12月15日、SNSやYouTube上に、「ある製品を買った」という書き込みや動画があふれた。その製品は、DJIの「Osmo Pocket」(写真1)だ。
見ての通りコンパクトなガジェットだが、これは「ジンバル」を使ったブレの少ない映像を撮影出来るカメラである。
ドローンからジンバル付きカメラへ
Osmo Pocketの発売元である「DJI」は、中国系の機器メーカーである。
最近はカメラメーカーとしても認知を高めつつあるのだが、本業は「ドローン」のメーカーだ。ドローンの主な用途は空撮。そのため、ドローンに内蔵・外付けするカメラの技術を磨いてきた、という経緯がある。
Osmo Pocketの特徴は「ジンバル」という機構を内蔵していることだ。ジンバルとは接続されたものの向きを一定に保つ仕組みで、カメラに使われるものは、撮影時の映像の「ブレ」を防ぐために使われている。
ドローンで撮影を行う場合、どうしても細かな揺れが発生する。それを打ち消して安定した映像にするためにはジンバルを使うことが望ましい。というわけで、DJIはドローンの技術を磨き、カメラとしての有用性を磨く過程で、ジンバルの技術も手に入れた。
DJIがまず発売したのが、2015年秋登場の「Osmo」である。これは手持ちで使えるビデオカメラとジンバルのセットだった。手持ちで安定して撮影できるのは良かったが、本体とカメラをセットで買うと8万円を超えており、手頃とは言い難かった。
次に2016年秋に出たのが、スマホと連動する「Osmo Mobile」である。これはジンバルのみで販売され、スマホを取り付けて撮影する。そのため、価格が3万5000円前後と比較的安価だったのが特徴だ。
この時期には、スマホやGoProなどのアクションカメラを搭載して使うジンバルが、中国系企業を中心にかなりの数販売された。スマホでの自撮りやアクションカメラの普及により、安定した撮影がそれだけ求められたのだ。
こうしたカメラが生まれる背景には、技術的にもスマホの影響が多い。スマホによって高画質・小型のイメージセンサーやモーションセンサーの価格が下がり、スマホアプリと連動する機能の実現も容易になったからだ。
その中でDJIの製品が支持された理由は、ジンバルの安定性もさることながら、「アプリにより操作」や「ソフトによるインテリジェントな動作」がセットで提供されていたことにある、と考えている。
例えば「自動追尾」。人の顔や体、看板などを選択し、「自動的に追尾するようにジンバルを動かす」ことができる。もちろん、ブレも極力抑えた上で、だ。
自動的にカメラを動かして複数枚の写真を撮り、内部で合成する「パノラマ撮影」モードもある。
こうした機能とドローンで培ったブランド認知もあって、DJIは「ジンバルを使ったカメラ」のメーカーとして、ゆっくりとではあるが認知を高めていた。
新興メーカーが生み出す「新しいカメラ」の価値
そこに、Osmoの後継的なイメージで登場したのが「Osmo Pocket」だ。
OsmoもOsmo Mobileも、欠点は比較的大きいことにあった。だがOsmo Pocketは、その名の通りかなり小さい。付属のケースに入れても手のひらの中に収まっている(写真2)。
それでいて、付属のアダプターを使い、簡単にスマホにつなげることができる(写真3、写真4)。しかも、AndroidとiPhoneの両方に、である。
スマホを大型のモニターとして使うこともできれば、Osmo Mobileで撮影した写真の転送を速やかに行えるのもポイントだ。
写真2: 付属ケースに入れても手のひらに収まる。充電にはUSB Type-Cを使う。ケースに入れたまま充電もできる。写真3写真4: iPhone・iPad用の「Lightning端子」用アダプタ(写真)と、Android・iPad Pro(2018年秋版)用のUSB Type-C端子アダプタを付属。これで本体とつなぎ、画像の表示や撮影映像の転送ができる。 価格は4万5000円前後と、ジンバル単体よりは高めの価格設定である。
しかし、コンパクトさから来るインパクトは絶大で、こうした製品に目がない人々(筆者も含む)の度肝を抜いた。
実際に使ってみると、たしかに面白い。カメラ部は小型で、最新のハイエンドスマホやデジタルカメラには画質的に劣る。急に明るさ・暗さが変わるようなシーが苦手なようだし、風切り音なども大きく感じる。
ジンバルの構造上、左右のブレには強いものの、徒歩移動などで起きる「上下のブレ」はすべてを消し切れるものではない。だが、手に持って歩けば、被写体にかざせば手ブレの少ない動画が撮れる、という手軽さはやはり特別なものがある。
このサイズでこの手軽さなら、カバンの中に常に入れておき、動画が必要なシーンで使ってみよう……と思わせる。
ジンバルの活用やGoPro的アクションカメラのジャンルでは、「カメラメーカーがしのぎを削る」状況にない。
ソニーがアクションカメラで唯一気を吐いているものの、日本メーカーは「古典的なカメラ」に力点を置いているように思える。
だが、筆者にはそれがどうにも保守的に思える。高価で写真を好む人々に愛されるカメラも大切だが、新しい映像を作っていくのは、ジンバル付きカメラのような「新しいジャンルである」という思いもあるからだ。
携帯電話の登場以降、カメラの使い方は大きく変わった。現在のスマホに内蔵されているカメラのほとんどは十分に高画質だし、映像の扱いも、単に撮影するだけから「シェアする」ものに変えてしまった。
アクションカメラや360度カメラ、そしてジンバル付きカメラも、従来のカメラでは考えられない用途や映像に使われている。だが、そうした部分は日本メーカーを中心とした「旧来のカメラメーカー」でなく、新興メーカーによって開拓されている。そのことがちょっと残念なのだ。
たくさんの人が発売日にOsmo Pocketを買ったのも、そうした新しさに感じる「ワクワク」に魅力を感じたからだ。その点、既存のカメラメーカーも、もう少し真剣に考えるべきではないだろうか。
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