近年、日本企業を取り巻くグローバルな競争環境は厳しさを増しており、自社のリソースのみで新たな顧客の価値を生み出すイノベーションを起こすことは難しく、世界中のリソースを活用する「オープン・イノベーション」は必須の戦略となっているという。
しかし、オープン・イノベーションは事業成功のための一つの手段だ。この手段をどう取り入れ、どのように舵を取るのかということが、企業にとっては鍵となる。
Trusted株式会社は8月20日(木)、日本企業と欧州スタートアップとのオープン・イノベーションを促進するトータル支援サービスの提供を開始した。
日本企業がオープン・イノベーションで成果をうみだすには、どのようなことを大切にすれば良いのだろうか。同社代表取締役CEOのファリザ・アビドヴァさんを取材した。
テクノロジーの商用化を妨げる要因に着目
ファリザさんは、1985年にウズベキスタンで生まれ、文科省奨学生として神戸大学に留学。
サマルカンド国立外語大学を首席で卒業後、2010年に、大手企業向けにグローバル人材開発を手掛けるSOPHYS株式会社を東京で創業した。
2016年にミケーレ・デルカさんとともに同社を設立し、日本企業と世界中のスタートアップとのグローバル事業提携の支援に取り組んでいる。
ーTrusted株式会社設立の経緯、そしてグローバル事業提携を手掛けるようになったきっかけ・理由を教えていただけますか?
ファリザさん:はじめて起業したSOPHYS株式会社で、日本の大手企業の幹部やマネージャーを対象にしたグローバル人材育成の研修を実施していました。
それらの企業の多くがメーカーであったこともあり、私はテクノロジーやR&D、イノベーション・プロジェクトに強い関心を持つようになりました。
そして、彼らの研究施設を見学する機会が得られたときは、現場を案内してくれるエンジニアたちに将来の開発プロジェクトなどについて話をうかがっていました。
研究開発センターやイノベーション・センターを訪れるたびに、「未来のテクノロジー」だと思っていたクリーン・エネルギーや自動運転などが実体化していることを目の当たりにしたファリザさん。彼女は同時に、なぜそこまで開発が進んでいるにも関わらず、すぐに商用化されないのか疑問に感じたのだという。
ファリザさん:エンジニアたちによれば、商用化にはさらに国内外の研究開発や異業種の企業とさまざまな実証実験を重ねる必要があるが、海外や業種を越える有力なコネクションとネットワークを構築できていないので、プロセスがそこで停滞しているとのことでした。
世界トップ・シェアの自社製品を持ち、強力なブランド力と豊富な経営リソースを有する日本の大手企業でさえそのような現状であることを知り、私はさらに驚きました。
そこでファリザさんは、人々の生活を向上させる世界中の優良な企業活動をつなぎ、イノベーションの創出を加速させることをビジョンとして、同社を設立。
このたび、約5000社の国内外スタートアップが持つ技術、ならびにスタートアップの資金調達や事業提携などの活動実績の情報に関するデータ・アナリティクスを提供するプラットフォーム「Trusted B2B Platform」を開発し、ユーザ企業とスタートアップを繋ぐトータル支援サービスを開始した。
ー5000ものスタートアップとどう繋がり・信頼を築いてこられたのでしょうか。具体的に教えていただけますか?
