「CDは売れない」そんな認識が通説化してから、もうどれだけの年月が経過しただろう。これまで一つの“コンテンツ”として受容されていた音楽の価値は、現在大きな過渡期を迎えている。そんな音楽業界にあって、根強くセールスを保っているのが「アイドル業界」だ。
今回は、大人気アイドルユニット『私立恵比寿中学』の黎明期よりマネージャーを務め、同時に“校長先生”として自ら課外活動的な仕掛けも行っている、スターダストプロモーションの藤井ユーイチ氏と、水野良樹さん(いきものがかり)をはじめとする数々のクリエイターや有識者、メルカリやBASEなどベンチャー企業のマーケティングプロデュースをしているFIREBUG代表の佐藤詳悟氏が対談。
「アイドル業界」は、なぜ不況が囁かれる音楽業界において、経済圏を獲得することができたのだろうか? 今回は、そんな「アイドルプロデュース」の最前線に迫る。
ファンから教わった、アイドルグループのマネージメント術
佐藤詳悟(上写真右、以下、佐藤):そもそも藤井さんは、どのようにアイドルグループのマネージメントを確立していったのですか?
藤井ユーイチ(上写真左、以下、藤井):実はアイドル“グループ“のマネージメントはやったことがなかったんです。“個”でタレントと向き合うことはあっても、グループで、なおかつ年頃の女の子。部活の監督みたいな感覚で、当時は大変でしたね。
スターダスト自体もそこまでノウハウを持っていなかったのですが、先に「ももクロ」はあったので、そこの手伝いをして、握手会など、現場の段取りを学んでいきました。
ファンの方、オタクの方に学ぶことも多かったですね。ある「握手会」での話です。CDを1枚買うと、メンバー全員と握手(全握)ができて、2枚買えば2ショット撮影ができるイベントでした。時間の都合で2ショット撮影だけにしたことがあって、その時ファンの方に「絶対“全握”無くしちゃダメ!」と言われた。間口がもっとも広くて、1枚の購入で全員と握手できるんだから、初めて来た人に訴求するには、なくちゃダメだと。
佐藤:それは、すごい方ですね!(笑)
藤井:そういうところで新規の人が入ってこないとダメじゃん!って。その人の言っていることがあまりにも正論だったので、次からはそうしました。このように、ファンの人から教えてもらったことも多かったですね。
音楽は1つの“コンテンツ”から、1つの“入り口”へと変化している
佐藤:僕は元々芸人さんのマネージメントをしていたのですが、タレントの主な収益源は「テレビ出演」「企業からの広告費」「ファンの方々からいただくお金」という3本柱かと思います。芸人さんは前者2つが多かったのですが、今やSNSで直接繋がれたりもする時代。ファンとの関わりというものを大切にしなくてはいけないと感じていましたね。
藤井:なるほど。例えば女優さんが映画に出る場合、オーディションで勝ち取って、そこに参加して初めてお金がもらえる。でもアイドルは、自分でライブをやろう!と決めて会場を押されば、自分で現場を作ることができる。その後CDやグッズなどを会場で販売することもできるし、音楽チーム・アイドルの方が、多角的にビジネスができる。そういったファンとの距離感の近さは重要なポイントかもしれませんね。
佐藤:音楽って、今やYouTubeなどで、無料で聴けてしまう時代じゃないですか。アイドルのビジネスモデルなんかがまさにそうですが、これまでは1つのコンテンツ・商品だったけれど、興味を持ってもらうためのツールになってきていると感じています。
藤井:その通りだと思います。音楽が入り口というのは確かだと思う。アイドルで言えば、まずはビジュアルか、音楽か、そのどちらかを好きになって、初めてファンになってくれる。
音楽単体を売ることでビジネスが成り立つのではなく、もちろん大切な要素ではあるけれど、あくまでも最初の“入り口“としての役割は大きいんじゃないかな。
佐藤:最近僕が考えていることなのですが、知名度が大きければ大きいほど、「ちょっと好き」と言った形のライトユーザーはものすごく多くて、コアファンの割合は少ない。
反対に知名度が少ないほど、ユーザー数は少ないけれど、コアファンの割合が多く、彼らがお金を使ってくれることに支えられているのではないかと。
アーティストの方の大きなマネタイズ方法は「音楽を売っているか」「ライブチケットを売っているか」「グッズを売っているか」だと思います。
そうなった際に、やはりこれらはそれなりの金額になりますから、“お金を使ってくれる”コアファンの方をいかに獲得するかがポイントになっているように感じています。
「SNS時代におけるマスメディアとの付き合い方」新たなファン層をどのように作っていくのか?
