HOMEインタビュー 何のために働くのかを明確に。数々の資格と技術を糧とし挑戦を続ける靴職人に学ぶ「目標設定の大切さ」

何のために働くのかを明確に。数々の資格と技術を糧とし挑戦を続ける靴職人に学ぶ「目標設定の大切さ」

白井恵里子

2020/06/13(最終更新日:2020/06/13)


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オーダーシューズ・インソール製造販売を行う有限会社中山靴店は6月2日(火)、自宅から簡単に注文ができるオーダーメイドインソール「Dr.insole 3D」の先行予約販売を開始した。

このインソールは、医学的知識を有する職人(同社代表取締役)の技術と最新の3D技術との融合により誕生。完全オーダーメイドなので、自分の足に最適なかたちで、足の負担を軽減するという。

開発を手掛けた同社代表取締役の中山憲太郎さんは、解剖学や整形外科の知識、靴や中敷きの製作法などを学んだ後、保健学博士・ドイツ国家資格ゲゼレ・上級シューフィッターの3資格を取得。この3資格を有する靴職人は日本で唯一の存在だという。

なぜここまで貪欲に、知識や技術を身に着ける努力を続けることができるのだろうか。資格取得の経緯などについて、中山さんを取材した。

顧客の声をもとに開発

同社は1950年に岡山県にて創業。現在、県内3店舗、札幌・大阪・京都にて各1店舗と、合計6店舗を展開している。

整形外科の知識と技術を活かしたオーダーメイドインソール「Dr.insole」が好評を得ており、これまで累計2万人以上への製作実績があるという。

「Dr.insole 3D」は、「来店せずにオーダーメイドインソールを製作して欲しい」という顧客の声をもとに、開発をスタート。このたび、自宅に居ながら注文することができ、かつ従来品よりも軽量で耐久性にも優れ、水洗いも可能とする新製品が出来上がったそうだ。

利用者は、自宅に送られる足形コピーキットに足を踏みつけ、シートに必要事項を記入し返送するだけで、希望に適ったオーダーメイドインソールの製作を依頼することができる。

店側は、受け取った足形を3Dスキャナーでスキャニングし、医学的知識をもとに理想的な足形にプログラミング。長年の職人経験と確かな技術で、依頼者の足にぴったりなインソールが出来上がるという流れになっている。

サッカー少年から靴屋の社長に

中山さんは、23歳で祖母の代から続く「中山靴店」を継承した。

子どもの頃からサッカーが好きだった中山さんは、それまで店を継ぐ気は全くなかったという。

大学時代はサッカーのプロを目指しアルゼンチンに留学したが、怪我でプロへの道を止む無く断念することに。その後はサッカーの指導者や選手の通訳などといった仕事に憧れ、メキシコへと渡りスペイン語などを学んだ。

そして転機はそこで訪れた。メキシコで偶然出会った靴職人の影響で、人の足を支える靴の魅力に気が付き、靴づくりにのめり込んでいったという。

しかしそこで芽生えた「店を継いで自分の作った靴を販売したい」という想いとは裏腹に、帰国し家に戻ると店はほとんど機能しておらず、多額の借金で債務超過と言う厳しい状態に陥っていたそうだ。

家族の反対もあったが、結局中山さんは、店の運営すべてを担い店舗経営を継ぐことに。

最初から店の立て直しを迫られる厳しい船出となりました。

「背水の陣」の強い気持ちで目指したのは、「明日、隣に大手量販店が来ても微動だにしない店づくり」です。

子どもから大人まで、長靴や学校の上履き、スニーカーにハイヒールパンプスなどあらゆる分野の靴を扱うフルライン型で、一方コンフォート店のような専門性の高い接客を目指しました。

同時に、メキシコで学んだ靴作りを生かすべく注文をとりはじめ、オーダーメイドシューズの製作をスタートしましたが、人口5万人の町の靴屋で注文してくれるお客は足の悪い年配の方ばかりでした。

