株式会社STOPは6月1日(月)、カルチャーウェブマガジン「NeoL」オリジナル商品として、アートとID機能を兼ね備えた非常食サバ缶「ID-CAN」を発売した。
この商品は、島根県・浜田港の無添加まさば水煮缶に、血液型情報などを記載した非常用IDカードを貼ることができる仕様となっている。ホロスコープの星座が描かれたデザインは洗練されており、思わずインテリアとして日常に取り込みたくなってしまう。
「こんな発想はなかった!」と驚くようなアイデアが詰まっている「ID-CAN」。斬新なアイデアを生み出す秘訣について、「NeoL」編集長の桑原亮子さんを取材した。
読者との多角的な結びつき求め商品開発へ
桑原さんは、23歳から編集者としてのキャリアをスタートし、27歳でカルチャー誌「EYESCREAM」にて勤務、その後副編集長に着任した。36歳で、編集長としてウェブマガジン「NeoL」を開設し、まさに一貫してエディターの道を進み続けている。
ーウェブマガジン「NeoL」は、どのような人をターゲットとした、どのようなメディアですか?
感度の高い読者に向けた、カルチャーを中心としたコンテンツを送る日英バイリンガルのインターネットマガジンです。
20代の読者が多く、メインリーダーは、ユース層の中でも、映画鑑賞・読書・アート・音楽などに関心が高く、特に国内外の情報に対して知的好奇心をもつインテリジェンスのある方が多いです。
また、クリエイターを目指す学生や若手クリエイターのなかでも、ジェンダーやレイシズム、環境などといった社会問題に意識が高く、ノンバイナリー(男女どちらの性別にも分けられない第三の性)など新しい価値観を持っている方々が多いという特徴もあります。
ー「ID-CAN」開発の経緯を教えてください。なぜウェブマガジンが缶詰を作ることになったのですか?
商品開発に乗り出すきっかけは、媒体として読者との多角的な結びつきを求めてのことでした。
しかし開発途中にCOVID-19の波が訪れたことで、これまでのブランド様や広告代理店様からの広告やタイアップだけではなく、商品開発・直接販売などいくつかの軸を持っての運営モデルの必要性は、より一層感じることになりました。
また、編集という仕事は企画力が必要とされるため、商品開発やPRにおいて様々な協力を求められることが多く、その経験も下地になり開発・発売が実現できたと思います。
単なる情報発信の場ではなく、読者とより深く関わりたいという想いから生まれた「ID-CAN」。実は「NeoL」が製品を販売するという試みは、今回が初めてではないという。
「NeoL」は今年5月、Salyuさんら女性アーティスト4人の音楽と朗読をUSBに収録した、初めての作品「WINGS」を発売した。「女性を応援する、お守りのような作品を作りたい」という思いがベースになり、桑原さんと仲の良いアーティストたちに協力をお願いして実現したそうだ。
「声」をお守りとして身に着けるという新発想。「NeoL」はなぜ、斬新でユニークなアイデアを次々と生み出すことができるのだろうか。
パーソナルな体験をもとに考案
「ID-CAN」にはID情報として、自分の顔写真を貼る欄も設けている。
販売時には、この欄にはホロスコープ(占いで使用する天体配置図)の星座たちを配置。消費して缶詰を廃棄する際に、個人情報であるIDを剥がしやすく、さらに繰り返し貼ることができるよう、ユポ素材を使用しているという。
星座のデザインは、全12種類全てを揃えたくなるような仕掛けにもなっている。
ー非常食をアートにして日常に取り込むというアイデア、非常食にIDを入れるという発想、星座をモチーフにして12個集めたくなるような仕掛けは、それぞれどのようにして生まれたのですか?
パーソナルな体験が基になっています。
2011年3月11に発生した東日本大震災に直面した時に構想が生まれました。
非常食を自宅にストックする日々の中で、食事という必要不可欠とされるものと同時に、非常事態の時こそ心を楽しくしてくれるようなアートと触れたいと思ったこと、仕舞うものではないインテリアとしても機能する非常食が欲しいと思ったこと、そして自分が声を出せないような非常事態になった時のために血液型や緊急連絡先を記載したメディカルIDを身に付けていたことから、それらを結びつけたものがないかと考え、アイデアが生まれました。
星座に関しては、IDカードには顔写真欄がつきものですが、受注生産は想定していなかったため、そのパーソナルな要素を失うことなく、大勢の方にも伝わるグラフィカルな要素を考えた結果、ホロスコープにたどり着きました。
ID-CANのアートワークは、ヒップホップユニットSIMI LABのメンバーであり、OKAMOTO'Sのグッズデザインなどでも知られるMA1LLさんが手掛けた。「NeoL」創刊時から深く関わりがあったということで、今回のコラボレーションのきっかけとなったそうだ。
また、サバ缶提供元である島根県・浜田港の「シーライフ」とは、知人の紹介で出会ったという。
「シーライフ」は、その日の朝にとれた魚を種類で選別したり破棄したりすることなく、缶詰として販売する「今朝の浜」シリーズを立ち上げ、フードロス問題にも積極的に取り組んでいる。
信頼・共感できるパートナーたちと一緒に作り上げたID-CANが目指す存在は、「もしもの時に誰かの心を豊かにしてくれて、役にも立つもの」だという。
他と違う視点を持つことから生まれる「発想」
今回の製品は編集長の実体験をもとにして生まれたアイデアということだが、社内でも、新しいアイデアを生み出しやすい環境作りを意識しているという。
軸は共有していても、編集長が方針を定めすぎないことを大切にしています。
自由にアイデアを出してもらった後は、サポートはするものの、なるべくその企画者にスタートからフィニッシュまでを担当してもらうことで、平均値というよりはそれぞれの強みとなる個性を伸ばしてもらっています。
視野を広くしてもらうために、多言語の記事を読む、見ることも推奨しています。
このような環境作りに注力しつつ、ウェブマガジン「NeoL」は今も昔も変わらない指針として、「個」が「個」でいられることを応援するメディアとしてあり続けたいと、桑原さんは話す。
特にデジタルネイティヴの世代は、SNSを通じて、誰かの提示した「理想」「平均」をそのままに受け止めて悩むことも多いので、他と違う価値観でものをつくるアーティストなどのトピックを多く掲載することで、クリエイターと読者両者のサポートをしたいです。
同時に、他と違う視点を持つことから生まれる「発想」「企画力」を活かした商品開発も進めていく予定です。
自分の価値観を大切に、他との違いを恐れないという「NeoL」のコンセプトは、まさに新しいアイデアを生み出すために欠かせないポイントだ。
まずは「理想」や「平均」をそのまま受け止めることを止め、自分だけの価値観と向き合ってみることが、他にない発想・企画力に繋がるのだろう。
今後「NeoL」からどのような商品や企画が生まれるのか、実に楽しみだ。
「ID-CAN」に関する詳細は同社プレスリリースにて確認ができる。
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