「変わりたいけど変われない」「組織変革をしたいが何から手を付けて良いか分からない」といった企業の悩みに応えるべく、「無意識バイアス」という概念に着目した新しいラーニングツールを開発した会社がある。
株式会社チェンジウェーブは9月、無意識バイアス・ラーニングツール「ANGLE(アングル)」の分析サービスをローンチした。
開発チームによれば、実際にユーザーが無意識バイアスという概念を「自分ごと」として捉え実務に活かすことができるツールになるまでには、様々な課題を乗り越える必要があり、β版では大失敗も経験したという。
失敗をどのように次ステップへ活かしたのか?実際に「使ってもらえる」ツールができるまでの道のりについて、ANGLE事業責任者を務める菅瀬百友子(すがせ もとこ)さんを取材した。
無意識バイアスに気付き、対処する
同社によれば「無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)」とは、人の脳が持つ仕組み・パターン認識のこと。自身の経験や見聞きしたものから作られる「物の見方」「考え方のクセ」のようなものだという。
仕事上、無意識バイアスが見られる例で言えば、「若手に重要案件を任せるのは難しい」「育児中の女性は常に家庭を優先する」「定時帰りではお客様の要望に応えられない」など。
無意識バイアス自体は決して悪いものではなく、むしろ人が迅速な判断をするためには必要不可欠だというが、自分の無意識バイアス(思い込み)によって相手を評価したり業務分担を決めたりしてしまうと、企業の成長や個人の可能性を狭めてしまう可能性があるそうだ。
そこで同社は、"固定観念に気づき、対処し、新しいものに挑戦していける土台づくり"を目指し、「ANGLE」開発に着手したという。
β版の大失敗から得た気付き
ー開発にあたり、一番困難だったことは何ですか?また、それをどのようにして乗り越えられましたか?
菅瀬さん:開発にあたり、最も困難だったのは「ITで人を変革できるのか?」という点です。
eラーニングと言うと「座学」=自分ごとになりにくい、学びが持続しない、というイメージを持たれがちなのですが、日々忙しいビジネスパーソンに向けて「ITで気軽に学べる」ことは大切です。
弊社代表・佐々木の「変革自販機を作りたい」「変革できないツールなら作る意味がない」という信念の下、今まで培った組織変革のノウハウを搭載することで「行動変容につなげる」ツールを開発することができました。
ANGLEには、受講者の無意識バイアスを測定する「IAT(Implicit Association Test)」というテストを搭載し、日本で暮らす人によくみられる無意識バイアスを高い正確さで測定できるようになった。
しかし、β版は大失敗に終わった。アセスメント的な結果を受講者に突きつけるだけでは、人の行動は変わらないということが分かったという。
ーβ版の失敗を次ステップに活かすため、具体的にどのようなことを意識されましたか?
菅瀬さん:「心理的安全性」を担保することに注力しました。
日本人はとりわけその傾向が顕著のようですが、「無意識バイアス」は存在自体が「悪い」と受け止められがちで、心情的に受け止めにくい性質のものです。
β版での失敗も踏まえ、受け入れがたいと考える受講者の心情に寄り添い、自発的な内省を促す流れを作りました。
その結果ANGLEは、個人の傾向・属性ごとの傾向など、受講者の無意識バイアスデータを可視化できる特徴を持ちながらも、人事担当者ですらバイネームではデータ閲覧をすることができない設計に。β版での失敗が、貴重な改良機会となったのだ。
受講後、82.1%の方から「自分の行動が変化した」という結果をいただいているのは、そこが肝だったと考えております。
受講者が具体的一歩を踏み出せる工夫を
菅瀬さんはANGLEを実際に「使ってもらえる」ツールにするため、受講者の状況を考えて「受け入れやすい仕様」にすることを心がけていたという。
菅瀬さん:まず、隙間時間でも無理なくご受講いただける仕様にこだわりました。
具体的には、『ANGLE』 のラーニングを各回10分程度に収まるよう工夫しました。
スマートフォンでもご受講いただけますし、中断してもまたそのパートから開始できるようにしています。
『ANGLE』を受講される中には、現場作業を伴う方、細切れの隙間時間しかない方など、多様な方がいらっしゃいますので、全ての方が無理なくご受講を「続けられること」にこだわりました。
次に、短い時間でも確実に行動変容を促すことにも重きを置きました。
具体的には、定量数値で確実に自分のバイアスに気づける設計、および、eラーニングでありながらもフィールドワークを搭載していることです。
「無意識バイアス」は、ともすると理想論になりがちなものです。
個々の受講者が「自分が今置かれている状況」と紐づけ「自分ごと」として具体的な一歩を踏み出せる工夫をしました。
その結果、これまでの受講者の96%が、「無意識バイアスをコントロールできるようになった」と効果を実感しているという。
ただ、弊社がさらに注視しているのは「ANGLE受講後1年経った受講者が行動変化しているか」という点です。
単に「コントロールの仕方を理解する」ことに留まらず、実際の機会提供、職場の風土醸成に変化が見られて初めて「成果を出した」といえると考えているためです。
一人ひとりの意識に変化はあっても、それが組織単位で変わるには時間がかかるとし、ANGLE受講者には追跡調査も行っているという。
受講者の状況や心理の理解をとことん追求
同社は、多様な人が活躍できる組織作りを目指し、「なぜ無意識バイアスに対処する必要があるのか?」という意識醸成をする導入ツールや、組織コンディションを可視化する分析ツール、ANGLE受講後も継続して意識を持てるようにするフォローツールなど、一連の流れとして無意識バイアスに対処できるような展開を進めているという。
実際に使った人や組織が効果を実感できるツール誕生の裏には、「失敗こそが貴重な体験」と捉え、受講者の状況や心理の理解をとことん追求するチームの粘り強さがあった。
失敗や課題への直面こそが成功の鍵だと思えると、日々の仕事にも前向きに取り組めそうだ。
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