オーガニック野菜の生産・加工・販売を展開する株式会社いかすは2018年4月、有機農業の学校「サステナブル・アグリカルチャー・スクール(SAS)」をオープン。これまでの2年間で卒業生は70人を超え、卒業生の中にはすでに就農しているメンバーもいるという。
昨今の新型コロナウイルス感染拡大に伴い、同校は9月、オンラインだけで学べるコース「SASオンライン」を新しく開講する。
働きながら学べることが特徴の同校はオープン以降、神奈川県平塚市を拠点にほかにはない有機農業の学びの場を提供してきた。9月より始まるオンラインコースは、サステナブルに農を営むためのベーシックとなる基礎を学び、畑での実践的な学びも動画で見ることのできる講座となっている。
有機農業の知見や技術を身に着ける意義とは何か。有機農業を仕事にするという選択肢について、同社代表の白土卓志(しらとたかし)さんを取材した。
未来の地球と子どもたちが喜ぶ農業を広めたい
白土さんは、2001年3月に東京大学工学部を卒業後、株式会社インテリジェンスに入社。事業企画マネジャーを経て独立を決意し、2015年3月に同社を創業した。
同社のコンセプトは、「育てる、たべる、あそぶ、まなぶ」の"循環"。
白土さんは現在、湘南オーガニック協議会会長として、湘南がオーガニックな街になるべく様々な活動も行っている。
ーオーガニックに興味を持たれたきっかけと、有機農業者を育成するスクールを立ち上げた経緯を教えてください。
白土さん:オーガニックに興味をもったのは、美味しいオーガニック野菜に出会ってしまったことです。
「炭素循環農法」で育った野菜を食べた時、美味しすぎてびっくりしました。
そこから、農業研修をしたり、全国の炭素循環農法の生産者の野菜を集めてマルシェをしたり…。
そして、2015年に満を持して、「株式会社いかす」を創業したのです。
白土さんは、世界が面白くなる要素として2つのことを挙げている。
白土さん:1つは、食べる人が農に近づくこと。
知らないで食べている人が多すぎる。だから感動や感謝が生まれないと思っています。
「食べること」はみんなやるけど、「育てること」はほとんどの人がやっていません。
ここが少しでも近づくと、とっても人生が豊かになると思うんです。
なによりも、土と触れると本当に気持ちがいい。
ただ、家庭菜園をやるのもいいですけど、そこにはハードルがありますよね。
なので、ただただ、畑に来て遊んだり、寝たり…そんなことをやれるといいなと思ってやっています。
もう1つは、日本では肥料を多く使うことや雨が多いことなどから有機農業が難しいので、"できちゃう技術"が広まるといいなあと思っています。
当社では、耕作放棄地10年の畑を借りて開墾から始め、初年度から安定して収穫ができています。
その技術や畑とのかかわり方をシェアしていく、というのがサステナブル・アグリカルチャー・スクール(SAS)です。
未来の地球と子どもたちが喜ぶ農業が広まるといいな、と思っています。
この2つが起点となり、有機農業者のスクールを立ち上げました。
同社では、東京大学農学部や東京農業大学、神奈川県農業技術センターとの共同研究、実証圃場の成果も含めて、耕作放棄地から有機農業の畑にするための、土づくりの方法を確立してきた。そのノウハウを、同校でシェアしているのだという。
高まる「サステナブルな農と食」への関心
同社によれば、新型コロナの影響を受け、サステナブルな農業や畑に興味を持つ人が増え、農業研修生の問い合わせや申し込みも増加傾向にあるという。
ーなぜ問い合わせが増えているのでしょうか?どういった問い合わせが多いのですか?
