事内容は、ショップ整備です。
ショップ整備では、機体から下ろした部品の整備や点検を行います。ライン整備やドック整備の過程で見つけた、不具合のある部品を修理するのが基本的な業務です。
部品ひとつに不備があるだけで航空機はフライトが出来なくなるため、安全な運行を行うには、ショップ整備による入念な点検作業が欠かせません。
参考:日本航空大学「職業紹介 - 航空整備科からの未来」
航空整備士の年収の目安
航空整備士の年収の目安は、約509万円です。厚生労働省が公開している「令和2年分民間給与実態統計調査結果」による、一般労働者の賃金の平均値が男女計約433万円であることと比較すると、平均よりも高い年収といえます。
参考:厚生労働省「令和2年分民間給与実態統計調査結果について」
航空整備士に必要な国家資格「航空整備士」とは
航空整備士として活躍するには、「航空整備士」の国家資格が必須です。資格取得を目指す場合に知っておきたい、試験の内容や種類、受験資格、そして難易度をご紹介します。
航空整備の内容
航空整備士の資格試験は、学科試験と実施試験に分かれています。学科試験は科目合格制度を採用しているので、一度で合格せずとも、1年以内に実施されている全6回の試験で全科目に合格すれば問題ありません。
一方、実施試験は毎月個別に行われているため、具体的な日程は決まっていません。学科の合格通知を受領してから2年以内に実施されるのが基本。受験者は航空機に航空従事者試験官と同乗し、合格に値する技量を有しているかどうかを判断されます。
参考:国土交通省「Ⅵ.航空従事者技能証明等の試験について」
参考:国土交通省「航空整備士実地試験要領」
航空整備を取得するための要件
「航空整備士」の資格は、一等航空整備士と二等航空整備士の2種類があります。一等航空整備士の資格を取得するには、20歳を超えており、かつ以下のいずれかの実務経験が必要です。
- 付属書第1に規定する耐空類別が飛行機輸送C、または飛行機輸送Tである飛行機についての6月以上の整備の経験を含む4年以上の航空機の整備の経験
- 国土交通大臣が指定する整備に係る訓練課程を修了した場合は、付属書第1に規定する耐空類別が飛行機輸送C、または飛行機輸送Tである飛行機についての6月以上の整備の経験を含む2年以上の航空機の整備の経験
二等航空整備士の資格を取得するには、19歳以上かつ以下のいずれかを満たしている必要があります。
- 技能証明を受けようとする種類の航空機についての6月以上の整備の経験を含む3年以上の航空機の整備の経験
- 国土交通大臣が指定する整備に係る訓練課程を修了した場合は、技能証明を受けようとする種類の航空機についての6月以上の整備の経験を含む1年以上の航空機の整備の経験
つまり、どちらの資格もまずは実務経験を積むことがまずは必須。その後、受験要件を満たしたタイミングで航空整備士の試験を受けることができます。
参考:国土交通省「Ⅵ.航空従事者技能証明等の試験について」
航空整備の難易度
航空整備士の試験は、難易度が高いとして知られています。全国平均の合格率は約20%。受験者全員が整備業務の経験者であることを考えると、やはり難関資格であるといえるでしょう。
なかには航空整備士の学科試験の合格率が高い専門学校も存在するので、短期間で確実に資格取得を目指す方は、専門学校ごとの合格率もチェックするのがおすすめです。
航空整備士になるための方法
航空整備士になるには、複数のルートがあります。
一般的なのは、高校卒業後に4年制大学・短期大学・専門学校に入学すること。卒業後には航空会社や整備会社などの採用試験を受け、まずは整備士としての経験を積みます。
二等航空整備士の資格をまず取得するという場合は、3年以上の実務経験もしくは、航空局認定の整備訓練課程を終了後、1年以上の実務経験を経てから二等航空整備士の国家試験を受けます。
二等航空整備士の資格ではなく、一等航空整備士の資格を一番に目指す場合は、整備士として4年以上の実務経験が必要。その後、一等航空整備士の国家試験に合格すれば、資格を得られます。
