HOMEインタビュー 致命傷にならないレベルで踏み出すことが重要。陶芸界を盛り上げる「大人の焼き物」代表に聞く逆境で成果を出す方法

致命傷にならないレベルで踏み出すことが重要。陶芸界を盛り上げる「大人の焼き物」代表に聞く逆境で成果を出す方法

白井恵里子

2020/05/09(最終更新日:2020/05/09)


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合同会社エイトカラーズ提供/八田卓人代表

合同会社エイトカラーズは4月18日、「素敵なうつわ」を紹介する「大人の焼き物」Instagramの好評を受け、さらに陶芸界を盛り上げるため「大人の焼き物オンラインショップ」をオープンした。

同社の八田卓人代表によれば、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、全国各地の陶器市が中止・延期を余儀なくされるなか、「商品を紹介するだけでなく、実際に販売して経済を回さなければ」との想いで今回オンラインショップのオープンに踏み切ったという。ショップのサイトを覗くと、味のある陶器がずらりと並び、まるで陶芸ショップを散策しているかのような感覚に陥る。

落ち込む業界を盛り上げていくために大切なことは何か。八田代表を取材した。

合同会社エイトカラーズ提供/八田卓人代表

自ら陶芸界の課題解決にチャレンジ

八田代表は、2002年から16年間、様々な業界でEC事業などの経験を積んだ後、2018年11月に同社を設立。それまで培った経験やノウハウを活かし、コンサルティング業務の受託を開始した。

そして、2019年8月に「大人の焼き物」Instagramを開設。以降、8カ月でフォロワー数約5万人を有するアカウントに成長している。

ー「大人の焼き物」Instagramを立ち上げた経緯を教えてください。

世界的にも評価が高い日本のモノ作りの象徴である陶磁器。

SNSの普及もあって海外からの需要も更に強まっていますが、未だメインの販路は既存の百貨店やギャラリーへの卸がメインで利益率が低く、日本の伝統産業であるものの陶芸作家の平均年収は250万円と低い状況です。

また業界のさらなる課題として近年、後継者不足、陶石不足、食文化の変化、中国製の低単価でトレンドを抑えた製品が出た事により、国内の陶磁器市場規模は、2003年782億円から2018年271億円に減少しています。

妻の趣味で陶磁器集めに付き合って陶芸作家さんや窯元さんと話しをしていく中でその課題に気づくとともに、「SNSやWEBの力をもっときちんと利用すれば解決出来るのでは?」と自らこの課題解決にトライしてみたいと思いました。

「SNS運営」「EC・通販事業運営」「広告」等の知見を活かして業界の課題を解決すべく、Instagramのアカウント立ち上げに至りました。

 

提供:合同会社エイトカラーズ

丁寧に想いを伝えることで集まった賛同者

オンラインショップの構築そのものについては、これまでに何度も経験があったため、特に難しいことはなかったという八田代表。

困難だったのは、ショップ運営に賛同し作品を提供してくれる陶芸作家や窯元を募ることだったという。

陶芸作家さんや窯元さんの作り手の方々は、実際に作品を手に取って見てもらいたいという想いが強く、オンラインショップやWEB陶展には否定的な方々も多かったのです。

そこで、「大人の焼き物」5万人のフォロワーへ、Instagram内でアンケートを実施してみました。

すると、オンラインショップやWEB陶展という企画に対し、95%の方が「賛成」という結果が出ました。そして、作り手と大きな温度差があることが分かったのです。

「使い手のお客さんを笑顔にすることが、陶芸界を盛り上げることに繋がる。」「Instagramで紹介するだけでなく、実際に販売して経済を回して盛り上げたい。」「だから、オンラインショップで取り扱いをさせて欲しい。」という想いをきちんと陶芸作家さん、窯元さんに丁寧に伝えることで、少しずつご賛同いただける作り手の方々が増えていき、なんとかオープンに漕ぎつけることが出来ました。

現時点では、オンラインショップでの取扱商品は少ないですが、ご賛同いただける作り手の方がどんどん増えてきており、準備が出来た商品からオンラインショップへの掲載していく予定です。

提供:合同会社エイトカラーズ

「致命傷」にならないレベルで踏み出してみる

前述の通り、八田代表が「大人の焼き物」を通して実現しようとしていることに対し、「うつわは手に取って買ってもらうもので、オンラインショップには向かない」「WEBでやる個展は個展じゃない」などという否定的な意見も多々あり、彼は「作り手の方から必要とされていないのでは?」「こんな取り組みは辞めたほうが良いのか?」という不安や葛藤と常に戦っているという。

しかし、「不安も葛藤も真剣に考えている証拠。そう思ってそれを楽しむように心がけています。」と、常に前を向いて進み続ける姿が印象的だ。

これは15年以上前の話ですが、当時ガラケーがパケット定額制になるかならないかの時代に、ガラケーの総合ECサイトの仕入営業をしておりました。

「ガラケーの小さい画面で、モノが売れる訳ない!」と断られることも多々ありましたが、結果的には一般消費者から受け入れられ、市場は一気に数千億円まで伸びました。

陶芸界も、オンラインショップやWEB個展に95%の方が「賛成」というアンケート結果が出るように、一般消費者から受け入れられることは間違いないと思っています。

さらに日本の全産業(物販)におけるEC化率は現在たったの6.22%ですが、COVID-19の影響でEC化率は確実に伸びるでしょう。

経験したことのないこと、想像したことのないことに否定的なだけで、業界を発展させようという想いに共感してくれる作り手の方々と市場を創造していけば、いずれ多くの作り手が協力してくれるだろうと前向きに考え、日々オンラインショップでのお取り扱いの営業をしています。

具体的な施策としては、「客が手に取って商品を見ることができない」というオンラインショップのデメリットに対応するため、掲載する商品の画像に力を入れているという。

撮影はすべてプロのカメラマンに依頼。実際の商品と遜色ない色味・風合い・質感を伝えるべく、細部まで何枚も掲載している。掲載枚数が増えるほどコストもかかるが、「必要な投資」と割り切り、こだわっているとのことだ。

その効果もあり、「こんなに丁寧に取り扱ってくれるなら、是非うちの作品も取り扱ってほしい」と逆に営業を受けることも増えてきたという。

ー最後に「将来、自分が好きな業界を盛り上げる仕事に携わりたい」と思っている若手ビジネスマンに実践的なアドバイスをお願いします。

好きな業界を盛り上げたいという気持ちは、人生で何度もあることではないと思います。

その気持ちを持てた環境に感謝して、まずは「致命傷」にならないレベルで踏み出してみることが重要だと思っています。

そして、小さなトライ&エラーを繰り返していき、「いける」と思ったところで、アクセルを少し強く踏んでみて、またトライ&エラーを愚直に繰り返していくしかないです。

「致命傷」にならないレベルの失敗を沢山していけば、おのずと仲間が増えていき、おのずと前に進んでいけると信じています。

提供:合同会社エイトカラーズ

彼が短期間でここまでフォロワーや賛同者を増やしていくことができた背景には、「必ず結果は出る」と信じ、致命傷にならないレベルで一歩を踏み出し続ける粘り強さがあった。

今後は、WEB個展・ライブ個展・WEB陶器市などの開催を通じた陶磁器の売上向上サポートや、飲食企業とコラボレーションした企画などにもチャレンジしていきたいという。これからの陶芸界が楽しみだ。

大人の焼き物オンラインショップ


 

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