若くして自分の目標となる事業を見つけ、さまざまな企業や団体等と連携してビジネスを展開している若手起業家は、どのような道のりを歩き、どうやってチャンスを掴んできたのでしょうか。
井出飛悠人さん(24歳)が代表取締役社長を務める株式会社シェアグリは3月、損害保険ジャパン株式会社およびSOMPOリスクマネジメント株式会社と連携し、農業における労働安全の推進についての取り組みを開始しました。
古くからある“農業”という業界において、出会ったチャンスをどのように活かして事業を展開してきたのか。井出さんに話を聞きました。
世界の農をアップデート
株式会社シェアグリは、世界の農をアップデートし続けるために、農業界にある数多くの課題解決を目指すスタートアップ。現在は、農業者の人手不足解消等をミッションに掲げ、特定技能人材の農繁期スポット派遣事業を展開しています。
同事業は2020年6月にJAグループ主催のアクセラレーターに採択され、同社は今年2月に九州事務所を開設。拠点を広げながら全国の農家に向けて事業を展開しています。
今回、新たに損保ジャパン等と連携して農業における労働安全の推進にむけた取り組みを進めることで、同社社員として働く特定技能人材がより安全に働くことができる環境をつくっていきます。
大学時代からビジコンやピッチに参加
井出さんは1996年11月生まれの、現在24歳。大学4年生の8月に学生起業して、株式会社シェアグリを設立しました。
-----いつ頃から起業を考えていましたか?
井出さん:実家が長野県佐久市で150年続く種苗会社を営んでおり、小さい頃から事業や起業に対して漠然と興味を持っていました。
はっきりと起業を決断したのは大学4年生の時です。
起業を視野に入れてさまざまなビジコンやピッチ等に参加していたところ、大学3年の冬にGaiax(ガイアックス)のスタートアップスタジオから出資してもらえることが決まり、大学4年の8月に法人登記をして会社として事業をスタートしました。
-----家業を継ぐのではなく起業した理由は?
井出さん:ゆくゆくは実家を継ぎたいと考えていましたが、大学卒業後に社会人経験もないままいきなり実家に帰って家業を継ぐのは、自分の人生にとってプラスにならないと考えたからです。
外で何かしらの経験を積んだり、自分自身で事業を立ち上げたりする経験をした上で実家に戻った方がベストな選択だと思い、まずは自分自身で事業や会社をつくることができる人間になろうと思いました。
チャンスを活かして学生起業
-----大学卒業後ではなく、在学中に起業したのはなぜですか?
井出さん:機会・チャンスをもらったタイミングが大学在学中だったからです。
就活も進めていましたが、自分が意思決定さえすれば出資を受けて起業できる機会をいただけたので、「このタイミングで起業するのが自分にとってベストだろう」と考え、起業することにしました。
-----起業に向けてどのように動きましたか?知識・ノウハウ・人脈等は、どのように獲得しましたか?
井出さん:ガイアックスのスタートアップスタジオで、ガイアックスのつながりやリソース等を活かして、サポートを受けたり、ガイアックスと繋がりのある地方の人脈等を紹介してもらったりしながら、起業に向けて動きました。
また、起業後は大学4年の秋頃から、次世代のイノベーターを育成する「Makers University」にも参加。同世代の起業家や起業を志している仲間と悩み等を共有し、目標に向かって励まし合いながら切磋琢磨しながら事業を進めました。
生産者にとって意義がある事業を追求
同社は、創業当初は農機具の稼働率を上げ農家の支出を下げるための“CtoC農機シェア事業”を展開。
次に、地域内外のワーカーと農家がマッチングできるデイワークアプリを手がけ、現在は特定技能人材の農繁期スポット事業に注力と、事業をピボットしつつ、農業の課題解決に向けて事業を展開しています。
-----展開する事業への一貫したこだわりや、その事業を始める決断をするにあたって大切にしている判断基準を教えてください。
井出さん:生産者の方々の声を常に聞くことが、事業のピボットにつながりました。
事業の判断軸として常に考えているのは、「自分たちが価値提供している農家の方々にとって一番使いやすく、なおかつ存在意義のあるものか」ということ。「この事業は、課題を解決したいと考えている人々のためになっているのか」ということが事業をする上での判断基準になっています。
まずは目の前にある課題にとことん取り組む
同社は、「100年間変われない農業を、自分たちの手で変えていきたい」をモットーに事業を展開しています。古くからある業界での新たな挑戦にはどのような苦労があるのでしょうか。
-----起業を決めてからこれまでにどんな困難があり、それをどう乗り越えましたか?
