税に関する専門知識を有した「税理士」。税の専門家として、個人から企業までさまざまな場面で求められる職業です。
本記事では、税理士の資格取得を検討している方に向けて、なり方を解説。税理士にしか行えいない業務の内容や向いている人の特徴についても併せてご紹介します。
学生だけでなく社会人の方で、これから何かの資格を取りたいと考えている場合は、ぜひ税理士資格も候補のひとつにしてみてください。
税理士とは?
税理士は、税の専門家です。税理士法第1条に基づいて役割が定められており、独立した公正な立場において納税義務の適切な実現を図るために業務を行います。
税理士の仕事は独占業務であるため、税理士業務に携わるには税理士会に入会し、かつ税理士として登録を行うことが必須。令和4年3月末日時点で、計8万163名が税理士として登録されています。
参考:日本税理士連合会「税理士制度」
参考:日本税理士連合会「税理士登録者数」
税理士の仕事内容
税理士の仕事内容は主に3つ。税務代理・税務相談に加えて税務書類の作成があげられ、この3つはどれも税理士の独占業務です。それぞれ具体的にどんな業務を行っているのか、簡単に解説します。
1.税務代理
税理士の1つ目の仕事は、税務代理です。
税務代理とは、クライアントの代理人として確定申告や青色申告などの承認申請を行う業務のこと。ほかにも税務調査の立ち合いや、税務署の決定に不服がある場合の申し立てをクライアントの代理人として行います。
2.税務相談
税理士の2つ目の仕事は、税務相談です。
名前の通り、税金に関して困ったことや疑問がある場合に相談に乗るのが業務内容。税理士への業務の委託を検討している方からの事前相談を受けたり、検討事項に対して助言したりします。
3.税務書類の作成
税理士の2つ目の仕事は、税務書類の作成です。
税務申告をする際、税務署に提出しなければならない書類の作成を代行する業務です。確定申告書・青色申告承認申請書・相続税申告書だけでなく、さまざまな財務書類を作成します。
参考:日本税理士連合会「税理士とは」
税理士が活躍している場
税理士が活躍している場所は、主に税理士法人や税理士事務所の2つです。それぞれどのような違いがあるのか、運営形態と税理士業務の中身について解説します。
1.税理士法人
税理士が活躍している1つ目の場所は、税理士法人です。税理士法人とは、税理士が税務業務を組織的に行うことを目的に、2人以上の税理士が共同で設立した会社のこと。税理士法人は令和3年3月末日時点で4356と申告数が少ないものの、会社という形態のため、働く税理士にとっては安心感があります。
2.税理士事務所
税理士が活躍している2つ目の場所は、税理士事務所です。令和3年3月末日時点で5万6398の届出が出されており、税理士法人と比べて圧倒的に数が多いのが特徴。ただし、個人事業という扱いのため、社会保険の完備を重視する方にはやや不向きです。
税理士法人と税理士事務所、所属する場所による業務内容の違いはほとんどありません。福利厚生が整っていることを重視するのか、意思決定の素早さを重視するのか、自身に合ったスタイルで働ける場所を選んでみてください。
参考:国税庁「日本税理士会連合会|3 独占業務とその根拠法令」
税理士の年収の目安
税理士は、比較的年収の高い職業だといわれています。
厚生労働省が公開している「令和元年賃金構造基本統計調査」によれば、企業規模10人以上の会社に所属する税理士の平均月給は約47万円。年間のボーナス額は約117万円です。年収に換算すると約680万円ほどとなります。
参考:厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査|職種別所定内給与額及び年間賞与額」
税理士のやりがい
税理士は、専門知識を活用して困っている方のサポートをできるのが大きなやりがいです。お金や税金に関して悩んでいる方や企業経営者は多く、よきパートナーとして適切な助言を行えます。アドバイスにより状況が改善に向かえば、より大きなやりがいを感じられるはずです。税理士として活躍した場合に感じられる3つのやりがいを解説します。
1.社会への貢献度が高い
税理士の1つ目のやりがいは、社会への貢献度が高いことです。
国の基本である納税制度には、さまざまな申請書類の用意や税務業務が伴います。企業から個人事業主まで、多くの方の納税をサポートすることにより、税金が正しく国に納められます。これにより公共サービスが充実したり、必要としている方に適切な支援が行われたりと、生活者にとって暮らしやすい社会を整えることが可能です。
自身の働きにより、国の納税制度が正しく機能していることを実感できるのは、税理士ならではのやりがいでしょう。
