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西田宗千佳のトレンドノート:課題山積なれど本命? 「電動キックボードシェアリング」ってなんだ

西田宗千佳

2019/04/27(最終更新日:2019/04/27)


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「電動キックボードシェアリング」に注目が集まっている。欧米では2017年以降急速に普及したが、日本では法制度の問題もあり、街中で見かけることもない。 

だが、日本でも、ベンチャー企業の「LUUP」が、多摩・奈良・浜松・四日市・横瀬の5つの自治体と協定を締結し、国内でのサービスに向けた取り組みが始まっている。

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日本で電動キックボードシェアリングの事業化に取り組んでいるLUUP 

電動キックボードシェアリングとはなにか? 問題はなにか? 海外出張時に愛用している筆者が解説する。 

スマホと連動、好きな場所に「乗り捨て」OK 

電動キックボードといえば、キックボードの中にモーターを仕込み、地面を蹴らなくても進むようにしたもの。時速5kmから10kmで街中を走れて、小回りが利く。構造が簡単であるため、この5年ほどで急速に値段が下がり、中国製のものが安く売られていたりもする。 

ただご存じの通り、日本では、こうした動力がついて自走できる機器は「原動機付自転車(原付)」にあたるため、公道を走るには、ウインカーなどの保安装備の設置と、原付免許の所持が必要になる。時々公道を走っているのを見かけることもあるが、あれらは、特別な許可がない限り「違法」だ。 

だが、海外ではそうではない。免許もナンバー取得なども不要で、自由に公道を走れる。 

電動キックボードの欠点は、「ちょいのりにはいいが、常に持って歩くのは面倒」ということ。電車や車で移動するような距離には向かないが、数km以内なら快適だ。でも、それを超える時のために「持ち歩く」のは難しい。 

というわけで、海外で登場したのが「電動キックボードシェアリング」、というサービスだ。「Bird」「Lime」「Jump」といった複数のサービスが、アメリカ・ヨーロッパの各国で展開している。 

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電動キックボードシェアリング大手・Limeの電動のキックボード。写真はカリフォルニア州サンノゼで撮影したもの。 

仕組みはなかなか面白い。  

電動キックボードにGPSと通信モジュールが入っており、スマホのアプリで「どこにキックボードがあるか」「どのくらいバッテリーが残っているか」などがわかる。地図を見ながらその場所に行って、電動キックボードについているバーコードをアプリで読み取ると「動く」状態になるので、あとは自由に走ればいい。正直、かなり快適だ。 

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Limeのアプリ。マークがある場所が、街中でLimeのキックボードが置かれているところ。
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 街中では、このようにキックボードが「放置」されているので、これをアプリを使って借りて、乗っていく。 

目的地に着いたらどうするのか? 電動キックボードの「駐車場」があるわけではない。その辺の道ばたに「乗り捨てる」のだ。スマホアプリで「降りた」手続きを取ると、乗っていた時間が計算され、課金される。だいたい、10分ほど使って価格は300円程度だから、一般的な交通機関に比べて安いわけではないのだが、「好きな場所で乗って好きな場所に乗り捨てられる」ため、とにかく便利だ。  

特に恩恵を受けるのは、そこに住んでいる人々よりも「旅行者」ではないか、と思う。旅行者は移動が不便なもの。でも、街を楽しむため、用件をスムーズにこなすためには、なんらかの移動手段が必要になる。筆者もアメリカやドイツに出張の際には、移動の足として重宝している。 

 「乗り捨てだと、どうやって充電するのだろう?」 

そんな疑問も湧いてくるが、そこでもスマホが使われている。通常は、サービス事業者側が人手を使って回収し、充電とメンテナンスを行う。場所はスマホアプリで把握可能だ。 

ただ、それだと人件費が高くなりすぎる。そこでLimeやBirdの場合、「自宅にキックボードを回収して充電し、朝に特定の場所へと戻しておくと、台数に応じて報酬を払う」という仕組みがある。そのため、サービス事業者側は人員を増やすことなく、「充電した後にキックボードを必要な場所に配置する」ことができる仕組みになっているのだ。

自分は便利でも「街」には歓迎されない?! 

だが、このサービス、実際には色々な場所で議論を呼んでいる。

問題は2つに集約できる。 

一つ目は「景観が荒れる」ということ。好きなところにキックボードを乗り捨てられるということは、道ばたにキックボードが散乱するということである。 

キックボードは「好きな時に乗って好きな場所で乗り捨てる」ため、扱いが荒い。機器がきれいなまま維持されているならいいのだが、筆者が見た電動キックボードシェアリングは、どこのものでも「キックボードそのものがかなり傷んでいる」場合が多く、お世辞にも見た目が良くない。傷んだキックボードが道ばたに散乱している様は、いかにも「その街が荒れている」ような印象を与えてしまう。 

そのためアメリカなどでは、近隣住民のクレームに対応し、「乗り捨て禁止エリア」を設ける動きまである。 

画像は、ロサンゼルスの高級住宅街として知れる「ビバリーヒルズ」でLimeのアプリを開いた時のものだ。赤い領域は、Limeのキックボードを乗り捨ててはいけない領域。複数回停めると、「罰金やアカウントの剥奪もあり得る」と警告されている。 

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高級住宅街・ビバリーヒルズには、電動キックボードは停められない。「乗り捨て禁止区域」に指定されている。 

もっと大きいのが「危険性」だ。  

電動キックボードは、だいたい時速10kmから20km程度で走る。歩道をその速度で走るので、人がいるとヒヤヒヤする。ぶつかると怪我をする可能性が高いからだ。 

タイヤが小さいので小回りが利くのが利点なのだが、その分、段差にも弱い。重心が高いので、慣れないと倒れる可能性もある。そして、ブレーキが貧弱なので、速度が出ていてもなかなか止まれない。坂などではけっこう危ない。 

実際、筆者もアメリカで電動キックボードに乗っている時、スリップして転んだことがある。そこまで速度が出ていなかったので怪我はしなかったが、正直かなり怖かった。

自分にとっては便利でも、街にとっては必ずしも歓迎されていない……というのが、電動キックボードシェアリングの最大の課題である。 

課題は「テクノロジーで解決」せよ 

もちろん、そうした課題はみなわかっている。 

ただ海外の場合、「乗り捨て禁止エリア」などは設定されても、それ以上は「自己責任」として済まされている部分が多い。日本でサービスを展開する場合、それでいいのか、という点は考えるべきだろう。 

安価にキックボードを作るのではなく、より安全性の高いものを作り、「乗り捨て」についても景観に配慮した形でのビジネスができないだろうか。そうした部分は、テクノロジーと発想でカバーできる気がする。 

実際、詳細は不明ながら、LUUPでは「データから得られた危険な場所での走行速度などに制限をかける」「危険な乗り方をする人に警告する」などの技術的な工夫を加える予定だという。 

日本では「原付免許」というより大きな課題があるため、すぐにサービス展開というわけにはいかないが、「日本ならではのサービス」が生まれることを期待したい。


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