交渉時に使われる心理学「返報性の原理(返報性の法則)」。本記事では、返報性の原理の意味や種類、活用例などを詳しくご紹介します。
ビジネスやマーケティング、恋愛に心理学を使ってみたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
- 返報性の原理(返報性の法則)の意味とは?
- 返報性の原理の4つの種類
- 返報性の原理を活用する方法・例
返報性の原理(返報性の法則)の意味とは?
返報性の原理(へんぽうせいのげんり)とは、相手になにかをもらった際に、自分も返す必要があると感じる心理的な法則のことをいいます。
日常では、様々な返報性の原理が使われています。
例えば、スーパーの試食コーナーも返報性の原理を使用した例のひとつです。スーパーの試食を店員から受け取ってしまうと「買わないと申し訳ないな」と思ってしまった経験ある人もいるのではないでしょうか。これは、スーパーの試食というものをもらったから、何かを返さないといけないという「返報性の原理」が働いています。
返報性の原理で有名な実験
返報性の原理を実証した実験では、DENNIS T. REGANによる「Effects of a Favor and Liking on Compliance」という論文の実験が有名です。
- 被験者は美術鑑賞をすると呼び出され、返報性の原理の実験のことは何も知らない状況
- 被験者とともに美術鑑賞をしていた実験協力者に指示を出して、「コーラを自分の分と被験者の分を買って、被験者に渡す」「コーラを自分の分だけ買って、被験者には何もしない」という2つの状況を作る
- 美術鑑賞が終わった後に実験協力者は被験者に「ふくびき券を買ってくれないか」とお願いをする
- 被験者が実験協力者に高い好感度を抱いていた場合、コーラを渡した前者の状況では「平均1.9枚」購入した
- 対してコーラを渡さなかった後者の状況では「平均1.0枚」と2倍もの差がついた
- また、被験者が実験協力者に抱く好感度が低い場合でも、前者の場合は「平均1.6枚」に対して後者の場合では「平均0.8枚」と同様に2倍もの差がついた
上記の実験から、コーラをもらった被験者はその恩を返そうとしてふくびき券を買う傾向、つまり「返報性の原理」が読み取れるのではないでしょうか。
また、この実験では、好感度が高い・低いに関係なく返報性の原理が働いていることがわかります。
つまり、ビジネスや恋愛などで関係性が構築できていない状況でも返報性の原理は有効だといえるでしょう。
返報性の原理の4つの種類
返報性の原理には以下の「4つ」の種類があるといわれています。
- 好意の返報性
- 敵意の返報性
- 譲歩の返報性
- 自己開示の返報性
以下では、返報性の原理の4つの種類の特徴や違いについて例を交えて詳しくご紹介します。
1.好意の返報性
相手の好意や、プレゼントなどのポジティブな想いやものを受け取った際に、お返しをしたいと思うことが「好意の返報性」です。
すでにご紹介したスーパーの試食の例だけではなく、バレンタインデーとホワイトデー、恋愛における告白も好意の返報性のひとつです。
バレンタインデーでチョコをもらったから何か返さないといけないと無意識に思ったり、告白された後に無性に相手が気になったりすることを体験した人も多いでしょう。
このように、好意の返報性は日常の中でたくさん存在します。
「取引先の相手と仲良くなりたい」と思っている人は、好意の返報性を利用することをおすすめします。
相手を尊敬していることがわかるように丁寧な言葉遣いをしてみたり、相手のことを考えて行動してみたりするとうまくいく可能性が高いです。
2.敵意の返報性
ポジティブな気持ちだけではなく、ネガティブな気持ちにも返報性の原理は成り立ちます。
相手に悪口を言われたら自分も悪口を言ったり、相手に嫌われていることがわかったら相手を苦手になったりすることが「敵意の返報性」です。
相手が自分のことを悪く言っていたら自分も言いたくなる人もいるのではないでしょうか。
その気持ちは「敵意の返報性」によって作られているものであると客観的に判断して、人の悪口を言うことは控えましょう。