2.困っている方をサポートできる
税理士の2つ目のやりがいは、困っている方をサポートできることです。
税務代理や税務相談、税務書類の作成などの業務を通して、税理士はお金に関して困っている方の支援をすることが可能。税金の申告方法や税金の払い戻し方法など、税金に関する専門知識を活用して、困りごとや悩みごとを解決に導くことができます。
3.経営者に頼られるパートナーになれる
税理士の3つ目のやりがいは、経営者に頼られるパートナーになれることです。
企業の顧問税理士として契約を結んだ場合、税理士や経営者にとって頼れるパートナーになり得ます。企業の財務状況を分析し、適切な経営アドバイスができるのは税理士だけだからです。
頼られることが多い分、責任感も大きいですが、アドバイスにより経営が上向いたり企業の成長が見られたりすれば、大きなやりがいを感じられます。
税理士に向いている人の特徴
税理士を目指すうえで気になるのは、どんな人が向いているのかです。税理士に適性のある人物として3つの特徴をご紹介します。
1.学ぶことが好き
税理士に向いている人の1つ目の特徴は、学ぶことが好きであることです。
難関である税理士試験に合格するには、毎日少しずつ学習を進めなければなりません。資格取得まで早くて2〜3年、遅くて10年かかる方もいるなかで諦めず勉強を続けるには、学ぶことが好きでなくては難しいでしょう。
また、税改正や新たな制度の採用など、税金にまつわる情報は移り変わりが早いのが特徴。情報を常にアップデートし、学び続ける姿勢を持ち続けられる人は、税理士に向いているといえます。
2.倫理観・正義感を持っている
税理士に向いている人の2つ目の特徴は、倫理観・正義感を持っていることです。
税金制度は、全国民が守る義務があります。業務を行ううえで、クライアントから脱税の話を持ちかけられた際には、正しい倫理観を持って悪事に加担せず、相手を説得する姿勢が必要です。
3.企業経営に興味がある
税理士に向いている人の3つ目の特徴は、企業経営に興味があることです。
税理士の業務では、企業の決算を担当することがあります。その際、コンサルタントとして経営に関する助言が必要になることも。的確なアドバイスをすることができれば、経営者からの信頼を得られ、業務もスムーズに行えるようになります。
税理士になるための方法
税理士になる方法は、大きく分けて3つあります。もっとも一般的なのは、税理士試験に合格し、2年の実務経験を積んでから税理士として登録することです。ほかにも2つの資格取得ルートがあるので、それぞれ詳細について解説します。
1.税理士試験に合格して、2年の実務経験を積む
税理士になるための1つ目の方法は、税理士試験に合格し、2年の実務経験を積むことです。3つある方法のうち、最短かつ目指しやすいルートです。
税理士試験は年に1回、各国税局・国税事務所の所在地等にて8月上旬に開催されています。試験科目は選択制5科目。会計学に属する科目から2科目、税法に属する科目から3科目を選択し、試験を受けます。
難易度の高い税理士試験ですが、科目合格制という制度を採用しており、受験者は1科目ずつ試験を受けることが可能。合格科目は有効期限に決まりがないため、時間をかけて資格を取得することもできます。
試験合格後は、会計事務所や税理士事務所で2年以上の実務経験が必要。その後、税理士として登録を行うことで、税理士として業務にあたれます。
参考:日本税理士連合会「税理士の資格取得」
2.弁護士または公認会計士の資格を取得する
税理士になるための2つ目の方法は、弁護士または公認会計士の資格を取得することです。先ほど紹介した「試験+実務経験の資格取得」のルートより、圧倒的に難易度が高くなります。
税理士の資格を取るために弁護士や公認会計士の資格をまず取得する方はほぼおらず、キャリアの選択肢を広げるため、上記の資格取得後に税理士としても登録するパターンがほとんどです。
参考:日本税理士連合会「税理士の資格取得」
3.税務署で23年以上勤務する
税理士になるための3つ目の方法は、税務署で23年以上勤務することです。
3つの資格取得方法のなかでもっとも珍しいルートです。税理士法第8条の第4〜第6号までに規定する事務に従事した期間が23年以上の税務署OBは、全科目が免除され、税理士試験を受けることなく資格を得ることができます。
税理士に必要な資格
税理士に必要な資格は、税理士法に定められた「税理士」の国家資格です。
税理士の独占業務である税務代理・税務相談、そして税務書類の作成は、税理士の資格がない者が行うと違反となり懲役や罰金が課せられることがあります。そのほかの業務であれば無資格でも業務を行えますが、3つの業務を行う場合は、必ず税理士資格を取得しなければなりません。
