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地方の技術をPR。世の中にムーブメントを起こす2つの方法

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2018/07/10(最終更新日:2018/07/10)


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「PRは、IT企業や大企業が駆使するもの」「PR会社はイベント開催して、認知を獲得するのが仕事」——。

そんな既存のPRのイメージを覆す、新しいチャレンジをしているPR会社がある。それが「マテリアルグループ」、率いるのは東義和代表取締役社長だ。既存のPRを超えるマテリアルでの新しい成功事例、東氏がPRの会社を作ることを決めた原体験、そしてこれからのPRに必要なこととは何か。そこにはマテリアルが戦略的に進めてきた「2つのシフト」があった。

地方の中小企業の優れた製品を、PRの力でサポートしたい

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マテリアルが手がけた案件の中でもひときわ有名な商品がある。それが食事が済んだら箸まで食べられる「食べられるお箸(畳味)」だ。

熊本県いぐさ・畳表活性化連絡協議会から依頼を受けて、畳のPRのために作られたものだ。斬新さとおもしろさが話題になり、海外からの反応もあった。国内では、マスメディアだけでなくYouTuberのヒカキンなど、さまざまなメディアが取り上げた。

この製品を開発したのは、愛知県の食品会社。熊本と愛知の団体が協力して開発することになったユニークな商品。その発端は「『もっと畳を売りたい』という依頼から始まりました」と東は明かす。

「でも畳は縁遠いものになってしまっています。そもそも原料が藺草(いぐさ)であることも知れていないうえに、熊本が藺草の生産量1位だなんてもっと知られていません。そこで、まずは藺草自体に興味を持ってもらう必要がありました。実は、藺草って食物繊維がキャベツの60倍、ここにフォーカスすることで、藺草を話題化するためのPR企画に至りました」

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食べられるお箸という形態は、畳味という目新しさだけではなかった。食物繊維が豊富なことから、ジャンクフードを食べた後にお箸まで食べてヘルシーに、と健康意識に訴えかえるユニークな動画とともに、話題になった。こうした取り組みの背景には、地方発のPRに対する想いもある。

「製品が素晴らしかったり、技術も優れていたりするのに、PR視点が欠けているばかりに、広く知られていないことがあるんです。こうした“地方で眠っている技術”やそれを保有する企業と手を組み、メディアで取り上げられるお手伝いをしたいと考えています」

人もメディアも集中する首都圏だけでなく、ユニークな技術を求め、地方にも“視野を広げた”のがマテリアルの戦略の1つだ。

部分的なPRでは、商品の良さを伝えきれない

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次なる“シフト”はマテリアルがプロダクト開発にまで携わっている点にある。一般的にPR会社と言えば、クライアントの完成品をいかに「PR」するかが主眼である。いわば部分的にPRをする役割が多い。だが、マテリアルは部分的な関わりに留まらず、企業の内部に入り込み、一緒に製品開発まで手掛ける。その背景には、PR会社が直面する課題があった。

「PRで忘れられがちなのは、企業(ブランド)の理念・商品への想い・バックグラウンドです。PR部分だけを依頼されると、限られた部分だけでの仕事として機能的な話になりがちな時があります」。

確かに詳細な機能や値段ばかりが細々と羅列され、肝心の商品のメッセージやインパクト、新規性が伝わりにくいリリースをしばしば目にすることがある。

「そうなると、理念などの話が主題ではなくなってしまい、この大事な『違い』の部分を提案しても、伝わらないことがあります。もちろんストーリーだけでは、人は共感しません。共感を得るには、ストーリーを現実にしなければならない。ストーリーを描き、必要な機能を肉付けしていく必要があります」

この課題を解決するために、株式会社TWOを立ち上げ、PRの発想を持って事業全体をデザイン。プロダクト開発から関わり、新しいマーケットを生み出すことに取り組んだ。その成功事例が抗菌・消臭コーティングスプレー「keskin」だ。ローンチしてすぐに数億円売り上げたヒット商品である。

ただ単に「技術力の高さ」をPRしたわけではない。「いくら光触媒技術が最先端か」という話をしても生活者にはなかなか伝わりません」と東は語る。東がPRの際に重視していることは届けたいターゲットにあわせて、その価値を伝わりやすい言葉へと“翻訳”すること。「性能の違いも訴求する大事な要素ではあるのですが、そこに製品のストーリーや社会にとっての必要性などの背景や理念がなければ、それはただのメーカーの一方通行の宣伝行為にしかなりません」と語る。

前出のkeskinに引き直せば、「一般的な抗菌剤では一時的な効果にとどまり、菌がいなくなることはない。一方、keskinはコーティング剤であり、スプレーをしておくと、光触媒の作用で部屋の光が栄養源となって菌を分解し続け、抗菌作用が長期にわたって持続するんです」という、消費者メリットを全面に出し、技術力をあえて下げたメッセージにすることで、ヒットへとつなげた。

「情緒的な価値に加えて、実の部分(製品開発、在庫、店頭、CRM、などあらゆるバリューチェーン)を理解しなければ、本質的なマーケティングメソッドにはなりえない。技術力や商品コンセプト、消費者層を把握して彼らの目線に合わせることができなければ、消費者に届くことはない」と東は喝破する。

