1月8日から11日にまで、米ラスベガスではテクノロジー関連展示会「CES 2019」が開催されていた。メインの話題は、第五世代通信規格(5G)や8Kテレビ、AIなどなのだけれど、会場で意外と目立ったものがある。
それが「ビール」だ。しかも、ネット連携する「IoT機器とビール」を紐付けた製品がけっこう目立った。
なぜIoTはビールとつながるのか? その辺の事情からは、「IoTとはなにか」という本質が見えてくる。
「IoT」が実現するビールが冷蔵庫から切れない生活
パナソニック傘下のベンチャーであるShiftallは、突如「ビール宅配事業」への参入を発表した。同社はデジタル機器の開発を得意とする、いわゆる「ハードウエアスタートアップ」であって、飲料・食品を手がける企業ではない。
だが、2019年にサービス開始を予定している「DrinkShift」では、地ビールの販売元と提携し、自分の好みのビールを届けるサービスを展開する。
ShiftallがCES 2019に展示した「DrinkShift」。中に入っているビールが切れそうになると、その前に自動的に注文し、常に「ビールが切れない」状態を維持する。 実はDrinkShiftは、ビールそのものがビジネス、というわけではない。DrinkShiftはインターネットに接続された冷蔵庫で、中のビールを取り出して飲むと、その回数と冷蔵庫内の在庫が記録される。
タブレットなどのアプリからは状況が把握できるようになっており、「この人はどのビールをどのくらいのペースで飲むのか」ということも分析できている。
そのため、「このペースで飲むといつ冷蔵庫の中から好きなビールが切れるのか」を把握できるので、自動的にそのビールを注文し、「常に冷蔵庫の中からビールがなくならない」状態を維持できる。
スマホ連携で「好きなビールを自家醸造」
ビールという意味で、もうひとつ面白い家電が発表された。それが、LGエレクトロニクスがアメリカ向けにスタートさせる「LG Home Brew」という機器だ。
LGエレクトロニクスがCESで発表した「LG Home Brew」。自宅で好きなビールを醸造できる機械。カプセル形式の酵母を使い、好きな味のビールを安定的に自家醸造して楽しめる。 この機器、「ホームブリュー」という名前でおわかりの通り、ビールの自家醸造機だ。日本だと酒税法の関係もあるのでこの種の機器は難しいが、海外では、自宅でビールを作るためのキットが多数売られている。
LG Home Brewの場合、カプセル方式の酵母と麦芽のセットを購入して機械に入れると、あとは自動的に最適な状態で醸造を行い、自宅で「好きなテイストの作りたてのビール」を飲むことができる。
どういう風なビールを作るかはメニュー化されていて、醸造用の材料とカプセルをLGから購入してビールを造る。
同種の製品として、アメリカでは「PicoBrew」という会社が家庭用の自動ビール醸造機を販売しているのだが、LGはそれを追いかけた形になっている。
LG Home Brewは、iOSやAndroidに対応しており、スマホアプリでビール造りの状況を把握し、いつまで待てば飲み時になるのかを管理することができる。だからこれも立派なIoT機器……ではある。一応だが。
「面倒を取り除き」「顧客との関係継続」するから、食品・飲料ビジネスはIoTで花開く
なぜビールとIoT機器が関係しているのか?
一番大きな理由は「ビールには市場がある」ということだろう。実は筆者は下戸なのであまり興味はないのだが、多くの人は日常的にビールを飲んでおり、味にもこだわりがある。市場規模は大きく、そこには必ずビジネスの種がある。
真面目に言えば、ビールのように定期的に消費され、味を保つには管理も重要な製品ほど、IoTとの相性がいいものはない。
インターネット接続して管理、というと我々は、高度で複雑なものを思い浮かべる。だが、別にそうである必要はない。
冷蔵庫の中のビール瓶を数えるくらい、誰にだってできることだ。だが、「それを常に続け、適切なタイミングで警告を発する」のは、人間には難しいことだ。また、それがネット連携し、自動的に発注まで行うようになれば、生活の中での手間はかなり減る。
醸造も同じだ。醸造のような工程は、機械の力があれば管理は難しくない。だが、それを適切に、人間の力を借りずに行うには、コンピュータの助けを借りるのが一番だ。
スマホがあれば、醸造の経過観測も、好きなビールを作るための酵母の注文も簡単にできる。ネットとコンピュータの力があるから、小規模な醸造のための材料販売もビジネス化できる。
なにより大きいのは、ネットと連携することで、顧客との関係を長く維持できる、ということだ。
小売店に足を運べば、地ビールも、ビール醸造用の原料も簡単に買える。だが、それを常に繰り返すのは面倒だ。「面倒」であることは、新しいことを継続するためのハードルになり、ビジネス拡大を阻む。
IoTの本質は、ネット連携により、そうした「面倒」を少なくして、「常に自分が快適だと思える状態を維持するためのサービスを提供できる」ことにある。
食品や飲料は、継続型ビジネスにより長く収益が得やすい傾向にある。趣味・趣向による幅も広い。IoTによって顧客との関係を継続することができれば、収益拡大の可能性は極めて大きい。
ビールとIoTの関係は、まさにこの典型例であり、同じ事は、コーヒーなどでも起きつつある。そういう視点で見ると、新しいビジネスの種は、けっこう色々な場所に転がっているのではないか、と思うのだ。
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