まだポピュラーではない新しいビジネスを広げるためには、さまざまな企業や個人と力を合わせて市場を切り拓いていく必要があります。しかし、どうすれば共に挑戦する企業や仲間とつながることができるのでしょうか。
櫻井蓮さん(23歳)が代表取締役を務めるFUTURENAUT(フューチャーノート)株式会社は、昨年12月より敷島製パン株式会社(Pasco)とコラボし、コオロギパウダーを使った製品を発売。今年の5月17日(月)には、新たなバリエーションが加わった「コオロギのフィナンシェ6個入(3種の詰め合わせ)」を発売しました。
大企業とのコラボはどのように実現したのか?連携してビジネスに取り組むにあたって、心がけていることは?櫻井さんに取材しました。
昆虫食の市場拡大に挑む大学発ベンチャー
FUTURENAUT株式会社は、食用コオロギを使ったフードサービスを開発する大学発ベンチャー。
世界的に注目されてはいるものの、まだ日本では抵抗感を持つ人も少なくない昆虫食品に、モダンに・オシャレに・おいしく親しんでもらえるよう、食べ慣れた食品に加工して提案するとともに、食用昆虫フードサービスに関心を持つ食品メーカーや飲食店の参入支援も手がけています。
Pascoとのコラボにより誕生した「コオロギのフィナンシェ6個入(3種の詰め合わせ)」は、食用コオロギパウダーを配合したフィナンシェの食べ比べセット。
10匹分・30匹分・50匹分と、コオロギパウダー配合量の異なるフィナンシェを食べ比べることで、食用コオロギの香ばしいうま味をはっきりと感じ取ることができます。
進路を見つめなおし、大学4年で起業
同社代表取締役の櫻井蓮さんは、1997年9月生まれの23歳。
2019年7月、大学4年次に同社を創業し、現在は高崎経済大学大学院 地域政策研究科に在籍しつつ会社の経営も手がけています。
-----最初から就職は考えず、起業を志していたのですか?
櫻井さん:もともとは就職を考えていたのですが、大学3年生の時に自分の進路を見つめなおし「このまま普通に卒業して就職しても、あまり面白くないのでは?」と思うようになりました。
ちょうどその頃、卒業研究のテーマに“昆虫食の心理研究”を選んだことをきっかけに昆虫食について学ぶようになり、その可能性を肌で感じ、研究室の指導教官をしていた教授と一緒に会社を立ち上げることにしました。
-----学生起業という道を選ぶことに不安はありませんでしたか?
櫻井さん:不安が全くなかったわけではありませんが、大学院に進学して研究と並走しながら事業を進めるので、“新卒”という肩書も捨てずに事業に挑戦できるという安心感もありました。
キャリアは“誰と働くか”が重要
-----キャリアを考えるにあたって大事にしている軸は何ですか?
櫻井さん:“誰と一緒に働くか”ということが、とても重要だと思います。
僕は、アルバイトや社団法人での活動、無料学習塾の立ち上げ・運営などの経験を通じて、一番重要なのは“人”で、やりがいやお金はその後に付いてくると思うようになりました。
FUTURENAUTは、一緒に会社を立ち上げた教授と、タイで自分の会社を経営している取締役、僕の主に3人で運営しています。
教授はデータサイエンス・分析を扱っていることもあり、幅広くいろいろな視点から物事を考える力を持っていて、僕が見えてない部分を補ってくれます。また、タイにいる取締役は、経営の素人だった自分をサポートしてくれたり、会社の経営戦略の立案で助けてくれたりしています。
「虫だから…」と断られたことも
-----これまでにどのような困難がありましたか?
櫻井さん:会社を立ち上げる時、資金調達を行わず、自己資金で小さくスタートしたこともあり、なかなか大きなプロジェクトを立ち上げることができませんでした。
まずプロダクトをつくりたかったのですが、当時は今ほど昆虫食が注目されていなかったため、委託製造をお願いすると「虫(コオロギ)は、工場のラインに乗せられない」「既存の製品と混ざるのが怖い」といった理由で断られ、製品を作ってくれる工場を見つけるのに苦労しました。
-----それをどう乗り越えましたか?
櫻井さん:いろいろな企業に電話してアポを取り、直接会ってお願いしました。
しかし、そもそも委託製造を受け入れてくれる会社が少ない中で、さらにコオロギパウダーを使った商品の製造を受け入れてくれる工場を見つけるのは本当に大変でした。
委託製造先を探し始めて2カ月ほどたった頃、地元の製菓メーカーが受け入れてくれることになり、製品化が実現。その時に作ったのがコオロギのゴーフレットです。
その後は、実際のプロダクトが出来上がったことや、昆虫食の可能性がメディアでも話題になったことなどが追い風になり、だいぶスムーズに事業を進めることができるようになりました。
提案時は互いのメリットを提示
同社は、今回のPascoとのコラボだけでなく、2020年9月には、コオロギコーヒーの開発者である近畿大学農学部の清水和輝さんと連携し、「コオロギコーヒーとコオロギのゴーフレット」のセットを販売。
昆虫の食用利用の普及のために、さまざまな企業や個人と連携して活動しています。
-----そういった方々とは、どうやって出会ったのですか?