白土さん:問い合わせは、まさに、「農家になりたい。どうしたらいいですか?」というものから、さらに具体的に、農家の生活や収入に関することへの質問も増えています。
また、新型コロナやサバクトビバッタなどの影響もあって、「食料危機になるのではないか?」というところから、僕らが有機農業をやっている中で、「どんな世界を創造していこうとしているのか?」とか「それを一緒にやれないか?」とか、そんな問い合わせも増えています。
僕らもそうですが、自粛期間を経て、「どんな人生を歩みたいのか?」ということを考えた方も多いですよね。
そのなかで、よりプリミティブな、より大元にあるものを見直したい、というところから「サステナブルな農と食」に興味関心が高まっているのではないかと思います。
「いかすのオーガニック野菜の宅配」もコロナをきっかけにかなりお客様が増えました。
仮説→検証→外に出すことで学びを深める
同校のコンセプトは、「働きながら農業を知る・学ぶ」。
実際、受講生の多くが働きながら学んでいるという。中には、「農業をやる」と決心し、スクールで学びながら、同社で農業研修生として一緒に働いているメンバーもいるそうだ。
農業研修生とは、週5日、通常2年間、同校でのアシスタント業務などを行いながら、有機農業の技術と経験を学ぶことができるもの。将来就農したいという人や、同社の社員として働きたい人などが、本気で取り組む研修コースだ。農業研修生は、同校の受講料が全額免除という特典もあるという。
白土さん:一般的に、農業はハードルが高いです。研修を1年~2年やらないといけません。
一方で1年~2年研修をしたぐらいでは、農業技術を完全習得できるわけでもありません。
そして、何よりも、国内に有機農業を網羅的に学べる場がなかったので、その場としてのSASがあります。
「まずは、有機農業を知る、有機農業を体験する」SASはそのような場です。
そこから先、本当に農業の道に進むのか、応援する側に立つのか、家庭菜園で実践するのか、各個人でそんな選択をしていければいいな、と思っています。
ー有機農業者に一番必要なものは何だとお考えですか?
白土さん:SASで大切にしていることが3つあるので、それらが当てはまるかと思います。
1.自然が先生
これは、講師や人を先生にするのではなく、自然・畑が答えをくれる、ということです。
講師や先人たちはあくまでも仮説をくれるだけです。それを試してみて、畑で出てくることが答えなわけです。
畑で起きていることをただただ観る。そこから仮説をたてて検証する。農法以前に、このスタンスが大切です。
2.すべては仮説
先人たちが培ってきてくれた技術はすべて、"その土地"で実証されたものです。
他の場所でやって同じような結果になるか、というのは分かりません。
それくらい場所、作物によって変わってくるのが農業です。
すべては仮説、というスタンスで、農業に臨むと学びも深くなります。
3.出したものが返ってくる
学んだものをとにかく、外にだす、ということです。
外にだすことで、反応があり、それがまた「こたえ」となるわけです。
外にだしてみるときが、一番学びになります。
それは、ご自身で家庭菜園をやっていれば、そこで出すのもよし。
そういう畑がなければ、Facebookなどで学びをシェアするのもよし。
とにかく、学びを出す。学びをまとめるだけでも学びが深まりますし、反応があったら、さらに、学びは深まります。
同校では、具体的かつ本質的な知識と技術を学び、仮説を検証していくというプロセスを通じ、受講者は有機野菜作りの基本を身に着けていく。
仮説を検証し、そこから得た学びをアウトプットすることでより深めるというプロセスは、ビジネスと似ているのではないだろうか。
農業では感覚が大切
ー「農業をやってみたいが一歩を踏み出せない」「何から始めて良いか分からない」といった若手ビジネスパーソンに、アドバイスがあればお願いします。
白土さん:SASの体験説明会にくるのがいいと思います(笑)。
そこに来て、一歩踏み出せないのであれば、「今じゃない」のではないかと思います。
農業では感覚が大切です。
「いい・悪い」と頭で考えるのもいいんですが、普段使えていない「感覚」が大切。
きっと、これは農業に限った話ではありませんが…。
SASの体験説明会に来て話を聞いたり、いかすの畑に来たりすると多くの人は、感覚が開きます。
その感覚が気持ち良いのであれば、農業に向き合っていけばいいと思います。
あとは、無理しないことも大切かもしれません。
物事をありのままに捉えてシンプルに生きたい、土に触れながら仲間と繋がりたい...そんなビジネスパーソンのひとつの選択肢として、人にも地球にも優しい有機農業がある。
同校のオンラインコース体験説明会は、7月19日(日)・8月23日(日)の12:30~14:30にオンライン会議システムZoomにて開催予定だ。
出展元:株式会社いかす
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