売上欲しさに、お客からのすべての注文に「はい。出来ます」と答えたまでは良かったのですが、履き心地のよい靴をつくるためには専門知識と技術が必要なことを痛感。

限られた人手と資金で店を切り盛りしながら、 ドイツ人のマイスター(親方)が教える東京のセミナーに4年間通い、解剖学や整形外科の知識、靴や中敷きの製作法などを身につけました。

2006年2月にはマイスターの勧めで渡独。医師の診断に基づき、外反母趾など足に悩む人向けに特製の靴や中敷きを作ることができるドイツの国家資格・整形外科靴職人「ゲゼレ」を取得しました。

「まずは行動。そしてバランス。」

中山さんは、2007年にはシューフィッターバチェラー上級資格(高度なシューフィッティング技術)を取得、2017年に保健学博士号を取得した。

元々は生きるため、生活のためからスタートしましたが、現在では足や靴でお困りの方のために技術があると確信し、使命感で仕事をしています。

私にとって資格よりも技術を付けていくプロセスが大切で、おまけで資格がついてきている印象です。

ーご自身のキャリアやご経験を振り返り、若手ビジネスパーソンが実践できるような内容があれば教えてください。

まずは行動する事だと思います。状況から勝手に想像し自分の限界を決めたり、あきらめたりする人が多いかもしれませんが、まずはやってみることが重要だと考えています。

あとは、バランス。自分のやりたいことだけだと上手くいかない。周りもそのことで喜んだり、良くなったりすることだと応援してくれる人が増え、上手くいく確率が高くなる気がします。

中山さんにとって、ゴールは「足や靴で悩んでいる人に最適な靴を提供すること」。そのために、行動を起こし努力を惜しまなかったことが、確実に今につながっている。

ー仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?

技術は人のためにあると思っていますので、自分の技を押し付けるのではなく、お客様が必要な物、求めている物を形にすることが求められます。

そのため、何が本当に求められているかを相手から聞き出すコミュニケーション能力を磨くことは職人にとって重要なことだと思います。

何のために働くのかを明確に

ー資格取得など職人に必要な技術を身に着けていくプロセスにおいて、意識していることはありますか?

特に資格にはこだわっていないのですが、自分がブレないようにするためには、何のために働くのかを明確にしておくことが重要だと考えています。

私の場合ですと、「足や靴でお困り方のために働こう」と決めています。

靴やインソールだけでなく歩行や食事の研究も重要だと感じており、将来的には靴屋だけでなくトータル的に足を守るサービス・仕組みを作っていきたいと思います。

自分の目標や軸が定まっているからこそ、中山さんがこの先目指す道も一貫している。

現在は、インターネットと実店舗のオムニチャネル化に取り組み、様々な理由から来店できない顧客にも最適な靴を届けるために奮闘する中山さん。

今後は、自社のオリジナル商品と連動させた「職人が売る靴」をインターネットで販売したいという。

イタリアのアウトドアメーカーとタッグを組んで開発中の「トレッキング機能とスニーカーデザインを掛け合わせた新感覚タウンシューズ」や、オランダ発の「自宅で作れるスニーカー」も販売を予定しているそうだ。

将来的には、自社の強みを掛け合わせた店舗を海外に出店したいと考えています。

理想は靴の本場であるヨーロッパに出店し世界的な靴屋になりたいと思っています。

最終的には靴学校を開くのが夢ですね。その学校を出れば1人で稼げる、自立した「靴人」を育てる学校です。

そこでは靴や足のことはもちろん、営業や経営についても学べ、講師には自社の社員を中心に国内・海外で出会った本物の方々を呼びたいと考えています。

海外での学びや、数々の資格取得など、強い行動力と貪欲な精神が印象的な中山さん。これまでの努力はすべて、「何のために働くか」が明確だからこそ成し遂げられたのだ。

中山さんの挑戦は、これからも続いていく。


※「Dr.insole 3D」詳細については、同社プレスリリースにて確認ができる。

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