いずれにせよ航空整備士になるには、一定の実務経験が必要です。専門学校に通う場合でも最低5年はかかるため、すぐには資格取得はできないと覚えておきましょう。
航空整備士に向いている人の特徴
航空整備士を目指す場合に気になるのが、向いている人の特徴です。専門性の高いスキルが求められる以外に、どんな資質があれば航空整備士として活躍できるのでしょうか。航空整備士に向いている人の3つの特徴をご紹介します。
1.コツコツ勉強できる
航空整備士に向いている人の1つ目の特徴は、コツコツ勉強できることです。
航空機に採用されている技術は日々、進化し続けています。機体や部品を点検する際、初めて見るばかりということでは、航空機の安全な運行を保証できません。
そのため、航空整備士には最新技術や整備に関する最新知識を学び続けることが求められます。働きながらも時間を確保し、コツコツ勉強できる方は航空整備士に向いているといえるでしょう。
2.責任感がある
航空整備士に向いている人の2つ目の特徴は、責任感があることです。
航空整備士の仕事は、人命に関わります。ライン整備・ドック整備・ショップ整備など担当の部門に関係なく、各作業では完璧が求められます。少しの異常や違和感を見逃さず、自信を持って異常なしといえるよう、責任感を持って作業を行える方は航空整備士に向いています。
3.航空機が好き
航空整備士に向いている人の3つ目の特徴は、航空機が好きであることです。
航空整備士に求められる整備や航空機に関する知識は、非常に専門性が高いのが特徴です。機体に採用されている技術は常にアップデートされることもあり、自ら学ぶ姿勢が求められますが、そもそも航空機が好きでなければ新たな知識を身に付け続けることは難しいでしょう。
航空機を操縦したり、乗ったりしている時間は多くありませんが、航空機への愛があることは航空整備士として活躍するために重要な要素のひとつです。
航空整備士に必要なスキル
航空整備士として活躍するには、資質以外にスキルも重要です。資格取得後に意識して身に付けたい3つのスキルをご紹介します。
1.コミュニケーション能力
航空整備士に必要な1つ目のスキルは、コミュニケーション能力です。
航空整備士の作業は、部門ごとに細分化されています。ライン整備であれば、機体を点検する方と異常があった場合に連携し作業にあたる方とがいます。限られた時間内で的確かつ確実な作業を完結するには、ほかの整備士とのスムーズな連携が不可欠です。
日頃から整備士仲間で良好な関係を築くことができていれば、効率的に作業を行うことが可能。コミュニケーションスキルは、航空整備士に必要な能力のひとつです。
2.冷静に判断する能力
航空整備士に必要な2つ目のスキルは、冷静に判断する能力です。
航空整備士の作業、特にライン整備は約1時間の間に機体の不備を見つけ、適切な処理を行わなければなりません。品質を落とさず安全な運行を保証するために、どんな作業が必要なのかを見極める、冷静な判断力が求められます。
3.高度な整備技術
航空整備士に必要な3つ目のスキルは、高度な整備技術です。
航空機には常に最新技術が採用されています。航空整備士は、それらの技術に対応できる専門知識と高度な整備技術が必要です。資格取得後もスキルアップを怠らず、さまざまなシーンに対応できる技術を身に付けておくことが重要です。
航空整備士は人命を扱うやりがいの大きな仕事
- 平均年収は一般的な平均よりもやや高め
- 資格取得には整備の実務経験が必要
- 人命を扱う大きなやりがいある仕事
航空機の安全な運行に欠かせない航空整備士の存在。主な業務は3部門に分かれていますが、いずれにせよ大切なのは少しの異常も見逃さずに対応する責任感と、整備に関する高度な専門知識と技術です。
一つひとつの作業へのプレッシャーは大きいですが、航空機が無事に運行を終えられたときには大きなやりがいを感じられます。
航空整備士として働くためには国家資格の取得が必要です。航空機が好きな方、航空業界で活躍したい方は、航空整備士の資格取得を検討してみてはいかがでしょうか。
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