ここ数年、増加を見せているビジネスモデル、D2C(Direct to Consumer)。生活者に対して生産者が製品を直接販売するビジネスモデルであり、1〜2年で注目を集めているマーケティング手法です。
今回は、D2C基幹システム「EC Force」、D2C支援サービス「Apollo D2C」を展開する株式会社SUPER STUDIOとダイレクトマーケティング特化型UGCソリューション「Letro」を展開するソーシャルテクノロジーによる生活者マーケティングの実現を支援するアライドアーキテクツ株式会社が2020年2月27日(木)に主催したライブ配信によるイベント「D2Cトレンドに見る、これからの定期通販の事業成長モデルとは」で話された、D2Cビジネスのイロハをレポート。
D2Cの基礎を話されていたオープニングセッションとD2Cのパイオニア的企業をゲストに迎えたセッション内容で話されていた、近年のD2C動向やトレンドをお届けします。
オープニングセッション「なぜ今『D2C』がトレンドなのか」
真野勉氏セッション前に、SUPER STUDIOの共同創業者・エバンジェリストの真野勉氏より、そもそもなぜ今「D2C」がトレンドとなっているのか、その背景についてオープニングセッションが行われました。
D2Cとは、デジタル化によって変化した消費行動に最適な「マーケティングフレームワーク」です。SUPER STUDIOは、D2Cを以下の6つで定義しています。
1.デジタルである
2.ユニークな体験を与えるプロダクト
3. 垂直統合されたサプライチェーンが武器
4.顧客とのダイレクトな対話が可能
5.データ・ドリブン
6.資金調達がしやすい
手法や市場自体は以前から存在していたD2C。近年日本で盛り上がりを見せている背景には、消費者行動とデジタル化の変化があります。
日本の消費者の購買行動は、これまで機能的価値を重視するものでした。しかし、豊かになったことで、商品の生まれたストーリーやコンセプト、商品によるユニークな体験に価値を見出す「情緒的価値」にお金を払うようになったのです。
また、2014年頃からのスマートフォンの本格普及により、広告は様変わり。より個にリーチする、最適化された広告を打てるようになりました。さらに、月額課金モデルであるサブスクリプションモデルの台頭もD2C隆盛の背景にある波のひとつです。
これらの変化から、現代はD2Cベンチャー企業にとって、チャンス到来の時代だといえるでしょう。
セッション1「 D2Cプラットフォーム戦略のリアル」レポート
続いてのセッション1では、オープニングセッションを務めた真野氏をモデレーターに、「D2Cプラットフォーム戦略のリアル」について3名のゲストを迎えてディスカッションが行われました。
◆登壇者
・メンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」を手掛ける株式会社バルクオム代表取締役CEOの野口卓也氏
・国産オーガニックスキンケア「ALOBABY」「HALENA」などを国内外に展開する株式会社N&O Life代表取締役の西口征郎氏
・カスタマイズサプリ「FUJIMI(フジミ)」を展開するトリコ株式会社代表取締役社長の藤井香那氏
Q1 D2C戦略をとるなかでAmazon・楽天出店をどう考えるか?
ひとつ目の問いは、モールへの出店です。バルクオム、N&O Lifeの2社は、自社ECのほか、Amazon・楽天といったモールにも出店。一方、トリコは自社ECのみの展開です。
野口卓也氏野口氏は、モール出店の是非について、「経営者のポリシーで変わる」と述べます。「うちではバルクオムを世界ナンバーワンのブランド、売り上げシェアにしたい思いがまずあったため、シェアの拡大のためにモール出店を行いました」(野口氏)と話します。
また西口氏も、「野口さんと近い考え方でした」と背景を語り、「このチャネルにしか出さないと決めているわけではなく、顧客がいるチャネルに出しており、チャネルの増加を前向きに捉えている」と説明。また、複数ブランドを展開するN&O Lifeならではの、「チャネルによって売上構成比も異なる」と気付きも紹介しました。
一方、現在自社ECサイトのみで展開しているトリコの藤井氏は、「パーソナライズをメインの切り口にして売り出しているため、十分な体験を提供できないモールには、今のところ出店を考えていません」との回答でした。
続いて話題にのぼったのは、単発買い、定期購入について。3社とも自社ECでの単品買いは可能としながらも、自社ECでは定期購入が中心だと語りました。
ここで、参加者から寄せられた質問「どのようなブランドがどのチャネルに合うのか」を真野氏が問いかけます。
西口征郎氏西口氏は「調査中」としながらも、「自社ECは単発買いユーザーだけだと厳しい」と述べました。野口氏は「やってみなければわからない。うちも経営視点に応じて方向転換してきています」と述べ、「うちは卸取引も行っている兼ね合いで、第三者が卸した商品をモールに出している売上や出品数を参考にもしています」と答えています。
次いで、真野氏は「購買データの顧客データのうち、どういったデータを大切にしているか」と質問。
これに対し、藤井氏は「決済方法や決済画面の完了率を重視している。決済方法によって初回購入後のLTVが大きく変わってくる特徴もある。」、西口氏は「LTVとCTAがビジネスを成り立たせるために重要であるため、ひたすら追っている」、野口氏は「ふたりが話していないところだと、顧客の内、どの程度がスキンケアデビューであり、どの程度が他社製品からの乗り換えなのかをアンケートで調査している」と回答。
なお、3社ともデータは社長自らがコミットして追っていると答えました。
Q2 D2C戦略に特化した場合のメリットとデメリットは?
