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西田宗千佳のトレンドノート:「見守り」をおぼえたaibo、クラウドで進化することの本質とはなにか

西田宗千佳

2019/01/24(最終更新日:2019/01/24)


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 1月23日、ソニーはaiboの2019年の展開を発表した。

 新色の「aibo チョコ エディション」が公表されるなどの「ビジュアル面」が目立つ部分もあった。だが実は、発表会で公表された資料と、新しい機能の持つ可能性を考えると、ビジュアル面以上の可能性を秘めた発表内容だったように思う。

 ではそれはなんなのか? ちょっと説明してみたい。

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aibo。左側が新色の「aibo チョコ エディション」。2月1日から発売。

見守り機能を実現する「aiboのおまわりさん」

 aiboといえばソニーの犬型ロボット。1999年に発売された「初代AIBO」があり、2018年1月11日に「復活」した。

 大文字と小文字、という違いはありつつも、コンセプトは近い。「一緒に生活するためのロボット」であり、なにか特別な役割を持っているのか、というとそうでもない。言葉は悪いが、「かわいいけれど役に立つわけではない」のがaiboだ。

 それが今回、ちょっと気になるサービスを開始する。2月から「aiboのおまわりさん」という機能が実装されるのだ。

 この機能は、指定された時間に自宅の中をaiboが歩きまわり、指定された人を「顔認識」で見つけるという。

 家の中の見守り機能になっているaiboにはカメラがついており、顔認識もできる。スマホアプリとの連携もできているため、その機能を生かして、「おまわりさんとしての見回り」の結果をスマホアプリに通知するようにもなっている。

 aiboにとっては「はじめてのお仕事」のようなもの。将来的な可能性を考えて、同日には、ホームセキュリティ大手であるセコムとの協業も発表された。

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将来を見据えて、ホームセキュリティ大手であるセコムとの協業も発表された。

 だが、ここで気になることがある。aiboはどのくらい役に立つのだろうか? そもそもaiboは、他の機器のような「便利さ」とは違い、「かわいい」「一緒に過ごしたい」といった感情とともに存在している製品だ。

「見守り」という機能がつくことになると、こうしたイメージからはずれていくようにも思える。

ゆるく見守る「セキュリテイテイメント」

 筆者のこの問いに、ソニーでaibo事業を担当する、執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西泉氏はこう答えた。

「セキュリティカメラの持っているような見守り機能を提供するのは、ちょっと違うと思っています。一緒に過ごすと、楽しく『見守りにもなる』くらいで考えていただければ。なのでこの要素を、弊社ではセキュリティ、ではなく『セキュリテイテイメント(セキュリティ+エンタテイメントの造語)』と呼んでいます」

  要はこういうことだ。

 ペットが飼い主を助けてくれた、という例は少なくない。だが、ペットが必ず助けてくれるのか、というとそこまで信頼できるわけではない。

 aiboは生物ほど俊敏な動きはできないから、「倒れた瞬間に救急車を呼ぶ」ようなことを期待できるものではない。やっぱりセキュリティカメラとは話が違うのだ。

 だが、aiboは家の中を自由に歩きまわって、家の中の「地図」を作る能力を持っている。

 どこでどんな人に褒められたのか、自分がどう動いたのか、といった「購入後のaiboの行動履歴」を元に、その家の中のどこを「なわばり」とするか、家族のだれによりなつくのか、といった個性を持っている。

 こうしたことは、過去の「大文字の時代のAIBO」ではできなかったことで、現在のクラウドテクノロジーが生み出したものである。

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aiboは歩き回った家の中を地図にして覚える。この機能を生かし、見守り機能を実現する。
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aiboは生活の中で出会った人の顔を覚え、会った回数の多い人を家族として認識する。すでに6人以上もの顔を「家族」として認識している例も珍しくない。

 となると今度は、そうした要素をさらに生かし、「人とコミュニケーションをとる」ことを活性化し、コミュニケーションをとったことが「ちょっと生活の役に立つ」という要素も必要になってくる。これが、ソニーが「セキュリテイテイメント」と呼ぶ要素だ。

