マズローの欲求段階説は、看護・薬学などの医療分野だけではなく、マーケティングやビジネスなどでも広く活用されています。
本記事では、マズローの欲求段階説の段階ごとの説明や分類を解説。また、マズローの法則をビジネスや私生活に取り入れる方法・活用する際の注意点なども詳しく紹介していきます。
- アブラハム・マズローとは?
- マズローの欲求段階説(マズローの法則)を6つの段階に分けて紹介
- マズローの法則をビジネスや私生活に活用する方法
アブラハム・マズローとは?どんな人?
マズローの欲求段階説を考案した「アブラハム・マズロー」とはそもそもどういった人なのでしょうか。
ジークムント・フロイトによって主張された精神分析、ジョン・ワトソンによって主張された行動主義心理学に次ぐ、第三の「ヒューマニスティック心理学」を生み出したのがアブラハム・マズローだといわれています。
ヒューマニスティック心理学とは人間性心理学とも呼ばれ、人間のプラスの側面を考える学問のことをいいます。
マズローは、人間の欲求を分析し「マズローの欲求段階説」によって広く認知されるようになりました。
マズローの欲求段階説(マズローの法則)とは?6つの段階に分けて紹介
マズローは人間の欲求を5つの段階に分けたのでマズローの欲求段階説は、マズローの欲求5段階説とも呼ばれています。
しかし、マズローは晩年6つ目となる最後の欲求を付け足したので、マズローの考える人間の欲求は6段階に分かれています。
以下では、マズローの欲求段階説を以下の6つの段階に分けて詳しく紹介。マズローの欲求段階説をビジネスや日常生活で利用するためにも、それぞれの階級の意味を知っておきましょう。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 社会的欲求
- 承認欲求
- 自己実現の欲求
- 自己超越の欲求
1.生理的欲求
マズローの欲求段階説の1つ目の段階は、生理的欲求です。
生理的欲求は、マズローの欲求段階説で最も低次の欲求です。低次の欲求とは、ピラミッド型でいう一番下の欲求のことをいいます。
だるま落としで一番下のだるまを落とすと崩れていくように、生理的欲求が満たされないと他の欲求を満たすことは難しいです。
例えば、沢山の人に好かれたり認められたり(承認欲求)高い地位についたり(社会的欲求)できても、ご飯を食べたり排泄をしたりできなければ人間の心は満たされないでしょう。
3大欲求として知られる、食欲・性欲・睡眠欲は生理的欲求に当たります。また、排泄や呼吸なども生理的欲求に加えられるので、3大欲求=生理的欲求という考えは異なっていることを注意しておきましょう。
2.安全の欲求
マズローの欲求段階説の2つ目の段階は、安全の欲求です。安全の欲求は生理的欲求の第2段階目の欲求で、心や体が安全な場所にいたいと思う欲求のことを指します。
例えば、屋根があり雨水がしのげる家に住みたいという思いや、自分を傷つける環境にいたくないという願いなどが安全の欲求に当たります。
安全の欲求は、幼い子供や赤ちゃんに強い欲求だといわれ、満たされていることがわかると次の欲求に進んでいきます。
「生理的欲求や安全の欲求などは当たり前なのでは?」と思う人もいるのではないでしょうか。
しかし、世界では満たされていることが当たり前ではない欲求です。それらの欲求が当たり前に満たされている幸せな状況に気づくためにも、マズローの欲求段階説は役に立っているといえます。
3.社会的欲求
マズローの欲求段階説の3つ目の段階は、社会的欲求です。社会的欲求は、愛情と所属の欲求または帰属の欲求とも呼ばれます。
社会的欲求は「誰かに認められたい」という欲求とは違い、「家族や会社などの社会集団に属したい」という気持ちのことを言います。
例えば、好きなものが食べれて、安全も保証されていても、誰とも話せなかったら「寂しい」と思う人がほとんどでしょう。社会的欲求が満たされなければ、寂しい気持ちが悪化してうつ病や多重人格などの心の病にかかってしまうことも。
周りにいる家族や友達を大切にすることは、社会的欲求を満たし心の健康にもつながるでしょう。
4.承認欲求
マズローの欲求段階説の4つ目の段階は、承認欲求です。
承認欲求を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。承認欲求とは、「誰かに認められたい」「尊敬されたい」という気持ちのことを言います。
就活の際、お祈りメールが来ると苦しくなってしまうのは、社会的欲求が満たされないからです。逆に、同期が昇進したのに自分は昇進できないと苦しくなってしまうことは、承認欲求から生まれます。