井出さん:事業を展開するにあたって、それぞれの産地の農家にしっかりコンタクトを取って、価値あるものを広く提供していくことが難しい業界だと感じました。
事業自体も、ある一定の層には利用してもらえましたが、年配の人など多くの生産者にとっては使い勝手が悪かったり、必要とされていなかったりして、生産者の方から「こんな事業があっても農業は変わらない」と言われたことが幾度もありました。
それを乗り越えるために行ったのは、目の前の課題解決に取り組むことです。
10年後、20年後を目指して事業を進めることも経営には必要ですが、一方で、今、目の前の農家が必要としている課題を解決することが、農業分野の間口を開げるためには必要だと考え、まずは、コンタクトを取ることができた農家の足元にある課題解決に向けて徹底的に取り組みました。
そうしたところ、横のつながりで地域の別の農家などを紹介してもらえるようになり、次第に間口が広がっていっています。
自分の力で変えられないことは深く悩まない
-----これまでを振り返って、「やって良かった」と思う経験や学びは?
井出さん:高校生の時に、親元を離れてサッカーをするために体育会系の高校で3年間寮生活をしたのですが、そこで、事業を進めていく上でも必要な“理不尽やストレスへの耐性”といったメンタルの強さを身に付けることが出来ました。
-----現在、理不尽なことやストレスにはどう対処しているのですか?
井出さん:自分の力で改善できることの範囲外については、深く悩まないようにしています。
自分の意志で変えることができるのは、自分の気持ちや行動だけです。ですので、何かトラブルが起こったら、まずは自分の行動で改善できないか考えますが、それが理不尽なことや外的要因など自分の力では変えられないことだと判断した場合、そのことについては深く悩まないようにしています。
チャンスに飛びつき挑戦する中で経験を積む
-----井出さんにとって“働く”とは?仕事への向き合い方・考え方を聞かせてください。
井出さん:僕は大学2年生の頃まで、「働きたくない」「社会人になりたくない」と思っていました。
しかし、大学2年生の時に参加したライフデザインスクールで「働くとは、傍(はた/周りの人)を楽にすることだ」という話を聞き、自分の仕事への向き合い方や考え方を考えるにあたって大きな影響をうけました。
僕にとって働くとは、「自分が楽にしたいと思った人を、自分の行動で楽にしていく」ということ。「自分はどういった傍(周りの人)を楽にしたいのか」ということ常に考えながら、仕事に取り組んでいます。
-----これからキャリアを切り拓いていく若手ビジネスパーソンや学生に伝えたいことはありますか?
井出さん:自分のこれまでの経験なりに大切だと感じているのは、「日々生活する中で出会う“きっかけ・機会・チャンス”には、全部飛びつけばいいのではないか」ということです。
僕自身、大学3年生の冬にガイアックスのスタートアップスタジオから出資を貰えるチャンスをいただき、悩みながらも挑戦しようと決断し、飛び込んで事業をスタートしました。
事業を進めていくと、いろいろな人がいろいろな角度からアイデアやチャンスを与えてくれようとする機会に出会います。
そのような機会がやって来た時に、時間や労力、自分のリソース等を考えて、挑戦するかしないか天秤にかけることも多いかと思いますが、若いうちはそれが本当にチャンスなのかそうでないのか正確に判断できることは少ないのではないでしょうか。
なので、せっかくいただけた機会やきっかけには、よくわからなくても「よさそう」と思ったら全て飛びつく。そうして挑戦する中でさまざまな成功や失敗を経験していくことで、自分自身のキャリアを作っていけるのではないかと思います。
同社は今後も、農業経営に寄り添いながら、農業全般の課題解決に向けて、農家の課題を一つひとつ解決できるようなソリューションを提供してきたいと考えているそうです。
やってきたチャンスに飛び込み、成功も失敗も経験として、「農業界を変えていきたい」という夢に向かって挑戦を続けている井出さん。
「機会やきっかけ、チャンスに出会えたら、まずは飛びついてみる」という姿勢は、起業だけでなく、さまざまな業種・職種で働くビジネスパーソンにとっても有益なのでは?
もし、今後少しでも「これはチャンスなのでは?」「なにかのきっかけになるのでは」と思うことがあれば、勇気を出して飛び込んでみてはいかがでしょうか。
出典元:シェアグリ
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