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西田宗千佳のトレンドノート:映像配信戦国時代、選ぶならここに注目

西田宗千佳

2019/03/30(最終更新日:2019/03/30)


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3月25日(現地時間)、アップルは、9月に映像配信サービス「Apple TV+」を開始すると発表した。

月額料金(現在は未公表)を支払うと作品が見放題になる「サブスクリプション型」と呼ばれる、定額制映像配信ビジネスだ。自社が出資してオリジナルコンテンツを作り、それが最大の特徴になる。

作品を作るのは、ハリウッドの著名人達。発表会には、スティーブン・スピルバーグやJ.J.エイブラムズも登場し、ビッグネームが揃っていることをアピールした。 

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アップルの発表会にはスティーブン・スピルバーグ監督も登場、オリジナル作品制作に参加することを公表した。

アップルの参入により、映像配信のビジネスはさらに加熱しはじめた。日本でも、前回の連載記事でご説明したように、3月末よりディズニーが「Disney DELUXE」をスタートした。

消費者として気になるのは、「これからどの映像配信を選べばいいか」ということだろう。そこで今回は、映像配信を選ぶ上で重要な「ある観点」を示してみたいと思う。 

映像配信はどうやって選ぶのか

映像配信といっても、実際にはビジネスの考え方によって様々だ。

消費者としては1つだけ契約し、それですべてのニーズを満たせるのがベストなのだが、正直、そういうわけにもいかない。すべての作品が1つのサービスで見られるわけではないからだ。

ただ、衛星放送やケーブルテレビの有料チャンネルに比べ、映像配信の料金はそこまで高くない。一般的なサービスは月額1000円前後、Amazon Prime Videoの場合、年額で3900円なので月額に直せば325円とかなり安い。

日本だけでなく海外でも、複数の映像配信を同時に契約し、見られる作品数を増やすのが基本的な考え方になっている。際限なく契約することはできないが、2つ、3つまでであれば、経済的負担も抑えられる。

ちょっと面倒なのは、「どのサービスにどんなコンテンツがあるのか」を、契約する前に確実に把握するのが難しい、ということだ。

どのサービスにも同じ作品が登録されている一方で、特定のサービスでしか見られないものもある。だが、そのリストが公開されているわけではないので、どこと契約すればいいのかが分かりづらいのだ。これは、ネットサービスの最大の問題といっていい。 だが、判断する方法はもちろんある。

それは、「その会社はどういう方針でサービスを作っているのか」を理解することだ。同じ映像配信でも、サービスを運営する事業者の背景によって、配信されるコンテンツは異なる。それを理解することが、選択の近道だ。

まずは「専門店」型サービスをチェックせよ

多くの定額制映像配信は、「いかにお得に作品が見られるか」という点に注力している。

定額制映像配信は、「借り放題のレンタルビデオ店」に例えられることが多い。会費を払っている限りは、その店にあるレンタルビデオをいくら見ても追加費用はかからない。だから、好きな映画やドラマがお得に見られる……という考え方だ。

これはとても理解しやすいものだろう。

ポイントは「その店の在庫の考え方」だ。 

一番わかりやすいのは「専門店型」。「Disney DELUXE」は、ディスニーが権利を所有する、ディズニーのアニメや実写作品、スターウォーズ関連作品、マーベルコミックス関連作品が見放題になる。逆にいえば、他のものはない。それらのコンテンツが見たいなら入るし、そうでないなら入らない……というシンプルな判断でいい。 

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 Disney DELUXEのシアターアプリ。会員登録すれば、ディズニー系のコンテンツが見放題になる。

NTTドコモとカドカワが共同で運営している「dアニメストア」や、バンダイが運営する「バンダイチャンネル」のようなアニメ特化型ストアも、同様にシンプルだ。アニメのラインナップは他よりも充実しており、判断はしやすい。

NHKの番組が見られる「NHKオンデマンド」や、フジテレビ番組を中心とした「フジテレビ・オンデマンド」、TBS・テレビ東京・WOWOWの作品を軸にした「Paravi」、そして日本テレビ系列を軸にしている「Hulu」も、ある意味では専門店といっていい。

