HOMECareer Runners 「転職はリセットではなく、積み上げていくもの」退職体験改善の担当者に聞く、キャリア形成に必要なこと

「転職はリセットではなく、積み上げていくもの」退職体験改善の担当者に聞く、キャリア形成に必要なこと

長澤まき

2020/08/23(最終更新日:2020/08/23)


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提供:ハッカズーク/實重 遊さん

株式会社ハッカズークは8月、人事コンサルティングの株式会社ディプレと協力し、従業員の退職時体験を改善する「オフボーディングワークショップ」の提供を開始した。

これまで現場に委ねてきた退職者とのコミュニケーションや引継ぎ対応などの一連の流れを、最適化されたオフボーディングへと変革。それにより、従業員の退職時体験を改善し、企業と退職者の良好な関係を築くワークショップだ。

入社時~定着・戦力化までの「“オン”ボーディング」に注力している企業は多いが、同社はなぜアルムナイ・リレーション(企業の退職者との関係構築)に特化した事業を展開しているのか?また、これからのキャリア形成についてどのように考えているのか?

オフボーディング推進担当の實重遊(さねしげ ゆう)さんに取材した。

「企業と個人の新しい関係」を目指す

同社は、企業とアルムナイ(企業の退職者)が退職後もつながる「企業と個人の新しい関係」の実現を目指し、アルムナイに特化した事業を展開している。

アルムナイ特化型クラウドシステム「Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)」やコンサルティングを主軸事業とし、多くの企業とアルムナイとの関係構築をサポート。

また、コンサルティングを行う中で特にニーズがあり、解決すべき課題が深い2つのサービスを切り出して、独立した新サービス(退職者の本音を引き出し組織改善に活躍する“退職アンケート”の設計・改善と、今回リリースしたサービス)として提供している。

「Official-Alumni.com」は今年8月に経済産業省後援の「第5回HRテクノロジー大賞」で奨励賞を受賞するなど、同社のアルムナイサービスは今、大きな注目を集めている。

提供:ハッカズーク

退職時の対応で、企業と退職者の関係が悪化

實重さんは大学卒業後、シンガポールにてインターンとして日本企業のシンガポール進出の支援に携わり、2016年にアクセンチュア株式会社に入社し人事コンサルティングに従事。

主に、HR SaaSを用いてグローバルで統一された人事制度・人事プロセスを実現するための支援を担当。採用・配置・評価・育成と幅広い人事プロセスの改革や運用に携わる中で、“退職が縁の切れ目”という状況に課題意識を持ち、2020年に同社に入社した。

退職で終わらない関係作りの前提となる「辞め方改革」の推進を担当し、退職者から本音を引き出し組織変革につなげる退職アンケートの設計やオフボーディング改善に従事している。

-----今回リリースした退職体験を改善するサービスを始めた経緯を教えてください。何か、きっかけとなる出来事があったのですか?

實重さん:弊社におけるサービスの1つとして、退職者の意見を組織改善に活用することを目的とし、退職インタビューや退職アンケートの設計・改善のコンサルティングを行っております。

そのサービスにおいて退職者の声を分析する中で、退職時の体験が企業への印象に大きな影響を与えている事実が見えてきました。全体の在籍期間と比べると僅かな期間である退職時の体験が、退職者が企業に対して持つ印象にここまで大きな影響を与えている原因を深掘りしようとしたことが、このサービスのきっかけとなりました。

そうして、企業や退職者にヒアリングを進めると、退職時の対応はそれぞれの現場で属人的に行っているケースがほとんどで、その品質が担保されていないことが分かってきたという。

實重さん:具体的には各退職時体験ごとに、以下のような扱いをされることで企業への印象の悪化が見られました。

・退職意思表明時:退職意思を否定される、裏切り者扱いされる
・退職面談:これまでの貢献が評価されない、退職に至った経緯を聞き出されない、全く慰留されない
・引継ぎ期間対応:引継ぎ先が決まらない、引継ぎ以外の業務から完全に外される
・有給消化対応:有給消化が配慮されない
・最終出社日対応:感謝の言葉を伝えてもらえない、送別会がない
 
さらに具体的な例をいくつかあげると、ある人は退職面談で「せっかくここまで育てたのに」とか「どれくらい迷惑になるかわかってる?」と言われたり、ある人は退職の意思を表明した日以降、突然全ての会議から外されてしまいました。

このような対応を受けて退職者は、自分のこれまでの会社への貢献や悩み抜いて出した退職という意思決定を否定されたと感じていたのです。この感じた印象は退職後も残り、悪化した印象は再び引き上げることは非常に難しいものとなります。
 
このように、退職時の対応により企業と退職者の関係を悪化させてしまっていることは、日本企業における課題であると考え、本サービスをはじめました。

 

提供:ハッカズーク/實重 遊さん

「なぜ必要なのか」を一緒に見極める

-----「オフボーディング」という新しい考え方をサービス化するにあたって、大変なことはありましたか?

實重さん:大変なことは、やはりこれまでに無いサービスのため、なぜこのサービスが必要なのかをお伝えしていく必要があるという点です。

オフボーディング=退職時対応は、現場で人それぞれが行うものと考えられており、オフィシャルに設計して行うものであるという発想があまりありません。また、退職時の体験が原因で企業への印象を大きく下げてしまっているという課題は、退職者の声を聞く機会がなく、またそもそも退職者が近年まで少なかった企業も多く、気づきにくいものです。

そのため、これまでの経験から従業員の退職時体験に問題意識を持ってはいるが、どれくらい深刻な問題かは把握されていない方が多いです。

-----それをどのように乗り越えましたか?

實重さん:その点を乗り越えるために行っていることは、オフボーディングの改善がいかに重要であるかをお客様と一緒に見極めることです。

人事の方の中には、「従業員の退職時体験を改善することは極めて重要だ」と既に考えている方もいらっしゃいます。しかし、そうでない場合は、先にあげた退職アンケートの設計および実施をまず行い、退職者による退職時体験の評価を取得し、そのデータを踏まえてお客様と一緒に重要な課題を特定します。

もし在籍時体験の評価は悪くないけれども、退職時体験の評価が低いというデータが出れば、それはまさにオフボーディングの改善が極めて重要という結論に至ります。その際には改めてオフボーディングワークショップの実施をご検討いただきます。

企業の退職者への考え方に変化も

-----オフボーディングワークショップの提供を通して見えてきた、企業の“退職者”に対する考え方について教えてください。

實重さん:まず、雇用の流動化を背景に、日本企業における退職者は近年かなり増えています。そのような中で、ほぼすべての企業は「退職者を減らすには?」については熟慮していますが、「退職を受け入れた上で、いい関係を構築して活用するには?」についてはあまり議論や施策化まで至っておりません。

その理由として、「退職者=裏切り者」という考え方が根底にある方も少なくないからだと思います。

一方で、企業の人事や管理職の方の中には、「退職者を裏切り者扱いしているままでいいのか?」「退職者との関係性を悪化させていることで、機会損失やブランディング棄損に繋がっているのではないか?」という方も多くいらっしゃいます。

このような課題意識を持った方々と協力し、オフボーディングワークショップの重要性を経営陣にご説明し実施を進めていくことで、退職者を裏切り者と扱ってきた社風が、退職者を大切にする方向に少しずつ変わっていく事例もあり、手応えを感じています。

また、オフボーディングが改善することで、企業に対する印象がとても良くなるケースも多く、オフボーディングの重要性を再認識しているという。

導入により、採用面・ビジネス面で効果

-----貴社のアルムナイサービス「Official-Alumni.com」を導入した企業では、どのような効果が出ていますか?

實重さん:採用面でもビジネス面でも幅広い効果が出ています。

まず、採用面では、わかりやすい成果として、「Official-Alumni.com」を導入いただいた多くのお客様が、アルムナイの再雇用に至っており、年間数名再雇用に繋がっているケースもあります。

また、副業という形でアルムナイに業務を発注しているケースもあります。

コロナ禍の今、「リモートワークだと本業でも副業でもオンボーディングが大変だが、アルムナイであれば仕事の進め方を知っているためスムーズに仕事を開始してもらえる」という声もいただいております。

また、継続的にコミュニケーションを取ることで自然と口コミサイトにおける口コミが改善し、採用ブランディング向上に繋がったという声もあります。

提供:ハッカズーク

ビジネス面では、アルムナイ繋がりで営業先や協業先の開拓に繋がる事例が多くあります。

例えば、特定の企業にアプローチしたい場合に、名刺管理ツール代わりに「Official-Alumni.com」で検索いただき、コンタクトするという使い方をしていただいております。

名刺を交換した人より、関係性が構築されているアルムナイの方がアプローチしやすいため、成果に繋がりやすいですね。また、他にもアルムナイの方とオープンイノベーションに取り組んだり、アルムナイの方に社員向けの講演を行ってもらい新しい視点を社員に提供したり、と幅広い事例があります。

提供:ハッカズーク

このような事例を生み出しているお客様の多くは、アルムナイとの関係構築を重要視し、オフボーディングを設計して、従業員の退職時体験の向上に取り組んでいます。

退職者から学び、自分の退職を意識

-----これからのキャリア形成に必要なことは何だと考えていますか?若手ビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

實重さん:私もまだ若手のビジネスパーソンなので偉そうなことは言えませんが……アルムナイの事業を通して見えてきたことは、企業が退職者の捉え方を変えるに伴い、従業員個人も大きく2つ考え方をアップデートする必要があるということです。

1つめは、退職者から学ぶ姿勢を持つことです。

これからの目まぐるしく変化する時代を生き抜くためには、一企業内の視点で留まるのではなく、外部からの視点を取り入れることが重要です。企業から退職者が出れば、個人個人が退職者と関係を継続し、外部の視点を取り入れ学ぶべきです。そのためには、退職時の体験で関係を悪化することがないよう、役職に関係なく、一人一人が退職者の正しい見送り方を考える必要があります。

2つめは、自分の退職を意識することです。

終身雇用が崩壊したこれからの時代では、退職し新たな環境に挑戦することも、より自然な選択肢となるはずです。その時重要なのは、自分の退職は卒業と呼べるかということかと思います。

転職はリセットではなく、あくまでこれまでの関係性や評判に積み上げていくもの。今の会社を辞めた時、「自分は退職後も繋がるメリットのある人材になっているか」「卒業と言えるほど仕事をやり切ったと言えるか」「元〇〇と言って恥ずかしくないか」を問いかけながら、真摯に今の仕事に向き合うことが重要だと考えます。

そうすれば、その会社を退職しても、アルムナイとしての繋がりが続き、「いつでも戻っておいで」と言ってくれるセーフティネットになるかもしれません。そうすれば、それを土壌に思い切った挑戦ができると思います。

提供:ハッカズーク

退職時の体験が改善され、企業と退職者が良好な関係を維持し続けることで、今後どのように互いのビジネスが広がり成長していくのか、楽しみだ。

出典元:HACKAZOUK

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