入社間もない若手ビジネスパーソンの中には、会議や上司との会話のなかで違和感を抱いても、「若手だから」「未熟な考えかもしれないし」といった理由でその意見をぐっと胸の内にしまってしまう…という経験がある人もいるのではないでしょうか。
その飲み込んでしまった意見や想いが後に残ってモヤモヤしてしまうと、最終的に決まった判断にも納得ができず、仕事へのモチベーションを保てない場合も。しかし若手であればあるほど、「自分の意見を相手に伝える」ということは、風通しの良い組織の中であっても意外と難しいものです。
株式会社土屋鞄製造所の若手社員・成田 宙さん(24)は今、期待の新人デザイナーとして圧倒的な存在感をみせています。
しかしそんな彼女も、過去に「意見が伝えられない」という悩みを抱えていたことがあったそう。
成田さんはその悩みを、どんなことがきっかけで乗り越えることができたのでしょうか?そして、それを乗り越えた先にはどんな景色が広がっていたのでしょうか?入社3年目に突入したばかりの成田さんを取材しました。
「"運ぶ"を楽しむ -THE FUN OF CARRYING-」
同社は、東京でランドセル職人が立ち上げた工房を発祥とし、1965年に創業。オリジナルのランドセルや革製品を製造・販売しています。
大人ランドセルやバックパック、財布など、ビジネスパーソン向けの革製品も多数取り扱っており、その洗練された品質とデザインは持ち主に確固たる自信を与えてくれそうです。
2020年7月には、同社公式Webサイトにて「"運ぶ"を楽しむ -THE FUN OF CARRYING-」というコンテンツをスタート。これまで「スイカ専用バッグ」「雪だるま専用バッグ」(いずれも非売品)といった遊び心溢れる製品を発表してきました。
今年2月には第3弾となる「ワイングラス専用バッグ」が登場。プリーツから着想を得たという「ひねって収納する」点が特徴の製品は、ワイン好きの人などから好評だといいます。
老舗ガラスブランド「Sghr スガハラ」とコラボレーションし、ワイングラスとセットで販売中。同コンテンツ初の販売製品として、注目を集めています。
製品やコンテンツに魅了され入社
成田さんは、2019年4月に同社へ入社。商品企画課にて一般鞄のデザインを担当しています。
-----入社した経緯・理由について教えていただけますでしょうか。
成田さん:家具など身近に革製品があったこと、父が革好きであること、母から革の加工道具を譲り受けたことなどから、もともと革が好きでした。
学生時代には自分で革小物を作ってポップアップショップに出してみたり、革のブランドでインターンを経験したり、デザイナーを意識して就活も行っていました。
応募のきっかけとなったのは、土屋鞄の「大人ランドセル」。このデザインがすごく好きだったことと、製品だけでなく暮らしの提案も積極的に行うコンテンツにも魅了され、入社を決めました。
相手に理解してもらうための"伝える準備"
成田さんは女性向けシリーズのデザイン担当を経て、現在は「"運ぶ"を楽しむ -THE FUN OF CARRYING-」の担当デザイナーとして活躍中。「ワイングラス専用バッグ」のデザインアイデアも、彼女が生み出したのだといいます。
-----「ワイングラス専用バッグ」の斬新なデザインが誕生した経緯について教えてください。
成田さん:根底にあった想いは、「Sghr スガハラ」様と土屋鞄の双方の良さを活かしたい、ということでした。
「ユニークにしたい」「目を引くようなものにしたい」と思い詰めるあまり、一度はスランプに陥ったことも。
ですが、そんな時は一度その考えから離れてみて、周りにあるものや、雑誌などに目を通すようにしているんです。当時もそんな風に、鞄と少し離れた折りの構造の本をめくっていたら、プリーツの構造が目に入ってきて。
そこからヒントを得て、「ワイングラスを入れられる構造にできないか?」と、立体の模型を紙で作って検証していきました。それがうまくハマり、その後はスムーズにデザインを進めていくことができました。
-----まさにプロのデザイナーですね…!これまでご自身の力不足を感じた時などはありましたか?
成田さん:経験豊富な上司などの会話についていけず、それ故に自分の意見を伝えることもできないという経験は幾度かありました。
「こう思ったけど、未熟な考えかもしれないし…」といって飲み込んでしまう意見もあったのですが、そんな時ある先輩から、「伝え方を考えてみたらどう?」「考えを整理して順序立てて説明すれば伝わる」とアドバイスをもらったんです。
この言葉がすごく救いになって、「自分もちゃんと発言していいんだ」と思えるように。そして、伝える前に図に落として考えを整理したり、説明する前に一度家族に聞いてもらったり、相手に理解してもらうために"伝える準備"をするようになりました。
------伝える準備を実践して、実際いかがでしたか?
成田さん:「この考えは曲げたくない!」という部分などはちゃんと伝えられるようになり、「ワイングラス専用バッグ」の仕事でもうまくいった感触がありました。
伝える準備をしておくことで、伝えた後の議論もスムーズに進めることができたので、選択を省いていった結果としての最後の一個ではなく、納得を積み重ねたうえでの最適な一個を選択できたなという印象です。
「良いものをつくりたい」
「ワイングラス専用バッグ」は他社とのコラボ商品。大切な連携相手にしっかり自分の意見を伝えたうえで議論を重ねることが、より納得感のあるデザインに仕上げるためには欠かせなかったのだといいます。
-----今回のコラボ商品の担当者として学んだことを、次にどう活かしたいですか?
成田さん:今回の経験では、連携相手のブランドをしっかり理解することや、担当の方の雰囲気や想いなど、目に見えない部分についてもなるべく理解を深めることが必要だと学びました。
コロナ禍でオンラインでの会話がどうしても多くなってしまっていますが、今後またコラボレーションの機会があったら、どんな状況でも「より距離を縮めるにはどうすればよいか」を意識してコミュニケーションを図りたいです。
-----最後に、個人としての今後の目標をお聞かせください。
成田さん:スピード感や判断力を磨いていきたいという気持ちもありますが、ベースにある「良いものをつくりたい」という想いが一番大きいです。
そのうえで、「この人に任せたら安定の仕上がりが期待できる」と思ってもらえるデザイナーを目指します。
自分の意見をしっかり相手に届けるためには、まず自分の中で「なぜそう思うのか」をしっかり整理する必要があります。そのことに気が付き、実践できた成田さんだからこそ、初めてのコラボレーションでも連携相手と自社双方の"良いところ"を活かした商品を生み出すことができたのではないでしょうか。
「上司の会話についていけない」「自分はまだ未熟だから…」そんな風に意見を飲み込んでしまっている人は、まずは"伝える準備"から始めてみると、自信をもって発言できるかもしれません。そしてそれが、最終的に自分自身も納得できる選択へと繋がっていくのではないでしょうか。
出典元:株式会社土屋鞄製造所
出典元:「運ぶ」を楽しむ Vol.03 ワイングラスを運ぶ
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