過去のテレビ番組や現在放送中の番組は、日本でもっともリッチなコンテンツ群といっていい。だからこれも、「どこの番組が見たいか」で判断できる。

さすがに「放送局毎に分断されている」今は、細分化されすぎていて選びづらい……と思うのだが、テレビ局がまとまったサービスを提供していないので、しょうがない。 

それに対して、Amazon Prime VideoやNetflixは「総合店」的で、専門店と組み合わせた時に価値を発揮するように感じる品揃えではある。 

オリジナル作品に傾く海外大手事業者

一方、現在の配信事業の潮流は、こうした「ライブラリの中にどんな番組があるのか」という形から、少しずつ離れてきている。

ポイントは「オリジナル番組」だ。

各映像配信で視聴可能な作品は、複数のサービスにまたがっている場合が多い。なぜなら、1社にだけ提供するのは、ビジネスの幅を狭めることにもなるからだ。

特に映画やドラマなど、すでに別のところで公開されている作品の場合、それらの作品を作る側として考えれば、「いろんな売り場で売ってもらう」方が商売のチャンスが増える……という発想になるので当然だ。「専門店型」といっても、「そこに確実にある」とわかっているだけで、「そこにしかない」ものはそこまで多くない。

そこで、特に海外の大手事業者が力を入れているのが、自分達が出資して制作する「配信オリジナル作品」の制作だ。オリジナル作品だから、基本的に他の配信では流れない。ディスク販売や劇場公開されることはあるが、あくまで「配信ファースト」である。 

この路線に積極的なのが、NetflixとAmazon Prime Videoだ。Netflixは世界中からコンテンツを集めて、世界中に配信する仕組みを採っており、日本だけのためのコンテンツはあまり調達しない。

一方でAmazon Prime Videoは、「日本のビジネスは日本向け」と割り切っていて、吉本興業と組んで制作しているバラエティ番組など、日本向けのものを多く作っている印象だ。 

実は、冒頭で紹介したアップルの「Apple TV+」もオリジナル路線。他社が作ったコンテンツは他社に配信してもらい、自らが出資してハリウッドの著名クリエイターと共に開発したコンテンツで勝負する。


「毎月の支払い」はオリジナル作品制作への投資!?

オリジナル作品を重視するサービスは、いままでの映像配信とは考え方を変えてきている、といういい方もできる。

Netflixのリード・ヘイスティングスCEOは、「Amazonは50億ドルをコンテンツ調達に使っているが、我々は倍使っている」「毎月14億ドル近くの収入があるが、多くをコンテンツ調達に使う」とコメントしている。 

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Netflixのリード・ヘイスティングスCEO。3月半ばに自社で開催した記者向けイベントにて、2019年の経営方針を説明した。

これは象徴的な発言だ。彼らの言う「コンテンツ調達」とは、なにも新しいコンテンツの制作費だけを示しているわけではない。だが、現状多くの部分がオリジナルコンテンツ制作に使われているのは事実だ。

いままでの映像配信は、すでに述べたように「どのくらいお得に見てもらうか」がカギになっている。だから、「今月はあまり観ていない」と思うと、サービスを解約されてしまう危険性をはらんでいる。

一方でオリジナル作品を軸にするということは、「得た収入をオリジナル作品に投資する」姿勢とも言える。

すなわち、毎月支払う利用料は、映像を見放題にするための費用であると同時に「その企業が作るオリジナル作品に対する投資」という意味合いが出てくる。すなわち、いかにオリジナル作品に期待を持たせるかが、サービス継続に重要な要素となるのだ。

オリジナルコンテンツを作る、ということは、映像配信事業にとってあたりまえのこととなりつつある。テレビ局がどこも「自社のオリジナル番組で戦っている」ことを思えば、あたり前のことだ。

「ここならいい作品を作ってくれる」という信頼感が、映像配信への継続的な契約を生み出し、継続的な契約の維持が、映像配信の安定的な経営基盤を作る。

Netflixやアップル、ディズニーのような大手は、手持ちの資金でまず「信頼」を作りだし、先々の安定を継続的な契約で生み出している……と考えればいいだろう。

そう考えると、「契約してみて、ここは自分に合うオリジナルコンテンツを継続して作ってくれる」と思うところと契約するのが、ひとつの鉄則といえるのではないだろうか。

別に海外大手に限る必要はない。テレビ局の番組がいいならテレビ局系の配信がいいだろう。だが、彼らはあくまでまず「テレビ」のためにコンテンツを作るので、その点に留意は必要だ。

あなたは「ディスクを買う代わりに過去の作品をお得に観たい」のだろうか。それとも、「まだ観たことのない作品をいち早く観たい」のだろうか。その中で、どの事業者を組み合わせて契約するといいのか、ということを考えるのがいいだろう。

どちらにしろ、映像配信には初回契約時に「無料お試し期間」があるのが基本だし、解約にペナルティがあるところもない。必要な時に契約し、不要な時に解約する……という形でもいいのだ。

一方で、「結局ここはずっと契約していてもいい」と思うところが見つかったら、ぜひ契約を継続していただきたい。それが彼らをサポートし、「あなたにあった新しい作品の制作」を支える基盤になるからだ。


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