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新規リードを約1.5倍にしたリサーチャーは、どのように新しい試みを社内提案し「通した」のか

白井恵里子

2020/11/06(最終更新日:2020/11/06)


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林 直紀さん/提供:株式会社クロス・マーケティング

新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、誰もが戸惑いや恐怖を感じていたであろう今年3月、この未曽有の事態のなかで「今、この会社で自分ができることは何か」をいち早く考え行動に移したビジネスパーソンがいる。

各種リサーチ事業を展開する株式会社クロス・マーケティングは3月より、新型コロナウイルスが消費者の行動や意識に与える影響を把握することを目的として、全国47都道府県に在住する20~69歳の男女2500人を対象に「新型コロナウイルス生活影響度調査」を定期的に実施し、結果を公開している。この新しい自主調査をきっかけに、同社の新規リードは約1.5倍に増加したという。

取り組みを提案したのは、同社リサーチプランニング本部に所属する林 直紀さん。

当時他社でもやっていなかった新しい試みをどう社内提案し、「通す」ことができたのか?その提案力・交渉力について林さんを取材した。

「生活者の声や実情を届けたい」と自主調査を提案

林さんは現在、入社12年目の44歳だ。

アメリカの大学を卒業後、27歳で市場調査会社に入社。企業担当者への訪問面接取材を中心とするフィールドリサーチを主に担当していたが、成果が見えるまで時間のかかる仕事だったため、「クライアントの海外展開をより直接的にサポートできる会社に入りたい」との想いで32歳の時に同社へ入社した。

入社以来、リサーチャーとしてグローバル案件を中心にリサーチ業務を担当している。

提供:株式会社クロス・マーケティング

彼は今年2月、「生活者の声や実情を届けたい」と、新型コロナウイルス感染拡大のなかでみられる生活者の変化を可能な限りリアルタイムに且つ継続的に調査し、世の中に伝えていくことを目的に、自主調査を提案。

通常であれば調査会社では依頼主がいることでビジネスが成立するのだが、固定概念に捉われず「調査会社が社会に貢献できることは何か」を突き詰めた結果、彼はこの提案を社内で推し進めていくと決心したそうだ。

ー自主調査を企画・提案するに至った経緯を教えていただけますでしょうか。何かきっかけがあったのですか?

林さん:中国での感染拡大が連日報道されるようになり、2月下旬頃から日本でもコロナに関する報道が徐々に増えてきて、決まっていた調査がストップするなど、仕事にも影響が出るようになりました。

このまま感染が拡大すると世の中が大変なことになると感じはじめ、「今この会社で自分ができることは何か」と考えはじめました。

そこでネットで調べてみたものの、生活者がコロナをどう思っているのか、生活者がどういう状況にあるのかという情報が全然出てきませんでした。

誰しもが不安を感じる中、生活者に関する情報が不足している、と感じたことがきっかけです。

また、この時は、様々な企業がこの危機に応じ、一定期間コンテンツを無料化(無料提供)する動きが徐々に出始めた時期でもあったという。

調査会社としても社会に提供できるものがあるのではないかと考え、そこで自分たちで生活者の声を集め世に発信しようと思い至りました。

社内でなかなか賛同が得られず社長へ直談判

ー具体的にどのように企画をたてて社内提案されたのですか?

林さん:熱くなるとすぐ行動してしまうタイプなので、「調査会社って、社会に対してどんな使命があるのか」「世の中が大変な局面にあるときに調査会社だからこそできることがあるんじゃないか」「データが不足しているのでデータ提供できるのではないか」という考えが強くなり、すぐに上司に相談しました。

「今、調査会社としてやるべきことは生活者の情報を伝えることではないか」と。

その後、自主調査を担当する部署に相談をしに行ったという流れです。

しかし、まだ感染者数が少しずつ報道され始めた時期だったこともあり、全員がこの危機をあまり大きく捉えていたわけではなかったため、なかなか賛同を得られなかったと林さんは当時を振り返る。

社内からは、「他社もやっていないということはニーズがないからではないか?」といった声も聞かれたという。

そこで社長に直接必要性を訴え、自らの部署で稟議申請することで企画を通すことができました。

提供:株式会社クロス・マーケティング

ー企画が通るまでの道のりで、一番大変だったことは何ですか?また、それをどう乗り越えましたか?

林さん:なかなか社内の賛同や協力を得ることができず、皆の気持ちを同じ方向に向かわせることが難しかったです。

同じ事象を目の当たりにしても感じ方が人それぞれ違うのは当然。

それに何かを始めるときは、提案した人が主体的に動かしていかないとうまく進まないことが多いので、まずは自分で出来ることから始めようとすぐに気持ちを切り替えました。

調査開始後間もなくして、感染者数が増えてきて事態が深刻化してくると、社内でもこの調査の意義に共感してくれる人が増え、多くの人の協力を得ることができるようになったそうだ。

そして調査結果を公開すると、既存の取引先のみならず、これまで取引のなかった企業や団体からも反響があり、これをきっかけに新規リード獲得は例年の約1.5倍に増加したのだという。

若手の前向きな行動を、上司は迷惑とは思わないはず

ー新しい試みを提案してそれを「通す」ために、大切となるポイントがあれば教えてください。

林さん:損得や正解不正解ではなく「今自分がやらなければならない」と思ったことに対して、行動できるかどうか。

自分が善しと感じたことを行動する勇気を、仕事にかかわらずいつも大切にしています。

とは言え、「アイデアはあるけれど、入社して間もないし社内で提案なんて…」と二の足を踏んでしまう新卒社員も多いのではないだろうか。

若手が社内提案をするということについて、林さんはこのようにアドバイスしてくれた。

林さん:相手の立場になって考えるといいと思います。

やりたいことを企画して提案してくる新卒社員のことを自分がもし上司や社長の立場だったらどう思うか。

これは色々なシーンで使える考え方だと思います。

今回の話でいうと、「調査会社がこのような状況下でやるべきこと、できることやりましょうよ」と言ってくる社員を社長がどう思うか、ということです。

提供:株式会社クロス・マーケティング

新卒社員が自分でやりたいことを企画して提案してくることに対して、その行動自体を嫌だと考える人はいないと思います。

なので、相手の立場になって考えたときに「その行動を迷惑と考える人はいないんじゃないか」と思えるなら、やってみたらいいのではないかと思います。

意外と、気にしているのは自分だけ、止めているのも自分だけだったりします。

前向きな行動を上司は迷惑とは思わないはずです。

林さんによれば今回の自主調査を通じ、「自分にも何かできることはないか」と積極的に発信する社員が増えたという。

自ら提案し、粘り強い交渉でそれを実現させた彼の行動力は、「もっと活躍したい」「自分の可能性を広げていきたい」という高い志を持つ若手ビジネスパーソンにも勇気と活力を与えてくれそうだ。

出典元:株式会社クロス・マーケティング
出典元:新型コロナウイルス生活影響度調査 レポート

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