ふたつ目のテーマは、D2C戦略に特化した場合のメリット、デメリットについてです。
パーソナライズの仕組みで戦うトリコ社の戦略について、バルクオム、N&O Life代表両名は「すごい」「よくやるなと思っている」と感嘆。これに対し、藤井氏は「パーソナライズでやりたかった」と答え、同社の仕組みを説明しました。
藤井香那氏パーソナライズの仕組みは、Webで行う20問程度の肌診断です。運用から1年ほどで、診断者数は40万人程度。蓄積されたデータは、サプリメント以外の商品を展開した際のアプローチにも役立っています。
「LTVが比較的長いのが特徴です。肌診断を通して提供する商品の種類を増やしていくことで、CPAを下げられるのではと挑戦しています」(藤井氏)
「すごい」と述べながらも、パーソナライズの仕組みを導入するのは時期尚早だと答えたのは野口氏です。バルクオムのターゲットは、これまで美容健康に興味関心がなかった男性。今はまだスキンケアの3ステップを広めていく段階だとしました。
また、西口氏は「想像する限り、仕組みがかなり複雑そうだと思って手を出していないところが正直ある。また、N&O Lifeのビジョンミッションは世界で通用するブランド作りであるため、パーソナライズと相性が悪い点も、個人的に取り組もうと思っていない理由です」と答えました。
「個人的な感覚として、パーソナライズの商品はブランドの作り方がサービス業に近いのでは」と述べた西口氏に対し、「まさにです」と答えた藤井氏。
この回答について、「プロダクトだけでは勝負ができないと考え、切り口を尖らせるためにパーソナライズを選択しました。もともとWeb業界にいた人間なので、体験を考えるのが強みだった部分もあります」(藤井氏)と説明します。
「美容商品において、パーソナライズ自体は何ら珍しくないものですが、市場で多いのは後付けでパーソナライズを行っているものであり、トリコ社のようにパーソナライズありきで商品があるものがなかった」(藤井氏)とも語りました。
さらに藤井氏は「差別化させるために大切にしているのは、ブランドとしてのシンプルさ、高いデザイン性である」と話します。コンプレックス訴求とネガティブ要素のある従来のサプリメントのイメージを、『飲んでいる自分が好き』だと捉えられるポジティブ訴求ができるものに変えていくブランド性が大切だとも説明しました。
これを受けて、バルクオム、N&O Lifeの両社を立ち上げた際のロジックについて真野氏が質問。
野口氏は、「どの角度からとっても評価されるプロダクトを作り込んだ。また、化粧品と比べて普段から使っているために比較しやすいシャンプーでは、サプライズのある使用感のものを目指した」と回答。
西口氏は「1番最初は赤ちゃん向けのスキンケア商品を作った。これはメイドインジャパンブランドの強みが安心安全であるため、求められるのはベビーであると考えたこと、加えて自分自身に子どもができたタイミングだったというパーソナルな部分もありました」と答えました。
最後に、真野氏は「昨今のD2Cブランドだとしてメディアに取り上げられていることに対して、どう思っているか」と質問。
野口氏は、「ITを立ち上げては失敗してを繰り返し、Webサービスからリアルビジネスの世界で勝負できる道をと考え行き着いた結果が化粧品事業でした。一線を画した化粧品スタートアップだということで、D2Cだと自称していたこともあります。
ブランド志向の強さと長く愛される強いブランドにしたい想いの強さ、グローバルへの意識が化粧品単品で行っている会社との違いであり、D2Cっぽさになっているのでは」と答えました。
西口氏は、「D2Cの言葉がないときから今のスタイルでやってきた。今いる業界がD2Cとして注目を集めているのはありがたい。アメリカで盛り上がっているモデルが日本に来ていると思っているが、個人的には楽天やAmazonをやればいいと思っている派でもあり、必ずしも日本でも同じ考え方である必要はない部分もあると考える。
そういったやるべき論ではなく、ブランドを作りたい、サプリメントの常識を変えたいといった根幹のものを大切にし、その結果がD2Cであったりオフラインであったりすればいいのではないか」と回答。
藤井氏は、「まさにD2Cをやっている会社だと思っていますが、そこから脱したい気持ちもあります。何となくIT領域の人がこの領域に来るイメージを持っています。Webをわかっていないとできないものなのではないでしょうか。
いかに今後ブランド化させていくか、パーソナルの文脈でサービスとして展開していくのかを考えています」と回答しました。
これからもビジネスの在り方自体も変容・発展していくと考えられるD2C。セッションの中でも話されていた顧客の消費行動や思考にマッチしたブランド性などのキーワード動向も気にしながら、ビジネストレンドをキャッチしてみてはいかがでしょうか。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう