HOMEインタビュー 田舎ホームステイサービスを立ち上げた22歳起業家が、人生を懸けて取り組むべき事業に出会えた理由

田舎ホームステイサービスを立ち上げた22歳起業家が、人生を懸けて取り組むべき事業に出会えた理由

白井恵里子

2020/08/20(最終更新日:2020/08/20)


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杉本朋哉さん(左)

株式会社Familyinnは8月、"観光以上、移住未満の暮らしを実現する"田舎ホームステイサービス「Familyinn」の提供を開始した。

このサービスは、田舎でのホームステイを1カ月から体験することができるもの。利用者は、地域の特色を知り、さらに地域のコミュニティに参加することが可能だという。

同社の創業者は、大学休学中の22歳・杉本朋哉さん。

彼は、これまで学生団体の立ち上げや起業を経験してきたなかで、「"人と人との繋がり"や"人類の存続"にとって必要不可欠なサービスでないと人生を懸けて取り組めない」と感じ、今回「Familyinn」立ち上げに至ったという。

着目したポイントは、多くの若者も直面しているであろう「孤独問題」。「田舎・地方の暮らしは人間性を豊かにするポテンシャルがある」として、この事業に人生を懸けるべく現在奮闘中だそう。

「夢中になれることが見つからない」「やりたいことが分からない」といった若者も多いなか、彼はどのようにして「人生を懸けたいと思えること」に出会うことができたのだろうか。杉本さんを取材した。

提供:株式会社Familyinn

自分自身の感情の動機付けが最も重要

杉本さんは、東京都立大学3年生(現在休学中)。

2017年4月、「学生が情報交換を行えるリアルな場作り」として150人規模の学生団体を立ち上げ、毎月50人以上が参加するイベントを開催していたという。

同年10月、 代理店として訪問販売組織を創設。2018年9月には、株式会社NaToRを創業し、「大学選択の際に、 質の高い意思決定を行うためのキャリア教育事業」をリリースした。

しかしこの時、創業メンバーとの方向性の不一致が発生。「人生を懸けて取り組みたいこと」を模索するなかで、自身の原体験から常々興味のあった「孤独問題」にたどり着き、多様化する家族事業に着目して2019年1月、同社を創業した。

ー学生団体立ち上げや起業の経験からから学んだことや糧になったことなどを教えてください。

杉本さん:過去の経験から学んだことは、ノウハウなどではなく自分自身について深く知ることが出来たことです。

周囲から声をかけられたものは全て途中で飽きて辞めてしまったことから、自分自身の感情の動機付けが挑戦することにおいて最も重要だと理解することができました。

なぜ辞めてしまったのか内省したとき、組織として収益性のみの動機や、「社会に出たら役立つ」という"周囲の声"では中途半端に全て終わることがよく分かりました。

家の外にある「地域の中での繋がり」

杉本さんはこれまで、都内で家族と暮らしていたものの常に孤独を感じていたこと、社会がつまらないと感じていたこと、そして、とあるきっかけで見知らぬ60代の女性が空き部屋を貸してくれたことで拠り所ができ孤独感が解消されたことなど、家の外にある「地域の中での繋がり」の重要性を感じる経験を積み重ねてきたという。

このことが、「新しい家族のかたち」としての田舎ホームステイサービス誕生に繋がったそうだ。

杉本さん:私は社会に生きづらさをとても感じていたので、半年間大学に行かず、何もしない生活を過ごし、「こういう世界だったら絶対に楽しいのに」という想像をしていました。

社会はどうしてこんなにもつまらないのか気になっていた時、社会学者・宮台真司さんの動画に敏感に反応してしまい、社会学にのめり込みました。

すると、私が起こそうとしているホームシェアリングサービスが巨大な社会問題のソリューションに繋がると確信して、使命感に駆られました。

この時、自分の実現したい世界観が固まった杉本さん。しかし、「大学を辞めて起業する」と周囲に伝えると、家族からは進路の反対、教師・友人からは「変な奴」だと指をさされ、バイト先からも見放されるなど、次々と絶望的な事態が起きてしまったという。