櫻井さん:偶然の出会いが多いです。
Pascoさんとの出会いは2年前の2019年秋、「コオロギのビスコッティ」を弊社のホームページから購入していただいたことがきっかけでした。
当時はまだ購入してくれる人が少なかったので、購入者にお礼のメールを送っていたのですが、Pascoさんへのお礼のメールで、弊社のミッションやビジョンをお伝えしたことがきっかけで関係がスタートしました。
注目が高まっている食用コオロギを普及させるためには、メーカーとベンチャーのコラボが必要だと感じ、およそ1年かけて互いのリソースを出し合い、構想を温めて、コラボ商品「Korogi Cafe」シリーズの発売に至りました。
-----連携して事業に取り組むにあたって、コミュニケーションなど工夫していることはありますか?
櫻井さん:連携するにあたっては、「どちらにとってもメリットがあるか?」ということが重要となるので、こちらから連携を提案する際には、まず互いのメリットを提示するようにしています。
先方にメリットがない話はもちろん、自分たちに負担が大きい場合も関係性を続けることが難しくなるので、ウィンウィンな形で物事を進めるように常に意識しています。
恩を循環させていきたい
さまざまな企業や人と一緒に事業を展開している櫻井さんですが、実は自分では人付き合いが得意だとは思っておらず、日々人とのコミュニケーションを模索しながら活動しているそうです。
-----人付き合いにおいて心がけていることはありますか?
櫻井さん:受けた恩はきちんと返す、人を裏切らないなど、義を通すことを心がけています。
ビジネスに限らず、自分が人にいろいろしてもらったのにそこで止めてしまっては循環につながりません。
たとえその人に直接返せなくても、自分が受けた恩を社会や他の人に還元して、恩を循環させていきたいと考えています。
先入観を捨てて飛び込んでみよう
-----これまでを振り返って「これはやって良かった」「これが今につながっている」と思える経験や学び、行動はありますか?
櫻井さん:「こういう人は苦手」「こういう場所には行きたくない」など、先入観でシャットアウトするのではなく、まずは飛び込んでみることが大事なのではないかと思います。
今は、情報がネットで簡単に手に入る時代ですが、実際のところはやってみないとわかりません。自分で経験してこそ、それが後々役立つようになるのではないでしょうか。
やったことのないことに対しても、嫌悪感を持たずにやってみることが大切だと思います。
-----具体的に、どのようなことが役に立ちましたか?
櫻井さん:一番役に立ったと思うのは、人に会うことです。
起業家・学生・社会人など、いろいろな人と会って話をすることで、自己理解や、自分ならではの視点・考え方の形成につながりました。
また、自分と似た考えや思考、行動をしている人の話を聞くことで、「もしかしたら、自分もこういう体験をするかもしれない」と未来を疑似体験することもできました。
-----どうやって、人と会ったのですか?
櫻井さん:最初は、声をかけられたら行ってみることからスタートしました。そうして出かけた先で他のイベント等を紹介してもらい、また新しい出会いにつながっていきました。
ただ、人との出会いが多くなると、マルチ商法の勧誘や学生を利用しようとしている人に会うこともあるので、公共の場で会う・2人きりでは会わないなど、自衛も心がけておいたほうがいいかもしれません。
皆で一緒に昆虫食の未来を切り拓いていく
-----これからどう成長してきたいですか?
櫻井さん:会社的には、昆虫食に対する嫌悪感や抵抗感を解消して、まだまだ小さい昆虫食市場を大きくしていきたいと思います。
そのためには、安心感や流通量につながる大手メーカーの参入が必要となるので、情報収集のリソース提供や原材料提供など、大手メーカーの市場参入を包括的にサポートしていきたいです。
また、個人的な成長でいうと、新しいことに挑戦し続けたいと思っています。
例えば、コオロギパウダーの高付加価値化や、コオロギパウダーのたんぱく質を分解した新しい食の展開、コオロギたんぱくを使った3Dプリンター食といった未来を思い描いています。昆虫食にはそれだけの拡張性があると思っています。
自分たちだけの力ではできない大きなことに他の企業をまきこんで挑戦し、皆で一緒に市場を大きくすることで、昆虫食の未来を切り拓いていきたいと思います。
FUTURENAUTという社名は、FUTURE=未来とNAUT=乗組員に由来し、“未来の乗組員”という造語。「未来の食を創っていく人が増えてほしい、自分もそうなりたい」という想いが込められているといいます。
チャンスを柔軟に受け入れ、周囲の企業や人と協力して行動することで道を切り拓いている櫻井さん。
その、受けた恩は返す・人を裏切らないという真摯な姿勢こそが信頼につながり、同じビジョンを共有する仲間とつながることができているのではないでしょうか。
出典元:FUTURENAUT
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