5月8日(水)頃から、Googleが「Google Map」に「ARマップ」を追加しはじめた。現状はテスト版という扱いで、Googleのスマホである「Pixel 3」シリーズを使っている人に向けて、限定的に提供されている状況だ。
Pixel 3の利用者の一部が歩行ナビを使おうとすると、この画面のように「AR」の表示が出ることが。これが出ている場合、ARでのナビゲーションが可能になる。AR(拡張現実)技術を地図に使う、という発想は珍しいものではない。すでに何本もそういうアプリはあり、日本でもiPhone向けの「Yahoo! 地図アプリ」にARナビ機能が搭載されている。
そうしたものと、GoogleマップのAR機能はどこが違うのか? そこを分析すると、現在の「スマートフォンでのARに求められるもの」が見えてくる。
ARナビの利点は「どちらに歩き始めればいいかがわかる」こと
ARを使った地図・ナビ機能は、どのアプリに搭載されているものも、狙いは共通している。「自分はどちらを向いて歩き始めればいいか」をわかりやすくするためだ。
携帯電話でも、GPSを使ったナビがあたりまえになってもう10年近く経過しているが、基本的な考え方は変わっていない。地図を画面に表示し、自分が行くべき方向を矢印で指し示す。自分が向いている方向は電子コンパスを使って把握する。
ただ、この場合も問題なのは、自分がどちらを向いていて、どちらに歩き始めればいいかが、微妙にわかりづらいことだ。
特に方向音痴な人はそうだろう。目の前に見えている実際の風景と地図、そして地図上に表示されている矢印の向きがしっくりこない。駅の出口などで、スマホをもってその場で回っている人はいないだろうか。そのほとんどは、スマホの地図で目的地へ向かおうとしているが、どちらに歩き出せばいいか分からず確認している人だ。
ARを使うとこの強みは、実際の風景に「行くべき方向」や「目標物」を重ねられることにある。これなら、どっちへ歩き出すべきかは一目瞭然だ。GoogleマップのAR機能も同じ考え方であり、使い方はとってもシンプル。スマホをかざして行きたい方向を確認し、歩き出すだけだ。
GoogleマップのAR機能。歩くべき方向とナビに必要な「目印」までの距離が表示される。スマホと同時に登場も「実用性はイマイチ」だったARナビ
すでに述べたように、地図にARの要素を付け加える、という発想は珍しいものではない。スマホで地図が見れるようになるとすぐにそうしたアプリは登場した。筆者が知る限り、日本でも2012年頃にはあったのではないか。現在も、iOS向けにYahoo! Japanが「Yahoo! 地図アプリ」にAR機能を組み込んでいる。
だが、日常的にそれらの機能を使っている、という声は聞こえてこない。必要性はあるのに使われていないのには、もちろんそれなりの理由がある。
一点目は「正確性」だ。GPSで位置が、電子コンパスで方向がわかるといっても、そこには「ぶれ」がある。現実の風景に重ねてみても、つねに正確に表示できるとは限らない。不正確だと不安になり、結局、「スマホをもってあたりをキョロキョロする」行為に戻ってしまう。
「Yahoo! 地図アプリ」のAR機能。ちゃんと表示されるときは実用的なのだが、精度が悪く、歩くべき方向や位置によっては、正しく表示されないことも多い。次の問題は「ARを見ながら歩くのは危ない」ということだ。ARで表示された線をたどるように歩きたくなるものだが、そうするといわゆる「歩きスマホ」になってしまう。視界が狭くなり、周囲の人や物にぶつかりやすくなる。動き回った方がARの精度は高まるのでより「見ながら歩く」使い方をしたくなるのだが、実際にやってみると危ないので、結局複数回使わなくなる。
こうした課題から、これまでのAR系地図機能は、ニュースにはなるが実際には使われずにきた、といういい方ができる。
スマホでの利用を分析して最適な機能を搭載
Googleはそうした課題がわかっていたのだろう。GoogleマップのAR機能では、これらの課題にちゃんと対応してきた。
まず正確性。機能をオンにすると、まずはスマホを動かし、周囲の風景を確認する。この時に建物や地面などの状況を把握して地図の内容とマッチすることで、方向や表示すべき場所を合わせるのだ。これまでのAR系地図機能のように単純に重ねているだけではないので、精度はかなり向上しているように思える。
もうひとつの改善が「歩きスマホ対策」。Googleマップの場合、歩いている時にはARを表示できない。歩行を検知して機能が止まる。
歩きながら使うとこのような表示が出て画面が黒くなる。「方向を確認する時は止まる」という使い方を徹底している。冒頭で述べたように、ナビゲーションにおける地図の利点は「歩き出す方向を確認できること」だ。だとすれば、交差点や駅など、立ち止まっている場所で方向がわかればいいので、表示が「停止時」だけに限定されているのも問題ではない。ARと地図が同時に表示されているのもわかりやすい。
Googleが相当に競合を分析した上で、「スマートフォン向けのAR」として使いやすいのはどういう形か、を示した、という印象を強く受ける。
ただ、周囲の風景を認識するプロセスも必要になるため、性能が低いスマホでは使いづらいのではないか、という予想も成り立つ。Pixel 3にのみ提供されているのは、高性能なスマホでまず試したい、という意図があるのではないだろうか。
もうひとつのポイントは、これが「スマホ向けのAR」に特化している、ということだ。将来やってくるスマートグラスでのARだと、常時出しっぱなしでも問題ないだろう。一方で、情報量は減らさないと見づらい可能性が高い。
Googleは大量の情報を集めており、それを活かしてサービスをしている。GoogleマップでARが出来たのもそれが背景にあるが、デバイスにあったものを提供しないとうまくいかないことも知っている。過去には「Google Glass」という早すぎた失敗例もある。
GoogleマップでようやくARが実現したのは、あえて「慌てず、十分な完成度のものを提供する」ことにこだわったからだろう。
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