250年以上続く老舗でありながら、時代に合った"今らしい"商品を次々と展開し、今なお愛されている企業がある。
新潟県に拠点を置く今代司酒造株式会社は10月下旬より、「挑戦」がテーマの新しい日本酒『錦鯉 丹頂 The RISING SUN』を造るため、クラウドファンディングプロジェクトを開始している。
「先の見えない苦境の中にあっても、自ら立ち上がり挑戦する全ての人へ勇気を贈る」として、同社自らも新しい醸造方法に挑戦していく日本酒プロジェクトだ。
長年愛されてきた酒蔵が"これまでの醸造方法を変える"という心機一転のプロジェクトには、どのような想いが込められているのか?また、その時代に合った商品展開はどのように企画し、実現しているのか?同社の醸造責任者である古田悟さんを取材した。
酒蔵の雑誌記事がきっかけで蔵人に
古田さんは、1981年生まれ、新潟県新発田市出身だ。25歳で蔵人としてのキャリアをスタートし、2010年に今代司酒造に入社。
原料処理部門を担当しながら新潟清酒学校にて3年間酒造りの知識と経験を深め、2019年に醸造責任者に就任した。
-----醸造家になられた経緯を教えて下さい。何かきっかけがあったのですか?
古田さん:自分のキャリアを模索していた時たまたま書店で立ち読みをした雑誌で酒蔵の記事を目にし、面白そうだと思ったのがきっかけです。
そのまま新潟県内の酒蔵の門をたたき、蔵人となりました。
2014年からリブランディングに着手
同社は創業250年を超える老舗ながら社員の平均年齢は38歳と若く、ベンチャーマインドを持った酒蔵だという。
店舗やパッケージにおいては伝統を大切にしつつも新しいコンセプトやデザインにこだわり、今の時代に合った地酒の魅力や楽しみ方を伝えている。
-----貴社は老舗でありながら、働かれている方々の平均年齢が若いのはなぜですか?
古田さん:今代司酒造は1767年に酒の卸や旅館業として創業し、明治中期から本格的に酒造りを始めた老舗です。
現在の代表取締役社長である田中は41歳。経営をバトンタッチされた2014年からリブランディングに取り組み、伝統を守りながらも今の時代に合った酒の楽しみ方を提案し続けています。
その取り組みに共感し様々な業界出身の若い人材が集まってきており、今のような組織になっています。
変化を恐れず、目指すべき着地点をしっかりと定める
同社はコロナ禍の4月に『ソーシャルディスタン酒』、9月にはハロウィンを盛り上げる日本酒『天然水仕込み 純米酒 ハロウィン限定ラベル』を発売。そして現在、『錦鯉 丹頂 The RISING SUN』のプロジェクトを実施中だ。
『錦鯉 丹頂 The RISING SUN』では、新しい醪の段階で一般的に行われる「櫂入れ」というタンク内をかき混ぜることをせず、酵母自らの力で上昇することによって起きる対流で発酵を促すという、同社としては初めての製法に挑戦する。
人の手を借りて対流を起こしタンクの中を均一にする「櫂入れ」という行為をしないということは"自らの力で上昇すること"の象徴であり、不均一なものや多様性を受け入れるということにも繋がる。ここには、同社の「立ち上がる勇気を贈る日本酒ブランドとなるべく、自らも一丸となり昇っていきたい」という想いが込められているそうだ。
-----時代に合った商品展開はどのように発案・企画しているのですか?
古田さん:代表の田中の発案によるものも多いですが、中には様々なポジションにいる社員がアイデアを出し合い作り上げた商品もあります。
今年コロナ禍4月に発売した「ソーシャルディスタン酒」もその一つ。
『今はそれぞれができる限りソーシャルディスタンスを保ち、感染拡大を防ぎ、終息の暁にはまたみんなで楽しくお酒を酌み交わしたい。』という想いを込めた商品でした。
私が閉塞感漂う社会にメッセージ性のある商品を出したいと発案したところから始まり、デザインやネーミングなど皆でアイデアを出し合い、約2日という短期間で商品化に至りました。
このスピード感と様々な人が企画に関われるのは今代司酒造ならではだと思います。
-----老舗酒造が新しいことに挑むことに困難はありますか?また、それをどのようにして乗り越えていらっしゃいますか?
古田さん:老舗かどうかは関係なく困難は多々ありますが、目の前の課題に対し一つ一つ挑み前にすすんでいます。
昨年から醸造責任者に就任し、自分たちの味の基礎を作る時期と位置づけ酒質改善に取り組んできました。
大切なのは常に作り手側もブランドコンセプトを理解し、目指すべき着地点をしっかりと定めること。変化を恐れることなく飲み手に寄り添った酒を目指しています。
『喜醸奮起』の姿勢を日々大切に
-----仕事をするうえで大切にしていることやこだわりがありましたら教えてください。
古田さん:清酒製造という発酵に関わるものとして、「発酵」とは何か?を考え続け、たどり着いた答えが「発酵によって得られたものは、人体にとって有益である。それはつまり、人を喜ばせるということ」というシンプルなものでした。
シンプルだからこそ難しい。同時にワクワクする世界でもあります。
発酵食品である今代司の日本酒を飲んでいただき、心身ともに喜んでいただけたなら、その喜びは私たちの喜びへと変わります。
醸し得た喜びによって奮起する、『喜醸奮起』の姿勢を日々大切にしています。
「今代司」の屋号は元来「今の時代を司る」という意味だが、古田さんをはじめ現在同社で働く人たちは、「今の時代に合った酒の楽しみ方を創造する」という解釈をしているという。
常に新しいことに挑戦していくことをスタンスとする今代司酒造から、今後どのような挑戦やストーリーがうまれるのか、期待が高まる。
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