0から1をPR発想で創る。こうした東のPR手法は、業界から注目を集めている。なぜ東はこうした考えに至ったのだろうか。

PRの可能性に惹かれたのは、出版社時代の成功体験があったから

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東氏がPRの道を歩みはじめた第一歩は、出版社時代にある。当時は、ケータイ小説の全盛期。東氏が勤めていた出版社では、ケータイ小説を書籍化していた。東氏が会社から指示されたのは、広告費を使わずにプロモーションすることだった。

テレビ局に取り上げてもらうことを1つの目標として取り組んだが、何度アプローチしても断られることが続いた。

「当時は、ケータイ小説をマスメディアで扱っていいのかという雰囲気がありました。なぜかというと、ケータイ小説のテーマが自殺や援助交際といった内容に触れることが多かったんです。また、当時の文学者から『ケータイ小説は本じゃない。あんなのはエロ本だ』といった批判もされていました」

予算も無ければツテもない。そんな中、東氏は企画を練って、夕方のテレビニュースのプロデューサーに掛け合った。今度は企画書を携えて。

「親子で同時に別々の部屋でケータイ小説の書籍を読んでもらい、その反応をモニタリングするという企画を出しました。出演いただいたお母さんは、娘が反抗期で、何を考えているかわからないと悩んでいました。娘は娘で、全然わたしのことをお母さんは分かってくれないと感じている。本を読み終わった時に、もしかしたら心が通い合うきっかけが生まれるかもしれないと考えました」

このドキュメントは成功した。本を読み終わった後、母が泣きながら「あなたのこと、分かってなかった。ごめんね」と娘に言葉をかけた。母と娘が和解して抱き合う感動的な結末を撮ることができ、その様子は特集枠でテレビに取り上げられることとなった。

一度、テレビで流してもらった後は、次から次へと他のテレビや新聞でも取り上げられ、賛否両論いろんな意見で議論が巻き起こった。それが結果として、ケータイ小説の書籍の爆発的なブームへと繋がっていったのだ。

「その当時、PRという言葉は知りませんでした。広告を使わずに、世の中にムーブメントを巻き起こす。いま振り返ると、この体験がPRの仕事を始める第一歩でした。PRは広告と比べて、とくに資本はいりません。そして、売れたときの効果はPOSを見ても広告よりPRで取り上げられた時の数字のほうが高い。また、費用対効果が高いにもかかわらず、業界トップと言われる会社の規模感もそこまでまだ大きいわけではありませんでした。あ、これだ! と思って、PRの会社を作ることにしました」


メディアの露出量をKPIにする時代は終わった

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PR活動の成果として、「メディアへの露出量」が重視される状況が依然として続いている。ただ、それが事業の成長につながる価値を生み出せているのかどうかをよく考える必要があると東氏は語る。

「従来は、いわゆる“広告換算値”をKPIに設定されるケースがほとんどでしたが、今では多くの企業がメディアへの露出量が必ずしも購買や売上に直結しないということに気づき始めています。我々も同じで、量より質だと思っています。例えばイベントや記者会見を開催して、たくさんの記者が来たとしても、ターゲットとマッチしていなければ、素通りされる情報になってしまいます。下手すると、ターゲットが嫌いな媒体に載ることで、敬遠されてしまうことだって起こり得ます。要するに、今までのPR領域だけでは不完全でした。伝えたいターゲットにあわせて、しっかりとカスタマイズする。趣味や嗜好もみんなそれぞれ違うからこそ、どう伝えるかのほうが重要です」

PRの本質的な部分は、今も昔も変わらない。一方で、テクノロジーの進化とともに、そのアプローチや手法はどんどん変化している。そんな中で、事業を成長させるためにPRが貢献できることは何なのだろうか。

「大事なのは、一貫したメッセージを送り続けることです。届けたい人の感情のバケツに、プラスのポイントを長期間かけて少しずつ注いでいく。信頼関係を積み重ねて、そのバケツがあふれたときに、消費が生まれます。冒頭の畳の話で言えば、まず畳味の箸でプラスの感情、すなわち興味を持ってもらう。そうして次は畳のよさ、その裏側に根付く職人技などをアピールしていく。そうやってプラスの感情がいっぱいになったときに初めて、畳=熊本産を思い出すことにつながるんです」

データを可視化できる時代だから、目先の数字の結果にとらわれそうになることもあるかもしれない。それでも、本当に届けたいターゲットに、長期的に信頼を築けるようにストーリーを大切にする。それが、これからもPRの担う役割になるのだろう。

PR業界を取り巻く変化について「広告代理店やコンサルティング、PRエージェンシーの領域はシームレスになりつつある。ただ“PR”するだけでは不十分。僕たちは事業そのものをデザインする、そんな領域に踏み出すべきだと思っています」。そう熱く語る東の眼差しは、すでに次のステップへと向いている。

【東義和  プロフィール】
株式会社マテリアル代表取締役社長。2005年にPRの本質を追求したコミュニケーションサービスの提供を使命に、PR会社・株式会社マテリアルを設立、代表取締役社長に就任。世の中の優れた素材や技術を発掘し事業化する、エンタープライズデザインカンパニー株式会社TWOを設立。睡眠・ライフスタイル事業を展開。グループ内事業の最大化を図るべく、ホールディングス機能であるマテリアルグループ株式会社を設立、グループ経営を始動し、事業そのものをデザインするエンタープライズデザインを提唱する。

取材・文/ふじもとめぐみ+YOSCA
カメラマン/栗原洋平
企画編集/武田鼎+FIREBUG


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