税理士の資格詳細については「税理士試験とは?試験科目や受験資格、難易度、独学での勉強方法などを解説」からご確認ください。
税理士に必要なスキル
税理士になるには、会計に関する知識はもちろん必要ですが、ほかにもシーンによってさまざまなスキルが求められます。クライアントワークを行ううえで重要な、3つのスキルについて解説します。
1.営業力
税理士に必要な1つ目のスキルは、営業力です。
税理士の多くは開業届を提出し、個人事務所を運営してクライアントワークを行っています。税理士は企業や個人などさまざまな場面で求められるため需要が高く、食いっぱぐれも少ない職業といわれていますが、それは継続的に仕事を依頼してくれるクライアントを見つけてこそです。
ひとつ一つの案件に対して積極的に取り組めば、自ずとクライアントからの信頼はあがります。そこから知人や取引先を紹介してもらえるよう、さりげなく営業トークができるかどうかで、収入面が変わってきます。
2.コミュニケーション力
税理士に必要な2つ目のスキルは、コミュニケーション力です。
税理士の業務は自己完結できることが少なく、多くはチームで動いています。ミスが起こらないようにするため、ほかの税理士と情報を共有し合ったり、複雑な業務を分担して行ったりすることがあります。
その際に大切なのがコミュニケーション能力です。伝えるべきことを相手にわかりやすく伝え、共有漏れを防ぐことができれば業務をスムーズに進められます。
経営者と密にやりとりをするパートナー契約を結んでいる税理士であれば、より積極的にコミュニケーションを取ることが求められます。経営状況や相手の立場に立って物事を考え、ときには理解してもらいやすい言い方でクライアントに苦言を呈することも必要です。
3.必要な情報を聞き出す力
税理士に必要な3つ目のスキルは、聞き出す力です。
税理士の仕事はすべて相談から始まります。相談者が何に困っているのか相談内容に耳を傾けながら、同時になぜそのような状況になってしまったのか、原因を突き止めるための情報収集も行う必要があります。
その際、寛容な心で話を聞き、ただ受け止める姿勢も重要。現状を改善するために相談にきているのに悪いところを指摘してしまうと、相談者が正しい内容を話してくれなくなる可能性があります。
真剣に話を聞き、必定な情報を聞き出す力は、税理士にとって欠かせないスキルといえるでしょう。
参考:日本税理士会連合会「税理士って?」
税理士の将来性・キャリアパス
専門性の高い業務を行う税理士は、キャリアの選択肢が広い職業のひとつです。資格取得後、税理士事務所に所属して経験を積んだ先のキャリアは、どんな業務に携わりたいのかによって異なります。
選択肢としてあげられるのが、一般事業会社・金融機関・コンサルティングファームの3つ。一般事業会社では、税理士事務所に比べて税務・財務・会計と幅広い業務に携われるのが特徴です。日系の上場企業や外資系企業などが勤務先としてあげられます。
金融機関は、大手金融機関なのか信託銀行なのかによって経験できる業務は異なります。大手金融機関の場合は中小企業向けのM&Aや事業承継支援などに携わり、社外アドバイザーとして経営者に助言を行うことも少なくありません。
信託銀行の場合、クライアントは主に個人富裕層。相続・遺産・贈与などに関するアドバイスを行います。
残るは、コンサルティングファームです。会計系とシステム・戦略系の2つのフィールドがあり、会計系コンサルティングファームでは、税務会計業務とコンサルティング業務の両方を任せられることが多いようです。
一方、システム・戦略系コンサルティングファームでは、システムに関する知識や経営能力が求められるのがポイント。会計税務のシステムやソフトを扱うため、会計以外の知識を有していることが求められます。
税理士は専門性が高く、キャリアの選択肢も高い職業
- 高収入が叶う職業のひとつ
- 税理士になるには3つのルートが存在する
- さまざまなキャリアの選択肢がある
税理士は試験の難易度が高い資格のひとつです。合格までに要する時間は非常に長く、コツコツ勉強することが求められます。資格取得後は、税務のプロとして税理士法人や税理士事務所に勤めて経験を積みつつ、次のキャリアを考えておくのがおすすめ。専門性の高さゆえ、さまざまなキャリアの選択肢が開かれているのです。
最近では女性の税理士も増えつつあり、性別に関係なく活躍できる場所も増えてきています。専門家としてひとつの分野に関する知識を極めたいと考えている方は、税理士資格の取得も目指してみてはいかがでしょうか。
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