大学や大学院、博士課程などで「研究」に専念している学生のなかには、将来のキャリアについて不安に感じている人もいるのではないでしょうか。
その研究領域を極めていくのか?就職するのか?それとも、他の道を切り拓くのでしょうか?
「アカデミアの人たちのキャリアの選択肢を広げたいんです」と、熱い想いを語ってくれたのは、自身も国立感染症研究所にてウイルス研究に専念しているという矢藤 慶悟さん(26)。
彼が共同代表を務める学生コミュニティ「BEAST with TECH」は3月23日(火)、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)分野で起業を志す学生を対象に、シェアハウス「Safari house」をオープンしました。
「イノベーションの発信地」をコンセプトに、専門分野の知見をもった学生たちが集い、議論し合い、横のつながりを生み出していくための取り組みです。
彼はなぜ、アカデミア人材の起業促進活動を始めることになったのでしょうか?自身のビジョンを実現させるために奮闘を続ける、矢藤さんを取材しました。
150人が所属する学生コミュニティ「BEAST with TECH」
BEAST with TECHは、高度な技術を持つディープテックスタートアップへの支援などを行うBeyond Next Ventures株式会社が今年1月に立ち上げた、学生コミュニティ。
「日本の若き"研究者"が社会実装に挑戦する文化を作る」をビジョンに掲げており、主に特定の研究領域や技術などの専門性を持つ全国の大学生・大学院生約150人が所属。
「起業するにはどうすればいいの?」などといった起業にまつわる疑問についてメンターを務めるVCに相談したり、現役の起業家を招いたセミナーや、交流会、勉強会などに参加したりすることができるオンラインコミュニティです。
今回オープンした「Safari house」は、学生起業家や同年代の起業家志向をもつ学生が集うシェアハウス。専門外の領域に関しても知的好奇心を持ち、STEM分野における起業に興味がある学生を広く募っているといいます。
第1弾は、株式会社リバ邸と協力し、本郷三丁目駅(東京都文京区)に開設。これまでオンラインで行ってきた取り組みをオフラインに移していくことで、よりスピード感をもったチャレンジを促進します。
事業化に挑戦する際のハードルを下げたい
矢藤さんは、東京理科大学 先進工学研究科 博士課程3年。国立感染症研究所にてウイルス研究に専念する傍ら、Beyond Next Ventures株式会社のインターン生としてBEAST with TECHの共同代表を務めています。
-----共同代表を務めることになった経緯・きっかけについて教えていただけますでしょうか?
矢藤さん:Beyond Next Venturesが学生向けに行っていたセミナーを見かけた時、「研究に携わりながら就職するという道もあるんだな…」「面白そう」と思ったことがきっかけで、昨年6月にインターンシップを始めてみることにしたんです。
そもそも僕もアカデミア人材として、「技術や研究を頑張っても、論文を書くことがゴールになってしまう」ということにモヤモヤした気持ちを抱えていました。
知の探究ももちろん素晴らしいことだと思っているのですが、自分の研究やそこからうまれた技術を"事業化する"という選択肢があってもいいのではないか。それを選択するためのハードルを下げることが、日本におけるイノベーションに必要不可欠なのではないか。
そのような想いを持っていたので、BEAST with TECH立ち上げの際に声をかけていただき、共同代表のひとりとして参画させてもらえたのだと思っています。
-----優秀なアカデミアの学生であったとしても、キャリアの選択肢って少ないのでしょうか?
矢藤さん:そうですね。
大学の教授になるという選択肢も、そこに至るまでにはポスドクとか准教授とかいろいろなステップがあって、収入面からも決して安定したキャリアとは言えません。どうにか自分の知識・技術は活かしたいと、製薬会社やコンサルティング企業などの民間に就職する人も多いですが、選択肢はそう多くはないのではないでしょうか。
-----そこで、「起業」という新しい選択肢を提示したいと?
