東京ミッドタウンは「"JAPAN VALUE(新しい日本の価値・感性・才能)"を創造・結集し、世界に発信し続ける街」を目指す一環として、2008年より毎年、デザインとアートのコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD」を開催している。
この度「TOKYO」をテーマとした2017年度の同コンペティションで、1000以上の応募作品の中から審査員特別賞に輝いた作品「ゲタサンダル」の商品化が決定。アイデアを考案した作家チームと、歴史ある和装履物店「菱屋」とが協力し、ポップで素材にもこだわる新しい履物「ゲタサンダル Geta Flip Flops」が誕生した。
5月13日(水)より、東京ミッドタウンにも店舗を構える菱屋カレンブロッソおよび公式サイトにて販売を開始している。
2017年時点では「アイデア」に過ぎなかった作品を、実際に商品化していく道のりについて、作家チームである富永省吾さん(クリエイティブディレクター)、綿野賢さん(プランナー)、浅井純平さん(デザイナー)に取材した。
3年弱にもおよぶ作品開発を経て
作家チームは2017年のコンペにて、「"伝統的な生活用品"を"現代的な素材"で再構築することで、古くから続く日本文化をより気軽で身近なものに」という想いを込めて「ゲタサンダル」を提案。
当時、菱屋の廣田裕宣社長がその作品に魅せられたことがきっかけとなり、商品化のプロジェクトを始動したという。
作品開発期間はおよそ3年間。素材やフォルムの検証などをいくつも重ね、受賞時のデザインにほぼ忠実なカタチで商品化が実現した。
「TOKYO MIDTOWN AWARD」の受賞作品商品化は、今回で17作品となる。
本物の下駄を購入し設計へ
クリエイティブディレクターである富永さんとプランナーである綿野さんは会社の同僚で、普段は、企業の広告・ブランドコミュニケーションを中心に、映像やグラフィック、空間演出からデジタルプロモーションなど、媒体問わず幅広く作品を手がけているという。最近では、広告クリエイティブ世界一を決める「CANNES LIONS」の「U-30フィルム部門」で日本代表に輝いた。
「TOKYO MIDTOWN AWARD 2017」へは、お2人のプライべートな活動の一環としてエントリー。インテリアデザイナーとしてオフィスやショップなどの内装デザインに従事する、富永さんの友人・浅井さんに声をかけ、3人でチームを組むことになったという。
ーゲタサンダルのアイデアはどのようにして生まれたのですか?
アワードの趣向を吟味し、要素を限定していきました。
テーマに掲げられていた東京らしさを始め、新規性、デザイン性、わかりやすさ、実際に売っていたら欲しくなるか、といった判断軸をいくつか自分たちの中に設け、様々なモチーフを列挙し、プロダクトアイデアを模索していきました。
その過程の中で、日本の伝統文化である「下駄」に、「ビーチサンダル」の質感やポップな色彩をかけ合わせたら、新しい価値を持ったプロダクトになるのではと考え、本物の下駄を購入するなどして細部の設計を詰めていきました。
ーコンペ時点では「ひとつのアイデア」であった作品を、実際に商品化するにあたり、一番困難だったことは何ですか?また、それをどのようにして乗り越えましたか?
「製法の発見」です。
「下駄の形をしたサンダル」と言ってしまえば非常にシンプルですが、実際に使ってもらうことを考えたときに、「見た目」や「履き心地」のみならず、「耐久性」や「汚れ」などクリアしなければならない点がたくさんありました。
この辺りは、一緒に取り組んでくれた菱屋の廣田さんが根気よく試作を作り続けてくれたおかげで、ブレイクスルーにつながりました。
明確なゴールをチーム全体で共有
商品化にあたっては何度も試行錯誤を積み重ねたというが、その際、確固たる軸としてチームが大切にしていたものは、絶対に守るべきユニークネス(独自性)。
具体的には、「下駄らしいフォルム」、「統一された素材感」、そして「ポップな色彩設計」。この3つを満たすために、どのような素材を、どのような技術で、どのように組み合わせていくか。商品化のプロセスは、この繰り返しだったという。
ー制作にあたり、「これはやって良かった」「この作業は大変でも省かなくて良かった」ということはありましたか?
ゴールの設定と共有です。
どのジャンルでもそうですが、ゲタサンダルのような「新しいもの」を作っていく上で、明確なゴールを設定し、それがクリエイティブチーム全体に共有できていることが、純度の高いクリエイションには必要な状態だと思います。
作り方すらわからない未踏の領域において、妥協するチャンスはいくらでも巡ってきます。
ですがその誘惑に靡(なび)くことなく、ゴールを見据えて試行錯誤することが、新しいものへたどり着くための近道です。
本プロジェクトでは、私たちがゴールを描き、そこに廣田さん始め職人の皆さんの技術力が組み合わさることで、初期構想とほぼ同じ状態で商品化することが出来ました。
妥協できない「軸」・明確なゴールを設定し、それをチーム全体に共有し最後まで死守したことが、アイデアに忠実な商品の完成へと繋がったのだ。3年という長い開発期間も、決して妥協を許さないという彼らの姿勢を物語っている。
自粛が解けたらゲタサンダルでいつもの道を
ー「ゲタサンダル Geta Flip Flops」は、どのような人々にどのようなシーンで履いてもらいたいですか?
「下駄」として和装と組み合わせてもらうことも出来ますが、よりカジュアルな履物として普段履きしてもらえたらとても嬉しいです。
5月現在、25.5cm、 27.0cm,、28.5cmの3サイズ展開となっていますが、より小さい24 .0cmの物も準備を進めています。
男性でも女性でもコーディネートの幅を広げられるアイテムなので、デニムやスカート、スラックスやセットアップなんかと組み合わせても新鮮な装いを作れると思いますし、インテリアとして飾るのもひとつの楽しみ方だと思います。
下駄のフォルムと、硬質ゴム素材によるクッション性とが混ざりあった不思議な履き心地は、慣れ親しんだコンクリートの上を歩くのも楽しい体験になります。
外出自粛が解けたら、いつもの道もゲタサンダルで気持ちよく歩いてほしいです。
この新しさと面白さを、一人でも多くの人に体感してもらえたら、クリエイター冥利に尽きます。
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