3.譲歩の返報性
相手が譲歩をしてくれた際、自分も譲歩をしないといけないと思うことは「譲歩の返報性」によるものです。
譲歩の返報性を使ったテクニックは「ドアインザフェイス」と呼ばれます。
ドアインザフェイスとは、一度相手に自分の要望を断ってもらうことで、次の要望を通しやすくするテクニックのことです。
例えば「10万円貸して」と相手に聞くと、高確率で断れることでしょう。その後に「じゃあ5000円貸して」とお願いすると、初めから「5000円貸して」と頼むよりも了承されやすいのです。
相手に自分の意志を尊重してもらったから、今度は自分が相手の要望を尊重しようと思って無意識に了承するのが「譲歩の返報性」です。
ドアインザフェイスについてもっと知りたい人は「【行動心理学】ドアインザフェイスの語源や意味とは?具体例や注意点を紹介」を参考にしてみてはいかがでしょうか。
4.自己開示の返報性
相手が親しく接してくると、自分もいつの間にか気軽に話している経験がある人もいるのではないでしょうか。
相手の取る態度に対して同じように振る舞いたくなる心理のことを「自己開示の返報性」といいます。
初対面の人と話すのは誰でも緊張するもの。自分が勇気を出してフレンドリーに話すことによって、相手も話しやすさを感じてくれていい関係を築けるようになるでしょう。
返報性の原理を使う際の3つの注意点
返報性の原理を日常や仕事で使ってみたいと思っている人も多いのではないでしょうか。
以下では、返報性の原理を使う際の3つの注意点をご紹介します。
注意点1.相手に「お返し」を強要しない
返報性の原理を使う際の1つ目の注意点は、相手に「お返し」を強要しないことです。
返報性の原理は、相手にしたことが「必ず」返ってくることを保証する原理ではありません。
「せっかく自分が〇〇してあげたのに、相手からのお返しがない!」のように相手に理不尽に怒ることのないようにしましょう。
もし、自分が相手のために行った行為にお返しが欲しいのなら、初めからその旨を伝えてから行うようにしてください。
注意点2.一貫性の原理に注意する
返報性の原理を使う際の2つ目の注意点は、一貫性の原理に注意することです。
一貫性の原理とは、人はなるべく態度や考え方、行動などを一貫したものを取りたいと思う心理のことをいいます。
相手に間髪を入れずにプレゼントを与え続けると、相手はプレゼントを返さないことに慣れてしまいます。
そのため、返報性の原理がうまく働かなくなり、相手からの見返りを期待できなくなるかもしれません。
相手からのお返しを望む場合は、過剰に自分の気持ちやものを押し付けないほうが賢明です。
注意点3.何度も同じ相手に使わない
返報性の原理を使う際の3つ目の注意点は、何度も同じ相手に使わないことです。
何度も同じ相手に返報性の原理を利用してしまうと、相手が返報性の原理に気づいてしまう可能性があります。相手の気を悪くしないためにも、適度に返報性の原理を使うようにしましょう。
また、何度も相手に気持ちやものを与え続けると、相手は返さないといけないことに罪悪感を覚えてしまったり、面倒くさく感じてしまったりする可能性があります。
相手のためを思っていても「ありがた迷惑」担ってしまうこともあるので、自分の行為が間違っていないのか少し考えてみるのも一案です。
【シーン別】返報性の原理を活用する方法・例
実際に、返報性の原理を活用する方法を知りたいと思っている人も多いのではないでしょうか。
以下では、ビジネス・マーケティング・恋愛のシーンで返報性の原理を利用する方法を例を交えてご紹介します。
返報性の原理の「ビジネス」での活用方法
返報性の原理の「ビジネス」での活用方法は、すでにご紹介したスーパーの試食の他に営業でも使用できます。
例えば、営業をする頻度を増やしたり、詳しく説明したりすると、自分の仕事への労力に応えたいと思ってくれる「好意の返報性」が成り立ちます。
好意の返報性を使用する際は、特別感を出すことが大切です。誰にでもしていることに対しては、あまり自分のために行っていると感じにくいので、「〇〇様の条件に合ったものを探してきました!」とアピールするといいでしょう。