矢藤さん:はい、そのような選択肢を提示すると同時に、コミュニティを通じて「面白いアイデアや技術があるけれど、どうしたらいいのかわからない」という人などに、事業化のノウハウや人とのつながりなどを提供して、事業化に向けて動くための環境づくりに注力していきたいと思っています。
「チームとして」動くことの面白さ
自分の持っていた問題意識とBEAST with TECHのビジョンが一致したことで、積極的に活動に取り組み始めた矢藤さん。卒業までの1年間で、BEAST with TECHというコミュニティの地盤をしっかり固めたいと考えているそうです。
-----インターンシップや共同代表としての活動を通じて、どのような学びや気づきを得られていると思いますか?
矢藤さん:僕はこれまで研究者として、基本的に一人でプロジェクトをまわしてきたので、BEAST with TECHで「チームとして」動くという経験は自分にとってとても貴重なことだと感じています。
人と協力して何かをやるということは、当然いろいろなことに気を遣わなければならないという側面もありますが、面白いですよね。
コミュニケーションを得意とする別のメンバーなどから、自分に足りないところに気が付かされることも多々ありますし、そのように、自分の成長を得られる場だなという実感はあります。
問題意識をしっかり目標設定に落とし込む
-----ご自身の想い・ビジョンに向かって実際に行動を起こされている背景には、どのような考え方があるのでしょうか?
矢藤さん:「行動を起こす」ということについては、研究者として"いつまでに何をやる"というタイムスケジュールは必須ですので、僕にとっては自然なことかもしれません。
ただ、それよりも大切なのは、「何に向かって、何をするのか」という目標設定だと思っています。
去年夏ごろに知り合った方から、「自分にとって何が一番モチベーション高く取り組めることなのかをよく考えて、できるだけ大きい目標設定をしたほうがいい」と言われたことがあります。
夢物語のような目標ではなく、でも、簡単に達成できるものでもない。もがいてもがいてギリギリ手が届くぐらいの目標を持つことが大切だと、その方は言っていました。
問題意識をしっかり目標設定に落とし込むことが重要だと気が付いたので、そこは今でも意識しています。
-----矢藤さんの「目標」とは?
矢藤さん:「アカデミアの人たちが、もっといい環境で研究に没頭できる環境を整えたい」という目標があります。
研究成果が事業化に繋がり、社会を豊かにするためのものだと実証できれば、研究にかけられる費用も確保しやすくなりますよね。研究者のキャリアの幅も広がるのではないでしょうか。
そのために、まずアカデミア人材が事業化に挑戦するハードルを下げたい。それを実現するための手段のひとつとして、BEAST with TECHの活動を行っています。
問題意識をそのままで終わらせず、しっかりと目標設定に落とし込む。そしてその目標に向かって、着実に次へ次へと一歩を踏み出し続けていく。
この、「適切な目標設定」と「行動力」を掛け合わせた先に、"自分の見たい景色"が広がっているのかもしれません。
理想や想いがあるのなら、矢藤さんにように「何に向かって、何をするのか」をじっくりと考えてみることから始めてみると、進むべき道が見えてくるのではないでしょうか。
出典元:Beyond Next Ventures株式会社
出典元:BEAST with TECH
【関連記事】
目的があるから達成感を味わえる!ビジコン×就活「オンコン」優勝チーム代表者に学ぶ、目的意識の大切さ
何かに挑戦しようと思った時、あなたはその目的を明確化していますか? 単に「周りがやっているから」「ガクチカと呼べるものがないから」という理由で就活を始めたり、ビジネスコンテストやインターン...
「自分を大事にして」教育プログラムABAY第1期優秀者が気付いた、ビジョン設定の意外な落とし穴
例えば、「営業職に就きたい」「医者になりたい」「起業したい」などの明確な目標を持っていても、その先にある「どんな人生を歩みたいか」「人や社会にどう役立ちたいのか」といった"人生ビジョン"まではっ...
考えた企画が突然白紙に…ビジネス書出版社の新卒2年目が、奮闘の結果辿り着いたひとつの結論
「なるべく失敗はしたくない」「壁に直面すると不安になり前に進めなくなってしまう」まだ社会に出て間もない若手ビジネスパーソンや、入社を控えている内定者のなかには、このような想いを抱えている人も少な...
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう