税理士資格を取得するために受験が必要な「税理士試験」。年に一度開催されており、合格率は例年20%と、比較的難易度の高い試験です。合格することで3つの独占業務を行える税理士になれるため、学生・社会人ともに人気があります。
本記事では、そんな税理士試験について詳細に解説。受験資格から試験科目、試験全体の難易度についてもご紹介しています。独学で合格を目指している方は、5つの勉強方法も参考にしてみてください。
税理士試験とは?
税理士試験とは、税理士の国家資格を取得するために実施されているものです。税理士として必要な学識やその知識を利用した応用能力の有無を判定します。
参考:日本税理士会連合会「税理士の資格取得」
税理士試験の難易度と合格率
税理士試験は、数ある国家資格試験のなかでも比較的難易度が高いのが特徴です。会計・経営・労務系の資格としては、会計資格の最高峰である公認会計士と同程度の難易度といわれることもあります。
合格率は、令和元年で18.1%、令和2年で20.3%、令和3年で18.8%と例年20%前後というデータが出ています。年齢別に見ると、特に25歳以下の大学在学中の方が多く合格しており、勉強時間にある程度余裕があるほうが合格しやすいことがわかります。
参考:国税庁「令和元年度(第69回)税理士試験結果」
参考:国税庁「令和2年度(第70回)税理士試験結果」
参考:国税庁「令和3年度(第71回)税理士試験結果」
税理士試験の日程・スケジュール
税理士試験は年に1度、例年8月上旬に実施されています。場所は、各国税局・国税事務所の所在地など。具体的には、北海道・宮城県・埼玉県・東京都・石川県・愛知県・大阪府・広島県・香川県・福岡県・熊本県・沖縄県があげられます。
その年の4月上旬に試験実施官報公告があり、5月上旬には受験の申込受付が開始します。
試験は、全11科目を3日間に分けて実施。受験者はそのうち5科目を選択し、選んだ科目がある日にのみ試験を受けます。
合格発表は11〜12月頃。発表までに時間がかかるのは、受験者の数が非常に多いためです。令和3年度だけでも受験者数は2万7千人ほどとなっています。
税理士試験は例年ほぼ同時期に行われているぶん、学習計画を立てやすいのが特徴。試験日から逆算してスケジュールを考え、目標を明確して学習に臨みましょう。
参考:国税庁「令和3年度(第71回) 税理士試験 試験場一覧」
参考:国税庁「令和4年度(第72回)税理士試験実施スケジュールについて」
税理士試験の受験資格
税理士試験を受けるには、受験資格を満たさなければなりません。受験資格は、学識・資格・職歴・認定の4つにわかれており、どれか1つに該当している方のみ税理士試験の受験が可能です。
1.学識
1つ目の受験資格は学識です。学識の場合は、以下の受験資格があります。
- 大学、短大または高等専門学校を卒業した者で、法律学または経済学に属する科目を1科目以上履修している
- 大学3年次以上の学生で法律学または経済学に属する科目を含め62単位以上を取得している
- 専修学校の専門課程を修了しており、法律学または経済学に属する科目を1科目以上履修している
- 司法試験の合格者
- 旧司法試験法の規定による司法試験の第二次試験または、旧司法試験の第二次試験の合格者
- 平成18年以降に、公認会計士試験短答式試験に合格している
- 公認会計士試験短答式試験全科目免除者
純粋に税理士のみを目指す場合は、大学・短期大学・高等専門学校・専修学校で、法律学や経済学を学習しなければなりません。つまり、税理士を目指す場合なるべく早い段階で動き出す必要があります。
すでに大学や高等専門学校卒業者の場合は、通信制大学や社会人向けの専門学校に通い、必須科目の履修が求められます。その時点で最低でも1年かかることは頭に入れておきましょう。
2.資格
2つ目の受験資格は資格です。資格の場合は、以下の受験資格があります。
- 日本商工会議所主催簿記検定試験1級合格者
- 昭和58年度以降に、公益社団法人全国経理教育協会主催簿記能力検定試験に上級合格している
- 会計士補
- 会計士補となる資格を有する者
すでに簿記1級を持っている方は、資格による税理士試験の受験資格が認められます。そのため、簿記保有者のなかには税理士の資格取得を目指す方は多く存在します。
専門学校に通って必須科目を履修するよりも、簿記1級を取得したほうが最短ルートかと思いきやそうでもありません。簿記論や財務諸表論は簿記検定で学習する内容が含まれてはいるものの、税理士として求められる簿記に関する知識は2級程度でも十分です。
簿記検定1級の合格率は10%前後であり、それなりに難易度が高い試験です。簿記の道を極めることがそもそも難関であるため、受験資格を得るために簿記検定の合格を目指すのは遠回りになってしまいます。
参考:商工会議所の検定試験「1級受験者データ - 簿記 -」
3.職歴
3つ目の受験資格は職歴です。職歴の場合は、以下の業務において通算2年以上の実務経験があるかどうかが受験資格です。
- 弁理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・不動産鑑定士の業務
- 法人または事業を営む個人の会計に関する事務
- 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助の事務
- 税務官公署における事務または、その他の官公署における国税若しくは地方税に関する事務
- 行政機関における会計検査等に関する事務
- 銀行等における貸付け等に関する事務
税理士として登録するためには、税理士試験に合格したあと2年の実務経験が求められます。ただし、実務経験は試験の前後どちらでも可能。そのため、税理士試験を受ける方のなかには先に実務経験を積み、より専門的な知識を身に付けていることを証明するために資格取得を目指す方もいます。
4.認定
4つ目の受験資格は認定です。認定の場合は、国税審議会より受験資格に関して個別認定を受けている方が受験資格を満たしているとみなされます。
非常にさまざまな受験資格が設けられているので、その点では多くの方に資格取得の機会が開かれているといえます。
ただし、学識・資格・職歴とどれを見ても、受験資格を得るまでにある程度の時間が必要です。そのうえ、学習時間も確保しなければならないため、資格取得までは数年かかることを覚悟しておきましょう。
参考:国税庁「受験資格について」
税理士試験の試験内容・科目と合格基準
税理士試験では、会計学と税法から問題が出題されます。科目数は11個で、簿記論・財務諸表論・所得税法・法人税法・相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税
事業税・固定資産税があります。受験者は、そのうち5科目を選択して試験を受けます。
試験科目の選択方法にも決まりがあります。簿記論と財務諸表論は必須選択。さらに、所得税法または法人税法のいずれかを選択し、あとは相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税・事業税・固定資産税から残りの科目を選びます。ちなみに、消費税法と酒税法はいずれか1科目、住民税と事業税もいずれか1科目しか選択できません。
合格基準は、各科目で満点の60%。ただし、各科目の配点は公表されていないため、実質的には競争試験といわれています。例年の合格率は20%前後なので、受験者全体の上位20%以上に入るよう、学習を進めることが大切です。
参考:国税庁「税理士試験の概要」
税理士試験に合格するための勉強時間の目安
税理士は難関資格なので、合格するためにはそれなりの勉強時間を確保しなければなりません。一般的にいわれているのが、3000〜4000時間程度。1日10時間勉強するとして、ほぼ1年ほどの年数が必要です。
選択する科目によっても総勉強時間は異なります。11科目のなかでもいずれかが選択必須である所得税法と法人税法は試験でのボリュームも多いため、最低でも600時間程度の勉強する必要があります。
次に勉強時間が長いのが選択必須の簿記論・財務諸表論と、相続税・消費税法で、500時間程度の時間を確保しなければなりません。そのほかの科目は最大でも250時間が目安です。
社会人として働きながら合格を目指す場合、まずは1日のうちで確保可能な勉強時間を計算。そこから1年の総勉強時間を導き出しましょう。冒頭で説明した3000〜4000時間はあくまでも最低限の勉強時間ですので、上位10%以上を目指す場合はより長く勉強する必要があります。
税理士試験を独学で合格するための5つのポイント
学習にかかる費用を抑え、自分のペースで学びたい方は独学を検討してみるのもよいかもしれません。テキストや問題集などさまざまな教材が販売されており、基礎から学ぶことができます。ただし、予備校に通いながら学習を進めるのに比べて、難易度が高いのは間違いありません。独学で税理士試験に合格することを目指している方向けに、5つのポイントを解説します。
ポイント1.受験科目の選択
税理士試験を独学で合格するための1つ目のポイントは、受験科目の選択です。
税理士試験では全11科目のうち、5科目を選択する選択制を採用しています。科目によっても難易度が異なり、また必要とされる勉強時間も違います。自身の得意・不得意を考慮して科目を選ぶほか、勉強時間をどれだけ確保できるかによって科目を選択することも検討してみてください。
また、税理士試験は科目合格制です。一度に5科目すべてに合格する必要はなく、トータルで5科目合格すればよいという考え方です。さらに合格科目の有効期限もないため、時間をかけて焦らずじっくりと勉強する道もあります。
