HOMEインタビュー 人口がゼロになったまちで新しく酒蔵をつくるhaccoba代表に聞く、新規参入だからこそできること

人口がゼロになったまちで新しく酒蔵をつくるhaccoba代表に聞く、新規参入だからこそできること

白井恵里子

2020/10/07(最終更新日:2020/10/07)


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佐藤 太亮さん/提供:株式会社haccoba

2011年3月に発生した東日本大震災の影響により人口が一時ゼロになったまち・福島県南相馬市小高区で、新しい挑戦を始めた起業家がいる。

株式会社haccobaは同地域において、2021年2月に新しい酒蔵兼バーをオープン予定。東北で伝統的に行われていた「日本酒にホップを使った製法=花酛(はなもと)」をはじめとした、自由な醸造スタイルで新しいSAKE造りに挑む。

同社は9月15日(火)よりクラウドファンディングサイトMakuake限定で、試験醸造酒2種類の販売を開始した。

代表の佐藤 太亮(さとう たいすけ)さんは、酒業界での経験は浅いが、「酒づくりに人生を懸けたい」との想いでゼロから酒蔵を立ち上げる。

なぜ新規参入で起業しようと思ったのか?新規参入だからこそのメリットとは何か?佐藤さんを取材した。

素直な欲求にしたがってやりたいと思った「酒づくり」

佐藤さんは、現在28歳。慶應義塾大学在学中、石川県七尾市のまちづくり会社でソーシャル系大学を立ち上げ、地域のコミュニティづくりに携わった経験を持つ。

卒業後は新卒での楽天株式会社を経て、ウォンテッドリー株式会社へ入社。新規部署の立ち上げ等に従事した後、事業部最年少マネージャー(当時)としてカスタマーサクセスチームを率いていた。

その後、新潟の阿部酒造株式会社および東京の株式会社WAKAZE等で醸造の修行を積み、今年2月に同社を設立した。

ー醸造の修行を積んでまで酒蔵を立ち上げたいと思った理由を教えていただけますでしょうか。

佐藤さん:お酒づくりという行為が美しいと感じたからです。

微生物の営みによって味が決まるものなので、理論的に2度と同じ味はつくれない。

再現性のないアート作品をつくっているようで、その刹那性にかけているつくり手に惹かれました。

また、多くの国で古来から神との神聖なコミュニケーションツールでもありながら、俗的なコミュニケーションツールでもある。人間らしさをよく表していて美しいと感じます。

加えて、「自身も実践者でありたい」という想いも、酒蔵立ち上げへと駆り立てた要因だという。

自分のもう1つの人生のミッションとして、今までプラットフォーム側としての事業で「個人のエンパワーメント(個人がやりたいことを実現できる社会の実現)」に取り組んできたのですが、ゆくゆくは広義の教育者として活動していくうえで、自分が実践者でもありたいと思ったのです。

自分の素直な欲求にしたがってやりたいと思ったのが「酒づくり」でした。

酒蔵スケッチ外観/提供:株式会社haccoba

一時人口がゼロになったまち・小高区での挑戦

同社では、福島出身で佐藤さんの妻である佐藤みずきさんが、店舗イメージなどのクリエイティブ関連や事務作業を担当。醸造責任者としては、立川哲之さんが技術面をリードする役割だ。

ー立川さんとの出会い、一緒に働くことになったきっかけなどを教えてください。

佐藤さん:僕が「ゼロから酒蔵を立ち上げる」という内容のnoteを書き、それをお酒関係の共通の知人たちがSNSでシェアしてくれました。

もともと「いつか福島県の浜通りで酒蔵をつくりたい」と思っていた立川がnoteを読み、想いに共感してくれて、知人経由で連絡してくれたことがきっかけです。

提供:株式会社haccoba

酒蔵を立ち上げる場所は、原発事故による避難指示区域に指定され、一時人口がゼロになったまちだ。佐藤さんが3月11日生まれということも、ここでの挑戦を決めた原動力の1つだという。