最近では、SNSのいいねによって相手の反応が数字でわかるようになり、誰かに認められたい気持ちが強くなっている人が増えてきているのではないでしょうか。
同志社大学政策学部教授である太田 肇氏の『「承認欲求」の呪縛』では、日本人がとらわれがちな承認欲求の危険性が語られています。
「誰かに認めてほしい」「期待に答えなければいけない」と強い思いがある人は、自分の欲求を振り返って分析してみることをおすすめします。
5.自己実現の欲求
マズローの欲求段階説の5つ目の段階は、自己実現の欲求です。自己実現の欲求とは「もっと成長したい」「理想の自分になりたい」と思う欲求のことをいいます。
例えば「いい会社について暮らしも安定しているし、出世もしているのに、なにか足りない気がする……」となるのは、自己実現の欲求が満たされていないことが原因です。
自分らしく・自分にしかできない仕事をしたいと思えるのは、生活が満たされているからこそ感じる気持ちです。そのため、自己実現の欲求まで到着している人は少ないとマズローは言います。
6.自己超越の欲求
マズローの欲求段階説の6つ目の段階は、自己超越の欲求です。
自己超越の欲求とは、すでにご紹介した5段階の欲求が満たされた際に起こる「世界をもっと良くしたい」という見返りを求めない気持ちのことをいいます。
マズローは、人類の約2%のみが自己超越の欲求にたどり着けると言いました。もちろんこれはマズローの時代の話であり、今は自己超越の欲求の「温暖化」「貧富の格差」について考えれる人も増えてきているのではないでしょうか。
マズローによる欲求の3つの分類
マズローの欲求段階説の5つの欲求は、以下の3つの分類方法があります。
- 物質的欲求:生理的欲求、安全の欲求
- 精神的欲求:社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求
物質的欲求とは、その名の通り「物」を使用したり所有したりすることで満たされる欲求のことです。
生理的欲求である食事・布団、安全の欲求である家などが上げられ、具体的に存在します。
一方で精神的欲求は、社会に属することや愛されることのように概念的なものです。
- 外的欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求
- 内的欲求:承認欲求、自己実現欲求
外的欲求とは、自分以外のもの・人で自分を満たそうとする欲求で、内的欲求とは自分自身で自分を満たそうとする欲求のことです。
承認欲求・自己実現欲求などの高次の欲求は内的欲求であるので、周りの環境が整っていないと内的な欲求に気づかないことが考えられます。つまり、自分に向き合う環境を整えることが大切だといえるでしょう。
- 欠乏欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求
- 成長欲求:自己実現欲求
欠乏欲求とは、足りないからこそ欲しくなる欲求のことです。例えば「ご飯が足りずお腹が空いているから、食事がしたい」「睡眠時間が足りず、よく寝れていなから睡眠を取りたい」などが欠乏欲求の一例です。
一方で、成長欲求とは自分自身が満たされているからこそ、自分の成長や他者の発展を望む欲求のことをいいます。
承認欲求で立ち止まってしまい、自己実現の欲求までたどり着いていない人は、自分が満たされていることを自覚する必要があるのかもしれません。
マズローの法則をビジネスや私生活に活用する方法
欲求を分析したマズローの法則は、私生活やビジネスにも活用できます。
以下では、マズローの法則をビジネスや私生活に活用する方法を4つの例に分けて詳しくご紹介します。
1.マーケティングでの活用方法
マーケティング分野では、マズローの法則をニーズやペルソナの分析をする際に役立てられています。
例えば人気の商品を生み出したい場合、マズローの法則のどの欲求を満たしたいのかを考えてみましょう。
「物」を販売する際は、物質的欲求の生理的欲求、安全の欲求にフォーカスしてみるのも一案です。
美味しい商品の場合生理的欲求を満たし、有機野菜・農薬不使用などの謳い文句は安全の欲求を満たします。
また人々を楽しませる商品を作りたいなら、精神的欲求である社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求に焦点を当ててみるのもいいでしょう。
このようにして、どの欲求を満たすか・自社の商品は人が持つ欲求を満たせる商品なのかを考えるのにマズローの法則は役立ちます。