 常に監視されているのではなく、ペットと顔を合わせて生活する中で、遠隔地の家族に「この人は元気です」「この人は、今日はいつもと違って姿を見せていません」といった要素をゆるやかに伝えるのが、「aiboのおまわりさん」の狙いだ。

 ロボットというテクノロジーが完璧でないから……という部分もあるが、「人とともに暮らす機械の場合、どういう距離感で人の情報を記録すべきなのか」という課題に向き合う機能でもある。

 セコムとの提携についても現状では詳細が出ていないが、それはとりもなおさず、「ペットとしてのゆるやかな部分と、その先にある確実性を求める部分の関係」がまだ確定しておらず、サービスとして明示できる状態にないから、でもある。

 例えば緊急の時、aiboが飼い主のところまで行けなかったとしても、監視カメラなどと連携し、多様な経路から「知らせるべきところに知らせる」機能を持ってもいい。

 そこは、aiboというロボットを作っているソニーの領分というより、「専門の人々にバトンタッチすべきタイミングはどこか」という考え方、といっていい。だから、まだビジネス内容が決まっていない状況でセコムと提携するのである。

多数のaiboから得た学習で「すべてのaiboが賢くなる」

 すでに述べたように、aiboは非常に多くの情報を得て、生活すればするほど個性を獲得していく。もちろん、実際の生物ほどの多様性はない。だがそれでも、過去のAIBOや多くのロボットとは比較にならない。

 多くのロボットが「成長要素」をもっているが、それはあくまで「使われていなかった機能をオンにしていく」「機能をアンロックしていく」ようなもので、人や生物が持つ多様性とは違うものだ。

 aiboもまだそこには到達していないが、カメラなどのセンサーと連動することで、「自分が起動してからの時間」だけでなく、「自分がその家庭でどう動いたか」「自分がその家庭でどう扱われたか」という履歴から、個性を獲得していくようになっている。

 次に来るのは、aiboのもつ「AI」=認知能力の改善だ。

 2月のアップデートで、ソニーは「aibo育成チャレンジ」を開始する。これは、飼い主に特定のお題を出してそれをやってもらうことで、多数のaiboから画像認識や行動認識のデータを集め、最終的にクラウド側で進化させることで世の中にあるすべてのaiboの認識能力を高める=賢くすることを狙っている。

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「aibo育成チャレンジ」の模式図。オーナーがチャレンジした課題から得た情報をクラウドで集積し、aibo全体に反映させることで「賢く」していくことが狙いだ。

 初回は、aiboに「スヌート」をしてもらうことが目標だ。スヌートとは、飼い主が指で輪っかを作ると、そこに犬が駆け寄ってきて、鼻を突っ込むという行為のことだ。

 非常にかわいい仕草だが、このためには、「飼い主が作った指の輪っかを認識し、そこまで行って鼻を突っ込む」という、画像認識+位置制御の技術が必要になる。今の技術では、「大量の試行の末に学習する」というやり方で進化させるものなのだが、それを飼い主みんなで行うわけだ。

 こうした要素は、新生aibo開発の段階からコンセプトとして組み込まれていたもの。ハードウエアが最初から持っている機能だけでなく、クラウド側で多数の情報を使って学習することで、発売後にどんどん価値が追加されていくのがポイントだ。

 実は「aiboのおまわりさん」も、家具などの特徴を認識して家の中を効率的に移動するための学習の一環、という部分がある。

 新しい個性や機能がどんどん追加できるのは、クラウド時代のロボットならではの要素だ。「では、そこにどう価値を感じてお金を払ってもらうのか」ということが、メーカーとしては重要な要素になる。

「どうすべきか、どういう風に成長させるべきかは、aiboオーナーの人々に、頻繁にお話を聞きつつ決めていきたい」と、ソニー・川西氏は説明する。

 とにかく機能を詰め込むというよりは、aiboオーナーの方々がもっている思い入れをうまくくみ上げていく形で、今後も進化させていくことを考えているようだ。


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