アートキャンディショップ・PAPABUBBLE(パパブブレ)は4月、本格だしのキャンディ「土佐のおつまみミックス」を発売した。
日頃は飴を口にしない酒好きの人や男性にも楽しんでもらおうと開発した、酒のつまみになるキャンディだ。
フレーバーは、土佐で水揚げされた宗田鰹の鰹節にたっぷりと黒胡椒を利かせた「カツオ」と、出汁の旨味を堪能できる甘じょっぱい「出汁」、柚子が爽快な高知産の生鮮生姜を使用した「生姜」、塩辛の風味がしっかり利いた、お酒を盗む酒盗フレーバー「泥棒」の4種。
おうち晩酌のお供にお勧めだという。
異なる視点の3人でアイデアを磨く
パパブブレは、バルセロナ発祥のアートキャンディショップ。
世界一おもしろいお菓子屋さんを目指し、これまでも本物そっくりの「氷キャンディ」や直径4.1ミリの「世界一小さなキャンディ」など、ユニークな商品を続々と発売している。
斬新なお菓子の数々をどのように生み出しているのか?パパブブレの横井智代表取締役社長にアイデアの生み出し方や仕事のこだわりを聞いた。
-----どうやって商品開発のアイデアを生み出していますか?
横井社長:ベテランの職人リーダー、お洒落な女性の企画担当、そして異業種から来た社長の3人で、週に1度の定例会議や、都度の雑談で話し合っています。
ありきたりのことですが、3人がそれぞれ、ボケとツッコミのような役割を分担できていて、自由にアイデアを出し合えることが大切かなと思っています。
例えば、今年の4月に発売した「世界一小さなキャンディ」の商品イメージが決まるまでには、こんなやりとりがあったそうだ。
横井社長:私が「4月1日のエイプリルフールに、直径4.1ミリの中に文字やエッフェル塔が描いてあるキャンディを販売したい」と、無茶ぶりをしました。
すると、職人が技術的な観点から「何文字までなら入ります」「三角形の組合せでデフォルメすればタワーの絵柄が入ります」といったアドバイスや、「カクテル味にすると美味しいのでは?」というアイデアを出してくれて、実際の商品の仕様が現実的になるだけではなく、原案を進化させてくれました。
更に、企画担当の女性が「こんなガラス瓶に入れると可愛い」「商品のタグには何を使うか」といった、リアルなお客様目線からの意見を出して、最終的にお客様が手にする商品イメージを決めてくれました。
▼世界一小さなキャンディ
意識している3つの「3」
-----アイデアを出すためのコツはありますか?
横井社長:私も知りたいです。
アイデアの達人への道のりは遠いですが、自身は「3人寄れば文殊の知恵」「3回は『なぜ?』と問う」「3アウトになるまで粘ってみる」の3つを意識しています。
まず、独りで考え込む時間も大切だが、2~3人で雑談をするように、ああでもない、こうでもないとアイデアを出し合うことがとても大切だと感じているという。
横井社長:誰かに自分のアイデアを伝えようとすると、自身の考えが構造化・整理されて、モノゴトの本質が理解できるようになります。もちろん、相手から大切なヒントや気付きをもらうこともありますし、相手がさらに素敵なアイデアを足してくれることも多いです。
一方、あまり人数が多いと、意見が出づらくなりますし、雰囲気が「会議」になっていくのでおもしろいアイデアが出にくくなる気がします。
次に、横井社長は「なぜ?」「どうして?」「そもそも?」が口癖になっているそうだ。
横井社長:「どうして売上が倍にならないのだろう?」「キャンディを食べない人は何を食べているのだろう?」「そもそも、おつまみには砂糖を使うものもあるのでは?」など、「なぜ?」「なに?」「どうして?」を少なくとも3回以上は繰り返して掘っていくと、アイデアが降りてくることが多いです
最後に、ダメなアイデアだと見極める前に、3つの失敗をするまで粘るのも大切だと考えているという。
横井社長:「いつか芽を出すかもしれない」とアイデアを温め続けます。
また、粘るという意味では、会議のラスト5分はアイデアが降りてくるゴールデンタイムです。
企画会議でもうアイデアが枯渇した、そろそろやめようという雰囲気の時、「あと5分だけ頑張ろう」と声掛けします。「これだ!」と納得するアイデアは、そこで粘ったときにでてくることが多い印象があります。
今回発売したおつまみキャンディも、失敗した経験をもとに誕生した商品だという。
半分以上のアイデアはボツに
-----今までに没になった商品はありましたか?