2.就職・転職での活用方法
就職・転職をする際「自分のやりたいことがわからない」「仕事についたものはいいものの、自分のやりたいこととは違う気がする」のように悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
自分がどうなりたいのかを考える際に、マズローの法則は役立てられます。
例えば、自分はどの欲求が不足していて、どの欲求が満たされているのか、満たしたいのかを考えてみましょう。
安全の欲求が満たされていないパワハラや給料が低い会社にいる場合は、まずは安全の欲求が満たされている会社に転職することを目標とするのもいいでしょう。仕事が安定してきて、真にやりたいことが見つかり、自己実現欲求を満たしたくなったのなら、転職したり起業したり新しいことにチャレンジしてみるのも一案です。
3.勉強での活用方法
マズローの法則は、勉強をする際のモチベーションの維持にも使われます。
どうしてもやりたくない勉強の場合、欲求と紐付けて自分へのご褒美を与えるようにして欲求を満たすのも一案です。
「この資格を取れたら親に自慢して承認欲求が満たされる」「理想の自分になるために努力しよう」などと具体的に自分がどうなりたいのか考えてみると、モチベーションも上がるのではないでしょうか。
4.医療や看護の現場での活用方法
マズローの法則は医療や看護の現場でも活用され、多くの看護や薬学の教材にも記載されています。
マズローの欲求階層説を利用することによって、患者が何を望んでいるのか・自分の最善手は何なのかを考えられます。
一般的にマズローの法則は高次の欲求が注目されますが、医療現場では低次の欲求を満たすことが大切になっているでしょう。
患者が友達と夜中まで話すことを望んでいる(承認欲求)としても、生理的欲求である睡眠や食事を優先するようにしなければいけません。
優先すべきことはなにかを判断するためにも、マズローの法則を利用してみてはいかがでしょうか。
マズローの法則を検討するときの注意点
「マズローの法則は科学的根拠がないのでは?」「人によって欲求は変わってくる」のように批判されることもあります。
以下では、マズローの法則を考える際の注意点を詳しくご紹介します。
1.マズローの法則は西洋的な人間観がモデル
そもそもマズローは、アメリカ合衆国出身であるので日本人の価値観や考え方を取り入れたものではありません。
場所や文化が変われば、価値観や欲求は変わる可能性があり、マズローの法則が必ずしも正しいとは言い切れないでしょう。
Ed Diener・Louis Tayによる論文では、123ヵ国の60865名による調査ではマズローの法則が適用されたという報告もあります。
しかし、Stephen P Robbinsによる「Essentials of organizational behavior」という論文によると、日本の場合は安全の欲求が一番上になるといわれています。
マズローの考え方は絶対的なものではなく、あくまでひとつの考え方であることを覚えておきましょう。
2.欲求の序列について
マズローの欲求段階説(マズローの法則)は多くの参考書や本では、三角形の図形で紹介されています。
「マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈」によると、「マズローは,基本的欲求の階層は不動のものではない,次の欲求が現れる前に,その前の欲求が 100%満たされなければならないという誤った印象を与える恐れがあるといっていたのである 」と書かれています。
つまり、三角形の図形の順番は人や状況によっては変わってしまう可能性があります。マズローの法則を利用する際は、型にとらわれず柔軟に考えてみましょう。
マズローの法則を用いて自分の欲求を分析しよう
- アブラハム・マズローは人間性心理学の父
- マズローの法則は自分や他者の欲求を分析するのに役に立つ
- マズローの法則は絶対的に正しいものではなく、柔軟に考えることが大切
本記事では、マズローの法則の段階ごとの意味や活用方法、注意点などを詳しくご紹介しました。
マズローの法則は、批判されることもありますが、その欲求の分類方法は今もなお称賛し活用されています。
自分の欲求を顧みて自己分析に使用したり、他者の欲求を分析してマーケティングに使ったり、その活用方法は様々です。
本記事を参考にマズローの考え方を利用し、自分の成長や分析に活用してみてはいかがでしょうか。
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