杉本さん:「どこにも居場所がなくなっても、この事業はなんとしても社会に実装しなければならない」という一心で家を出て、ビジョンしかない完全に無一文の状態でした。

そんな時、見知らぬ60代の女性と出会い、空き部屋を借りて半年間暮らさせていただいたことがありました。

これが結果的に自分の居場所となり、僕もその女性もとても楽しい時間を過ごせたため、サービスの重要性を強く再認識したのです。

自分自身の声を大切にして意思決定をするべき

杉本さんは今年5月、群馬県前橋市にて3カ月間のホームステイを体験。ここで過ごした日々も糧となり、今回「Familyinn」のリリースを実現した。

ー実際にホームステイをされた3カ月はどのようなものでしたか?また、そのご経験をどのようにこの事業に活かしたいと思われますか?

杉本さん:東京出身・東京育ちである私の日常にはなかった体験ばかりでした。

今までは決められたルールの中での遊びがほとんどで、正直これらも面白くないと思っていましたが、田舎に行くと予測不可なことや余白があるので、自分の好きなように想像し取り組めるのでとても楽しかったです。

小学校時代の転校生気分をまた味わうことが出来て、幾つになってもこの経験ができるのは非常に面白いなと思いました。

また、なによりホストさんがどんなことにも相談に乗ってくれましたし、話し相手になってくれたので、私自身、「また救われた」と感じました。

この経験を事業に生かしたいというより、この経験を伝え、1人でも多くの人に1秒でも豊かで楽しい時間を過ごせるようサービスを提供していきたいです。

ホームステイ最終日(提供:株式会社Familyinn)

杉本さんはこの事業を「人生を懸けて取り組みたい」と明言し、周囲の反対を押し切って、実際に行動に移した。何が彼をここまで突き動かしているのだろうか。

杉本さん:誰もが「人生を懸けて取り組みたい」と思えるようになる必要はないと思っています。

その場その時に、自分の好きなことに赴くままに意思決定をしていくことが、楽しく豊かな人生を過ごすために大切なことだと思っています。

ただ、私のように社会に違和感や義憤を感じるのであれば、周囲に何と言われようと、自分自身の声を大切にして意思決定をするべきだと思います。

私は私の倫理観に従い道を開拓して進み、その度に救ってくれる方と出逢うことが出来ました。

奇跡的だと思うかもしれませんが、この世界はとても優しく、本当に素敵なマインドを持ってる人々が多くいます。

極少数かもしれませんが、ビジョンの解像度が低い時に、信じてくれる人は絶対にいます。

そういう人には、出逢うべくして出逢うものだと思います。

5つの想いを胸に今後も事業を展開

トレンドを追うのではなく、社会の違和感と自分の倫理観に忠実に生きることが重要だとする杉本さん。

「Familyinn」については、世代的に誰でも利用して欲しいという。そのため、ラグジュアリー感は一切出さず、空き部屋利用での事業展開を行っているそうだ。

楽しいことをしたい人、体験教育をしたい人、お試し移住をしたい人、人生に余白の時間を作りたい人、共同保育という子育ての在り方を体験したい人などにおすすめだという。

Familyin利用者の風景(提供:株式会社Familyinn)

ー今後の展望をお聞かせください。

杉本さん:田舎ホームステイサービスFamilyinnには5つの想いが込められています。

・孤独死を0にする。
・子育てのしやすい社会にする。
・全国に誰もが安心してワクワクできる居場所を作る。
・座学ではなく実践の教育(生活)機会を増やす。
・規定された枠組みから未規定な社会へ脱却する。

定性的・抽象的なことが多いですが、事業を展開していくうちに、また新しい取り組みに派生していくかもしれません。

子々孫々により良い社会を残していくため、人生を懸けて取り組んでいきます。

これまで自分自身が感じてきた違和感・倫理観を信じてきたからこそ、本当に自分がすべきことに出会えたという。自分自身の気持ち・信念に従って突き進み、時には見知らぬ温かい人々に救ってもらうことで、目標に向かって人生を懸けて取り組むことができると杉本さんは話す。

現代では希薄になりつつあると言われる、人と人とが手を取り合える相互扶助のコミュニティに焦点をあてた田舎ホームステイサービスは、孤独を感じる若者をはじめ、ありとあらゆる人々に、豊かな人生を送るためのヒントを与えてくれそうだ。

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