小高区では、今では徐々に交通機関や商店が戻り、人々の営みが再開し始めているというが、人口は震災前の約3分の1程度にとどまり、風評被害など課題は山積みだ。

しかし、佐藤さんによればこの地域は、だからこそ、「ゼロからのまちづくりにチャレンジできる、世界的に見てもまれに見る最先端な場所」だという。

地域の人や訪れる人にとって、酒蔵が「新しいコミュニティ」の1つになる。地域外の人にとって、そこでうまれたお酒が「社会課題へ想いを馳せるツール」となる。これこそが、佐藤さんの目指すhaccobaの在り方なのだ。

「自由な醸造スタイルで醸すSAKE」と「コミュニティ型酒蔵」を目指す

ー新規参入で起業するにあたって一番不安なことや大変なことは何ですか?またそれをどのようにして乗り越えていますか?

佐藤さん:困難なこととしては、まず「新規参入の規制」が挙げられます。

日本酒業界は酒類製造免許により、実質的に新規での参入が制限されているため、いわゆる日本酒(=「清酒」)の製造免許は新規で取得することができません。

そのため、「その他の醸造酒」といういわば "抜け道"的な免許で「SAKE」を製造します。

免許の取得は、手続きなどで大変なことが多いですが、SAKEスタートアップとして活躍している「WAKAZE」代表の稲川さんにかなりサポートをしてもらっています。

その他、技術面の不安もあると佐藤さんは話す。

僕も立川も日本酒の酒蔵で修行をしているとはいえ、まだ20代のひよっこです。

かつ、僕たちがつくるSAKEはまだジャンルとしては確立しきっていません。

そのため、日本酒の酒蔵の方(阿部酒造、佐々木酒造店など)やクラフトビールのブルワリーの方(遠野醸造など)に相談しながら、レシピ開発などを行っています。

試験醸造酒タイプAとタイプB/提供:株式会社haccoba

ー一方で、新規参入だからこそのメリットや、新規参入者だからこそ挑戦したいことなどはありますか?

佐藤さん:開発するプロダクトとしては、「自由な醸造スタイルで醸すSAKE」を目指します。

伝統を大事にしつつ、「日本酒」の製法に囚われすぎない開発。クラフトビールのように、フルーツやハーブなどの副原料で自由な味わいをつくりたいと思っています。

最初に手掛ける試験醸造酒は、ビールの原料である「ホップ」を使ったお酒。これは、新鮮で面白い酒づくりでもありつつ、実は東北の伝統製法(花酛)に基づいたものだ。

花酛は、ビールにも使用されるホップの防腐効果を発酵初期に利用するという大変理にかなった製法だが、各家庭でのどぶろくの製造が禁止となって以降、ほとんど見られなくなってしまったという。

顧客コミュニケーションとしては、つくり手側として楽しめるコミュニティ型の酒蔵を目指します。

酒蔵を一から立ち上げるブランドが珍しいため、つくるワクワクを共有したいという想いがあります。

お酒を「飲む」だけではなく「つくる」という体験価値をオンライン・オフラインの両方を通じて提供していきたいと考えています。

具体的には、新しいレシピの考案や、パッケージデザインの相談、メインプロダクトを決める投票企画などを顧客と一緒に行っていきたいという。

SAKEのつくり手をふやしたい

「醸造をもっと自由なものにし、SAKEのつくり手をふやしたい」と、佐藤さんは今後の展望を語る。

佐藤さん:ビールやワインのように世界中につくり手が増えると、使う原料や製法のちょっとした違いから味わいの多様性が広がり、まだ見ぬ「最高に美味い酒」が生まれるかもしれない、というロマンがあります。

発酵につくり手として関わるということは、微生物の複雑性・予測不可能性・不完全性への対応が求められます。

「発酵」を生きた文化として楽しむ人が増えることで、複雑性・予測不可能性・不完全性を受け入れ、美しいと感じる東洋的美意識も継承していきたいと思っています。

人口がゼロになったまちで、応援してくれる人たちと一緒に酒蔵を育てていきたいとするhaccoba。

新規参入だからこそうまれる自由な発想と、地域に根差した挑戦は、今なお続く社会課題に思いを馳せるきっかけに成り得るのだろうか。今後の動向から目が離せない。

出典元:Makuake/福島・南相馬にあたらしく酒蔵をオープン。ホップを使ったCRAFT SAKEの挑戦

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