自身のモチベーションを保てる範囲で勉強計画を立て、無理のない科目選択を行うことで、独学でも合格を目指すことができます。
ポイント2.通信講座や専門学校のテキストを購入する
税理士試験を独学で合格するための2つ目のポイントは、通信講座や専門学校のテキストを購入することです。
独学で学習する際にもっとも大切なのがテキスト選びです。さまざまな教材が販売されていますが、おすすめは資格専門の学校や通信講座などのテキストを購入すること。試験対策の教材は1冊の価格が高いため、金額面を考えても無闇に揃えるのではなく、基礎から応用までを通しで学習できるテキストが適しています。
テキスト以外には、問題集や直前予想問題集も1冊購入しておくと安心です。
ポイント3.過去問をフル活用する
税理士試験を独学で合格するための3つ目のポイントは、過去問をフル活用することです。税理士試験だけでなく、何かしらの試験を受ける場合の基本です。
税理士試験は非常に出題範囲が広いのが特徴。そのためまずは過去問を解き、出題傾向を把握することが大切です。頻出する論点を掴むと同時に、試験全体の難易度もわかります。
過去問を通しで解くことで、時間配分を考えておけるのもポイント。難問や奇問が混ざっている場合でも、何を優先して解くべきか解答順を考える力もつきます。
ポイント4.学習をルーティン化する
税理士試験を独学で合格するための4つ目のポイントは、学習をルーティン化することです。
社会人として働きながらや、学生として学業を学びながらの税理士試験は非常に大変です。自由な時間が限られているため、その範囲内で効率的に勉強をする必要があります。そのため、毎日の学習はルーティン化してしまうのがおすすめ。平日は朝少し早く起きて2時間勉強し、休日はまとめて10時間勉強するなど、学ぶ時間を固定することで、着実に知識を身に付けることができます。
家での勉強以外に、外での時間の使い方もルーティン化しておくのがよいでしょう。例えば、通勤と帰りの電車のなかでは、その日の朝に学んだ内容をスマホで簡単に復習するのを習慣化しましょう。内容がきちんと定着しているかを確認します。
仕事と試験勉強がどちらにとっても邪魔にならないよう、スケジューリングは意識しておきたいポイントです。
ポイント5.独学で学ぶ科目と予備校で学ぶ科目を分ける
税理士試験を独学で合格するための5つ目のポイントは、独学で学ぶ科目と予備校で学ぶ科目を分けることです。
実は、税理士試験は独学で合格を目指すには難関がいくつかあります。それが税法科目です。税法の基礎知識自体は簿記3〜2級程度といわれていますが、税法の試験問題を対策できるテキストの内容が非常に難易度が高く、独学向きではないのです。
大学や短期大学などで税法について学んだ経験がある方の場合は独学でも可能性はあるかもしれませんが、初学者が学ぶにはやや難易度が高いといえます。
一方で、必須科目である簿記論と財務諸表論については、基礎知識であれば独学が可能です。独学で合格できた方の多くは、簿記論と財務諸表論を重点的に勉強しています。科目単体での合格率も高いため、初学者向き。簿記論と財務諸表論のみ独学で、そのほかの項目は予備校で学ぶなどの勉強方法も検討してみてください。
税理士試験に必要な費用
税理士試験に必要な費用は、一度に受ける科目数により変動します。1科目であれば受験料は4,000円。2科目なら5,500円、3科目なら7,000円、4科目なら8,500円、5科目なら10,000円です。ほかの難関資格に比べて、受験料は低めに設定されています。(2022年4月30日現在)
しかし、これは受験料のみの金額。試験対策を行うために予備校に通う場合、最低でも講座費用20万円がかかります。大手の予備校であれば60万円ほどかかることも少なくありません。
合格までにかかる費用としては70〜100万円程度必要だと覚えておくとよいでしょう。
参考:「受験の申込みについて|問9 受験手数料はいくらですか。」
難易度は高いがじっくり挑戦もできる税理士試験
- 合格率は例年20%前後
- 科目合格制で有効期限がないため焦らず受験できる
- 最低でも3000〜4000時間ほどの勉強が必要
税理士資格の試験は会計資格のなかでも難易度が高いのが特徴です。制度としては5科目選択制を取っており、また一度合格した科目の有効期限はないため、焦らずじっくりと挑戦しやすい資格でもあります。基本的には予備校に通って取得を目指すのが一般的ですが、必修の2科目に限っては初学者が独学で合格することも可能です。
本記事で紹介した5つのポイントを参考に、無理のない学習スケジュールで合格への一歩を踏み出してみてください。
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