佐藤:藤井さんは、そういったファンコミュニティを形成、持続して行くために、どのような仕掛けをされていますか? 「新たなファン」や、そこから繋がる「コアファン」を獲得するために、意識している点はあるのでしょうか。そもそも「エビ中」はどのように知名度を向上させていったのでしょう?
藤井:テレビのオファーがあった際は、とにかく出るようにしています。先ほどの話にもあったように、確かにSNSの発達によってファンの方と密接につながることができるようにはなった。ただ一方で、SNSは見たい人が能動的に見にいく場所です。対してテレビは、興味がなくても、不意に見ている可能性がある。好きではない人が見て、その後巻き込んでいける可能性がある。
佐藤:テレビ以外で、知っていただくためにやっていることはありますか?ローカルとかはどう考えているんですか?
藤井:なるべく地方にも行くようにしています。ローカル番組なんかもそうですが、やっぱり自分の地元に来てくれる!ということで、別に好きじゃないけど見に来てくれる層がいますよね。
他にもライブでいうと、当日券が出せるのが理想だと思っていますね。例えば2,000人のキャパが、全部ファンだけで埋まってしまうより、「ちょっと見てみたい」「暇だからみに行ってみようかな」という方々に答えられるバッファを残しておくことが大切かなと考えています。
藤井氏が手掛ける「私立恵比寿中学」は、今年5月に新たな取り組みとして、短尺縦型エンタメ動画サービス「30(サーティー)」 内で動画配信チャンネル「30Channel」を開設した。
コアなファンはもちろんのこと、ライトユーザーも気軽に楽しめる30秒のオリジナルコンテンツが毎日配信される。来年8月に結成10周年を迎える「エビ中」。藤井氏はこれからどんなアイドルプロデュースをしていくのか。是非注目したい。
■30(サーティー)
▽iOS版
https://appsto.re/jp/KNAtlb.i
▽Android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.firebug.vem&hl=ja
▽公式Twitter
https://twitter.com/vem_30
■私立恵比寿中学チャンネル
https://vem30.com/creator?seq=50
【佐藤詳悟プロフィール】
株式会社FIREBUG 代表取締役/株式会社QREATOR AGENT 代表取締役明治大学政治経済学部政治学科卒業。2005年に吉本興業株式会社に入社。
ナインティナインやロンドンブーツ1号2号、COWCOW、ロバートなどのマネージャーを歴任する。キングコング西野氏の絵本制作やロバート秋山氏の「クリエイターズファイル」などのプロデュースの他、パパ芸人のプロジェクト「パパパーク」や小学生向けのワークショップスクール「笑楽校」などさまざまな新規事業を手掛ける。2015年に独立し、同年1月に経営者や文化人のPRエージェンシー「QREATOR AGENT」を、2016年2月に総合コンテンツプロデュース会社「FIREBUG」を創業。メルカリやBASEをはじめとするベンチャー企業のマーケティングやテレビ番組などのプロデュースを行っている。
【藤井ユーイチプロフィール】
株式会社スターダストプロモーション スターダストプラネット マネージャー
大学卒業後、2003年に株式会社ヒロプロダクションに入社。2004年〜2006年はJVCエンターテイメントネットワークス株式会社に在籍。2007年1月より株式会社スターダストプロモーションへ。営業を経て2010年から「私立恵比寿中学」の担当マネージャーになる。
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