ファリザさん:まず最初に、海外のベンチャー・キャピタルたちに対して、Webサイトの問い合わせページ等から直接連絡を取り、彼らの投資先であるスタートアップと日本企業との協業機会を提供できることを説明しました。
すると彼らのほとんどが日本企業との協業に強い関心を示し、そこから私たちとの関係構築が始まりました。
ファリザさんによれば海外のスタートアップは、日本企業とオープン・イノベーション活動で協業する意思があっても、日本企業の意思決定者とのコネクションを持っていないため連絡をとる手段がないのだという。
一方、ベンチャー・キャピタルは出資先のスタートアップに対して、将来的にクライアントやパートナーとなりうる企業のネットワークを提供することで、投資価値と影響力を拡大したいと考えているそうだ。
ファリザさん:このような背景から、私たちがベンチャー・キャピタルのビジネス・パートナーになることは、ベンチャー・キャピタルとスタートアップの双方にとってメリットがありました。
そして、私はアメリカと欧州を往復して、それぞれのベンチャー・キャピタルの責任者や担当チームと直接会い、パートナーシップの詳細についての折衝をはじめとするフェイス・トゥ・フェイスまたはオンラインによる親密なコミュニケーションを通して信頼関係の向上に努めました。
さらに「Trusted B2B Platform」には、一定水準の信頼性を確保するために、ベンチャー・キャピタルや銀行によるデュー・ディリジェンス(投資対象企業の価値やリスクの調査)をパスしたスタートアップのみが登録しているという。
自前主義に固執せず、明確なプランとスピートを重視すべき
日本企業のライバルである欧米企業は20年前からオープン・イノベーションへの取り組みを開始しているため、できるだけ早くその活動に着手すべきだとファリザさんは訴える。
ファリザさん:今はビジネス・モデルやビジネス・シーンが5年周期で変化するようなテクノロジーの時代です。
日本企業がこのスピードに追いつくためには、スタートアップと手を組んで時間を買い、最高の技術を統合することでイノベーションを創出する必要があります。
今後ますます先端技術の専門性と適用分野が複雑化、細分化されていくビジネス環境においては、潤沢な資金を持つ大手企業でさえ、すべてのニッチな技術を自社開発することは非常に困難であるため、スタートアップが最高の知見と情熱、ビジネス環境に対する柔軟性を発揮して生み出した既存のソリューションを利用する方がはるかに効率的です。
ファリザさんによれば、オープン・イノベーションで成果を出すためには、一般的なプロジェクトやビジネス同様に、最良の戦略と明確な設定目標、優秀なチームで構成されたプランが必要だという。
ファリザさん:残念なことにイノベーション創出に成功していない日本企業には、2つのタイプがあると考えています。
1つ目は、明確なプランや戦略がないにも関わらず、とりあえず多くのスタートアップとコンタクトをとろうとする企業です。
スタートアップの情報収集のために多額の資金を投入したり、現地オフィスを設置して協業候補のスタートアップを見つけたりしても、他部門の協力が得られない、本社が最終的なゴーサインを出さないなどの理由から、プロジェクトが失敗に終わっているケースが多いのです。
また、日本の大手企業が意思決定に長い時間をかけている間にスタートアップは協業への関心を失います。スタートアップにとってスピードは極めて重要なのです。
ファリザさん:2つ目は、すべてのことを自社リソースのみで完遂させようとする企業です。
各自の得意分野を持つスタートアップとリソースを共有してオープン・イノベーションを推進する方法を選択せずに、自前主義に固執することは、最高のアイディアを求めて常に多くのスタートアップと協業している競合他社との競争に敗れるリスクをもたらし、グローバル市場で生き残る可能性を徐々にではあるが確実に低下させることになるでしょう。
このような課題を解決するため、同社はグローバル事業開発についての豊富な実績を持つコンサルタントたちと協力して、パートナーにふさわしいスタートアップを見つけたときには迅速に、そしてオープン・イノベーションを開始した際にはその企業を1~2年かけてトータル支援するソリューションを提供していくという。
グローバル規模のイノベーション促進に向かって
ー今後の展望をお聞かせください。
ファリザさん:私たちのプラットフォームの目標は、将来のクライアントやパートナー、そしてビジネスに有用な知見などすべてのソリューションを1つの場所から見つけることができる検索エンジンとしてユーザから信頼されて、最初に選ばれる検索エンジンとなることです。
彼女によれば同社は近い将来、高品質で信頼性の高いメンバー企業で構成されたデータベースを増やす予定だといい、それにより、パートナーを求める企業とスタートアップの意思決定者同士が、国や業種を超えて相互、直接的に連絡を取ることができるようになるそうだ。
ファリザさん:プラットフォームを通して一定水準の信頼性が保証された世界中の企業の意思決定者同士がつながれば、どんな規模の企業でも公平に情報やクライアント、ビジネス機会にアクセスできるようになるため、グローバル規模のイノベーションのスピードを速めることができます。
国や業種といった垣根を超え、同じ志をもつ企業同士が自由に連携しイノベーションを起こしていく時代がやってくるには、それほど時間はかからなそうだ。
出典元:NEDO
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