横井社長:半分以上のアイデアは没になっていると思います。
スダチチョコ(見た目は本物のスダチそのものだが、食べると味は松茸の土瓶蒸しのチョコレート)は、職人のお菓子作りの哲学に合わず、技術的には可能であったものの中止に。
また、ハロウィンには心臓グミに大人の玩具を入れてドクドク鼓動させるアイデアがありましたが、動きがシュール過ぎて開発中止になりました。
▼2019年のハロウィンに発売したホラーアイテム4種。心臓グミ(動かない)は実物大。見た目はグロテスクだが、味はストロベリー。見た目と味のギャップでハートを掴む。
地道な努力・経験を積み重ね商品化
-----ユニークなアイデアを実際に商品化するにあたって、どのような苦労があり、それをどのように乗り越えていますか?
横井社長:実際に販売できる商品にするのにいつも苦労しています。
まず何より、デザインや味をアイデアに近づけるための製菓技術の壁があります。
基本的に、壁を乗り越える早道やコツはなく、地道な努力や経験の積み重ねが商品化を可能にしています。
この壁を超えるために、職人は日々鍛錬しており、何度も試作を繰り返しているという。配合を変えることはもちろん、キャンディでできない場合はグミにしてみたり、マシュマロやチョコレートで検討したりすることもあるそうだ。
横井社長:製菓技術で乗り越えることができない場合は、そもそもの目的を再確認して、課題を設定しなおすことがあります。
昨年発売し大ヒットした「氷キャンディ」は、当初「つららキャンディ」として開発していたという。その過程で「酷暑の時期に寒さを連想させる商品」という目的をもとに課題を見直し、氷キャンディが誕生したそうだ。
▼氷キャンディ
自然にはあり得ない組み合わせを意識
ユニークなお菓子を続々と生み出しているが、どのような基準でお菓子をつくっているのだろうか。
-----お菓子を開発するにあたって、大切にしている点・こだわっている点は?
横井社長:「世界一おもしろいお菓子屋さん」をテーマとするにあたり、こだわっている点は「神さまが造らないものを創る」でしょうか。
同社は、アートを楽しむことをブランドの核に据えているという。同社が考えるアートとは「神の創造物であるネイチャーに対立する概念」「人間が創造した自然には存在しないもの」だという。
横井社長:自然の中ではなく、人間の頭の中にあるイマジネーションを形にするとアートができる。
大自然の恵みであるイチゴよりも、さらに香り高く、より甘く、もっと心地好い食感の食べ物にチャレンジすること、それがお菓子づくりだと思います。
ですので、開発の際には「自然にはあり得ない組合せ」や「常識ではない組合せ」を強く意識しています。
たとえば、灼熱でも融けない「氷キャンディ」やパステルカラーの「お月見団子」、「おつまみのキャンディ」というのも、普通には存在しない組合せです。
また、味覚だけではなく、視覚・聴覚を含めた総合的な体験として、お菓子を楽しめる・ワクワクすることも大切にしていると話す。
横井社長:キャンディのデザイン・パッケージや、お買い物に来た時の店舗の雰囲気、キャンディづくりを体験すること。ただ砂糖の塊を口にするのではなくて、どのようにパパブブレを体験していただければ、よい想い出ができるのかをいつも考えています。
そして何よりもまず、美味しいことは大前提です。
ビジュアルと味のどちらかを選ばなければならないときは、味を優先します。毎日、お客様のtwitterの投稿をチェックしていますが、投稿の大半が味に対するポジティブなコメントであるかどうかを必ず確認しています。お菓子は何よりも安全で美味しく楽しめることが大前提だと思います。
「面白い・楽しい!」をみんなで共有したい
-----どういう意図で新商品を生み出していますか?面白いお菓子の提供を通じて実現したいミッションは?
横井社長:おもしろい・可愛い・美味しい・そして楽しい!という気持ちを、みんなで共有したいです。
職人はキャンディやコンフィズリを作っていて楽しい、面白い。販売スタッフは、素敵なお店でお客様と話をして、美味しくて可愛いお菓子をほめてもらってうれしい、楽しい。店舗にいらしたお客様も、お菓子を贈られたお客様も、お菓子を見てワクワクして楽しい。
「こんなおもしろいお菓子があるんだ」「お店にいったらおもしろかった」という、ワクワクがつながっていけばいいなと思います。
もったいぶった回答になってしまいましたが、自分自身がお菓子好きですし、おもしろいお菓子を考えて、凄腕の職人が形にしてくれるのが楽しく、また見ず知らずの人たちが共感してくれるのが、実際の所は一番です。
ユニークなお菓子を次々と生み出すパパブブレ。
斬新なお菓子たちの裏側には、面白さや楽しさを多くの人たちと共有するために、異なる視点を持ったメンバーで1つのアイデアを磨き、地道な努力と経験により商品化を実現するお菓子への熱意があった。
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