また、「敵意の返報性」には注意が必要です。相手に苦手意識を持っていても、その気持ちを相手に伝えないように振る舞うことをおすすめします。
返報性の原理の「マーケティング」での活用方法
返報性の原理の「マーケティング」での活用方法は、クーポンを配ったり、初回無料を行ったりする活用方法があります。
初回無料のように回数制限があると特別感が増し、「初回無料にしてもらったから、買おうかな」という気持ちになりやすくなるでしょう。
また、人間は得をするよりも損をしたくないという気持ちになり、この心理を「損失回避の法則」といいます。
「クーポンを使わないともったいない」という損失回避の法則とともに返報性の原理が働き、相乗効果を期待できます。
返報性の原理の「恋愛」での活用方法
返報性の原理の「恋愛」での活用方法は、相手にとにかく優しく親切に振る舞うことです。
相手が自分にだけ特別に優しくしてくれることに気づくと、自分もその優しさを返さないといけないと「好意の返報性」が働くでしょう。
また、プレゼントをすることで相手との仲が深まり、相手とうまくいく可能性が高まります。
しかし、あからさまに優しくしすぎたり、プレゼントを何度もしたりすると逆効果になることもあるので気をつけましょう。
返報性の原理を学ぶおすすめの本
返報性の原理をもっと詳しく本で勉強したいと思っている人もいるのではないでしょうか。
以下では、返報性の原理を学ぶおすすめの本をご紹介します。
影響力の武器
相手に自分の要望を承諾して貰う方法を知りたい人は、実験社会心理学者のロバート・B・チャルディー二によって執筆された「影響力の武器」がおすすめです。。
返報性の原理だけではなく、社会的証明・希少性の原理など様々な心理学の法則がわかりやすく解説されています。
「相手を自分の思うように操りたい」と思っている人や「人に自分を利用されたくない」と思う人は「影響力の武器」を読んでみてはいかがでしょうか。
影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく
「影響力の武器」と同じ作者によって執筆された、「影響力の正体 説得のカラクリを心理学があばく」もおすすめです。
心理学の法則を実例を交えて紹介されているので、納得しながら読み進められるのがポイントです。
人に「YES」を言わせる方法が詳しく解説されているので、営業やマーケティングに関わる人は参考にしてみてはいかがでしょうか。
返報性の原理に似た「一貫性の原理」とは?
「一貫性の原理」と「返報性の原理」の違いがわからないと困惑している人もいるのではないでしょうか。
一貫性の原理も返報性の原理も、誠実な振る舞いをしたいという気持ちが行動や態度に影響を与えるものです。
しかし、一貫性の原理の場合は誠実な振る舞いをする対象が「自分の行動・態度」であり、返報性の原理の場合は誠実な振る舞いをする対象が「相手への行動」という違いがあります。
一貫性の原理を利用したテクニックは「フットインザドア」と呼ばれるテクニックです。
フットインザドアについて知りたい人は「【行動心理学】フットインザドアとは?営業や交渉に活用できる心理学のテクニックの具体例と注意点を紹介」を参考にしてみてはいかがでしょうか。
返報性の原理の注意点を理解してビジネスや日常生活に役立てよう
- 自分の好感度が高くても低くても、返報性の原理は役に立つ
- 相手にお返しを強要したり、同じ相手に何度も使ったりしない
- 一貫性の原理との違いに注意する
本記事では、返報性の原理の意味や種類、使う際の注意点、おすすめの本などを詳しくご紹介しました。
心理学のテクニックが日常で使われていることに驚いた人もいるのではないでしょうか。
活用するためだけではなく、自衛するためにも「返報性の原理」を知っておくことは大切です。
本記事を参考に、返報性の原理を利用したり、自衛したりしてみてはいかがでしょうか。
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